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年収200万円は「低収入ではない」のか?

ニューズウィーク日本版 / 2024年12月18日 11時50分

働く人の半数以上が「健康で文化的な生活」を営む水準の年収を得ていない Doucefleur/iStock.

舞田敏彦(教育社会学者)
<相対的に見れば年収200万円は全就業者の下位25%を上回っているが、実態として「健康で文化的な生活」を送る水準には程遠い>

数日前、X上で「年収200万円は低収入ではない」というフレーズがトレンド入りした。元閣僚の発言らしいが、きちんとしたソースが確認できないので、真偽のほどは定かでない。

だが口にはせずとも、そう考えている政治家はいるだろう。「今時、年収200万の人などたくさんいる。このレベルでは生活困窮者とは認められず、生活保護といった公的扶助の対象にはなり得ない」と――。膨張する福祉支出を削減するのにもうってつけだ。

「年収200万の人などたくさんいる、低収入ではない」。国民の年収分布を見ると、この認識は当たってはいる。2022年の『就業構造基本調査』によると、年収(税引き前)が分かる有業者は6489万人。<図1>は、年収階層ごとの人数をヒストグラムで表したものだ。性別や従業地位による色分けもしている。

上が細く下が厚いピラミッド型だ。最も人数が多いボリュームゾーンは年収200万円台。働く人を年収順に並べると、ちょうど真ん中の中央値(100人中50位)は302万円。年収200万円は100人68位で、第1四分位値(75位)は上回っている。確かに、「年収200万円は低収入ではない」。

だがこれは相対水準で、国民全体が貧しくなれば、低収入(要保護)のレベルはどんどん下がっていく。生活保護の認定に際して、こういう基準を持ち出されてはたまらない。育ち盛りの子がいる場合、年収200万円では生活は非常に苦しくなる。現に母子世帯の年収はこのレベルで、1日2食(1食)、酷暑であってもエアコンをつけられないような、生存を脅かされる事態になっている(「シングルマザー世帯にとって夏休みは過酷な期間」2024年8月15日、本サイト)。

憲法が定める、健康で文化的な最低限の生活を送れるか。絶対水準で考えると、年収200万円は「低収入」で、世帯の類型によっては要保護のレベルと言ってもいい。ちなみに埼玉県労働連合会の試算によると、30歳未満の単身者が「健康で文化的な生活」を営むに足りる最低生計費は月額27.4万円だそうだ(税込み)。年額にすると約329万円。<図1>の年収分布に照らすと,働く人の半数以上がこのラインに達していない。男女の差も大きい<図2>。

働く人の過半の年収が、最低生計費に届いていない。「年収200万円は低収入ではない」などと言う前に、絶対貧困が広がりつつある現状を憂慮すべきだ。

政府は、最低生計費のような統計指標を絶えず算出し公にするべきだ。最低生計費を下回る人がどれほどいるか、そのうち公的扶助の網から漏れている人はどれほどいるか、これらの情報を公開することが望まれる。

現在公表されている貧困率は、年収が「全世帯の中央値の半分未満」の世帯で暮らす人の割合で、あくまで相対的な意味合いにすぎない。貧困は、絶対水準の観点からも把握されなければならない。

<資料:総務省『就業構造基本調査』(2022年)>

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