先達たちの闘病記から学んだ癌と共に生きる意味
ニューズウィーク日本版 / 2024年12月19日 12時23分
エリオット・ジュリスト(心理学者)
<突然の宣告で治療する側からされる側に。私を救ったのは勇気ある先人たちの闘病記だった>
2021年、私は癌と診断された。症状は全くなかったが、心臓のCTスキャンの際に甲状腺肥大が見つかった。バイオプシー(生体検査)の結果はステージ4の甲状腺癌。手術を受け、放射線治療と抗癌剤治療を開始した。治療は効果を挙げているようだが副作用もある。
癌宣告は心理学者・哲学者としての人生を(心理療法の経験も含めて)見つめ直す好機となった。心理学教授として計画していた回想録に加えるべく、癌闘病記を片っ端から読んだ。
一般的な癌闘病記では癌が完治する。楽観的なアメリカ人気質が表れているが、現実というより願望のほうが強いかもしれない。イギリスのジャーナリスト、クリストファー・ヒッチェンズ(食道癌で死去)の『ヒッチ22』はユーモアを交えてクギを刺す。「私は癌と闘っていない。癌が私と闘っているのだ」
多くの癌患者は癌で死ぬ。「癌の完治」を喜ぶ記述にはそうでない人たちへの優越感が潜む。再発する人もいるのが悲しい現実だ。アメリカの作家アン・ボイヤーの『不屈の人』の「生きれば英雄視。死ねば物語の転機になる」という指摘が鋭い。
死を見つめて生きていく
私が高く評価する癌闘病記の著者たちは運命に勇敢に立ち向かう。特に非凡なのが『本当ならいいのに』のタル・スカイラー・クイン。聖職者で信仰心あつく、食料支援に取り組むNPO創設者でもある。
クインは脳腫瘍の一種(膠芽腫)で死にゆく運命を十分自覚している(42歳で死去、闘病記は死後に出版された)。癌との闘いで「大切なものをほぼ全て、進んで、心の底から手放さなければならない」が、おかげで今をより深く感じられる。神は常に自分と共にある、と。私は彼女のようにはいかないが、死を前にしての気高さに深く共感した。
心を揺さぶられたのはアメリカの作家オードリー・ロードの『癌闘病記』。出版は40年以上前だが、乳癌の宣告に対処する試練を印象的に捉えている。「死を無視せず、死に屈せず、生と統合する方法があるはずだ」
癌は死を意識させる。差し迫ってはいなくても死の影は付きまとう。それでもロードは「恐れを乗り越え、自分の限界に対する怒りを創造的なエネルギーに変えられるようになる過程で、恐れずに生きていく術を身に付けていく」。
喜怒哀楽も激しくなる。ロードは乳房切除後に人工乳房が避けられないという見込みに激しく抵抗。治療から10年以上生き、乳癌ではなく肝臓癌と卵巣癌で死去した。
私はこれらの闘病記に慰められた。生き抜いて意味のある人生を送ろうと奮闘する姿にわが身を重ねた。香港の作家、西西(シーシー)の『哀悼乳房』が力説することも、身をもって経験してきた。自分の体との新しい関係、特にわずかな変化にも敏感になるのはつらいときもあるが、全体としては驚くほど充足感がある。
先人の闘病記を同じ癌患者として読むようになって、自分の人生について考え整理する機会を持てた。絶望の淵をのぞき見てもなお、活力と人間らしさを失わない人々に出会えて幸運だと思う。
非現実的な楽観より悲観のほうが、時として有益で健全なのかもしれない。死を意識してこそ、生きている実感が増すのではないだろうか。
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