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中国ネットに住む「聴床師」たちとは何者か?

ニューズウィーク日本版 / 2024年12月26日 10時45分

©2024 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

風刺画で読み解く中国の現実
<中国には「地面師」......でなく「聴床師」たちが住んでいる。中国高官の噂話をネットで拡散する人々のことだ>

「聴床師(ティンチョアンシー)」は近年、中国語SNS上ではやる造語。中国高官の噂話をネットで拡散する人々の呼称だ。

聴床師たちはまるで北京の中南海に住む共産党高官らのベッド(床)のそばに隠れて秘密の話をこっそり聞いたかのように、「信頼できる内部情報によると」という決まり文句で始まる中国政府の異変や派閥争いの噂話を流す。

例えば、2022年秋の中国共産党大会前、中国語ネットで一時的に最もシェアされた「習下李上」(習近平〔シー・チンピン〕が失脚して当時の李克強〔リー・コーチアン〕首相が最高指導者に就任する)という有名な「内部情報」は、聴床師の傑作の1つだ。

また毎年夏、共産党の最高幹部や長老らが河北省にある避暑地で開く非公式な「北戴河会議」も、聴床師が最も活躍する季節だ。「会議では、幹部らが政策の方向性に不満を抱いて激しく議論した」「党内分裂がリーダー交代につながる」など、全く根拠のない話がネットで現れ、よくシェアされる。

聴床師たちのネット投稿は根拠のない推測がほとんどだが、なぜ信じる人が多いのか。

その最たる理由は、中国政治が完全なブラックボックスであること。ブラックボックスゆえ、一般国民が不安や危機感を覚える。解消する最も有効な方法は、情報を把握することだ。

聴床師たちの投稿が中国政府によって即座に削除され、時に流した人物が処罰されることも、その信憑性を裏付けるように映る。コロナ禍を経て、中国人はますます「政府に不利な真相だから削除された」という思考習慣を持つようになった。

人は常に自分が信じたいものを信じる。自分の思い込みや願望を強化する情報ばかりを集める傾向を、認知心理学や社会心理学の専門用語で「確証バイアス」という。面白いことに、中国人の確証バイアスは「最高指導者の失脚説」や「党内分裂」ばかりだ。聴床師の嘘の中に、中国人の本音が隠れている。

最近、かつて習との闘争に敗れて失脚した共産党政治家の薄熙来(ボー・シーライ)が、息子と台湾人女性との結婚式に出るため台湾を訪れた、という偽画像がネットで出回った。ここにも、中国人の習に対する本音と願望が透けて見える。

ポイント

李克強
中国共産主義青年団出身のたたき上げの政治家。北京大学卒。河南省と遼寧省の共産党委書記、副首相を経て首相に。経済学の博士号を持つ経済通だが傍流に追いやられ、23年10月に死去。

薄熙来
父は革命第一世代の太子党。重慶市共産党委書記などを歴任。習近平のライバルだったが、12年に妻のイギリス人殺害事件への関与や不正蓄財などのスキャンダルが発覚し失脚した。

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