わが子の亡骸を17日間離さなかったシャチに新しい赤ちゃんが誕生
ニューズウィーク日本版 / 2024年12月26日 18時0分
ジュリア・カーボナロ
<わが子の死を悼む痛ましい行動が世界に衝撃を与えた母シャチが、6年ぶりに元気な赤ちゃんと泳ぐ姿が確認された>
わが子の亡骸を連れて17日間泳ぎ続け、2018年に世界に衝撃を与えた母シャチに、新しい赤ちゃんが生まれた。
【動画】死んだ子の亡骸を離さなかったタクレア
死んだわが子と共に米ワシントン州とカナダのブリティッシュコロンビア州の沖合を泳ぎ続けて涙を誘った母シャチが、新たに元気な赤ちゃんを産んだと、クジラ研究調査センター(CWR)の調査ディレクター、マイケル・ワイスが発表した。
CWRは太平洋岸北西部のシャチの集団「サザンレジデント」を継続的に調査している。
個体識別番号J35、研究者たちが「タレクア」と呼ぶこの母シャチは12月20日に、米ワシントン州のピュージェット湾で、赤ちゃんを連れて泳いでいる姿が初めて目撃された。
シャチのメスが一生の間に産む子どもの数は4、5頭で、成体になるまでの生存確率は50%程度だという。6年前にわが子の死を受け入れられず亡骸を離そうとしなかったタレクアは、シャチが直面する繁殖の危機を世界中の人々に知らせ、保護意識の高まりにつながった。
何しろタレクアは、わが子の死を悼むあまり亡骸を頭に乗せたり、後ろから押したりして、海を1600キロも泳ぎ続けたのだ。
学名のオルキヌス・オルカからオルカの名でも知られ、英語圏ではキラー・ホエール(殺し屋クジラ)と呼ばれるシャチ。最強のハンターの名をほしいままにしているとはいえ、獲物の激減などからカナダでは絶滅危惧種に指定され、「アメリカでは海生哺乳類のうち絶滅の危険性が最も高い集団の1つ」と見なされている。
CWRは、太平洋岸北西部おけるシャチの主要な獲物であるサーモンの数を回復させるため、回遊ルートの保護、ダムの撤去、「合理的な漁業管理」といった対策を推進している。
CWRは12月21日のフェイスブックの投稿で、ピュージェット湾で母子らしきシャチが泳いでいるという目撃情報が「ここ数日」相次いでいると報告、母シャチがJ35である可能性が浮上した。
12月24日、調査の結果、問題の母子シャチはタレクアとその赤ちゃんだと確認された。赤ちゃんの個体識別番号はJ61だ。
タレクアのおかげで、シャチの繁殖の難しさを多くの人に知ってもらえたと、海洋生物保護団体SR3の海生哺乳類調査を率いるホリー・フィアーンバークはシアトル・タイムズに話した。大西洋岸北西部のシャチが絶滅の危機に瀕していることは「あまり知られていない」。
「タレクアのおかげで、サザンレジデントのシャチに注目が集まった」と、フィアーンバークは言う。シャチが無事に出産して、赤ちゃんが元気に育つ豊かで安全な生息海域を守るためには、漁業や船舶の航行も管理する必要があるという理解も広まった。子どもを失ったタレクアの哀しみが人々の心を動かした。
【画像】並んで泳ぐタクレアと赤ちゃん
【動画】死んだ子の亡骸を離さなかったタクレア
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