「少数与党」でモヤモヤする日本政治だが、そのしなやかさは民主主義の希望となり得る
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月1日 8時0分
トバイアス・ハリス(日本政治研究者)
<総選挙で大敗した自公政権と野党の意外な協調ムードは、日本が世界に示す民主主義の模範になるかもしれない>
10月の総選挙で日本人は世界的な反現職の流れに乗り、自民・公明与党に過半数割れの結果を突き付けた。これが2024年の日本政治を特徴付ける出来事だったとしたら、25年の政局は与野党の緊張関係が形づくることになるだろう。
総選挙で自民党が惨敗し、玉木雄一郎率いる国民民主党が躍進し、東京都知事選で政党の支持を受けない石丸伸二候補が次点につけ、パワハラ疑惑で失職した斎藤元彦が兵庫県知事にまさかの返り咲きを果たした陰には、既存の政治体制に対する国民の根強い不満がある。
国民は政治の堕落に失望し、生活は苦しく、エリート層と有権者の多くを隔てる「情報格差」は拡大している。25年もこうした要素が選挙、とりわけ7月の参院選に衝撃の結果をもたらすかもしれない。
一方で総選挙後の政局は、日本の多党制民主主義に驚くべきレジリエンス(しなやかな強さ)があることを見せつけた。自民党主導の少数与党という事実上前例のない政府が誕生しても国会は膠着せず、むしろ与野党がより柔軟な協調姿勢を見せるようになったのだ。
石破茂政権は野党の協力なしに政権運営がままならないことを認め、制度と政策の両面で譲歩。衆院予算委員会の主導権を立憲民主党に譲り、国民民主党の求める「年収103万円の壁」の引き上げに同意した。
野党は与党の動きに誠実に対応し、弱った自民党政権をつぶそうとはせず、日本式「コアビタシオン(保革共存)」のパートナーとして振る舞っている。政策決定においては首相官邸主導のスタイルが続いてきたが、立憲民主党は今を好機と捉え、国会の役割を拡大して日本の民主主義を本質から変えることを提案している。
ポピュリズムやデマに負けず
他の民主主義国との違いは鮮明だ。アメリカではドナルド・トランプ次期大統領が政敵への復讐を誓う。韓国では尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領がねじれ国会に業を煮やして非常戒厳を宣布。フランスでは少数与党が左右両陣営から不信任案を突き付けられて崩壊した。
日本のコアビタシオンが不安定なのは間違いない。石破首相も野党の党首も今後は歩み寄りを控え、交渉で強硬な姿勢に出ることを迫られるだろう。国民民主党は例外かもしれないが、政治に失望した国民に厳しい目を向けられない党は皆無だ。
また、従来の政治システムに属さない異端者が自分たちを蹴散らすのではないかという不安は、全ての政党に共通する。単独で過半数を守る政党はなく、いずれの党も国民の生活を政策で改善できることを証明しなければならない。
とはいえ他の民主主義国が同様の圧力に苦しむなか、日本の政治指導者たちにとって現在の政局はポピュリズムの台頭や格差と貧困の拡大、SNSがあおるデマと偽情報の拡散に負けず、民主主義のレジリエンスを世界に見せつけるチャンスだ。
成功の保証はない。けれども総選挙後に与野党が発揮したしなやかな強さを見れば、25年の日本は多党制民主主義が今も国民の期待に応え得ることを示してくれるのではないかと思えてくる。
トバイアス・ハリス
TOBIAS HARRIS
日本政治研究者。06~07年に浅尾慶一郎参院議員の私設秘書。20年に安倍晋三元首相の伝記『The Iconoclast』を出版。COURTESY OF TOBIAS HARRIS
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