カーター元米大統領の外交政策――低評価の2つの理由とその背景を検証
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月7日 16時34分
79年12月にソ連がアフガニスタンに侵攻した後、カーターは翌80年1月の一般教書演説で「カーター・ドクトリン」を発表。石油の供給が妨害された場合はペルシャ湾岸で武力行使も辞さないと威嚇した。一方で対ソ連の穀物禁輸は効果がなく、モスクワ夏季五輪のボイコットは当初こそ支持を得たが、すぐに政治的な負担となった。
ソ連のアフガニスタン侵攻を予測し切れなかったことは甘かったという指摘も不当な評価だ。カーターはソ連の侵攻前から、イスラム武装勢力のムジャヒディンにひそかに武器を供給し、ソ連が支援する政府と戦わせていた。
カーターの国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたズビグニュー・ブレジンスキーは後に、「ソビエトのベトナム」をつくりソ連を弱体化させようとしたと認めた。その狙いは成功したが、20年後にタリバンや、アルカイダの創設者ウサマ・ビン・ラディンという形で跳ね返ってきた。
環境問題への先見の明
カーターが注力した第2次戦略兵器制限条約(SALT II)は調印後に米上院で批准が否決されたが、後の米ソの軍備管理を画期的に前進させる土台となった。
80年12月、退任を控えたカーターは、ポーランドで民主化運動を主導していた自主管理労組「連帯」のレフ・ワレサ議長の支持を表明。やがて東ヨーロッパ全域で、ソ連が支援する政権への抵抗運動が連鎖的に発生した。
ワレサは後に、カーターがソ連にポーランドへ侵攻しないよう警告したことが、闘争において重要な瞬間だったと語っている。
カーターの外交政策にとって最大の挫折はイランだが、そもそも79年のイラン革命を彼が阻止できる可能性はほとんどなかった。景気後退と米民主党の分裂に加え、米大使館占拠事件で人質の解放を実現できなかったことが、大統領再選を絶望的にした。
2016年に私が伝記執筆のために行ったインタビューで彼は、イランを爆撃して強硬姿勢を見せていたら再選できたかもしれないが、戦闘で人質と数千のイラン人が死亡した可能性が高いと語った。
カーターはホワイトハウスの屋根に太陽光パネルを設置しただけでなく(レーガンが撤去した)、アメリカ初の包括的エネルギー法案と14の主要な環境法案に署名し、外国産石油への依存から脱却する道筋を描いた。2期目を迎えていたら、当時の科学者が「二酸化炭素汚染」と呼んでいた不明瞭な問題に対処する計画も立てていた。
これも彼の政治的な悲劇の1つだ。
カーターがアメリカを象徴する大統領の1人であることに異論はないだろう。しかし、彼の死を機に、「悪い大統領」や「偉大な元大統領」という安易な分類は終わりにしよう。
大統領を退いた後の無私無欲の姿勢や人道主義的な功績は称賛に値するが、在任中は世界を形作る上ではるかに大きな影響力を持っていた。正当に評価されていない高潔で先見の明のあるこの人物を、今こそ再評価する時だ。
(筆者は自書にカーターの伝記『ヒズ・ベリー・ベスト』がある)
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