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日鉄はUSスチール買収禁止に対して正々堂々、訴訟で勝負すればいい

ニューズウィーク日本版 / 2025年1月8日 15時10分

提訴について会見で説明する日本製鉄の橋本英二会長兼CEO(1月7日) Irene Wang-REUTERS

冷泉彰彦
<国際法務のリーガル・マインドとは、法律を手段として使い自らの利害を守る知的なゲーム>

日本製鉄によるUSスチールの買収案件は、バイデン大統領の判断で却下される事態となりました。これは、経済合理性には反するものの、政治的には説明可能な展開と言えます。アメリカにおけるこの案件への印象は、日本の世論がカナダ資本によるセブン&アイへの買収提案に対して感じる不快感と全く同じで、現代はそうした感情論も利用しないと選挙に勝っていけないと考える政党や政治家が多いからです。

しかし、この大統領による却下というアクションは長い物語の1ページに過ぎず、今度は、日鉄とUSスチールがバイデン大統領を告訴するという段階に進みました。これも、流れとしては全く自然であり、両者がそれぞれ株主の利益を最大化する責任を負っている以上は、避けて通れません。

ちなみに、日本企業がバイデン大統領を訴えるというと、国家間の争いになる危険だとか、報復の危険があるのではとか、懸念を生じるかもしれませんが、そんな心配は無用だと思います。別に日鉄は大統領個人を訴えたわけではなく、連邦政府の1つの機関としての大統領に対して民事訴訟を提起しただけです。

アメリカの場合は、刑事裁判のタイトルとして「合衆国対被告」の裁判という表記をします。一方で、民事裁判の場合は「原告対被告」として表記します。どちらの場合も、2つの相対する利害を調停するのが裁判という考え方です。そこに上下関係はありません。今回の場合は「原告対合衆国」ということになりますが、それぞれが弁護士を立てて争う通常の裁判になります。

「契約の罠」にはまる可能性も

日鉄としては勝たねばならないので、有能な弁護士を雇って事実を集め、論理を組み立てて相手と戦うことになります。当事者である日鉄の経営陣も同様の覚悟が必要であり、訴状にしても証拠にしても経営トップがしっかり理解し、法務部門に丸投げすることなく戦う姿勢を構築すべきです。それが国際法務におけるリーガル・マインドということだと思います。

一方で、報道によれば仮に買収が破談となった場合には、日鉄サイドには6億5600万ドル(約890億円)の違約金支払いが発生する可能性もあるそうです。このことを批判する向きもあるかと思いますが、日鉄がUSスチールとの買収交渉の結果、様々な条件交渉がされた中でそのような条項が入ったのであれば、今となっては仕方がないことです。

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