エイズ撲滅のため差別や憎悪と闘い続ける──エルトン・ジョン
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月9日 13時35分
自殺、メンタルヘルスの不調、アルコールや薬物依存、HIVの感染リスク。こうした問題は全て、恐怖や憎悪、差別や排除によって悪化する。
人間としての尊厳を奪われ、レッテル貼りをされて、社会に貢献できる才能をつぶされた人たちは大勢いる。現状では、私たちは自分たちの未来を自分たちの手で破壊しているようなものだ。
政治的に便利なくくりである「私たち」と「彼ら」。この2つがにらみ合い、敵対する風潮が強まっている。民主主義そのものの存続が危ぶまれるなか、自由、平等、互いをリスペクトする姿勢など、民主主義的な価値が打ち捨てられようとしているのだ。
より豊かな未来のために
今の社会にはびこるレッテル──「私たち」「彼ら」「資格がない」「値する」といったレッテルを片っ端から剝ぎ取らなければならない。
そのために私たちは、取り残され、見捨てられた人々の支援に力を入れている。公衆衛生上の脅威としてのエイズ禍を終わらせるには、あらゆる場所のあらゆる人々に医療へのアクセスを保証する必要があるからだ。
それと同時に、世界各国の政府に働きかける必要もある。患者を差別しない医療システムを構築し、新たな医療技術の開発に投資して、その成果を広くシェアしてほしいと。何よりも各国の指導者に求められるのは、社会的な烙印や差別を助長する法律を撤廃し、異質な存在を白眼視するのではなく、多様性を謳歌する社会を実現することだ。
英ウィンザーにある私の自宅には、エイズで亡くなった友人たちをまつるチャペルがある。彼らの思い出は私の魂に刻まれている。この40年間に出会った人々、南アフリカの若い母親からウクライナの首都キーウにいたゲイの男性まで、あらゆる人々に教えらられたことがある。エイズはいわゆる「まともな人たち」の病気ではなく、「はみ出し者」がかかるという見方がある限り、この感染症の撲滅は望めないということだ。
何がエイズ禍を終わらせるかと言えば、それは医療と技術だろう。だが、どうやって? 答えは包摂と共感と思いやりを通じて、だ。
誰かを悪魔に仕立て、スケープゴートにし、社会に恐怖を広めれば、隠し事や虚偽がはびこるだけだ。互いの違いを受け入れ、誰もが愛され、救われる価値があると認めること。それは今の世界ではとても困難な課題だが、究極的にはその試みがより豊かで輝かしい未来を切り開く。挑戦すれば、きっとできる。
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