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トランプ就任で「USスチール買収」はどう動くか...「米国の寛大さ」の行方と、トランプの深謀

ニューズウィーク日本版 / 2025年1月21日 19時5分

JON REHG/SHUTTERSTOCK

加谷珪一
<トランプの復活が象徴するアメリカ国内での「ナショナリズムの嵐」を前に、不当さを訴える交渉にはリスクが伴う。アメリカの「世論」を軽視するべきではない>

日本製鉄によるUSスチール買収が暗礁に乗り上げている。バイデン米大統領は2025年1月、買収計画について、安全保障上の理由があるとして禁止命令を出した。日本企業による米国企業の買収を米国大統領が禁止したのは今回が初めて。日本側は強く反発しており、バイデン米大統領らを提訴するという異例の事態となっている。

日本製鉄とUSスチールの間で買収合意が成立したのは23年12月のことだが、即座に全米鉄鋼労組(USW)が反対を表明、翌24年1月には大統領選への出馬を表明していたトランプ氏が買収阻止の意向を示し、その後、バイデン大統領も追随するなど、当事者以外は全て反対という状況になった。

日本製鉄の橋本英二会長は、「政治的理由から(米国内からの買収阻止の働きかけに)応じたバイデン大統領の違法な政治的介入により、審査手続きも適正に実施されないまま今回の命令に至った」と今回の決定を激しく批判。会見の途中ではバイデン大統領を呼び捨てにする場面もあるなど、冷静さを失っているようにも見える。

今のアメリカでは日本側のロジックは通用しない

もっとも、同社の買収が安全保障上の大きな脅威になっているとは考えにくく、バイデン政権の決定は多分に政治的であることは誰の目にも明らかである。

しかし、自国第一主義を掲げるトランプ氏が大統領選で圧勝したことからも分かるように、今、アメリカ国内にはナショナリズムの嵐が吹き荒れている。こうした相手に対して「不当である」といった論調で交渉することはリスクを伴う。

ナショナリズムというのは厄介なものであり、一歩間違えば深刻な対立を招く。日本側から見れば、安全保障というのは言い訳であって、単に外国に買収されたくないという、ある種のわがままと映っているかもしれない。

しかし国内に目を転じれば、コンビニ大手であるセブン&アイ・ホールディングスがカナダ企業から買収提案を受け、政府は安全保障上の脅威になる可能性があるとして、日本企業への出資を規制する外為法の対象になるとの見解を示した。外国企業が日本のコンビニを買収することは日本の安全保障上、脅威だが、日本企業が米国の鉄鋼メーカーを買収することは問題ないというロジックは、今のアメリカでは通用しにくいのが現実だ。

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