煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄道網が次々と「再国有化」されている
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月22日 18時55分
コリン・ジョイス
<民営化を成し遂げたイギリスの鉄道システムが30年を経て静かに国有化に戻りつつあるお粗末すぎる事情>
イギリスはある種の革命、あるいは見方によっては反革命の瀬戸際にいる。イギリスの鉄道網が民営化されてから30年、僕たちは今、鉄道網を事実上、再国有化しようとしているのだ。
不思議なのは、ほとんど議論の余地がないこと。おおむね、この30年間の民営化の実験は失敗だったと見られている。
単純に言えば、列車運行はうまく行っていない。料金は高くなり、システムは複雑になり、民間企業運営による競争と市場インセンティブがもたらすはずのメリットはほとんど、あるいは全く見当たらないようだ。
とどめを刺したのは、信頼性だ。電車の遅延や運行停止はイギリスでは日常茶飯事で、職場に行こうとしている人、遊びに出掛ける人、重要な会議や約束に向かう人たちはかなりの影響をこうむっている。
僕が思うに、少なくとも20年前には再国有化の議論は十分説得力があった。でも当時は、再国有化を実行するのはあまりに厄介だった。政治的メリットはほとんどないのに政府は多くの時間と労力をかけることになる。よく指摘されたことだが、乗客にはずさんな国有化システムを責めるより民間企業に腹を立ててもらったほうが、政府にとっては都合がいい。
ところが今や、複雑な法律や大々的なお知らせもなしに、再国有化が進んでいる。現在の営業契約期間が終了すれば、もう入札は行われない予定。その代わり、2027年までに1つ、また1つと政府の管理下に戻っていくことになる。
再国有化のプロセスがどう進められているか、あるいは混乱して複雑な既存の民営システムがどう運営されているのか、僕が正確に理解しているなどと言うつもりはない。
でも、この再国有化プロセスが始まったのは、東海岸のある路線であまりにひどい運行が長年続き、政府が2018年に「最終手段」として国営化した時だった。
それが方程式を変えた。保守党でさえ――民営化を擁護し続けてきた政党だ――民間が失敗したものを政府がうまく運営できる可能性があるという原則を受け入れた。それで、事実上の再国有化をどう進めるかについて、先例と枠組みが設定された。そして労働党政権になった今、それは政策として進められている。
この動きは、20年前だったらもっとうれしく感じただろう。僕の見解では、当時は再国有化は差し迫った課題だったにもかかわらず、政府は全くその意思がなかった。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
増殖するタワマンで駅の利用者数が激変し、鉄道会社のビジネスモデルは根底から崩壊…JR京葉線が“通勤快速全廃”した事情を読み解く
日刊SPA! / 2025年1月20日 8時51分
-
JR東「分かりやすい運賃にします」でなぜ“大幅値上げ”になるの? 格差を生んだ「4つの運賃区分」見直す意味 でも関西は“そんなに値上げしない”
乗りものニュース / 2025年1月6日 7時12分
-
JRで存続できても「切り離す」 行政が先に動いて“破格の応援”を獲得 富山2大ローカル線
乗りものニュース / 2025年1月3日 17時12分
-
「地下鉄は走ってるのに…」 年越し終夜運転に落とし穴!? “帰宅難民”が毎年大量発生する英ロンドン大みそかの夜
乗りものニュース / 2024年12月31日 18時12分
-
開業からの変化が激しい「波瀾万丈」の路線3選 元祖本格LRT路線は77年を経て「元のさや」に
東洋経済オンライン / 2024年12月28日 6時30分
ランキング
-
1トランプ政権、石破茂首相への関心低く「ディール」対象外か 安倍氏の名は折に触れ言及
産経ニュース / 2025年1月22日 17時35分
-
2「慰安婦本」著者が勝訴=賠償請求退ける―韓国高裁
時事通信 / 2025年1月22日 18時43分
-
3トランプ氏、バイデン氏直筆手紙の内容公開 伝統の就任はなむけ
ロイター / 2025年1月22日 14時24分
-
4「米国人になりたくない」 グリーンランド首相
AFPBB News / 2025年1月22日 15時46分
-
5トランプ氏、移民らへの慈悲訴えた司教に謝罪要求 「陰険」と非難
AFPBB News / 2025年1月22日 18時17分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください