ネコも食べない食害魚は「おいしく」人間が食べる...対馬の海を「磯焼け」から救う、ある女性の戦い
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月24日 14時23分
メニュー開発が加速したのは、19年。対馬を拠点に活動する一般社団法人MITや市役所と協力し、そう介プロジェクトがスタート。イスズミという名前にはネガティブなイメージがあるため、イスズミを「そう介」と呼ぶことにした。そう介の「そう」には海藻のそう、創意工夫のそう、惣菜のそう、とたくさんの思いが込められている。
最初は「おなごに何ができる、と言われたこともある」と犬束は笑う。だが、決してめげなかった。
「女性でもできるということを示したかったし、私たちは海で育てられてきたから恩返しの気持ちもある。漁村を取り巻く環境を少しでも改善して、捕れるものに付加価値を付けて漁業者にお金が落ちる仕組みをつくりたい」
毎日試作品を作り、漁業者たちに味見してもらったり、長崎県の水産課に持参して試食してもらったりを繰り返すうちに応援してくれる人が増え、風向きが変わっていった。
やがてさばいたイスズミを水に漬け、何回も水を替えて丁寧に血抜きの下処理をすると臭みが取れることが分かり、すり身にして玉ねぎなどの野菜と混ぜ合わせてカツを作ったところ、ネコまたぎだったとは思えない美味な一品が完成した。
玉ねぎの分量にもこだわったカツは、水産庁や漁業共同組合などが後援するFish-1グランプリで19年の国産魚ファストフィッシュ部門グランプリを獲得。新しい水産資源の開発や加工技術が評価された。
イスズミのカツやアイゴのフライは、今では「肴や えん」での人気メニューだ。対馬の学校給食にも採用され、子供たちが海の環境を学ぶ格好の教材になっている。
意識変容がカギを握る
犬束の功績は、未利用魚に高い付加価値を与えたことだけではない。漁業者をはじめ島の人たちの意識を変えた点が大きい。海の仕事をしているとはいえ、全ての漁業者が海の持続可能性を意識しているわけではない。イスズミもアイゴも、漁業者にとっては補助金をもらって駆除する対象でしかなかった。
そんな漁業者の意識が変わったのは、犬束の行動力と明るい人柄が周囲を巻き込んでポジティブなうねりを生み出したからだろう。捕獲されたイスズミやアイゴの鮮度が保たれたまま丸徳水産に運ばれる流通経路も確立された。
今も補助金による駆除は続くが、いつかイスズミやアイゴが水産資源として捕獲されるようになることを目指したいと犬束は言う。
「食べる人の意識も変わり、イスズミやアイゴがみんなを良い方向につないでいるように思う。海の環境はすぐには良くならないかもしれないが、食害魚を焼却してCO2を出すよりもおいしく食べたほうがいいし、地産地消にもつながっている」
人を巻き込むことの大切さを実感した丸徳水産がいま力を入れているのが、漁業者らが海の現状を語るツアー「海遊記」だ。参加者に釣りや魚の餌やりなど海の楽しさを体験してもらうとともに、磯焼けや海洋ゴミなど海を取り巻く課題を紹介することで海への関心を高めるのが狙いだ。
対馬の豊かな海を取り戻し、持続可能な漁業を次世代につなぐために、犬束の挑戦はまだまだ続きそうだ。
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