ゼレンスキー主演『国民の僕』あらすじから占う、2025年ウクライナ情勢と停戦後の命運
ニューズウィーク日本版 / 2025年2月1日 18時10分
河東哲夫
<主演ドラマでは、大統領になった後、陰謀で投獄の憂き目に遭い......。トランプは停戦を迫り、欧州もウクライナの防衛責任を負いたくない。停戦、選挙となればどうなるか>
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、もともと映画プロデューサー兼俳優。テレビドラマ『国民の僕(しもべ)』(2015年~)で、しがない教師から大統領にまで上り詰める主人公を演じて人気を博し、リアルな大統領に選ばれた。
このドラマは秀逸で、主人公ホロボロトコはSNSで時の人となり大統領にまでなってしまうが、腐敗した周辺の陰謀で投獄の憂き目に遭う。国は四分五裂するが、主人公は大統領に返り咲くと国をほぼ統一し、腐敗の元であるオリガルヒ(新興財閥)も取り締まる。
独立を維持していた東ウクライナと西部のガリツィア地方も、後者での鉱山事故を前者の鉱山作業員たちが救ったことで、双方とも統一ウクライナに入る。
だがホロボロトコは西側に債務返済猶予を求めて侮辱され、会議の席を憤然と立って、1630億ドルの負債返済を国民に呼びかける。国民はこれに応え、首都キーウの独立(マイダン)広場に金が積まれる......。夢物語だが、意味深だ。今このドラマに似た展開はあるだろうか。
2022年のロシア軍侵攻以来、味方に引き込んできたアメリカでは、ドナルド・トランプが大統領選に再選されてウクライナに停戦を迫る。ウクライナをNATOのメンバーにして防衛責任を負うより、ロシアとの間の緩衝地帯であり続けさせようとする欧州諸国も異存はない。しかし、ロシア軍を自国領から追い出さずに停戦をのめば、ウクライナ国内の右派、そしてゼレンスキーの政敵は、政権への抵抗を強めるだろう。
もともとユダヤ系のはぐれ者
停戦すれば、これまで戦争を理由に先延ばしにしてきた大統領選を実施せざるを得ない。ゼレンスキーはおそらく落選する。「この日曜に大統領選があれば、誰に投票しますか?」という2024年11月の世論調査で、軍総司令官だった(現在は駐英大使の)ワレリー・ザルジニーに、彼は大きく水をあけられている。
ゼレンスキーはユダヤ系で、白人意識の強いウクライナではもともとはぐれ者だ。クーデターで殺されるか、自分で作ったドラマのように投獄されるか、亡命するかを考えなければならない事態も生ずるだろう。しかしどこへ? カナダあたりか? 熱心に支持してくれた岸田文雄前首相のいる日本かもしれない。
一方、停戦はどうなるだろう。米英もEUも、ウクライナやロシアを本当には理解していない。ロシア軍は兵士の命を軽視しているから強い、奪われた領土をウクライナに諦めさせないと停戦はできない、と思い込んでいるが、今のロシアは兵士も砲弾も足りない。
産業革命で力を強めた英仏を相手に一進一退を続けた末、皇帝ニコライ1世の急死で停戦を余儀なくされた19世紀のクリミア戦争にも似た構図の中に、今のロシアはいる。西側は、譲歩への圧力をロシアにもかけるべきなのだ。
ドラマで名を上げ、東部地域問題の早期収拾を公約に大統領になったゼレンスキーは、右派からの圧力で「徹底抗ロ」に転じてロシアの侵攻を招いた。現実は厳しい。ドラマのように、国民に呼びかけても金は集まらない。国外での自身の蓄財の話もちらほら報道されている。
2025年の運勢は凶と出るか、吉と出るか。
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