ニコニコ生放送「『世界から見た日韓問題』―タイズ・ザット・バインド エピソード2―」(2015年8月8日放送)全文書き起こし(2)ヘイトスピーチ問題
ニコニコニュース / 2015年8月23日 16時0分
「ニコニコドキュメンタリー」の第1弾、第三者の視点から日韓問題を描いた「タイズ・ザット・バインド~ジャパン・アンド・コリア~」をテーマにした2回目の討論番組、「『世界から見た日韓問題』―タイズ・ザット・バインド エピソード2―」が2015年8月8日(土)22時から、ニコニコ生放送で配信されました。
本ニュースでは、同番組の内容を以下の通り全文書き起こして紹介します。
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※出演者=話者表記
角谷浩一氏(コネクター)=角谷
松嶋初音氏(コネクター)=松嶋
青木理氏(ジャーナリスト)=青木
潮匡人氏(評論家・軍事ジャーナリスト)=潮
五野井郁夫氏(高千穂大学経営学部准教授)=五野井
辛淑玉氏(実業家・のりこえねっと共同代表)=辛
津田大介氏(ジャーナリスト)=津田
平沢勝栄氏(衆議院議員・日韓議員連盟幹事)=平沢
冷泉彰彦氏(作家/スカイプ出演) =冷泉
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角谷:さて、個別のテーマにいこうと思いますけれども、まずはテーマ1にいこうと思います。
松嶋:こちらです。「ヘイトスピーチ問題」。
角谷:ヘイトスピーチの問題ですけど、これは続けるような形で、辛さんからいきましょうか。
辛:ヘイトスピーチの何についてお話しすればよろしいかな?
角谷:1つはヘイトスピーチに対して我が国は今どちらかというと引きずられるようにこの問題が大きなテーマになっていると。また、アンケートを採っても、やっぱりヘイトスピーチがいいと思っている人はそんなに多いわけではないということもあるわけですけれども、一方でこの問題が大きく影を落として、まさに辛さんが先ほどおっしゃったように、今のところ言われた側の立場に立っている話はどこにもないんですね。
辛:そうですね。というか、言われた側なり、ターゲットになった側が思いを伝えるようなことができないほど言葉を奪われているということは事実だと思います。そして、その言葉によって、言葉じゃないですね、殺人扇動ですからね。殺人扇動によって、これから何世代にもわたってその傷口はたぶん引き継がれるのであろうというふうに思います。
ただ、私はヘイトスピーチをしている人たちというのは、自分たちで敵を見つけてきたわけではないですよね。この社会の中で、今まで何らかの形で国家、政権なり、もしくは国の施策によって見落とされてきたものなり、そして反対するものなり、そういったものを一緒になってやっているわけですね。つまり、日韓関係が悪くなったら「韓国人を殺せ」と始まるし、そして在日を叩く。沖縄の問題が出てきたら、沖縄のうちなんちゅの人たちに対して「ゴキブリだ、ドブネズミだ、売国奴だ」っていう言葉を吐く。つまり、保険のついた差別なんですね。自分たちの思想、信条とかというのではなく、保険がついた差別をし、そしてそれを娯楽にしている。つまり、最も安価な娯楽ですよね。これは社会全体をやっぱり壊していくんだろうと思うんです。
それは、今までの歴史の中で、例えば「ユダヤ人はシラミだ」って言ったところから始まったように、そういった差別というものが社会をどのように壊していくのかっていうのは歴史の中で何回も繰り返されているものですよね。それをなおかつ、まだ、今もまたそれを楽しくやり、そしてそれを見て、映像で流れてきたものを見て、今度は「言ってもいいんだ」と思って、勇気を持って、その繰り返しだと思うんですね。
私は、これはこの後に来る日本の社会にとても大きな影というか傷を残して、その傷は何世代にもわたって続くだろうというふうに思うわけです。そして、それを言わせてしまった私たち世代ですよね。それは平沢さんも私も全部含めてそうです。こういうことを平気で言えるような社会をつくってしまった大人としての責任は、やっぱり今を生きる大人としてはあるだろうというふうに思うんですね。
角谷:平沢さんはヘイトについて、どんなふうにお考えで?
平沢:先ほど来、京都の朝鮮初級学校の話が出ていますけど、あれはもう絶対に許せないんです。これは当たり前です。それから、新大久保のデモのときのヘイトスピーチ、この映像を私も見ましたけど、これも絶対に許しちゃダメなんです。
ただし、これをどういう形で規制するか、取り締まるかっていうのは極めて難しい問題をはらんでいるんです。京都の朝鮮初級学校は、先ほどありましたように、要するに内容でやったんじゃないんです。現場で内容で判断するっていうのは、これは大変なことになりまして、表現の自由を侵す危険性が極めて大きいんです。ですから、あれをやったのは、先ほどありましたように威力業務妨害とか、侮辱罪も入っていたんですかね。ですから、既存の法律の中の威力業務妨害だとか、名誉棄損とか、侮辱罪とか。ですから、日本の法律では特定の個人に対してやれば、これはもう当然いろんな法律が適用になりますけど、一般論としてやった場合には適用にならないわけですよ。例えば、「朝鮮人皆殺し」というようなことを言ったら、これはけしからんし許せないけれども、今の法律ではなかなかできない。
角谷:法律ではね。
平沢:なぜできないんだということになってくると、今在日の話が出ていますけども、同じような話はほかにもいくらでもあるんです。例えば、実際に調べてみましたら、アメリカ軍の基地の周辺のデモの場合には「アメリカ出ていけ」とかっていうようなことがよくあるんです。「アメリカ人は日本から全部出ていけ」というようなことだって、これはいいのかということになってきますし。東京電力の問題が起こると、東京電力の社員に対して、社宅に対していろんなデモが押しかけたりして、「東京電力はけしからん」と、「東京電力の社員であることがけしからん」と、昔は自衛隊員であれば子どもまで学校で差別されたことがあったんです。
ですから、いろんなそういうことがありますから、その判断を誰にさせるかと。例えば、実際にそういった声を発したときに現場にいる警察官にさせるってことになるわけですけど、京都の場合も現場でやるっていうことは極めて難しいから、後で全部証拠を映像とか何かで撮った上で、後で逮捕令状を取って逮捕したはずです。内容では現場でできるはずがないです。現場の警察官にこの内容は法に触れているから内容で逮捕するとか、あるいは検挙するなんてことをさせたら、これはもう表現の自由にとって極めて大きな問題が出てくると私は思う。
もう一つ、そういう意味でつけ加えさせていただきますと、例えば私の地元にオウムから分かれたっていうのか、アレフっていうのがあるんですけど、アレフのあれがあったときには、アレフのところにデモ隊が行って、「アレフはここから出ていけ」とやるわけですよ。じゃあ、これはどうなるんだっていう問題も出てくるわけですよ。それで結局アレフは追われるように葛飾区から出ていったんです。ですから、こういうのはどうなんだという判断を現場のあれにさせるのかっていうことになりますから。在日に対する差別は絶対に許せないことは間違いないんですけど、ほかの差別とこういうことは、ほかにもこういうことで現実に言論では起こり得ることなんですけども、どこまでが言論の自由でどこまでがあれなのかっていう判断をどうするかっていう問題なんです。
そこで、今参議院に法律が出ています。これは罰則を設けてやると、極めて危ない。しかも、その判断をやるのは、裁判官じゃなくて現場の警察官が実際には第一次的にはやるわけですよ。ということで、これは理念法なんですよ。要するに、こういう差別はしてはならないっていう理念法。ということになると、今人権擁護局っていうのは法務省にありまして、法務省の人権擁護局の中でいろいろやっている活動とほとんど変わらないんですけど、強いて言えば日本は一生懸命取り組んでいるというメッセージですね。要するに、メッセージと、いわば今後こういうことをやるともっとこういう意味で厳しく規制されるという、いわばそういったメッセージを送ることができるということはありますけれども、実際にこれによって罰則があるわけじゃないですから、取り締まったり検挙されたりということではないわけですよ。
辛:でも、平沢さん、少なくとも人種差別撤廃条約を批准し、そして国連からの勧告を受けている、その項目に関しては何らかの対策をとることは可能ですよね?
平沢:ですから、先ほど青木さんが言われたように、勧告を受けているのは韓国も同じなんです。韓国も国連から勧告を受けている。ここで言うのは、今は日本のヘイトスピーチですけど、韓国のヘイトスピーチっていうのはすさまじいものがあるんです。私も実態を聞いていますけど、すさまじいものがある。私も韓国で私の写真を燃やされたり、ひどいことをやられたことがあるんです。これは日本の新聞に出ているから見ればわかりますけど。そういったすさまじいヘイトスピーチがあるんです。だけど、それは韓国も国連から勧告を受けているんです。ですから、韓国も言う前に自分たちがまずやれよと言いたくなるけど、それはさておいて、日本は日本としてしっかりやらなければならないわけで、国連から勧告を受けています。そして、実際に私たちがやらなきゃならないことはたくさんあります。
しかし、表現の自由っていう、もう一つの大きな問題がありますから、表現の自由を侵さないでどうやってやるかということを、私たちとしては今これから検討していかなきゃならない。まずは理念法として出てきたということなんですけども。私がかつて警視庁の課長のときに騒音防止条例っていうのをつくろうとしたんです。右翼がすさまじい音量でがなり立てるじゃないですか。ですから、騒音防止条例っていうのをつくろうとしたわけ。そうしたら、ものすごく反対されたのは、当時の社会党なんです。なんで当時の社会党は反対したかというと、「シュプレヒコール」ってやったとき、一時的にその音になるから、警察はそっちをやるのが目的じゃないかということを言われて、そしてあのときにはできなかった。私が課長のときにはできなかったんです。
ですから、いずれにしましても、いろいろな使い方があって、要するにその判断を任せちゃ危ないって言っている人たちが今回はやれと言っているわけなんで、やらなきゃならないんだけど、どういう形でやるのが一番いいのか、アメリカだって表現の自由があるからそういう法律はないわけ。韓国だってないはずですよ。法律はかかっているかもしれないけど、少なくともできていないんです。
津田:最初にパネリストの人に、このヘイトスピーチの法規制をするべきかしないべきかっていう、立場みたいのを明らかにして。
角谷:ただ、法規制も今平沢さんが言ったように、理念法は罰則規定がないんですよ。
津田:そうですね。
角谷:でも、理念法すらなかったっていう言い方もできるんですよ。
平沢:それは人権擁護局のほうでいろいろと今までやってきた。
角谷:ただ、それは法律じゃないからね。
平沢:法律じゃないです。
角谷:だから、初めて日本でもやっとヘイトスピーチに対して法律をつくろうというところまである意味では辿り着いたのかもしれない。
平沢:ですけど、ただこれは何度も言いますけども、在日だけじゃなくて、例えば所属する企業だとか、ブラック企業に対してもものすごいあれがありますから。それから、在日以外のアメリカだとか、あるいは例えばイラクがクウェートに侵攻したときには、イラクに対してものすごい攻撃があったし。そういったいろんな世界で起こっていることに応じて、いろんなことが現実に右翼だとか何とか、いろんな団体によって行われるんですよ。そのときにそれらをどういう形で取り締まるかっていうのは。
角谷:取り締まるとか、規制するのが難しいのはおっしゃるとおりだと思います。ただ、問題は起こるんだから取り締まるっていう理屈は、平沢さん、これはある意味でざっくり言い過ぎで、逆に起こさないようにするためにはどうするかって議論はなんでないんですか?
平沢:だけど、本当にこれで効果があるかどうかも議論しなきゃいけない。
角谷:そのとおりです。
平沢:そうなんです。ですから、この理念法をつくればこれでほんとに防げるのかどうか、私は本当にこれを防ごうと思ったら罰則をつくらなきゃダメだと思う。
角谷:罰則をしたほうがいいと思いますか?
平沢:罰則はいいけども、その場合に、例えば朝鮮初級学校のときのような、あるいは、新大久保のようなデモと、それ以外の「アメリカ出ていけ」、ほかの「出ていけ」というのと、どこで差をつけるか。これは慎重に検討しないと危ないと思うんです。現場の警察官にね。
角谷:ただ、議論は日韓から少し外れたように見えるかもしれないけど、ヘイトスピーチっていう議論で少し皆さんに問題提起したいんだけども。やっぱり差別意識だとか、それから自分と違うものを認めたがらないもの、それから自分の意に沿わないものに対して攻撃をかける、それはどういう攻撃かはわかりませんよ。だけど、デモをするっていう攻撃かもしれないし、意見を言うっていう攻撃かもしれない。だけど、何が差別で何が差別じゃないかっていうことと、攻撃の声を上げることがいいかどうか、表現の自由がどうかっていうのはちょっと違うんじゃないかと思うんですけど。
平沢:じゃあ、例えば、東京電力にデモ隊が押しかけて「東京電力は潰せ」とかって、いろんなことを言った場合は、これはいいんですか?
角谷:だから、いいか悪いかじゃなくて、そういうことをやめさせるエネルギーはなぜないのかって話ですよ。
平沢:やめさせることできますかね。
青木:ちょっと話をたぶん誤解されていると思うんで、ちょっと整理しておかなくちゃいけないのは、僕は平沢さんを常々尊敬しているんですけれど、逆に平沢さんの話を聞いてやっぱり罰則なんかつくっちゃダメだと思いました。
つまり、やっぱりヘイトスピーチって何かっていうあたりの根本のところが少し誤解されていると思うんですよ。つまり、国籍、民族、出自に関する人種差別的な攻撃、言質っていうのがヘイトスピーチであって。例えば、東京電力に抗議をして、例えば極端なことを言えば社長のプラカードをつけて、火をつけたらこれはもしかしたらほかの罪になるのかもしれないけれども、「おかしいじゃないか、出ていけ」ってやるのは、これは全然人種でも国籍でも何でもないですよ。
平沢:民族だけであっても、別に在日だけじゃないんです。
青木:もちろん。
平沢:民族だけであっても、例えばイスラエルに対しても、ものすごい攻撃があるんです。ですから、例えばイスラエルの大使館なんかも含めていろいろありますけれども、イスラエルのあれはどうなのかということもあるわけで。
青木:もちろん、それだってあれでしょう。マスコミなんかはイスラエルに関して言えば、はっきり言えば、法なんかなくたってものすごく敏感になっていますよ。はっきり言えば、ろくでもないことを書けば、その瞬間に抗議を受けて一瞬に終わってしまうんだから。
平沢:ですから、民族とか国籍だけで言っても、アメリカもあれば、イスラエルもあれば、世界で何かあればほかの国も起こり得るわけで。そういうのも含めて、それを例えば現場の警察官にそれなりの。私はこれを規制しようと思ったら。
角谷:平沢さんの懸念はよくわかるんですよ。警察官がジャッジできるのかとか、それから罰則が必要なのかとかいう議論になったら、僕は慎重だという青木さんの考えに近いんですよ。ただ、問題は差別の意識と抗議を一緒にしちゃダメじゃないかっていう。
平沢:いや、私は朝鮮第一初級学校は検挙して非常によかったと思う。警察はよくやったと思う。ですから、例えば現行法の中で、後から逮捕令状を取って検挙するっていうのは極めて難しいんですけども、例えば新大久保のデモも随分世界に流れました。あの中で何かできないかどうか、警察はもっと頑張ってもらいたい。要するに、これは非常に内容でやるのは危ないけれども、現行法の何かに抵触するかどうか。一番抑止力になるのは検挙することだと私は思いますよ。
角谷:なるほど。
平沢:だから、新大久保のやつだって探せば何か現行法の中でできるはずなんですよ。だから、警察は手間ひまがかかるから、警察も忙しいからあまりやりたがらないかもしれないけど。ダメですよ。こういうことこそ、やっぱり警察は人員を割いて、総力を挙げて何かできないかどうか、それで検挙すれば、これこそ次のあれは抑えることができるんで。今、日本にはいろんな既存の法律がありますよ。既存の法律を駆使して何かならないかどうか、警察はやればいいと私は思う。
ちなみに、昔は、左翼のケースの場合は、私から言ったらおかしいですけども、何かないかということで本当に小さな、ホテルに偽名で泊まったっていうようなことでも検挙したりなんかしたことがあったわけですよ。こういうことを言っちゃ、私が言うのはおかしいけど。
角谷:ちょっと白状しちゃったみたい(笑)。
平沢:だから、法に触れているのは間違いない。だけども、ささいなことですよ。
青木:でも、平沢さんは警察OBなんだから、発破をかけたらそういうのを。
平沢:だから、私はそういうことでやるべきで、それが一番効果があると思う。理念法も理念法でいいんだけど、これで防ぐことは、私は。
辛:でも、法律も確かにとても大事な話だと思うんだけども、例えば、平沢さんがということではなくても、政治家として「これはいけないことなんだ」ということをぴしっと言った政治家がいるのかって思うんですね。例えば、9.11のときにはあのブッシュ大統領でさえ、「アメリカの国内にいるイスラム教徒たちは私たちの敵ではないんだ」っていうことを言いましたよね。私はこういういろんな、例えば朝鮮学校を含めて、そういった民族差別を含めて、さまざまな問題が起きてきたときに、日本の政治家が「それはダメなんだ」と、例えば北朝鮮との関係が非常に悪くなったときでも、例えばそのときに叩かれるのは日本の社会に住んで生きている在日が叩かれるわけですね。そのときに。
平沢:いや、お話の途中で申し訳ないけど、事実関係をはっきりさせて、これから裁判になるかどうか知らないことについて警察が一つ一つのケースについて。
辛:いやいや、警察の話をしているわけじゃなくて。
平沢:それを政治家がまだ事実関係がはっきりしない段階で言うっていうのは、私は政治家としてはあれだと思うんですよ。よっぽど気をつけて発言しなきゃダメだと思う。あくまでも報道ベースで政治家がコメントしちゃダメだと思う。本当に事実関係はよくあれした上でやらないと、言うのは簡単だけども、政治家は慎重であるべきだと私は思いますよ。簡単に「これはああだ、こうだ」ということは、そう簡単に言うべきじゃないと思う。
青木:でも、例えば、今辛さんのおっしゃった話を少し言えば、例えば2000年代に入って、いわゆる拉致問題ですよね。これはもう北の国家の犯罪として絶対に許せないことだし、日本としては解決を求めていくんだけれど。あの一方で、かなり日本の在日朝鮮人の方々っていうのがそのときにいろいろな被害に遭った、苦しい目に遭ったっていうのがあったわけですよ。今回の朝鮮初級学校の話っていうのも、やっぱり拉致問題を契機にして、日朝首脳会談を契機として、それまでどっちかっていうと、はっきり言えばメディアもそうだったんだけど、北朝鮮っていうのは朝鮮総連も含めてある種のタブーだったんですよ。だけど、それがあれによって決壊した瞬間に今度は逆バネが働いて、もう何でも悪口を書いちゃえみたいになっちゃったっていう中で、やっぱりそのときに、辛さんのおっしゃった話で言えば、例えば心ある政治家が「在日の朝鮮人の方々には何の罪もないんだ」っていうようなこと、メッセージを発するという手はあるのかもしれないですね。
平沢:辛さんはそもそも「拉致はない」って言っておられた方だからあれだけど。
辛:すいません、私はそんなことは言っていないですよ。
平沢:いや、朝日ジャーナルに書いておられますよ。
辛:いいえ、違います。あれは「私に聞くな」って言ったんです。
平沢:「聞くな」ってどういう意味か、よくわかりません。
辛:平沢さん、つまり、在日にそれを聞くこと自体がおかしいっていうことを私は言ったんです。
平沢:そうじゃなくて。
辛:いえ、違いますよ。
平沢:そうじゃなくて。
辛:違いますよ。
平沢:北朝鮮がそういう拉致する、あれは何があるのかということを言っておられたと思いますよ。
辛:違います。私は。
平沢:そうしたら、もう1回確認します。
辛:ええ、もう1回確認してください。
平沢:間違いないですから。
辛:それで、またもとに戻しましょうね。私は北朝鮮の拉致事件が表になったときに、その後日弁連の調査で1000件以上ものさまざまな嫌がらせや暴行事件が起きたということは、日弁連の報告書の中にも出ているわけです。そのときに誰か政治家が1人でもそういうことを言ったのかっていうことですね。つまり、社会の中でそういう流れがだーっと出てくると、みんながそういう形になって、そっちに流れてしまって、弱い者にそういったこぶしが振り落とされたときも、「それは違うんだぞ」、「ここの社会に生きている人たちとその国との関係によって足元の人たちを叩くというのはおかしなことなんだ」ということを、私はどの政治家であっても言うべきだったと思うんですね。
平沢:だから、言うとすれば、それは総理とか、官房長官とか、法務大臣でしょうね。
辛:そうですね。
平沢:それはやっぱりそういう人が言わなきゃダメであって。それは全くそのとおりだと思いますよ。
角谷:五野井さん、先ほど冷泉さんも言っていたけども、こういう議論からなかなか脱皮できないんですね、日本の中での議論って。世界から見ると、「もっと仲がいいと思っていたし、近いのになんでこんなことをやっているの?」と、こういうふうに見られていると先ほどお話がありました。五野井さん、どんなふうにご覧になりますか。
五野井:今の話もそうなんですけど、どこで差別の線を引くんだっていうのは、明らかに今辛さんがおっしゃったように被害が出ているわけですよね。日弁連の調査で1000件以上出ている。さらにもっと言うと、特にヘイトの問題については、国連の委員会等で我が国は名指しされているわけですよね。であれば、そういう問題から解決をしていくっていうほうが一番いいと思うわけでして。逆に言うと、そうじゃないものについては、まだまだ当然検討の余地がある。だけれども、国連でもう突き上げを食らっているっていうことについては、これはやっぱ政治家としてきっちりと対応していくということが必要になってくると思います。
平沢:それはそうですけれども、国連ではやっぱりロビー活動が随分あって、要するに日本国内のあれについて、そういった結果としてこういうことになったんですけど、勧告があったことは謙虚に受けとめてしっかりやるべきだと私は思いますよ。
松嶋:今ここで、冷泉さんとつながりそうですので。
角谷:冷泉さんの話を聞きましょうか。
松嶋:冷泉さんにもご意見を伺ってみたいと思います。冷泉さん。
冷泉:はい。
松嶋:ヘイトスピーチについてご意見をお伺いできればと思うのですが。
冷泉:これは、今ずっと議論で出ていましたけども、アメリカの場合ですと、確かに表現の自由っていうのをものすごく大事にしますから、それ自体を規制するっていうことは非常に慎重なんですね。ただ、やっぱり逆に侮辱であるとか、それから差別が絡んだ形での傷害だとか、いろんな事件に関しては非常に厳罰主義があって、同時にメディアを含めた社会全体に対して、いわゆる差別表現に対して非常に厳しい視線っていうのがあるわけです。ですから、アメリカから見ていると、やっぱり日本のヘイトスピーチの問題っていうのは非常に奇異に映るし、「おかしい」と出てくるわけですけども、これは一応アメリカから見た場合はそうなんですが。
私個人の意見としては、普通のアメリカ人はそう思うかもしれないけども、やっぱり日本っていうのは非常に右から左までいろんな意見、価値観の違いっていうのはものすごく差がある国で、これはもともと地域によってのいろんな文化の違いっていうのも非常に小さな国のわりにはあるわけで、そういう中でやっぱり平沢さんなんかがおっしゃったように、本当に形式的かもしれないけども、表現の問題に、例えば警察とか国家権力が介入するということに関しては戦後の日本国憲法の中で非常に慎重だったっていうのは、私は一つ賢明だと思うんですね。ですから、逆にアメリカでうまくいっているというか、どっちかっていうとヨーロッパ型よりもアメリカ型っていいますか、法律と罰則規定をつくって抑止していくというよりも、例えば右の極端、左の極端じゃなくて、中間層の非常に分厚い人たちがやっぱり良識を持つとか、あるいはメディアを中心にもう少し極端な事例ばかりを集めるんじゃなくて、やっぱりきちんとした形でいわゆる常識的な考え方を広めていくとか。
何かやっぱり社会全体として、いわゆるストレートな罰則だとか、ストレートな法律だとかっていうんじゃなくて、社会全体としての運動として、何かある種の、確かに右から左まで極端な価値観の違いはあるけども、やっぱりある種のマジョリティの常識といいますか、良識といいますか、そういうものをつくっていくってことは、私はそっちを志向すべきと。やっぱりヨーロッパの場合はナチズムの反省っていうのが非常にあるんで、非常に厳しいわけですけども、むしろ日本の場合はアメリカ型の、直接表現のことに関してはいわゆる法律、国家権力を発動しないけども、社会全体のある種のいわゆる常識といいますか、コミュニケーション能力といいますか、そういう方向を求めると、そっちのほうがいいんじゃないかなというふうに思いますけども。
角谷:冷泉さん、そうすると、それを解決する、または乗り越えていくための手立てとしては、メディアの啓蒙ですか、教育でしょうか。
冷泉:やっぱり2つあって、1つはいわゆる古いリベラルとか左翼的な考え方の中に、とにかく差別をしているとか、差別発言をしている人がいると、本当に鬼の首でも取ったように、虫けらのように「こんなひどいやつがいるんだ」と、「こんなことは絶対に許せないんだ」って、それこそ上から目線で叩きますよね。だけど、それって実は叩かれている人たちっていうのは非常に少ない情報量の中で間違った判断をしているかもしれなくて、まだいろんなことを知っていれば違うかもしれない。先にがつんとやっちゃいますよね。その感覚みたいなのは、たぶんメディアの中でも一部あるだろうし、それってやっぱりすごく逆効果を生んでいると思うんですよ。
それからもう一つ違うのは、例えば感情論として、いろいろときれいなことを言っている人はわかるけど、「心の底から憎いって感情が出ちゃうんだよ」とか、「本音として言いたいんだよ」って感情論が出てきちゃうと、今度は「感情論だからいいじゃないですか」みたいのがあると思うんですよね。この2つをもうちょっと抑制すると随分違うんじゃないのかなと。私は何となく日本のメディアとか日本での言動を見ていると、そんなことを感じますけども。
角谷:なるほど、ありがとうございます。潮さん、こういう問題は、例えば国籍が違うとか、それからいろいろな違いによって差別的になったり、それから自分たちとの違いを強調しようとするっていうのは、いろんなコミュニティで世界中ある部分もあるでしょう。問題はそれを乗り越える、例えば潮さんの考える乗り越え方は何ですか?
潮:今回の、きょうの議論は特定の団体のいくつかの特定の映像化もされたシーンを巡って、今一般論として議論が展開されているわけですが、私はそのこと自体にやはり違和感を感じます。冒頭で申し上げたとおり、ごく一部の人たちの意見であり、私は恐らくきょうはいわゆる保守の代表としてここに呼ばれているんだろうと思いますが、そういういわゆる保守の陣営の中でも、あの人たちの行動に対して共感を持っている人たちに出会うことはほとんどないですよ。日本国民の中で1%以上の数字になるなんてことは、私はあり得ないと思います。ですので、先ほど出た番組のアンケートの数値に大変驚いています。それは恐らく答えを2分、ないし3分する形で問うているので、さまざまな思いがその「はい」の中に凝縮されているんだろうと思いますが。
拉致のことにも青木さんが言及されましたので申し上げますが、朝鮮人学校に対して私も批判を書いたことがあります。それはなぜかといえば、拉致を支持した最高指導者を礼賛する教育が公然と行われていること、そしてそこに日本国の公的資金が導入されてきたということについて、反感というか、おかしいと思うという感情が積もり積もって、あのような行動になったと私が正当化しているんじゃないですよ。ところが、それは本来日本国政府なり、日本のメディアがそういう主張を少なくとも一部の人は言うべきであったのに、それがタブー視されて、そういうことすら言ってはいけないかのような言論空間の中で、ああいう人たちの行動にいわばスポットが当たってしまったというだけのというか、そういうことだと思いますから。
そこで一般的な議論の、あたかも多くの人が差別感情を抱いているとか何とかって、今私が申し上げた朝鮮人学校の教育その他や、あるいは北朝鮮の政治体制に対する批判ということと、あの差別とは全然別次元のことだと思いますし、そもそも日韓の問題じゃないわけですよ(笑)。
角谷:つまり、別次元にしなきゃいけないことを一緒くたにしているから、こういう問題が大きくなったり、事件化したりということになるんだね。
潮:でも、そうやって扱うからじゃないですかね。
角谷:でも、最高裁まで行っている話を、「ほとんどの人はこんなことはしませんよ」って言ったら、こういう事件にはならないし、ヘイトスピーチという議論を、僕は潮さんがけしからんと思って言っているわけでも何でもないんだけど(笑)。この議論をごく一部だと言い出したら、ほとんどのものがごく一部ですよ。
潮:そんなことはないと思いますが。
角谷:そうでしょうか。
潮:例えば。
角谷:逆に言えば、北朝鮮学校に対しての扱いに対してどういうふうにするかっていう、まさに「もっと声を上げるべきだった」というふうに潮さんもおっしゃるけれども、それが日本政府からも、それから国から教育の支援をするべきかどうかっていうのが、もっと国民的な議論になるとかいう方法は、いろんな方法って政治の中でもあったと思うんですよ。
潮:あったと思うんですが、第1次の安倍政権などを例外として、そういう姿勢が見られなかった。拉致を北朝鮮が認めた以降を含めて、そういう鬱積した思いはあったんだろうと思いますが、だからといって別にあの人たちがいいとか言っているんじゃないですよ。
角谷:わかります。
潮:ただ、青木さんは、私には先ほどの発言は意外だったんですが、青木さんの先ほどの発言を除けば、多くの人たちに私は疑問を問いたいんですが、規制法案をつくれとおっしゃるわけですよね。その人権の問題、憲法上の報道や表現の自由にかかわる論点については平沢さんがおっしゃったとおりですので繰り返しません。例えば、特定秘密保護法案にあれだけ反対した政党や、あれだけ反対した何たら新聞が、なぜこの法案について同じことを言わないんですか?そういうことはやっぱり不公正なんじゃないでしょうか。
角谷:それは、津田さんどうですか?
津田:法案の中身が違うからじゃないですか(笑)。
潮:いや、私はそうは思いません。どちらも報道の自由、あるいは表現の自由という近代憲法学上は最高位に位置する価値にかかわる重要な問題ですから。
青木:でも、それだったら、平沢さんを巻き込んで申し訳ないけど、特定秘密保護法を通しといて、なんで今度は通さないんだって逆に聞きたいですよ。
角谷:逆にそういうことになるんですよね。つまり、誹謗中傷と表現の自由は一緒なんですか?これは別に潮さんっていうより、皆さんに議論してもらいたい。
潮:先ほど平沢さんもお話になられていましたが、例えば現行法令で、今回の番組で切り取られたシーンだけを見れば、普通に考えて公然と人を侮辱したものであり、拘留あるいは過料に処すと刑法の明文に定められているわけですから立件できるんじゃないんでしょうか。あるいは、公然と事実を指摘しているなら、より罪の重い名誉毀損罪になりますし、「殺すぞ」とか言っているのがなぜ脅迫罪にならないのか私はよくわかりません。それを我が警察当局を含めて、それこそそういうことをすると、いわゆる人権派の人たちに痛くもない腹を探られる云々かんぬんみたいなこともあって遠慮をしてきたという側面も大きいんじゃないかと思います。
角谷:そうすると、辛さん、結局差別をやめようと言っている人たちも痛くない腹を探られているから、この問題はふたをしてきたんですか?
辛:そこら辺は私はよくわかりません。ただ、日本で何回も人権基本法とかいろんな法律をつくろうと言いながら、今までつくれていないわけですね。それはどこでぶつかるのかっていったら、国民と国民外の人権をどうするのかっていうところでやっぱりぶつかってきたわけですね。私はまず今ここで実際に起きている被害に対してどうするのかっていうことの視点が大事だと思うんです。法律をつくるっていうのは大変大きなハードルです。それから、1票を持たない人間たちにとって、そういった法律をつくるといったところに何らかの影響を持つということももちろんできません。
そして、その私たちが、例えばどのような形で救済されるものなのかって考えたときに、とても簡単な方法が1つあって、それは日本は既に人種差別撤廃条約を批准しているわけです。それを自分たちはやると国際社会の中で宣言をしたわけですね。その中で唯一日本は、批准したにもかかわらず罰則を留保しているわけです。つまり、日本には人種差別に当たるような差別はないということの前提の上で成り立っているわけですね。ということは、新しい法律をつくるというのではなく、国際基準に則って、「自分たちもその基準に対して何らかの問題が起きたときには、罰則をちゃんと受けますよ」というような形にしていけば、それはさまざまな司法の状況でも、いろんな形でも、施策としても使われていくと思うんですね。だから、今ヘイトスピーチの法律をつくる、それは例えばいろんな問題があるというのであるならば、国際社会のルールに則って罰則留保をやめるという、そういう流れのほうが私はすごく現実的だと思うんです。
それから、先ほどおっしゃった民族学校、朝鮮学校の問題、おっしゃっている意味はとてもよくわかります。同時に、日本の中で「その人たちの母語をベースにした民族教育を公教育の中できちんとやりなさい」ということも国連からの勧告を受けているわけです。そうすれば、日系のブラジル人にしてみても、ペルー人にしてみても、何らかの形で日本語でない出自を持った人たちが公教育の中で自分たちの母語で民族教育を受けることができるという、そういった、要するに、国際社会にさらにアジアの中でも一歩先に行くような、そういった動きが私はできるはずだと思うんですね。でも、そういうところは全く無視してしまってやっているところが、とても私にとっては気になります。
それから、平沢さん、先ほど私に対して「韓国ではどうなんだ」っていうことをおっしゃいました。平沢さん、そこの視点がたぶん違うんだと思います。私は在日です。日本で生まれて、日本で育って、3代続いた在日です。私は韓国を代表しているわけではなく、私が住んでいるこの日本、このふるさとの日本の社会の問題をその構成員として発言しているわけですね。つまり、「お前は韓国籍だから、お前は在日だから、韓国はどうなんだ」っていう、その視点。
平沢:そんなことは言っていないよ、ひと言も。
辛:違いますよ。さっき言ったじゃないですか。
平沢:「韓国人」って言ったけど、韓国がヘイトスピーチのことを。この前日韓議員連盟があったんです。
辛:ちょっと待ってください、聞いてください。
平沢:そのときに韓国側は、日韓議連のときに一番言ったのは「ヘイトスピーチをやれ」ってことを盛んに言ったんですよ。そしてもう一つ言ったのは、「在日外国人に選挙権を与えろ」って、この2つを盛んに言ったから、私は「韓国」って言ったんで、別に辛さんをどうのこうのとはひと言も言っていないよ。
辛:違います、その前に。平沢さん、その前にちゃんと思い出してください。
平沢:そんなこと言ってませんよ、ビデオを後で見てください。
辛:そうですね、見てください。
平沢:そんなことは言っていませんよ。
辛:ですから、私は韓国の代表ではありません。
平沢:当たり前じゃない。
辛:そうですね、当たり前ですね。
平沢:そんなことは誰も言っていないよ、ひと言も。
辛:ですから、そういう形でお話をしましょう。
平沢:だって、あんたが勝手にそんなでたらめなことを言うからでしょう。
辛:いいえ。違います。でたらめではない。
平沢:視聴者が一番よく見ていますよ。
辛:さっき私に対して「韓国ではどうだった」、「韓国ではこうでしたね」って、私に向かって言いましたよね。
平沢:いや、別に。
松嶋:でも、ここの場で今言った言わない論をやっても話は前に進まないので、一旦それは置いておきましょう。
辛:ええ。ですから、それをベースにしてお話をしてくださいね。
平沢:今、民族教育の話が出ましたけど、民族教育をやるのは当たり前なんです。日本にはいろんな外国人学校があるんです。その外国人学校について、私たちはそれについて何とかかんとか言ったことは一度もありません。ただ、先ほど潮さんが言われたように、朝鮮学校については、要するに日本を否定する教育をやっていると。そして、北朝鮮を礼賛する教育をやっている。それは民族学校だからある程度はいいんですけども、要するに日本を否定する教育をやっているから、これはおかしいじゃないかと。なんで日本のお金をつぎ込んで、ほかに韓国学校だとか、アメリカ学校だとか、いろんな学校があるんですよ。そこに日本は1回も言ったことはない。だけれども、朝鮮学校だけはちょっと別なんじゃないかと。だから、それに対して言うのは当然のことで、しかしながら、その子どもたちとか何かに対していろいろ嫌がらせをするのはとんでもないことで、それは分けなきゃダメ、ということなんです。
青木:僕も朝鮮総連とか、朝鮮学校っていうのはたびたび取材をしてきて、もちろんいろんな問題を感じます、朝鮮総連っていう組織に対しても。ただ、さっき潮さんがおっしゃったので僕がひと言だけ反論したいのは、「拉致を主導した指導者を礼賛する教育をしているところはおかしいじゃないか、そんなところを許すわけにはいかないじゃないか、日本のお金を入れるのはおかしいじゃないか」っておっしゃるんだけど、お二人もそうだし、平沢さん行かれたことがあると思うんですよ。
平沢:ないです。私は北朝鮮行ったことはないです。
青木:だけど、行かれたらわかりますよ。つまり、2世、3世の子どもたちで、金日成、あるいは金正日、あるいは金正恩っていうのを本当に信奉して、「拉致はすばらしかった。なんで拉致をやったら問題なんだ」なんて言っている子どもは1人もいませんよ。
平沢:知らないでしょう。
青木:もちろん、だから、知らない。つまり、そんなに教育していないっていうことですよ(笑)。つまり、僕はそこをきちんと日本っていう国は、朝鮮半島、韓国がどうとかじゃなくて、日本っていう国はやっぱり、ましてや保守の政治家は分けてほしいんですよ。つまり、関係ないじゃない、子どもなんだから。
平沢:当たり前ですよ。子どもには関係ないです。ただし、その教育の中で、日本を否定するような教育については、日本の中にあって、日本人と協調して協力してやるんじゃなくて、日本を否定するような教育については、私は私たちが言うのは当たり前だと思う。
角谷:津田さん。
津田:いろいろヘイトスピーチの法規制の話があって、僕は在特会のああいうものはあり得ないと思うし、裁判の判決も妥当だったとは思いますけど、ヘイトスピーチを法規制するという点に関して言うと、さっき青木さんなんかも話がありましたけど、僕は慎重であるべきだと思います。それは、平沢さんが言っていた検挙の難しさとか、いろんなこともあるので、基準が明確化しなければ、本当に正当な批判も含めて萎縮されてしまう可能性っていうのがあるので、非常に内容が難しいっていうことがある。ただ、同時にそれで放置していいのかっていう辛さんの問題意識も僕も全くそのとおりだと思っていて。ただ、現実世界で行われているデモっていうのは、威力業務妨害、侮辱罪とか、いろいろ現実の法律があるので、それで対応していけばいい。
ただ、もう一つ問題なのは、今深刻なのは、ネットっていう新しい情報環境が出てきたことによって、それによって新しい人権侵害が起きているっていうことだと思うんです。だから、結局それも新しい人権侵害と、あと表現の自由とか、知る権利みたいなものの対立というのが起きている。極めて今日的な問題が起きているわけですけれども。さっき本当に辛さんがおっしゃっていた、要するに匿名でこういうコメントをしたり、ヘイトスピーチのようなコメントをすることが娯楽化しているんじゃないかっていうこと。ただ、これは2つあると思うんですね。ややこしいのは、本当に単に娯楽化してやっているような人もいる。これは、コメントの中で例えば1番を押しているような中の人でも、娯楽化のためにそういうふうにやっている人もいれば、そうではなくて、自分がいろいろ勉強するなり、ネットを見て知ったことによって、本気でやっぱり韓国に対して「ふざけんな」と義憤に駆られてそれを書いているっていう人もいることも事実だと思うんですね。それを一緒くたにして、どっちも「娯楽化しているんだ」って言うのは、たぶん対話の可能性を恐らくふさぐことになるんじゃないかっていうのが僕は1個あるんですね。
だから、それは恐らくそこで、逆に言うと、本気で義憤に駆られてやっているような人っていうのは、その間違った情報ソースなり、もしかしたらゆがめられた情報ソースによって義憤になっているのかもしれない。でも、もしかしたらそれを正当なものだと思っているのかもしれないんだけれども、そういう人たちに対して、やっぱり事実とか歴史とか、いろんなものを議論する可能性をやっぱり閉ざすべきではないというのが僕の1個の考えです。
その上で、さっき平沢さんのほうから抑止力の話があって、抑止力があって、「検挙すりゃいいじゃないか」っていう話はあったんですけど、僕は検挙以前にできることがあると思っているんですね。ネットを巡る法律でずっと放置されている問題っていうのが、プロバイダー責任制限法です。
辛:そうですね。
津田:プロバイダー責任制限法があって、今、情報発信者、つまり開示請求っていうのがあって、要するに今ヘイトスピーチみたいなコメントをする人、ブログもニコ生のコメントも全部含めて、Twitterも含めて、やりたい放題なわけですね。やりたい放題で、「ちょっとこれはひどいぞ」っていうときに対して、法的に対応しようと思って発信者情報開示請求を弁護士を通じて行うとどうなるのかっていうと、まずプロバイダーの側から「こういう発信者開示請求が来ていますけれども、氏名を開示しますか?」っていうふうに本人に尋ねるんですね。本人に尋ねたら、そんなもん「いや、やめてくれ」っていうふうに言って、そこでストップしてしまうと。またそういうところも含めて、言論規制をするって話ではないけれども、言論には公的な場でやったものに関しては、ネットであろうが責任を持つべきだっていうときに、そこでやっぱり現実問題としては、権利侵害が明白な事案の場合であれば、そこの情報発信者開示請求の手続きは非常に煩雑です。100万ぐらいかかります。安くても50万ぐらいかかる。そこをやっぱり簡略化するみたいなことですとか、あとは大体事業者がどのIPアドレスでこの発言があったっていうのは、ネットサービスには保存義務がないんですね。大体半年ぐらい保存するんだけれども。
辛:串刺しになったらもう全く無理ですよね。
津田:そうですね。でも、串刺しをしている人は本当に一部の確信犯なので、そうではなくてカジュアルにやっているような人に対して、「こういう発言があるっていうものに対して見逃せないから」っていうふうに、「この通信記録を出してください」って言ったときに、きちんとプロバイダー、接続事業者みたいなものに保存義務を課す、もしくは請求があったときにはそれをずっと一応保存しておくみたいな。今は仮処分申請をしなきゃダメなんですよ。それがきちんと請求を、被害当事者が言うときには保存するみたいな、そういうことをやって。別に発言は自由ですよ、別に韓国が嫌いだったら「韓国が嫌い」って発言をすればいいけれども、それを度を超して踏み越えて、法的な責任を問われるかもしれない発言をしたときには自分が特定されるかもしれない。ということを、法的にやっぱりある程度考えていかなければ、恐らくネットのこの状況っていうのはたぶん変わらないので。だから、僕はヘイトスピーチ規制法みたいなものをつくるよりかは、ネットでの公の発言をしたときに、その発言をもたせるような仕組みで、プロバイダー責任制限法に手を入れるっていう議論を始めなければいけない時期に来ているんじゃないかなと思います。
平沢:私は津田さんの意見に全く賛成で、ネットでの言論の問題っていうのは、もう行くとこまで今行っているんですよ。ですから、いろんな方が、私も散々でたらめをやられまして、一部はもちろん弁護士にやらせて、いろいろやったことがありますけど、ともかくやり放題。それでみんな匿名性に隠れていろんなことをやるわけですよ。ですから、やろうとしても大変なんです。しかも、最初の情報を流したやつじゃなくて、そこからそれを引用して書くやつがどんどんあれしますから。ですから、プロバイダー責任制限法、去年ネットでリベンジポルノ法っていうのを私がチーフになってこの法律をつくったんですけど、ともかくネットの人権侵害、これは何らかの形でやらないと、言論の自由の問題じゃなくて、これに泣いている人が世の中にはごまんといるわけですから。これはもっとしっかりとやらないといけないと私は思いますけどね。
角谷:「ニコ生のユーザーへの脅しかよ」っていう書き込みがありましたけど。
(一同笑)
角谷:五野井さん、どんなふうに見ればいいですか。
五野井:実際に今おっしゃった津田さんのご意見と辛さんのご意見と、両方とも一緒にやればいいと思うんですね。
やっぱりネットっていうものが明らかにヘイトの増幅器になっていますよね。これは別に、ヘイトスピーチという我々がもともと変えられないような、出自であったり、いろんなことによって差別されている現象、それについて当然増幅器になっています。それ以外に、先ほど平沢さんがおっしゃったように、東電の社員に対する嫌がらせなどのような部分も含めて増幅になっているわけですよね。であれば、まずネットにおいてやっぱりちゃんと何らかの規制をするなり、あるいは自分が言ったことに責任を取るっていうのは一方で必要ですよね。
でも、それ以外にやっぱり先ほど辛さんがおっしゃったところで言えば、なんで自分の生まれであったりとか、全く自分では変えられないことですよね、そういったことに対して、それだけで批判をされる、こういうことについてはやっぱりまた別の次元で法規制をしなきゃいけないなと思います。
角谷:でも、一方で、もしネットで僕たちがこれにかかわるならば、自分たちの中でそのポリシーを強化するなり、やっぱ「そういうことはダメだ」というふうなものを番組の中でつくっていくんだって。
松嶋:そうですね。
角谷:これは誰かに規制されるものであってはいけない、また罰則規定をつくるべきでないっていうのは僕も実は大賛成で、この問題をどういうふうにまとめるかっていうのはやっぱり一人一人のものに返ってきちゃうんじゃないかと思う。
五野井:もちろん政府がやると相当厳しいものになる。であれば、どうするかっていうと、例えば今回ドワンゴがやったように在特会のチャンネルを閉鎖するとか、そういったまず自分たちの会社の中でできることがあるでしょう。そこからやっていく必要があります。実際、ニコ生もこうやって流れていますけれども、ブラックリストみたいな形で使っちゃいけない言葉とかっていうもののリストはちゃんとあるわけで、それをもう削っていって、どうやってネットの言論環境をよくしていくのかっていうのは、実は、最終的には国がやることになると思いますけれども、結構業者でもできることはまだたくさんあるんじゃないかと思います。
角谷:「角谷は牛丼でも食ってりゃいいんだ」って書かれましたけどね。
(一同笑)
角谷:そういうのも含めて。そういうのがなくなったらいいな。
(つづく)
◇関連サイト
・[ニコニコニュース]「『世界から見た日韓問題』―タイズ・ザット・バインド エピソード2―」全文書き起こし(1)~(4)
http://search.nicovideo.jp/news/tag/20150808_「世界から見た日韓問題」―タイズ・ザット・バインド_エピソード2―?sort=created_asc
・[ニコニコ生放送]「世界から見た日韓問題」―タイズ・ザット・バインド_エピソード2― - 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv227559271?po=newsinfoseek&ref=news
・ニコニコドキュメンタリー - 公式サイト
http://documentary.nicovideo.jp/
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