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ニコニコ生放送「町山智浩×モーリー・ロバートソン『アメリカってヤバすぎ?超大国の裏側がわかるドキュメンタリー3選』」(2015年9月18日放送)全文書き起こし(3)

ニコニコニュース / 2015年10月18日 12時0分

ニコニコニュース

  9月の「ニコニコドキュメンタリー」は、アメリカ在住の映画評論家・町山智浩氏が選んだ、超大国アメリカの裏側がわかる過激なドキュメンタリー作品を特集。その生放送に先駆けて「町山智浩×モーリー・ロバートソン『アメリカってヤバすぎ?超大国の裏側がわかるドキュメンタリー3選』」が2015年9月18日(土)16時から、ニコニコ生放送で配信されました。

 本ニュースでは、番組の内容を、以下の通り全文書き起こして紹介します。

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※出演者=話者表記
モーリー・ロバートソン (ミュージシャン/ジャーナリスト)=モーリー
町山智浩 (映画評論家)=町山
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モーリー:いやーん。コーヒー浣腸がアメリカの一部ではやっていて、ジャネット・ジャクソンもそれを昔『Newsweek』で平気で「私、気分がうつのときはコーヒーで浣腸するの。ほんとすっきりするわ」とか言って、日本語になった記事を読んでいて「何を考えているんだ」みたいな。なんでセレブリティはコーヒー浣腸をするんだろう。これ、だんだんアメリカの『キンメル』っていう番組に似てきた(笑)。

町山:ジミー・キンメル?

モーリー:そう。この会話、アメリカの夜のコメディショーに似てきたからやばい。すいません、いろいろわかった(笑)。それで、要は、ただそういう集団ヒステリーも含めた、ほんとにもうある意味レット・ゴーした状態ですよね。もう自分で自分、自制心をなくして、子どもがぶわーっとなっていて、しかも別に、東洋的なカルトだったら大体みんなで集団行動みたいに同じことをやるんですけど、この人たちはみんなバラバラに一斉にうおーってなっていて。

町山:でも、今レット・イット・ゴーって話をしましたけど、全然関係ないですけど、『アナと雪の女王』の。

モーリー:『レット・イット・ゴー』(笑)。

町山:主題歌って『レット・イット・ゴー』じゃないですか。あれは日本でなんで「ありのままに」なんですかね。全然意味が違いますよね。

モーリー:あれはたぶんレット・イット・ゴーがわかんなかったんだと思う。レット・イット・ゴーって言ったときに、アメリカだとクリスチャンのバックがあると、レット・イット・ゴーって意味が違うじゃないですか。

町山:だから、要するに自分の自制心とかを取っ払って周りのことを気にしないで本能に任せるみたいな意味ですよね、レット・イット・ゴーって。あと、飲みに行ったときよく使いますね(笑)。「さあ、もうばっとぶっちゃけていこうぜ」っていうときにレット・イット・ゴーな感じですよね。

モーリー:そうですね。

町山:でも、全然歌は違う、「ありのまま」じゃないだろうとか(笑)。

モーリー:ありのままでって、ちょっと違う。「みんなで頑張りましょう」みたいな感じで。

町山:そうそう。

モーリー:ちょっと控えめですよね。だから、アメリカが例えば、これはすごく暴論になっちゃうかもしれないけど、どうしてアメリカって大味で、外交でも暴力的な側面があるのかっていうこととか、ドナルド・トランプの暴言が受けるのかっていうのと、何かここで子どもたちがレット・イット・ゴーして、そんな幼少期にインプリントされたら当然すごくなるじゃん、みたいな。

町山:でも、それはほんとにエヴァンジェリカルな福音派の人たちだけなんで。先ほども言ったんですけど、福音派の人たちっていうのは、イギリスから来たピューリタンと違う家系の人たちですよ。血統的に違う、さっきのスコッチ、アイリッシュの人が多いですね(笑)。ただ、このペンテコステをやっているフィッシャーさんっていうおばさんは、フィッシャーさんって名前でわかるように、ジューイッシュ、ユダヤ系ですよね。

モーリー:改宗したユダヤ人ってことですか?

町山:改宗した、ボーン・アゲインといわれる人たちなんですけど。

モーリー:ボーン・アゲインっていうのもアメリカですよね。

町山:ボーン・アゲインっていうのはアメリカですね。

モーリー:2度生まれる、生まれ直す、一応再誕とか、そういう感じになるのかな。

町山:再誕ですね。要するに、キリスト教徒として生まれ変わるっていうのをやるんですけど、それはジューイッシュの人とかカトリックの人たちに結構いるんですよね。生まれ変わっちゃうんです。もうそれまでの宗教は捨てて全然違う人になるっていう。

モーリー:そうそう。だから、なんで生まれ変わるのかっていうと、もうリセットなんだよね。

町山:リセットなんです。

モーリー:3つぐらいWindowsのキーを押してリセットした感じで、ほんとにポーンってリセットしちゃう。

町山:そうなんです。

モーリー:人格も変わる。

町山:はい。有名人とかでも結構いますよ。そうなっちゃった人とか。

モーリー:トム・クルーズのサイエントロジーとか?

町山:トム・クルーズのサイエントロジーはボーン・アゲインと違いますけど(笑)。

モーリー:ちょっと違う?

町山:ボーン・アゲインみたいなもの(笑)。

モーリー:みたいな。

町山:イニシエーションがあるから、基本的に1回死んで生まれ変わるんですね。別の宗教に入るときは、どの宗教も。

モーリー:それで、要はこのドキュメンタリーが追跡している背景っていうのは、表立って映るのはいろんな議論、賛成・反対の議論と、子どもたちの、日本社会から見ると常軌を逸した行動なんですが。要は、一番の背景っていうのは、これが最後は1つのフォーカスのあるベクトルとなって政治に向かっていくという。

町山:そうなんです。だから、結局人数が多いんですよね(笑)。福音派っていうのはアメリカの中で大体3割ぐらい、アメリカ人の3割ぐらいなんです。

モーリー:3割までいっちゃった?

町山:3割ぐらいまで、3割弱ですね。だから、集団としてはものすごく大きいから、それを選挙に動員すれば票が動くわけですよ。共和党はレーガン大統領の選挙のとき、だから1980年の選挙のときにレーガン大統領がその福音派の人たちが望むように政治をしますっていうふうに取引をして、そのときに共和党を福音派の推薦政党として位置づけたんですね。

モーリー:その下準備の時期、僕はアメリカで高校生だったんで。アニタ・ブライアント。

町山:アニタ・ブライアントいましたね。

モーリー:もともとカントリーシンガーで、フロリダ出身のオレンジジュースのキャンペーンギャルか何かをやっていたらしいのよ。

町山:そうなんですか(笑)。

モーリー:ちょっとマスコット的なアイドルっぽいシンガーで。ところが、ボーン・アゲインして、彼女は何をやったかというと、78年、79年に、そのころサンフランシスコなんかを中心にゲイカルチャーでカミングアウトをするという。

町山:ハーベイ・ミルクさんが市会議員になって、サンフランシスコをゲイのサンクチュアリっていう、ゲイの人がゲイでいられる街にしようということでやっているときに、公立学校の先生がゲイだっていうだけで解雇されるっていう事件が起こっていて。それに対して、ハーベイ・ミルク市会議員が闘っていたら、そのアニタ・ブライアントっていうおばさんが(笑)。

モーリー:キャンペーンして。

町山:キャンペーンして、「ゲイの人は学校の教師になっちゃいけないんだ」って。

モーリー:子どもにゲイをうつすから。

町山:そう、うつすから(笑)。

モーリー:先生として潜り込んでいて、工作員としてゲイの人口を子どものころからグルーミングして増やそうとするんだっていう陰謀説にもとづいて、なぜかいっぱいテレビに出るんだよね。

町山:いっぱい出たんですよ。

モーリー:要は、そこに周到な準備とお金がなければ、あんなにあのおばさんがそこまで出られるってことはなかったと思うんですよ。

町山:そうですね。

モーリー:彼女が当時の『プレイボーイ』で堂々と正面突破で大人のアダルト雑誌でロングインタビューを受けている部分があって、「私もセックスには肯定です。いくときは神様と一緒にいくの」みたいに。おれ、15歳でオナニーしかやったことないのに、アニタ・ブライアントの記事をこっそりお父さんの『プレイボーイ』か何かを盗み出して見て、「When you come, you come with God」って書いてあって、次にオナニーしたときにcome with Godするのかなと思ったらしなかったけどね。

町山:あはは(笑)。

モーリー:やばいっす。

町山:でも、それこそ神への冒涜のような気がしますよね。

モーリー:「おお、神よ。いくー」みたいな。ちょっとやばい。

町山:ただ、アニタ・ブライアントはそれでゲイの人たちをめちゃくちゃ言っていて、ゲイの人たちがやった復讐がパイ投げですよね。テレビの放送中に、パイをアニタ・ブライアントの顔面にベチャッとぶつけたっていうのがかっこよかったですね。

モーリー:あはは(笑)。それで、そういう下準備があって、それがだんだん滑走路へ行って、結構な速度をつけてレーガンが。要は、アニタ・ブライアントがクリスチャン・リバイバルをものすごくたきつけて、そこにレーガンが入ってきて、上手にゲイへの恐怖感とか、アメリカはもっと強くないとソ連に負けるんだとか、民主党のせいでインフレが起きたとか、それでぐわっといったんですよね。

町山:実際はカーター大統領が最初は福音派の支持政治家だったんですよ、民主党のほうの。

モーリー:ジョージア出身の。南部だもんね。

町山:そうそう。カーター自身が福音派の教会に家族全員で入っていて。だから、最初、人口の30%の福音派はカーター支持だったんですよ。ところが、カーターが大統領になったら、ゲイであるとか、人工中絶であるとか、そういったリベラルな政治的な政策をとったんで「裏切り者だ」ってことになって、「じゃあ、私たちの票をどこに持っていこう?」って言っていたら、レーガンが来て、「私は福音派ではありませんが、福音派の人たちのおっしゃる政策をとります」って言って、全部票をかっさらっていったんですよ。

モーリー:再選もされますよね。

町山:されます。それからずっと共和党は。

モーリー:12年間。

町山:ブッシュ大統領まで、ブッシュの息子大統領までずっと福音派の票をつかみ続けるんですよ。長かったです。だから、共和党は圧倒的に強かったんですよ。

モーリー:そのレーガンのレガシーというか、そこで共和党とアメリカのキリスト教右派、クリスチャン・ライトと呼ばれる福音派の、いわゆる政治的に組織された人たちですよね。

町山:それで連合になるんですね。

モーリー:それがほとんど合体して、一心同体になった状態で共和党の支配がずっと続き、ブッシュ・シニアもあったし、そしてその後、今度はクリントンを挟んで、またブッシュ・ジュニアに戻っていって、ジュニアもそれまでのレーガン、ブッシュ・シニアと同等にとても強く宗教を前に打ち出す。

町山:そうなんですよ。ブッシュ自身がほんとにボーン・アゲインをしましたから。

モーリー:アルコール依存か何かでしたんでしたっけ?

町山:アル中だったんですよ(笑)。

モーリー:そうそう。その治療の一環としてね。

町山:そうなんです。いろんな治療をしたんだけどダメで、結局、ボーン・アゲインして初めて彼は酒を完全に断ったんですけどね。ただ、お父さんはキリスト教原理主義が嫌いだったんで。

モーリー:お父さんのほうが。CIA長官だった人。

町山:お父さんは。

モーリー:冷徹な人で。

町山:ブッシュのお父さんは長老派か何かだったんですよ。だから、彼はキリスト教原理主義の人たちの支持を取りつけようとしなかったんですよ。だから、クリントンに負けちゃったんですよ。

モーリー:オーマイ。

町山:はい。だから、その後クリントンのときは、議会の上院と下院のほうはちゃんとまた動いて、福音派が全部乗っ取って支配したんで、大統領はクリントンだけども、議会は完全に共和党支配っていうふうになりましたよね。

モーリー:それがちょうど2000年でしたっけ?ブッシュが勝った大統領選。2001年の直前。

町山:ブッシュが勝ったやつは2000年です。

モーリー:ですよね。そうすると、何が変わるかっていうと、それまでは70年代末から始まったキリスト教右派、クリスチャン・ライトと共和党の一種の連携関係なんですけれども、これがある意味少し成熟していって、そこにさらに電子メディアであるテレビがまた上のレイヤーとしてかぶさって、そこに出現するのがFOXなんですよね。

町山:そうですね。

モーリー:ブッシュの時代にFOXが、これまでにないほどメディアと政治が癒着どころか結託というか、結合した時代があった。

町山:そうですね。FOXっていうのはもともと昔からある20世紀FOXっていうハリウッドの映画会社なんですけれども、それをオーストラリア出身のルパート・マードックっていう大富豪が1980年代に買い取ったんですね。その後完全に政治的なメディアとしてFOXニュースチャンネルっていうのを90年代に始めまして、最初はケーブルテレビで人気もなかったんですけど、クリントンのモニカ・ルインスキー事件のときに、モニカ・ルインスキーを朝から晩まで。

モーリー:モニカ・ルインスキーはクリントンのインターンの秘書みたいな感じ?

町山:インターンですね、研修生です。

モーリー:ホワイトハウスの、あそこのオーバルルームの机の下でひざまずいてフェラチオしてもらったらしいっていう。ビル・クリントンは女ぐせが、ちょっと手くせがあるんだよね。それが明るみに出ちゃった。それもイスラエルの仕込み説とか。

町山:ありますけどね(笑)。

モーリー:あはは(笑)。そのときのモニカ・ルインスキー、その若いお嬢ちゃんとのセックススキャンダルをFOXは日夜やった。

町山:はい。もう朝から晩までやっていて。ほかのメインのテレビ局は下品な内容だからやりたくなかったから、あまりやらなかったんですよ。でも、FOXだけはもう徹底的に朝から晩までフェラチオの話ばっかりしていて。視聴率が。

モーリー:フェラチオ大統領(笑)。

町山:そうそう(笑)。CNNを抜いて。

モーリー:だんだん『キンメル』になってきているから(笑)。

町山:ケーブルテレビのニュース専門局はCNNがそれまでトップだったんですけど、CNNを抜いちゃったんですよ。CNNは「そういうのは下品だからやりたくない」っていってやらなかったために。でも、みんな下品なものが好きじゃないですか。あと、クリントンを嫌いな人たちがFOXを見るんで。それで、FOXはクリントンの任期が終わったときに、ブッシュ大統領が出てきたときに、もう「ブッシュ万歳」っていうのを延々と繰り返していた。要するに、視聴率トップのチャンネルがブッシュ万歳をやっているから、ブッシュの勝利にFOXはものすごく貢献したと言われていますね。

モーリー:興味深いのが、たしか1980年、ですから、その2000年の20年前に、カーター、レーガンの大統領選があったときに、ジョージ・F・ウィルという右派の政治コメンテーター兼アンカーがテレビのディベートをやったんだけど、事前にレーガンと何を言うか打ち合わせていたんだよね。要は、すごいバイアスをかけて勝たせちゃったんですよね。比較的レーガンの言っていることが正しいように司会をしていた。中立じゃないんですよ。レーガンを勝たせるために、レーガンとつるんでいるジョージ・ウィル、司会者とカーターで、絶対カーターは負けるっていうふうに仕組んじゃって。何年かたってそれがバレたときに、「やったよ。でも、アメリカのためだからいいじゃん」みたいに開き直って。

町山:はいはい(笑)。

モーリー:ただ、それはいわばニュースという公明正大なメディアの中でタブロイド性を排除して、これからのアメリカにとっては何をすべきかっていう、カーター対レーガンのイデオロギー対立を、多少バイアスをかけてという程度なんですよ。それと20年後のFOXは全く次元が違いますよね。

町山:でも、やってた人は同じなんですよ。レーガンのときのメディア対策をやっていた人はロジャー・アイレスっていう男で、それがFOXの社長になっているんで(笑)。

モーリー:ルパート・マードックが買った後のFOX?

町山:そうです。だから、レーガンの。

モーリー:じゃあ、同じチームなんだ。やっべえ。

町山:同じチームっていうか。同一人物なんですよ、仕掛け人が。

モーリー:いや、ちょっと。ほんとですか。ごめん、おれ、やっぱ自分の国のことわかっていなかったわ。

町山:いえいえ(笑)。ロジャー・アイレスっていう人は、メディアによって政治を動かすシステムっていうものの研究家なんですよ。本も1冊出しています。そういう洗脳システムみたいなものに関して。

モーリー:おれさま洗脳システムみたいな。

町山:(笑)

モーリー:で、勝ち誇っているわけ?

町山:そうですよ。レーガンのときに彼はブレーンとしてレーガンの政権について、テレビ対策とかをして。ただ、そのころはそういったものを取り締まるものがなかったんで、ほとんどだれにもチェックされなかったんですよ。そのロジャー・アイレスはその後ブッシュのお父さんのときも、インチキな政治CMをつくるのを後ろで糸を引いていた人なんですね。すごく重要なのは、レーガン政権のときにロジャー・アイレスがレーガンに押していって、日本にはまだあると思うんですけど、テレビメディアのニュースにおける公正。

モーリー:BPOみたいな?

町山:そうそう。要するに、どこかの不偏不党の法則っていうのが決められて。

モーリー:最近自民党がよく口にするやつですね(笑)。

町山:そうですね。ニュースメディアとかテレビは、特定の政党とか特定のイデオロギーに偏ってはいけないっていう決まりがあったんですけれども、それは規制の1つだと、レギュレーションだから。

モーリー:ディレギュレーションしようと。

町山:そう、ディレギュレーションしようと、レーガン政権のときにそれを撤廃したんですよ。

モーリー:自分たちのやり放題になると。

町山:やり放題。それでアメリカは政治的にどんなに偏ってもよくなったんですよ。それは、レーガン政権が、自分がその法律を、要するに撤廃したわけですけども、それに従ってそのルパート・マードックがまさに右寄りの放送局として始めたのがFOXニュースなんです。

モーリー:それは連携したんだ。

町山:連携しているんです。やっている人は、後ろにいるのはロジャー・アイレスっていう同一人物ですから。

モーリー:マードックは80年代のサッチャーのイギリスでニュースペーパーの『サン』あたりで。

町山:『ザ・サン』。

モーリー:『ザ・サン』で大礼賛をして、彼女の新自由主義をある意味強引に押し通す手伝いをし、サッチャーがやった一番強引なのはフォークランド戦争と、暴力的なスト破りですよね。炭鉱のマイナーズストライキとかをぼこぼこにした。その後で彼女は勝ち誇って、「あそこでぼこった警察にはボーナスをあげなきゃな」とか言ってすごかった人、鉄の女なんですけども。そのサッチャーもスピンであるところの、スピンっていうのはプロパガンダですよね、『サン』がそれをやってくれなければ、側面支援をしてくれなければ、たぶん庶民の理解は得られなかったわけじゃないですか。彼はそこで10年間それを練習したって感じ?

町山:ルパート・マードックはですね。ルパート・マードックはもともと『ザ・サン』もたしか買い取ったんですよね、もともとあって。それといわゆる『タイムズ』っていう、世界の新聞の元祖みたいなのがイギリスにはありますよね、『ザ・タイムズ』っていわれている。『ニューヨーク・タイムズ』が「タイムズ」って名前なのは、もともとイギリスに『タイムズ』があるからですけど、その『タイムズ』を買い取ったんです。『タイムズ』のほうは伝統的な紳士が読む難しい新聞で、だから、インテリ新聞、金持ち新聞で、『ザ・サン』のほうは。

モーリー:タブロイド、庶民。

町山:タブロイド。庶民向けで、記事はギャンブルの記事、サッカーの記事、おっぱいですね(笑)。このくらいの新聞で労働者が読むんですね。イギリスは労働者と金持ちが完全に分かれた階級社会ですから、その両方をルパート・マードックはオーストラリアから来て買い占めて、そこでサッチャー政権の政治的な方向性の擁護を徹底的にしたと。

モーリー:本来なら、もし労働者の新聞がマードックに買い取られなくて独立していたならば、炭鉱のストライキとか、ごみのストライキとかゼネストで、サッチャーはほんとに過酷なリストラと首切りを強行しましたので、「雇用を維持しろ」って騒いで『赤旗』っぽくなるのが普通なんだけど、その持ち主がサッチャーとつるんじゃっているから、もうどこを見てもメディアはサッチャー礼賛色で埋まっちゃった。

町山:そうなんですよ。特にその『ザ・サン』っていうのは、本来だったら貧乏な人たちが読むものだから、「サッチャーのやり方っていうのは貧乏人いじめだ」っていうふうな論調にするべきなのに、「貧乏人をかばうのはアカだ」っていう展開をしていったんです。

モーリー:つまり、『日刊ゲンダイ』と『夕刊フジ』がお互いを指差して、『日刊ゲンダイ』を読むと、「『夕刊フジ』に書いてあったことだけど、これは結構いい話だね」って言って、『夕刊フジ』を読むと、「『日刊ゲンダイ』でもおもしろい記事が載っているんだけどさ」って言っている感じ、お互い補完し合って、なれ合って、本当の対立じゃないみたいな。

町山:特にフォークランド戦争のときは、あれは完全に、イギリスのもともと侵略して持っているところをさらに侵略するわけですけども、それをもう礼賛して、「フォークランド戦争、いけいけ」って、「これは愛国心の高揚の場なんだ」ってことでもって、『ザ・サン』は労働者向けに、貧乏な人たち向けに「イギリス万歳、戦争万歳」っていう記事を載せていって、そっちにみんながいっている間に、『タイムズ』っていうインテリとか金持ち向けの新聞のほうではレギュレーションを。

モーリー:規制撤廃。

町山:規制撤廃と。

モーリー:新自由主義。

町山:新自由主義ですね、金持ちへの減税。

モーリー:金融規制緩和。

町山:そう、金融規制緩和と減税で、新自由主義の金持ちが暴走するような経済政策を、「これが新しいんだ」と言って、今までの福祉主義っていうのは「あれはアカのやることだ」と。

モーリー:あれはソ連とそっくりだから、そんなことをやっているとソ連みたいにスタグネーションして、社会がどんどんさびついて最後は止まってしまうんだと。プラス、生活保護を怠け者が不正に受給していると。例えば、パキスタン人とかの移民がやってきて、「こいつらがナマポ、生活保護を受けてどうするんだよ」っていう、今の日本にもちょっと通じる論調を。

町山:そうなんですよ。というのは、そのころのイギリスっていうのは、サッチャー政権の前はすごい福祉国家だったんですよ。

モーリー:やり過ぎるぐらい。

町山:はい。だから、基本的に病気のときはタダですよね。入院とか。今もまだ医療は結構いいですけど、その辺の福祉が貧乏人に税金を取られているっていう論調をインテリ向けに『タイムズ』のほうで展開して。だから、二段構えで「愛国心万歳」っていうのを『ザ・サン』で労働者向けに。

モーリー:と、金持ち優遇と貧乏人への軽蔑みたいな。

町山:そうそう。育てて、サッチャー政権を盛り立てた。

モーリー:そういうメソッドを、ルパート・マードックが10年かけて、サッチャー政権で人体実験がうまくいったと。それを今度はFOXという形でアメリカに持っていって、より大きな舞台で、より大きな人口に向けてやったら、ブッシュの時代に大当たりしちゃった。

町山:大成功したんですよ。

モーリー:ああー。ということで。

町山:イラク戦争が起こっちゃったんですね。

モーリー:戦争をほんとに後押しするメディアであった。FOXがなかったら、イラク戦争は多少ちゅうちょはあったかもしれないっていうぐらいメディアの存在として大きいんですね。そのダイジェスト映像も用意しました。作品『アウトフォックス』のダイジェスト、しばしご覧ください。

(VTR)(1:07:20~1:10:05)

モーリー:すごい(笑)。テレ朝も1回買おうと。

町山:ルパート・マードックはテレ朝を買おうとしましたね。

モーリー:今、もう実は買ったんじゃないかと思うような振る舞いをときどき目にするんですけど(笑)。

町山:あはは(笑)。ルパート・マードックがすごいのは、イラク戦争にアメリカを導いたっていうことを認めているんですよね。「そういう論調を私がつくりました」っていうふうに言っていて。しかも、オバマ大統領が2008年の選挙で勝った後に、オバマ大統領を呼びつけて2人で会っているんですよ。それはオバマ大統領がしゃべっちゃっているんですけど、どういうふうに会ったかっていうと、これから大統領になるっていうときに、「もし我々の意見をオバマ大統領、君が政策とかに取り入れてくれて、歩み寄ってくれたならば、私たちFOXニュースチャンネルとルパート・マードックのメディア王国は、オバマくん、君を支持するよ」って言ったんですよ。「取引をしよう」って言ったんですよ。

モーリー:あはは(笑)。その結果が今なんですか?

町山:そう、オバマさん、いやいや(笑)。

モーリー:そうじゃなくてね。僕が知らないところでみたいな(笑)。

町山:いやいや、オバマさんは「ちょっとそれはできないよ」と言って断って別れたんですけど。だから、彼は、ルパート・マードックは「共和党が」っていうんじゃなくて、要するに、自分の言うことを聞いてくれれば相手はだれでも、あまり構わない。

モーリー:だから、本当に純粋な企業なんですね。

町山:そうですね。

(つづく)

・[ニコニコニュース]「町山智浩×モーリー・ロバートソン『アメリカってヤバすぎ?超大国の裏側がわかるドキュメンタリー3選』」全文書き起こし(1)~(5)
http://search.nicovideo.jp/news/tag/20150918_町山智浩×モーリー・ロバートソン「アメリカってヤバすぎ?超大国の裏側がわかるドキュメンタリー3選」?sort=created_asc

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]町山智浩×モーリー・ロバートソン「アメリカってヤバすぎ?超大国の裏側がわかるドキュメンタリー3選」 - 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv234564782?po=newsinfoseek&ref=news
・ニコニコドキュメンタリー - 公式サイト
http://documentary.nicovideo.jp/

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