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ニコニコ生放送「本当は知らない"キリスト教"と"アメリカ"」(2015年9月18日放送)全文書き起こし(1)

ニコニコニュース / 2015年10月18日 12時10分

ニコニコニュース

 9月の「ニコニコドキュメンタリー」は、アメリカ在住の映画評論家・町山智浩氏が選んだ、超大国アメリカの裏側がわかる過激なドキュメンタリー作品を特集。その第1段「ジーザス・キャンプ 〜アメリカを動かすキリスト教原理主義〜」が2015年9月18日(土)20時00分から、ニコニコ生放送で配信されました。

 本ニュースでは、生放送後におこなわれた作品をテーマにしたトーク番組の内容を、以下の通り全文書き起こして紹介します。

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※出演者=話者表記
モーリー・ロバートソン (ミュージシャン/ジャーナリスト)=モーリー
大田俊寛 (宗教学者)=大田
森本あんり (宗教学者)=森本
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モーリー:こんばんは。司会のモーリー・ロバートソンです。『ジーザス・キャンプ』、壮絶でしたね。ニコニコユーザーの「本当のことを知りたい」という思いに応えるため7月からスタートした「ニコニコドキュメンタリー」、今回は超大国アメリカの裏側に迫るドキュメンタリー特集、「町山智浩が選んだヤバすぎるアメリカ」1本目として、キリスト教原理主義者のサマーキャンプに密着した『ジーザス・キャンプ』をご覧頂きました。
そして、ここからはキリスト教とアメリカという、とても大きな2大テーマをさらに深く読み解くため、2人のゲストにお越しいただいております。早速紹介いたしましょう。お一人目は、日本におけるアメリカ宗教研究の第一人者にしてご自身もキリスト教徒の、国際基督教大学学務副学長の森本あんりさんです。こんばんは。

森本:森本あんりです。こんばんは。

モーリー:たぶん森本さんのお仕事をご存じないビューアーもいらっしゃると思うので、簡単に自己紹介をしていただけますか。

森本:森本あんりって名前を聞いただけで、きれいな若い女の人が出てくるんじゃないかと思って期待した人がいたかもしれませんけども、こういう人間です。

モーリー:(笑)

森本:国際基督教大学という、ICUという名前の大学、そこでずっと教えてきたんですけど、4年ぐらい前から学務副学長という仕事をしていますものですから、自分の学校では全然学生に授業を持てないんですよね。きょう来るときに、自分の学校で教えられないのにニコニコの動画に出るのかとだいぶ非難されてやってきました。

モーリー:じゃあ、きょうはよろしくお願いいたします。

森本:よろしくお願いいたします。

モーリー:ご著書がかなりあちこちで話題になっているんですけど、だれもが聞いたことのあるこのキーワード、『反知性主義』。

森本:これ、映りますか?

モーリー:映ると思います。新潮選書から出ています。好評発売中。

森本:というものです。よろしくお願いいたします。

モーリー:今は結構何刷りかいっている感じですか?

森本:もう7版ぐらい出ましたね。

モーリー:7版、よっしゃ。

森本:もうすぐ2万部ぐらいになりますね。

モーリー:オッケー、今夜は8版をとりあえずクリアするということで。皆さん、よろしくお願いいたします(笑)。

森本:よろしくお願いします。

モーリー:お二人目は、オウム真理教など、現代宗教や異端宗教をご専門にされている宗教学者、大田俊寛さんです。こんばんは。

大田:大田と申します。初めまして。

モーリー:初めまして。

大田:こういう番組に出るのが本当に初めてなので、自分でも想像以上に緊張していまして。

モーリー:まじっすか。

大田:はい。正直申し上げると、どうしてこのテーマで僕が呼ばれたのかなっていうのがよくわからなくて(笑)。実はこれ以前もニコニコ動画からは何度か「出てくれ」というオファーを受けまして、そのたびにお断りはしていたんですが、だんだん断りづらくなってきまして(笑)。それで、モーリーさんや森本先生にお会いしたかったので、専門ではないんですけれども脇役として出させていただくということでまいりました。

モーリー:3人の正三角形の三位一体みたいな鼎談にさせていただければと思います(笑)。

大田:わかりました。

モーリー:実はきょう、ご著書のサンプルを持ってきていただいているんですけど、これがまたすごい。カメラのほうに少しお見せいただいてよろしいですか。背表紙、表表紙。

大田:僕がもともと研究していたのがグノーシス主義っていう、2世紀に登場したキリスト教の最初にして最大の異端という、そういうものを大学時代は研究していました。グノーシス主義っていうのは、正確に説明すると非常に長いんですが、グノーシスっていうのはひと言で言うと、知識とか認識っていう意味でありまして、森本先生がお書きになった『反知性主義』っていうのは、救済にあたって知識とか知性っていうのは必要がないとして切り捨てるわけですけれども、最初にあらわれたキリスト教の異端というのは、人は徹底的に知を得ることによって救済されるんだっていう、そういう異端だったんですね。ですので、キリスト教っていうのは、反知性主義っていうのは現代になって初めて出てきたわけではなくて、もともとその発端から、もともとはどこから来たかというと、エデンの園に命の木と善悪を知る木っていう2つの木があって。

モーリー:それは英語でいうと「Tree of Life」と「Tree of Knowledge」というふうに翻訳されているやつですか。

大田:そうですね。それがグノーシスということなんですけれども、正統的なキリスト教では知識の木の実を食べることによって原罪を背負ってしまった、だから、必要以上に物事を知る、自己意識を得るっていうことは、人間にとって救済から離れてしまう原罪なんだっていう考え方があるんですけれども、最初期のグノーシス主義はむしろ積極的に知識を得ることによって人は救われる、そういう見解を唱えて異端視されたという(笑)。そういう宗教だった。

モーリー:なるほど。ぶっちゃけてしまうと、グノーシス派っていうのは、英語ではGnosticismになるやつでしたっけ?

大田:そうです。

モーリー:これは相当に神秘主義的な側面もあるということを聞いているんですけれども、単純にお勉強をずっとみんなでスカラーシップとしてやっているということよりも、もうちょっと宗派に熱があったのかな?

大田:そうですね。具体的にグノーシス主義は何を知るかというと、まさにエデンの園の木のように、善悪について人は知らなければならない。もっと具体的に言うと、善なる神様のほかに悪しき神様がいて、それをグノーシス主義は、世界を創造したヤハウェの本当の名前はヤルダバオートといって、偽りの神様で、聖書には善なる神様が発したメッセージと悪なる偽物の神様が発したメッセージっていうのが混在してパッチワークになっているので、聖書に記された善なる知識と悪なる知識をちゃんと判別して理解しなければならないっていうのが。非常に罰当たりというか、異端的な(笑)。

モーリー:すごい。その罰当たりな、結局、最終的な判別の鍵になるコンパスというか、これはやっぱり知性を超えたところにある、何か啓示が来るとか、そういう感じなんですか?

大田:はい。そういう傾向もありますね。特別な啓示を受けてグノーシスを得るというような、そういう宗教をもともと研究していました。

モーリー:すごい。

大田:はい。長くなってしまってすいません(笑)。

モーリー:1回グノーシス特集をやるしかないという印象もありますけれども。では、きょうの映画が非常に強烈な『ジーザス・キャンプ』という映画だったんですけれども、この映画をご覧になった感想をちょっと伺ってみたいと思います。アメリカ宗教史がご専門の森本先生に伺いますけれども、アメリカのキリスト教原理主義、ファンダメンタリズムは、この映画に描かれた以外に何かいろんな行動や主張をしているグループなんでしょうか?

森本:そうですよね。映画の中にも出てきましたけれど、例えば、同性愛に対する反対だとか、銃規制の話は出てこなかったかな。

モーリー:あまり出てこなかったと思います。

森本:例えば、オバマケアに対する反対だとか。

モーリー:医療保険ですね。

森本:医療保険とか、そういうものみんな、政府がやることに対する拒否感があるんですよね。

モーリー:小さな政府が好きで、ちょっとリバタリアンがかっている?

森本:そうですね。小さいというか、もともと政府なんかないほうがいいと思っている。

モーリー:アナーキズム?

森本:に近い、ほとんど。

モーリー:そうなんですね(笑)。

森本:とにかく大きな政府はダメ。小さな政府でも、連邦政府なんかとても嫌だし、自分の町の小さなシェリフがいてもいいけど、それ以外はいらんよって、そういう感じでしょうね。

モーリー:そのコミュニティーは、理想的には神に導かれて決定をする感じなんでしょうか?それとも、なんとなく小さなデモクラシーみたいなテンプレートとか、そういう感じなんですか?それとも、これは時代をさかのぼる動きなんでしょうか。政府は介入するなっていうのは。

森本:やっぱりアメリカって成り立ちからラディカルな人たちが集まってつくっていく国なんですね。アメリカって、建国のときにはジェファーソンだとか、ワシントンだとか、そういう人たちがいたでしょう。それよりも150年ぐらい前にピューリタンたちが来て始まったっていう、ピルグリムの話とかがありますよね。ピルグリムとか、ピューリタンというとすごく。

モーリー:清教徒。

森本:うん、清教徒で、ピュアで純粋でっていうふうに思いますけど。

モーリー:日本語に翻訳された途端、清いという漢字が入っているんで、清いからイギリスで迫害されたんだろうぐらいに思うんですけど(笑)。

森本:そうそう、迫害されてアメリカに来たでしょう。だけど、彼らよりももっとラディカルな人たちもいるんですよ。そういう人たちはどちらかというと、宗教改革が始まったときにずっと左派のほうで、宗教改革は左派とか、ラディカリストとかいわれている人たち、アナバプテストとか、再洗礼派といわれたんだけど。

モーリー:これはイギリスでそうだったんですか?それとも、アメリカに来たときからそうだった?

森本:イギリスっていうか、ヨーロッパ全体がそうでしたね。

モーリー:宗教改革でヨーロッパ全体が混乱に陥るわけですよね。

森本:そうそう。

モーリー:そのときに一番極端だった人たちが、あちこちアメリカに新天地を求め。

森本:やってきて、そればかりじゃないけど来て、そして、つくっていきますから。マジョリティに対する反発っていうか、こういう一般の人たちがいるとすると、必ずそこからはみ出てきて、自分たちのほうがより純粋なんだって。

モーリー:ピュア?

森本:純粋なんだっていう人たちがつくっていくんですよ。

モーリー:なるほど。そうすると、最初のスタート地点からして、ラディカル。

森本:ちょっとラディカル入ってますよね。

モーリー:なるほど。そういう宗派が、結構アメリカが合衆国になる前から、入植が始まったころから既にあったと。

森本:そうですね。

モーリー:なるほど。大田さん、この『ジーザス・キャンプ』をご覧になってどうでした?非常に宗教と政治が、不可分な世界観が描かれていたんですけれども(笑)。

大田:そうですね。僕が初めて『ジーザス・キャンプ』を見たのが、町山さんがMXテレビでこの番組を紹介されていたときなので、2009年ぐらい、かなり以前だったと思うんですけど。初めて見たときは非常に衝撃を受けたといいますか、いつもは本で、文章でしか知られていない南部のバイブル・ベルトと呼ばれるような人たちの実際の信仰のあり方ってこんな感じで、子どもがすごいトランス状態になって泣き叫んでいたりとか(笑)。ベッキーっていう名前でしたっけ?

モーリー:エリーゼになった女の子?

大田:女性のちょっと太った人が。

モーリー:ベッキー。

森本:主催者の人。

モーリー:ベッキー・フィッシャー?

大田:はい。怖いなとか(笑)。

モーリー:先ほど午後に1回、町山さんとここで事前解説の番組をやったんですけども、その中で、彼女は実は元々生まれはユダヤ教の家庭に生まれていて、ボーン・アゲインとしてユダヤ教からキリスト教に改宗して火がついている方だという背景を語っていただきました。

大田:そうなんですか。

モーリー:「キッズ・オン・ファイヤー」って言っていましたよね。

大田:そうですよね。

モーリー:火のついた子どもたち。

大田:神の戦士として育てるっていう、そういう方針ですよね。

モーリー:アラビア語で神の軍団って、ヒズボラなんですよね。神の党か(笑)。

大田:イスラム教徒たちがうらやましいみたいな話も出てきます。

モーリー:そうそう(笑)。マドラサっていうんでしたっけ?

森本:そうそう。

モーリー:パキスタンなんかにある、サウジから、湾岸からお金が回っていって、かなり純粋なワッハーブ派でしたっけ。

森本:宗教学校ですよね。

モーリー:イスラム教を子どもに教えている宗教学校、そこがうらやましいみたいな。

森本:言っていましたね。

大田:はい。

モーリー:だから結局、あれは、ああいうアメリカの中西部でマドラサみたいなことをやっているつもりなのかな(笑)。

森本:そうですね、「対抗する」と言っていましたからね。

モーリー:「競争しないとね」みたいな(笑)。ここまで我々は鼎談形式で和気あいあいと話をしてきたんですけども、もしかしたらご覧になっている方の中には、既についていけなくなっている、なんとなく「えっ、複雑。キリスト教よくわからない。どっちが神父でどっちが牧師なの?」などなど、キリスト教そのものへの疑問もたぶんこれからあがってくると思うんですね。そこで一つ、番組の冒頭なんですけれども、皆さんに向けてアンケートをやってみたいと思います。映画『ジーザス・キャンプ』で、キリスト教原理主義者たち、エヴァンジェリカルな人たちはダーウィンの進化論、中絶、同性愛を目の敵のように否定していましたけれども、ここで皆さんにお聞きしたいところです。「キリスト教原理主義者が進化論、中絶、同性愛をなぜ否定するのか」、3択でいきましょう。「十分説明できる」、「なんとなく分かる」、「全く分からない」。ここから選んでみてくださいというふうにしてアンケートを採っています。

森本:なるほど。

モーリー:双方向番組(笑)。では、答えを出しましょう。なんとなくわかる人が半分以上。これは結構リテラシーの高い皆さんかもしれないですね。

森本:すごいね。

モーリー:でも、「全くわからない」というのが3割、3分の1を超えているわ。だから、なんとなくわかる人は結構いる、十分説明できる人も。

森本:十分説明できる人が13%もいるの?すごいね(笑)。

モーリー:すごそう。これはもしかしたら、日ごろの大学の学生さんと比肩し得る論文を書いちゃうかも。

森本:すごいですね(笑)。僕なんか、あれを見てホラー映画かと思ったんだけど(笑)。

モーリー:あはは(笑)。なるほど。現在、キリスト教は世界で20億人が信じている宗教であると、これは正しい数字ですか?

森本:そうですね、3分の1ぐらい。

モーリー:カトリック、プロテスタントを合わせて。

森本:全部合わせてです。

モーリー:ですよね。ただ、日本人にはやっぱり根本的に馴染みがない人が多いという印象があります。これは何なんですか?キリスト教は確か、もう福沢諭吉の時代とかから入ってきていたんじゃないですか?

森本:もちろん入っているし、それから、中世というか、近世のイエズス会の宣教で織田信長の時代にはカトリックの信仰が入っていましたよね。あのころが日本のキリスト教人口って一番高かったんですよ。今よりも(笑)。

モーリー:やっぱり島原の乱?

森本:あのあたりですね。

モーリー:あのあたりでがつっと、あれから弾圧されて。

森本:廃れちゃった。そうですけどね。

モーリー:日本史の暗記クエスチョンで、僕も受験を日本でしたんですけど。

森本:そうですよね。

モーリー:そうなんですよ。それで、日本史を勉強したときに、バテレン追い払い令でしたっけ。みんな覚えているよね。僕は共通一次なんで(笑)。「正しい名称に丸をしろ」ぐらいでしたけど。だから、そういうふうに日本は一時期はもしかしたらフィリピンに比肩し得るぐらい。

森本:いや、そこまでいかないけど(笑)。

モーリー:いかなかった?いや、いきそうになる可能性はあったんでしょうか?

森本:なかったと思いますね。

モーリー:例えば、キリシタン大名とか、九州とか。

森本:でも、やっぱりそれは一部ですよ。3%とか、最大にいってもそのぐらいじゃないかな。1.5%、2%。

モーリー:なるほど。大田さん、今の日本社会でキリスト教が、私はアメリカ人ハーフで、アメリカも長い間住んでいるのでクリスチャンのカルチャーとか何でも知っているんですけれども、やっぱり日本に来ると、特にキリスト教に対して、撥水加工っていうんでしたっけ?水を弾くレインコートのように、キリスト教的な話題や概念に対して、つるんっていうぐらい上手に日本社会って弾くようなところを感じるんですけど。

大田:一般的な、学問的な理解だと、やっぱり世界中で近代化を進めていく際になんらかの形でキリスト教の影響を受けて、キリスト教信仰をテコにしながら西洋化、近代化を進めていくっていうのが世界のパターンなんですけど、なぜか日本は非常に奇妙な形で、ある種自力で近代化してしまって(笑)。特にキリスト教信仰を媒介にしてそれを達成するっていうのが、世界的に見ると例外的に行われなかったという。天皇制とか神道とかが非常に論理的に整備されていたというところもあるんだと思いますけどね。

モーリー:政治的に、例えば、国家神道なんていうキーワードもありましたけれども、廃仏毀釈みたいなものもあって、要は宗教と明治政府のナショナリズム、新しく日本国という国民国家の意識を列強に負けないようにつくろうとか、そういうプッシュが政府側であったときに、とばっちりで廃仏毀釈があったことは知っているんですけども、クリスチャニティは、その当時の明治政府とかはどうだったんですか?比較的積極的に取り入れようとか、それともやっぱり距離を置いていたんでしょうか?

大田:いや、どうでしょう、森本先生、ご存じですか?

森本:もちろん心配しながら。

モーリー:急にがっといくのが私の持ち味なんですけど(笑)。

森本:わかりました(笑)。いや、本当にそういうことはずっと考えながら、欧米でキリスト教が果たしている役割を、新しい明治政府がどこで使えるかっていうことを考えていたんですよ。そのままキリスト教を取り入れるわけにはいかないから、やっぱり和魂洋才っていう言葉であらわされるように、日本の魂でそれを換骨奪胎してやっていこうと。

モーリー:じゃあ、魂が和だったので、洋魂っていっていいのかな(笑)。要するに、和魂洋才の魂が和だから、洋魂にあたるのがキリスト教で。

森本:そうそう。「そんなものはいらないわ」と。

モーリー:「それはいらないです、どうぞ」ってパスしてしまって、「オランダ人のホテルかどこかへ泊まっててください」って感じ?

森本:入れておいて、出島のところへやっておいて、あとはもういらないわけ。

モーリー:どうしてそれができるんですか?

森本:でも、それはどうしてかっていうと、さっき大田先生がおっしゃりかけたけれど、やっぱり日本社会にある程度の成熟があったんですよ。だから、タイミングというか、さっき言った戦国時代にキリスト教がもっと増えていたら、それは日本の社会を造っていく上でずっと役に立ったかもしれない。でも、明治になってからでは、もう他の勢力のほうがしっかり基盤をつくっていて、それが社会の網目のようにでき上がっているから、そんなに新しい宗教はいらないんですよ。

モーリー:もう既に妥協案とも呼べるんですけども、神仏習合という形で、何層もレイヤーとして仏教の宗派であるとか、神道が。本地垂迹でしたっけ?

森本:そういうのもありますね。

モーリー:合体させて。仏教と神道の間の本地垂迹というのは、政治的な妥協だったんですか?教えを合体する根拠が僕にはわからないんですよ。

森本:すごく神学的な話ね。

モーリー:ごめんなさい、趣味的に言っちゃったけど、せっかくですから(笑)。

森本:びっくりした。

大田:もともと日本は仏教を取り入れるときも、ほかの国とは違った取り入れ方をしていて、世界宗教っていうのは、ある程度キリスト教でも仏教でも、民族宗教とか古代の民族国家を乗り越える形で普及していくっていうのが典型的なパターンなんですが。

モーリー:ヨーロッパにおけるペイガニズムを淘汰して、吸収しながらローマ教会が広がっていったっていうパターンとか。

大田:でも、ちょっと僕はその辺も専門ではないですが(笑)。日本はキリスト教のみならず仏教を取り入れる際にも、鎮護国家というか、国家とか天皇制というものがまずベースとしてあって、そのベースを補強するために仏教に関しても都合のいいところだけを取り入れていって。例えば、戒壇っていうのは。

モーリー:戒めの壇と書く?

大田:はい。新しく僧侶になる人たちに対して戒律を与えるっていう仏教独自の組織のはずなんですが、それを国立戒壇化して、戒壇も国家が運営するということで、そういう世界宗教の波に対して必ず国家が先手を打つというか(笑)、国家のベースを補強するために何度も何度も。

モーリー:吸収してしまうみたいな、ある意味分解して。

大田:はい。換骨奪胎してきたという(笑)。

モーリー:脱線質問をどうしても衝動的に、もう1個だけ森本さんにお聞きします。コンスタンティヌス帝の前のローマは。

森本:すごいところにきた(笑)。

モーリー:確かカルト扱いのカタコンベで逃げ回っていたキリスト教徒を、ネロなんかはライオンに食わせておもしろがっていたわけですよね。異端であり、要は帝政の不満に対するものに救いを求めた人たち、あるいは、貴族がたぶん入っていたと思うんですけども。確か僕の浅い知識で、うろ覚えで、もしかしたらWikipedia知識かもしれない、間違っているかもしれないけど、コンスタンティンのときに、「私はある日、急に空で何か見えた。はい、私、キリスト教。きょうから神が私に頼んで、私がキリスト教の。今まで弾圧していたけど改宗したんで、これからは国家として管理します」っていうようなことを言ったように覚えているんですけど。

森本:ちょっと似ています、大体そうですね。

モーリー:大体そんな感じ?つまり、国家としてっていうのも、そこに似ているような。

森本:そうですね。キリスト教は、実はここは大田先生も年代的にかなり詳しいところなんですよ。最初の、ネロとおっしゃったけど、1世紀じゃなくて2世紀ぐらいが一番迫害が激しかったんですけど、そのライオンに食わせたのがあったのは2世紀ぐらいですよね。ああいう200~300年の冷や飯食いの時代があったことは、キリスト教の発展にとってはとても大事だったんですよ。その後はおっしゃるとおり、コンスタンティヌス帝のキリスト教の容認から、それから、テオドシウスになるともっとそれが国教化していくわけですね。「いてもいいよ」っていうのと、今度「ローマ帝国全体がキリスト教でやっていくんだ」っていうのと、また段階が違うでしょう。だんだん進んでいくんだけど、その前にそういう暗黒の時代っていうかな(笑)、200~300年あった。これがあるかないかで宗教の性格がとても変わるんですよね。

モーリー:なるほど。

森本:今さっきみたいな、『ジーザス・キャンプ』みたいな、ああいうファンダメンタリズムができていく素地の1つは、アメリカはずっと負け知らずなんですよ。こういう冷や飯食いの時代があまりないの。そりゃ、ベトナム戦争は負けたよ。負けたけど、今のアメリカ人に聞くと、「えっ、ベトナム戦争は僕ら勝ったんじゃないの?」ってみんな大体言うんですよ。

モーリー:なるほど。それはFOXニュースを見ているから(笑)。

森本:そうかもしれないけどね(笑)。大体そうなんですよ。とにかく負けたっていう、冷や飯を食ったっていう経験があると人間は、この世の幸福だけがすべてじゃないんだなって、どうしてもあの世の話を考えるわけですよ。私の国はこの世の者ではないっていうふうにイエスが言ったことを大事に受けとめるようになる。でも、アメリカのキリスト教っていうのは、全部この世の話。「神様が祝福してくれたから商売が繁盛したんだ」と、それがこの本ですね、皆さん(笑)。

(つづく)

・[ニコニコニュース]「本当は知らない"キリスト教"と"アメリカ"」全文書き起こし(1)~(5)
http://search.nicovideo.jp/news/tag/20150918_本当は知らない"キリスト教"と"アメリカ"?sort=created_asc

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]本当は知らない"キリスト教"と"アメリカ" - 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv234564933?po=newsinfoseek&ref=news
・ニコニコドキュメンタリー - 公式サイト
http://documentary.nicovideo.jp/

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