ニコニコ生放送「メディアの公平性ってなんだ!?メディア帝王とジャーナリズム」(2015年9月19日放送)全文書き起こし(3)
ニコニコニュース / 2015年10月18日 12時20分
9月の「ニコニコドキュメンタリー」は、アメリカ在住の映画評論家・町山智浩氏が選んだ、超大国アメリカの裏側がわかる過激なドキュメンタリー作品を特集。その第2段「アウトフォックス〜イラク戦争を導いたプロパガンダTV〜」が2015年9月19日(土)20時から、ニコニコ生放送で配信されました。
本ニュースでは、生放送後におこなわれた作品をテーマにしたトーク番組の内容を、以下の通り全文書き起こして紹介します。
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※出演者=話者表記
モーリー・ロバートソン (ミュージシャン/ジャーナリスト)=モーリー
神保哲生 (ビデオジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表)=神保
永田浩三 (ジャーナリスト/武蔵大学教授)=永田
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神保:というのは、何かっていうと、1時間もたったからそろそろいいでしょうね。
モーリー:いいです、やってください(笑)。
神保:要するに、テレビなんてもうだれも見てないんですよ。要するに、そういうことなの。何を言っているかっていうと、結局、つまり、ほんとにテレビはついているだけのうちと、ほんとにもうご高齢の方で「テレビ以外のものはようみません」っていう方はまだ一定の数います。だけど、ものすごく多くの人が実はネットから情報を得るようになっている。それはもう間違いない。僕は『報道ステーション』で一時物議を醸した、古賀茂明さんが。
モーリー:「I AM NOT ABE」。
神保:うん。古賀茂明さんが、「I AM KOGA」の古賀さんが、僕がやっているビデオニュースの番組に来たときに話してくれたんだけど、古賀さんが早稲田でメディアの関係の学部で教えているんだって。
モーリー:今、一瞬「まずいんじゃないですか」って思ったんだけど、そういうことじゃないよね(笑)?
神保:全然、大丈夫です(笑)。僕はネット基準と放送基準は一応心得ている。ちょっと若干放送基準を心得ていなくて、最近あまり呼ばれなくなっているんですけどね。それで、早稲田の学部ですよ。古賀さんは当時毎週1回『報道ステーション』に出ていたわけ。当然自分のことをみんな知っていると思っていたわけですよ。知っているからみんなクラスをとっていると思ったわけ。まず「僕のことを知っている人?」ってクラスに40人ぐらいいるって言ったかな。2人ぐらいしかいない。まず「僕のことを知っている人?」って、得意げになって40人のうち38人くらい知っているだろうと思っていたわけ。
モーリー:逆だった。
神保:知らないと。「『報道ステーション』を見ている人?」って言うと、もうほんとにほとんど手が挙がらなくて、「じゃあ、テレビが家にある人?」って言うと、半分以下しか挙がらないんですよ。半分以下しかテレビが学生の家にはないわけ。
モーリー:端末で見たりはしないんですか?スマホで。
神保:要するに、「テレビを見ないで、なんで大丈夫なの?」っていうふうに聞くと、いろんな答えが返ってくるんだけど、1つは「もしテレビで話題になって見ていないとまずいものがあったら、どうせネットにあがるからいいや」って言うんですよね。ネットをちゃんとウォッチしていれば、テレビで押さえとかなきゃいけないようなものは一時的にはあがると。ただ、著作権の問題があって、後から削除要請とかがきて落ちるときがあるけど、直後には必ず一斉にあがるんですよね。
モーリー:朝の競り市みたいに、「今だったらマグロの一番いい部位を買えるぞ」みたいに、わーっていう。
神保:だから、それを見とけば、テレビを、それこそつまんないような、バランスをとったような。だって、永田さんが言ったけど、やっぱ今回の安保法制のNHKの報道を見ていて僕は気の毒だった。つまり、例えば、反対デモをやったらば、必ず賛成デモをやらないといけないと。でも、賛成デモは人があんま集まっていないんで引きの画を使えないんですよ。引きの画を使っちゃうと、「なんだ、これだけしかいないのか」ってわかっちゃうわけ。だから、なぜか賛成派のデモは全部比較的寄っている画なんですね。反対派のほうは寄っても引いてもたくさん、人がある程度いるから。NHKはそこまで苦労して。
モーリー:バランスを。
神保:バランスというか、要するに、政治から批判をされるような、政治に介入されるような余地をつくらないために苦労していて。僕はNHKを批判するというよりは、むしろ気の毒というか、そこまで無理矢理やらないと、両方やらないとNHKは今やばいというふうに彼らが思うとこまで来ているんだという意味では、僕はすごく気の毒だと思います。
モーリー:BBCが2000年代に英国政府とイラク報道のあり方について闘いましたよね。
永田:そうですね。だから、グレッグっていう、この間ワールドカップのところでも出てきた、あの人が会長をやっていたときに、やっぱりいろんな情報ソースのところでBBCに瑕疵があったことは確かなんですけれども、一旦イラク戦争の正当性、特に大量破壊兵器をサダム・フセインが隠し持っているっていうことについて、そういうことがないっていうことを一生懸命BBCは証明しようとして、その中で自殺者が出てしまったりということで、一旦BBCは傷つくんですけれども。ダイクは会長の職を追われるんですけども、それでも最終的にはBBCはちゃんと名誉ある放送を続けたし、イギリス政府のほうが間違っていたっていうことになって、イギリスの視聴者もBBCに軍配を上げるっていうとこになるわけですよね。一番根本のところは、BBCっていうのはイギリス政府もそうだし、王室に対してもやっぱりいけないものはいけないっていうことをちゃんと言うっていう、やっぱり権力の監視っていうことをやるのが公共放送なんだっていうことをやり続けているわけです。免許の更新っていうのはもちろんBBCにおいてもあって、つまり、どこからその免許状をもらうのかっていうと、王室からもらうわけですね。
モーリー:いいですね、おもしろい(笑)。
永田:うん、おもしろいんですよ。だから、労働党だろうが、保守党だろうが、政権からもらうっていうふうになると、公共性がやっぱり担保できない。つまり、まだ王室のほうがましでしょうっていうルールなんですよ。免許状っていうのはそもそもマグナカルタと同じで、そういう公共性のあるものを王室から付与されるっていうふうな、そういうルールですよね。
モーリー:じゃあ、こういうことですか。NHKがBBCばりに批判すべきはして、闘うときは安倍政権であれ、政権と闘うという体質改善というか、進化をしていれば、逆に、『報ステ』や東京新聞のようなところが無茶苦茶をやらなくて済むってことですか?
永田:と思います。だから、実は戦後の悔い改めてやり直したNHKが最大のお手本にしたのはBBCです。制度上も相当真似ているんですよ。だけど、例えば一番真似ているのは科学番組とか、いろんなドキュメンタリー番組のお手本はBBCであることはもう間違いないです。だけども、ニュースは全く真似ていない。それは政権の意向に逆らえないニュースっていうことは、ずっと続いているんじゃないですかね。唯一例外は、ロッキード事件報道ぐらいじゃないですかね。
神保:モーリーさん、そこは今まさに免許の話をされたけど、制度が、NHKがそのように完全に政治から自由でいられるような制度になっていないっていうところに問題があって、今の制度のもとでNHKに、ほんとに政府に問題があったら容赦なく言えるような体質を持てって、BBCのような体質を持てって言っても、要するに、もちろん予算と経営委員会っていうような人事が政府からきているってこともあるんだけど、何よりも放送免許っていうものが、これは今王室っていうふうに永田さんは言ったけど、実際は形の上では女王からもらっているんだけど、オフコムという、これは第三者機関なんですよ。つまり、政府の一部じゃないんです。アメリカもFCCという連邦通信委員会という、やはり第三者機関なんですよね。その第三者機関っていうものが、例えばアメリカの場合ははっきりと共和党政権のときは共和党寄りの人を大統領が選ぶし、民主党になったらまたそれをかえるしっていうふうになっているんで、逆に言うと、そこがすごくはっきりしているわけ。一方で、イギリスの場合はそのオフコムのような、いわゆる公職、日本でいうところの有識者会議とか審議会といわれるもの、審議会が政府寄りだったら意味ないじゃないですか、何のためにやっているんだと。だから、中立性をウォッチする公職、監視コミッショナー制度っていうのがかなり厳しいものがあって。
モーリー:監視する委員会をさらに監視している?
神保:そうそう。そこはほんとに社会から名誉ある地位を得ている人たちがほんとにいて、「だれだ、こいつら」みたいな、日本の審議会とは違うわけですよ。明らかに「そんなことを言ったら、この人は社会的地位を失うな」と。つまり、そういうほんとに良識、良心に沿った発言や行動をとっているから今の地位がある人たちって、日本にも多少はいるじゃないですか。その人たちがもしそこに入れば、財界の代表とかじゃないですよ。そういう人が入れば、その人たちがそんな偏ったような決定をすれば、その人たちはもうほんとに自分のここまで。
モーリー:社会から罰せられますよね、それだけ信任を得ているわけだから。
神保:罰せられる。地位を失うでしょう。だから、逆に言うと、そういう人たちを日本はもっとつくっていかなきゃいけないんだけど、そんな政党にすり寄ることによって影響力を持っている人たちばかりじゃなくて。むしろ、市民社会に対して有益なこと、公共的な、公益的なことをやったためにとても社会から尊敬されている人たちっていうのがたくさんいないといけないんだけど、そこがそういうコミッショナーになったりすれば、偏ったようなことをし、それをすごく厳しくやっぱり糾弾しなかったら「お前、何やっているんだ」ってことになるでしょう。放送免許は、実は日本も戦後直後、これはアメリカの政策展開も関係あるっちゃ関係あるんだけど、一時は独立行政委員会であるところの電波管理委員会っていう第三者機関をつくったんですよ。つくったのに、サンフランシスコ講和条約を結んで、施政権が吉田内閣に戻った。一番最初に通した法案の1つが、実は電波法の改正なんです。つまり、そこで政府から直接免許をあげるように変えちゃったの。1952年の7月、施政権が戻ったのは1952年の4月ですよ。要するに、放送免許というものを政府が直接あげる形に変えてしまったわけ。
モーリー:なぜですか?
神保:それはやっぱりGHQの下でメディアに独立性を持たせるようなことをしたんだけど、政府がそんなことをされると困るっていうこともあった。それから、これはいろいろ指摘されていることの1つだけども、その段階で既にアメリカは逆コースといわれるように、日本の左傾化を、ソ連のほうに行ってしまうかもしれないっていうことでむしろ嫌がるほうに回っていたので、逆にメディアに、そのようにほんとに独立したメディアが自由にやらせるっていうことをアメリカも嫌がっていたっていうようなことで、アメリカの意向も受けて、吉田政権が免許を政府から直に戻す。つまり、政府が電波に対して、放送に対して影響力を持てるわけですよ。それが今も続いているわけです。それを変えないと、放送免許を政府から直接付与する制度っていうのは、先進国では異常です。だって、放送局は政権をチェックしなきゃいけないんですよ。チェックするところから「免許をいただきます」ってやっていたら、話にならないじゃないですか。
モーリー:癒着が当然生じますよね。それで、永田さん、要はGHQから解放されて、放送法の揺り戻し改正があった。それからもう60年たっているわけですね。
永田:そうですね。
モーリー:そうすると、今の今、なぜニュースにおいてNHKはBBCのように政府とガチンコでやり合えないのかということで、内部からペレストロイカをやろうという気運が起こってもいいと思うんですけど、ちょっと見たところ、みんなじっと順応してしまい、もしかしたらこれ自体が利権なのかも、今がカンファタブルで、「NHKを変えなきゃ」みたいな声って、僕にはあまり聞こえてこないんですけど。
永田:ですね。だから、おとといとその前かな、NHKのニュースはひどいねっていうのを、組合の一部の主催で4回ほど集会をやっています。ただ、それはそんなに大きなものではなかった。だから、「こんなNHKでいいのか」っていう声がないわけではないんです。特に番組の中では非常にまともなものをやっている人たちっていて、そういう人たちがNHKの政治ニュースと一緒にしてほしくないっていうことがずっとあって。僕は『NHKスペシャル』とか『クローズアップ現代』とか、そういうのが長かったんですけれども、例えば『クローズアップ現代』っていうのは、私はディレクター、プロデューサーなんですけども、記者と一緒に日常的に番組をつくることがあるわけです。その中で、政治部の記者とやる場合に、非常にやっぱり不愉快な、屈辱的な体験っていうのはあるわけですよね。例えば、九州の諫早湾の干拓なんていうのは今も問題になっていますけれども、その干拓をやめるかやめないのかっていうときに、生態系を壊しているのかどうかっていうことをただ検証するっていう番組をつくろうとしても、それはつまり自民党が得するのか、民主党が得するのかっていう政局、つまり、政党の議席のことがつながって。
モーリー:当然影響しますよね。
永田:選挙に影響があるっていうふうに、政治部記者はすぐそっちに持っていくんですよ。そうすると、それはつまり自民党にたてつくような番組になるんじゃないかっていうので、お目付役の政治部記者が我々のところに入ってくるみたいな話に日常的になるわけです。
モーリー:中国みたいですね。
永田:そうそう。
神保:モーリーさん、NHKや、あるいは、民放でもそうなんだけど、なんで政治部の記者っていうのがそんなに社内で権力を、力を持っているって思います?
モーリー:なんでだろう。
神保:つまり、NHKは特にそうなんだけど、政治部の記者っていうのは政治家ともういろいろツーカーなわけですよ。そういう人が。
モーリー:一緒に食事に行ったり(笑)?
神保:食事なんてもんじゃない。
モーリー:食事なんてもんじゃないのね(笑)。
永田:例えば、昔で言えば、政治部記者は自民党の派閥事務所にいる時間のほうが長いわけです。
神保:長いです。そうすると、例えばNHKの場合は、そういう人が理事にいれば、まずは免許もそうだし、予算もそうだし、人事もそうだから、そういうところで政治家に、自分の政治部時代に培ったコネクションとか、かわいがってもらった関係とかがあれば、あんま無茶なことを言われないで済むとか、無茶なことを言う人がいたら別の人に言ってちょっとやめてもらうとか、いろいろと政治の影響力を行使できる。民放はNHKほど予算を握られているわけじゃないから、でも、やはり免許とかその他いろいろ、やっぱ政治との関係は免許事業で免許を政府からもらっている以上、大事なんです。そうすると、政治部は絶対にやっぱ経営陣の中に、政治部で政治家に顔が利く人たちっていうのはとても必要な人たちになっちゃう。だから、どうしても政治の影響を受けやすいような免許体系とかになっていることが問題だっていうことは明らかなんだけど(笑)。もう一つ、問題。テレビ局はさすがに自分のことはそう言いにくいですよ。「僕らは免許を政府からもらっているから言えないんで、早く免許制度を変えてくれ」っていうふうに『報道ステーション』が言うと、ほんとに電波を止められちゃうかもしれない。
モーリー:あはは(笑)。
神保:だったら、普通だったら、これはメディアのもう一個大きな問題ですよ。新聞社とかは免許じゃないんだから、テレビのその問題を言えよと思うじゃないですか。日本はそこがまた大きな欠陥がある。新聞とテレビが系列化されているので、新聞が完全に独立していないんです。テレビと新聞が全く独立していないんですね。テレビの利益をある程度新聞も考えなきゃいけないと、逆も考えなきゃいけない。これは新聞における再販っていう制度がなぜ今でも維持されているかっていうのは、テレビ局は本当は関係ないからどんどん言ったらいいのに。
モーリー:持ちつ持たれつ。
神保:だから、そこはやっぱり、それをクロスオーナーシップっていうんだけど、新聞とテレビが系列化してしまったがために、メディアの中における相互批判も起きにくいし、こっちに都合が悪いことをこっちはほんとは言えるはずなのに、系列化しているからこっちに。
モーリー:その不透明さと風通しの悪さを、堀江貴文さんがニッポン放送とフジテレビで言って、「私はこれをディレギュレーションします」みたいなノリだったんですけど、あれは何だったんですか?結局、力比べで堀江さんが負けたってことですか、それとも国民の理解が得られない?
神保:堀江さん自身に対しても、これは当たっている面と当たっていない面が両方あったかもしれないけど、今までの日本のビジネスの慣習からすると、かなり違った手法というのが、特に資金調達の方法なんていうのが違った方法をとっていたので、それに対して社会的な批判があったのは事実。ただ、彼の既存のメディアに対する批判は、ほぼ100%当たっているんですよ。問題は、その彼に対しても一部批判があったときに、「それはそうだな」と思う人があのときやはり社会に結構いたということが彼の弱点だったと思うのね。でも、そういう彼みたいな、今までの殻を破ったやり方をしてきたんじゃない人が、だって、メディアって批判するって大変なことなんですよ。メディアのことをこうやって平気で批判していると、まずメディアから呼ばれなくなるわけじゃないですか。もう正直言うけど、ものすごいちっちゃいけど、ビデオニュース・ドットコムって自分のメディアを持っているから、最低限そこから一応自分の言論を完全には封鎖されないんですね。そこはだれからも資本も受けていないし、広告もとっていないから、ちっちゃいなりにとにかく言える場所を1個持っているから、どんどん言おうと思っているわけです。でも、普通自分のメディアは持っていないですよ。例えば、せいぜいブログくらいしか持っていないですよ。やっぱりテレビに使ってもらう、それから、新聞に使ってもらう、雑誌でコラムを持たせてもらう、あるいは、テレビに出るから本が売れる、印税が入る、講演に呼ばれる。それが結局メディアっていうものが持っている1つの利権なわけですよね。それを丸々敵に回すようなことを、なんでだれがわざわざ言うんですかっていうことになるじゃないですか。そうすると、結局一番メディアの腐敗のコアな部分っていうのは、ほとんど実は世の中に膾炙していない、それが理解されていないっていう問題があるってことなんですよね。
モーリー:なるほど。永田さんもかつて自民党の政権時代にドキュメンタリーに対する抑止と闘った?
永田:闘ったっていうか、負けたっていうことですね。
モーリー:2008年に裁判で敗訴したんでしたっけ?バーネット。
永田:正確に言うと、2000年の12月に取材した番組が2001年の1月30日に放送予定だったわけですけれども。
モーリー:慰安婦にまつわるものでしたっけね。
永田:そうですね。日本軍の元慰安婦の被害女性が一堂に会して証言をして、当時の国際法に基づいて裁こうっていう民間法廷を取り上げたものです。この番組が放送前日に劇的に変わってしまったっていう事件ですね。私はそのときのプロデューサーだったわけです。そのときに、さっきの政治部記者の話で言えば、永田町に顔の利いたNHKの幹部が現総理、安倍晋三さんが当時内閣官房副長官です。
モーリー:副長官。
永田:はい。安倍さんは1993年に初めて当選して、当時当選3回か4回かそれぐらいのときだったと思います。そのまだ閣僚一歩手前ぐらいの安倍さんがいろいろNHKの番組に意見を言って、その意見を聞いてきたNHKの幹部が「あれを変えろ、これを変えろ」っていうふうに指示を出して。
モーリー:ごめんなさい。ここで1回、ちょっとポーズを入れたいんですけど、安倍さんが直接「番組をこういうふうにしろ」ということよりも、漠然と遺憾とか懸念を伝えたところ、そのNHK側の幹部が中に入って、その人の采配で「あれを変えろ、これを変えろ」となったから、もしかすると、その人が過剰に反応した可能性もある?
永田:あり得るんです。そこはブラックボックスなんですよ。
モーリー:ブラックボックスですよね。
永田:だから、外形的に、事実として言えることは、放送直前に安倍さんとそのNHK幹部が会ったということは確か。それから、安倍さんが「公正中立にやれ」っていうふうに言ったことも確かでしょう。安倍さんもそれを認めていますから。「お前、勘ぐれ」って言ったのも、たぶん言ったんだと思います。
モーリー:阿吽で、「何を言おうとしているかはわかるよね」と。
永田:そう、「私が言っていることは、つまり、何を意味しているかはお前、察しろ」と。
モーリー:つまり、「トーンダウンしなさいよ」と。たしかその戦争法廷は、私の記憶が正しければ、昭和天皇有罪みたいなことを、最終的に結論を出したんですよね。
永田:そうそう。だから、日本軍と日本政府と。
モーリー:一般の女性たちが集まった民間の団体が、恐れ多くも日本の天皇に対して勝手に「裕仁、有罪」って、「ちょっとこれは野放しにできないんじゃない、NHKで流すのは」ということを考える保守もいると思うんですが。
永田:それは、そういう考えを持つ人はいていいんですよ。いていいんですけれども、当然、つまり、昭和天皇は日本軍の最高責任者だったわけですから、日本軍が行った女性に対しての人権侵害を裁いているわけだから、普通ある会社で何か事件が起きたときに、社長の責任が問われるのは当然でしょう。だから、それと同じことですよ。つまり、日本軍の責任を問うっていうことは、天皇の責任を問うっていうこととイコールのことです。だから、法的には、別にそれはそんな過激なことではなくて、日本軍、日本政府の責任を問うた場合には、昭和天皇の責任も問うということだったわけです。
モーリー:なるほど、わかりました。結局、流れたものはどうだったんですか?かなり骨抜きされていたんですか?
永田:流れたものは、昭和天皇の責任を問うみたいなことは全くなくなりました。
モーリー:そこはカット?
永田:うん。それから、被害女性の証言も極力少なくなるっていうことで、何を一体取り上げた番組なのかがわからなくなったっていうぐらいのものですね。
モーリー:「昔、戦争があった」みたいな感じで?
永田:いや、そこまではないけど(笑)。
モーリー:そこまでじゃないけど(笑)。
永田:そこまではないけど、44分の番組ですよ。それがVTR素材は10分を切るっていう感じで紹介されたっていう。
モーリー:大幅な自粛ですよね。
永田:大幅というか、根本的な自粛ですね。
モーリー:根本的な、根底的に自粛した(笑)。それで、神保さん、そうするとNHKにおいてはこの駆け引きがわかるんですよ。僕からすると、当時も経緯を読んでいたので、産経の側から批判する記事もいっぱい読みましたから、両側から見ているんですけど、「北朝鮮から人が入ってきた」とか、「なんだ、これは」みたいなね。
永田:そうそう。だから、「北朝鮮のスパイが入ってきた」とか。
モーリー:そうそう、そういうのもあったし。
永田:私は偏向反日プロデューサーとか言われましたよ。
モーリー:あはは(笑)。そこで賛否両論が起きるのはわかるんですよ。これは僕にとっては透明。ところが、不透明になってくるのが民放なのね。つまり、スポンサーが入ってくると、今度はイデオロギーとか正義っていうこと以外に、スポンサーの意向っていうのがあって、FOXは資本主義に最適化することで、言ってみればイデオロギーがない人が資本主義の力学を最大限学習してマスターになったようなとこがあるわけ。そうすると、日本の民放っていうのは、FOX化する懸念はないんですか?
(つづく)
・[ニコニコニュース]「メディアの公平性ってなんだ!?メディア帝王とジャーナリズム」全文書き起こし(1)~(5)
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外部リンク
- ニコニコ生放送「本当は知らない"キリスト教"と"アメリカ"」(2015年9月18日放送)全文書き起こし(1)
- ニコニコ生放送「町山智浩×モーリー・ロバートソン『アメリカってヤバすぎ?超大国の裏側がわかるドキュメンタリー3選』」(2015年9月18日放送)全文書き起こし(1)
- ニコニコ生放送「メディアの公平性ってなんだ!?メディア帝王とジャーナリズム」(2015年9月19日放送)全文書き起こし(1)
- ニコニコ生放送「これでキマリ!世界のマリファナ事情~解禁の流れはどこへ向かう?~」(2015年9月20日放送)全文書き起こし(1)
- ニコニコ生放送「『世界から見た日韓問題』―タイズ・ザット・バインド エピソード2―」(2015年8月8日放送)全文書き起こし(1)
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