第1期 叡王戦本戦観戦記 山崎隆之八段 対 青嶋未来四段 (内田晶)
ニコニコニュース / 2015年10月22日 14時0分
■注目の開幕戦
優勝した棋士がコンピュータ将棋ソフト(以下・ソフト)と対戦することで大きな注目を集めている大型新棋戦「叡王戦」。段位予選を勝ち抜いた16人の棋士が出場する本戦が10月17日に開幕した。
まずは皮切りとなった山崎隆之八段-青嶋未来四段戦を紹介する。
将棋界に詳しくない方は「八段が四段に負けるわけがない」と思うことだろう。ところが、最近は一流棋士をも脅かすポテンシャルを持ち合わせている若手もいる。青嶋もそんな一人だ。何といっても1枠しかない四段予選を勝ち抜いてきた点は見逃せない。青嶋は「四段の代表として恥ずかしくない将棋を指したいと思っていました」と静かに闘志を燃やす。チェスを趣味とする優等生タイプの棋士である。
そんな青嶋を高く評価しているのが、対戦相手の山崎だ。「中、終盤がめちゃくちゃ強く、若手トップクラスの実力だと認識して対局に臨みました」と語ると「勝った将棋はもちろんのこと、彼は負けた将棋も強いんですよね」と続けた。トッププロを持ってしても、負けた将棋は精根が尽き果てて気力が萎えてしまい、好局にはなりにくいもの。最後の一手まで気持ちを切らさず将棋盤に向き合えるのが青嶋の強みでもある。
■痛恨の手拍子
振り駒で後手番となった青嶋が選んだ作戦は四間飛車穴熊だった。「せっかくですので一番得意にしていて愛着のある戦法で」と青嶋。アマチュアに人気のある作戦で、視聴者の歓声も大きかった。ところが、中盤で青嶋に大きなミスが出てしまう。
【第1図】http://p.news.nimg.jp/photo/385/1645385l.jpg
第1図がその場面。青嶋は△4五歩と角筋を通して、6六の銀に取りを掛けた。部分的には基本に忠実な一手である。しかし、本局は山崎が巧みな指し回しで優位を築いていく。
【第2図】http://p.news.nimg.jp/photo/386/1645386l.jpg
△4五歩以下、▲5七銀△7五歩▲同歩△6四銀▲6七金右△6三金▲2四歩△同歩に、▲7七角(第2図)と角をぶつけたのが相手の△4五歩を逆用した山崎の好手順だった。後手の3三角が盤上から消えれば、先手は▲2四飛と飛車を活用できる仕組みだ。
【第3図】http://p.news.nimg.jp/photo/387/1645387l.jpg
第2図以下、△4六歩▲同歩△4五歩▲3三角成△同桂▲5一角△4三飛に▲6六銀(第3図)と進み、先手の山崎が優勢になった。後手は序盤で8筋の歩を突いたのがマイナスに。△6一金と寄っても▲8四角成があるため、角を追うことができないのが痛い。
【A図】http://p.news.nimg.jp/photo/390/1645390l.jpg
第1図では△4五歩に代えて△8五歩▲7七角に△6四銀(A図)とすべきだった。
A図以下、▲2四歩△同歩▲3六歩△2二飛▲5五銀△同銀▲同角の順が検討された。山崎は「先手良しという人もいれば、後手を持ちたいと思う人もいそうですね。ここは評価が分かれるところでしょう」と解説する。第1図で△8五歩と突けば、優劣不明の戦いが続いたことだろう。
青嶋は「手拍子で△4五歩と突いてしまって......。対局中に後悔しました」と唇を噛む。本譜は攻撃目標にしていた角をさばかせてしまったのが誤算だった。青嶋は最善を求めて懸命に食らいつくものの、なかなか差は縮まらない。ソフトの形勢判断を表す評価値も、先手側の山崎に大きなプラスを示していた。
■武器がなくなった
20歳の青嶋は、4月にデビューしたばかりの新人棋士。ソフトにも興味を示す。「自分の指した将棋をコンピュータ将棋ソフトに解析させます。自分が見落としていた好手を発見してくれることもあり、それが自分の成長につながります」と青嶋は説明する。
対する山崎はデビュー17年目の34歳。盤上での活躍以外にも関西奨励会の幹事を務めるなど、後進の育成にも力を注ぐ。かつては若手の旗手といわれてきたが、後輩棋士が増えた現在では、すっかりと中堅の域に達した。
山崎将棋の魅力は序盤の独創性と中、終盤の力強さにある。定跡に頼らず独自の路線を突き進む山崎将棋は、コンピュータ将棋とは最も対極に位置すると筆者は思っていたのだが、本人曰く「ソフトの発展によって私の武器がなくなってしまった」としきりに嘆くのである。
山崎は「ソフトのほうが指し手の幅や自由度が広いと感じたのが意外でした。まさにその部分が私の持ち味でしたので。逆に人間のほうが長年に渡って築かれてきた定説の影響によって制約にとらわれてしまい、型にはまっている印象です」と説明する。ちなみに山崎は研究にソフトは使っていない。
■山崎が快勝で2回戦へ
【第4図】http://p.news.nimg.jp/photo/388/1645388l.jpg
第4図は終盤戦、後手が△8五角と打った場面。青嶋が飛車と桂の両取りを掛けて盛り返したと思われたのだが、山崎は手応えを感じていたのである。指をポキポキッと鳴らすと、自信満々に高い駒音を響かせた。
【第5図】http://p.news.nimg.jp/photo/389/1645389l.jpg
▲1一飛成と香を取り、△6七角成に▲6九香が馬と金を串刺しにする一連の好手順だった。続く△5六馬に▲5七歩が大事なところ。以下△4五馬▲6四香△7八金(△8九金までの詰めろ)に、▲5六金(第5図)と馬取りの先手ではじけるのが▲5七歩の効果である。第5図となり、後手の攻めが続かない格好になった。
この後は山崎が手堅くまとめ、快勝で2回戦進出を決めた。山崎は「途中で差が広がったのが幸いしましたね。2回戦も生き生きとした将棋を指したいと思います」と語った。
(内田晶)
◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]【将棋】第1期叡王戦 本戦 山崎隆之八段 vs 青嶋未来四段 - 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv237708592?po=newsinfoseek&ref=news
・将棋叡王戦 - 公式サイト
http://www.eiou.jp/
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