第1期 叡王戦本戦観戦記 宮田敦史六段 対 佐々木勇気五段 (松本哲平)
ニコニコニュース / 2015年10月29日 13時0分
■名門対決
窓から差し込む光がぼうっと盤を照らしている。秋らしいさわやかな青空が広がった10月24日、対局室では宮田敦史六段と佐々木勇気五段が黙々と駒を並べていた。
ふと目を落とすと、佐々木の手が小さく震えている。緊張のためかと思ってよく見れば、駒を置くときにこめた力が手に伝わっていたのだった。一方の宮田は、静かに淡々と手を動かしている。2人とも表情は険しい。
宮田は所司和晴七段門下、佐々木は石田和雄九段門下。どちらも多数の棋士を輩出している名門だ。過去の対戦は1局あり、佐々木が勝っている。さて本局はどうなるか。
■佐々木がリード
戦型は相掛かり。序盤の自由度が高く、それゆえ構想力を問われる難しい形だ。宮田は相手の出方をうかがいながらじっくり進める方針だったが、すばやく攻撃態勢を整えた佐々木がリードを奪った。
【第1図】http://p.news.nimg.jp/photo/552/1656552l.jpg
第1図はまだ陣形整備の途中に思えるところだが、ここではいきなり△6五歩▲同歩△5四香という攻めが成立していた。本譜はやや遅れて攻勢に入ったものの、厳しい攻めが続いて後手優勢である。だが、ここから宮田が力を見せた。
■宮田の勝負手
宮田といえば詰将棋に強いことで有名。読みの精度を武器にした踏み込みと切れ味が、宮田の最大の強みだ。
首をかしげながら打った▲5四桂(第2図)が強烈な勝負手。取れば▲7五角の王手飛車が待っている。
【第2図】http://p.news.nimg.jp/photo/553/1656553l.jpg
佐々木は第2図で△5二玉と応じたが、▲8五桂の追撃が入った。これも△同飛は▲9六角が痛烈だ。
第2図では怖くても△3一玉と逃げたほうがまさった。以下▲4二角△同金▲2二角成△同玉▲4二桂成△8九飛成▲7九歩△9六角(A図)は後手の勝ち筋。先手は合駒を使うと、後手玉への詰めろが消えてしまう。きわどい順だが、「読み切れば早かった」と佐々木は悔やんだ。
【A図】http://p.news.nimg.jp/photo/557/1656557l.jpg
■混戦に
宮田がぐっと首を伸ばして盤面をにらむ。佐々木は頬を紅潮させ、せわしく瞬きをしている。2人の様子を見て、勝負どころを迎えていることがピリピリと肌で感じられる。実際、宮田の追い上げに佐々木のミスが重なり、盤上の流れは混戦へと傾きつつあった。
【第3図】http://p.news.nimg.jp/photo/554/1656554l.jpg
第3図で佐々木は△9六角と王手で迫ったが、これが失着。第3図では△6八歩を利かすべきだった。先手がどう応じても、角を温存していることが大きい。本譜は打った角が働かないどころか、逆に狙われて負担になっている。結局、この角は取られてしまうのだが、これでは明らかに後手変調である。
■逆転のチャンス
佐々木がぼんやりと天井を見上げたり、うつむく場面が増えた。その表情には疲労の色がにじむ。「角を取られて、ひどいと思っていた」と佐々木。第4図を迎えて、ついに形勢逆転。宮田にチャンスが訪れていた。
【第4図】http://p.news.nimg.jp/photo/555/1656555l.jpg
第4図では▲6三歩成という明快な決め手があった。△同玉は▲4一角、△4一玉も▲5二銀△3一玉▲6四角で寄り筋に入る。
だが、宮田はこの順を逃してしまう。わずかな余裕を得た後手が息を吹き返した。ここから地道に竜を活用しての攻めが「これしかないと思った」(佐々木)という好判断。上が開けている先手玉だが、下から迫る形が思いのほか厳しい。
二転三転の激戦に、生放送ではコメントで悲鳴が飛び交った。佐々木が顔をパチンとたたいて気合を入れれば、宮田もドスンと突き刺すような手つきで敵陣に迫る。集中する2人の耳が紅く染まっていた。
■急転直下の幕切れ
【第5図】http://p.news.nimg.jp/photo/556/1656556l.jpg
秒読みの終盤、第5図で宮田は▲8六玉と早逃げしたが、これが敗着。△9七角と打たれて先手玉が寄り形になり、急転直下の終局となった。第5図では▲6六玉と逃げていれ
ば、先のわからない戦いが続いていた。
苦しい戦いを制した佐々木は、「優勢から押しきれない点が課題」と反省する。まだ荒削りな点は否めないが、それもまた魅力だ。「若手が頑張れば、トーナメントが面白くなる。若手の意地を見せたい」と佐々木。今後が楽しみである。
(松本哲平)
◇関連サイト
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http://live.nicovideo.jp/watch/lv237811449?po=newsinfoseek&ref=news
・将棋叡王戦 - 公式サイト
http://www.eiou.jp/
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