第1期 叡王戦本戦観戦記 高橋道雄九段 対 塚田泰明九段 (松本哲平)
ニコニコニュース / 2015年10月29日 13時0分
■花の55年組
将棋界には「花の55年組」という言葉がある。昭和55年度に四段昇段してプロになった棋士は、その多くがタイトルを獲得するなど早々に頭角を現した。こうした活躍があって、特別な呼び名が生まれたわけだ。10月24日に行われた本戦では、同じ55年組の高橋道雄九段と塚田泰明九段がぶつかった。
塚田によると、2人は研究会で盤を挟む間柄だという。「互いに手の内はわかっている。やりやすくもあるし、ある意味やりにくい」と塚田。高橋は「気心が知れていてやりやすくもあり、知りすぎていて少々のやりにくさもある」。2人には別々に話を聞いたのだが、同じ答えが返ってきたのには目を丸くしてしまった。
勝負を争う敵ではあるが、互いに力を認め、切磋琢磨しあう。そんな関係がうかがえる。
■古いようで新しい
塚田といえば、2013年に行われた第2回将棋電王戦での戦いが印象的だ。絶望的な局面から持将棋、引き分けに持ち込んだ一局だった。
いまはコンピュータ将棋とどう付き合っているのか。尋ねると、塚田は「研究で活用している。最終的に判断するのは自分だが、ソフトは有効。無視できない」と話す。一般的にコンピュータは「攻めたがり」の傾向があるとされる。攻めの棋風の塚田とは相性もいいのだろう。
【第1図】http://p.news.nimg.jp/photo/558/1656558l.jpg
戦型はがっちり組み合っての相矢倉。第1図は古いようで新しい形だ。後手は銀を攻めに使う姿勢だが、従来は△8五歩と飛車先を伸ばしてから銀の態度を明らかにしていた。それに比べると、本局は桂を△8五桂と跳ぶ余地が残っている。歩の位置ひとつの差だが、景色は大きく変わっているわけだ。
これまでの実戦例は第1図で▲4六銀と出ている。高橋は▲3五歩と動いた。「いままでなかったと思うので、やってみたくなった」という順である。
■スピード勝負
【第2図】http://p.news.nimg.jp/photo/559/1656559l.jpg
第2図は互いに歩を交換して、盤上で角がにらみ合ったところ。ここから双方が攻めの形を構築した結果が第3図だ。
【第3図】http://p.news.nimg.jp/photo/560/1656560l.jpg
塚田が狙っていたのは△7二飛と△8五桂の組み合わせ。飛車先保留の利点を生かして、7筋に効率よく戦力を集中させている。高橋の▲3七桂は攻め合う姿勢を示したもの。どちらがより厳しく敵陣に迫れるか、スピード勝負を挑んだわけだ。だが、ここからの塚田の反応が機敏だった。
■手筋の銀バック
攻め合いのレースで勝つには、自分が速く攻めるほかに、相手の攻めを妨害する方法がある。第3図から△4六角▲同歩△6九角▲4七角△同角成▲同銀△7五歩(第4図)がうまい手順だった。△6九角は手筋で、▲4七角と使わせて銀を後退させることができる。こうして先手の攻めを遅らせて、後手から先攻する流れができた。
【第4図】http://p.news.nimg.jp/photo/561/1656561l.jpg
先手も第4図で▲6一角と妨害に出る手段はあるが、以下△7一飛▲5二角成△5九角と桂を狙われてまずい。本譜の攻め合いは仕方のない流れだが......。
■1手足りない
華々しい斬り合いに突入する中、後手の攻めが玉頭を直撃して厳しい。先手も金銀をはがして追いすがったが、速度負けの線が次第にはっきりしてきた。
感想戦ではきわどい変化(A図※)も出たが、打ち歩詰めでギリギリ届かない。高橋は局後「1手足りないと思っていた」と話したが、その懸念がまさに的中する結果になった。
【A図】http://p.news.nimg.jp/photo/562/1656562l.jpg
(※......80手目△3三同金から、▲4三歩成△8六歩▲3三と△同銀▲2三飛成△同玉▲3五桂△同歩と進んだ局面。A図から▲2四歩△同玉▲2五歩△2三玉▲2四金△2二玉▲2三金打△3一玉と進むと、▲3二歩が打ち歩詰めになる)
■塚田が2回戦進出
【第5図】http://p.news.nimg.jp/photo/562/1656562l.jpg
第5図は大詰め。後手玉は受けなし、先手玉が詰むかどうかだ。ふと塚田を見ると、妙にそわそわしている。あとで聞けば、詰みは読みきれていなかったという。塚田は「詰んだのは幸運でした」と、ほっとした表情を見せた。
局後の検討では、先手にとって思わしい変化は見つからなかった。後日、高橋は「(第2図では)先に▲2六歩~▲2五歩だったかもしれない。このあたりは今後のちょっとした課題」と省みる。一局を振り返って、「準備不足を痛感した。▲3五歩の先の、明確なビジョンを立てていなかった」と語った。
塚田は薄氷を踏む思いをしたが、終わってみれば堂々たる一手勝ち。同世代対決を制して2回戦に駒を進めた。
(松本哲平)
◇関連サイト
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http://live.nicovideo.jp/watch/lv237812515?po=newsinfoseek&ref=news
・将棋叡王戦 - 公式サイト
http://www.eiou.jp/
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