第1期 叡王戦本戦観戦記 村山慈明七段 対 佐々木慎六段(君島俊介)

ニコニコニュース / 2015年11月2日 13時0分

第1図

■佐々木の天敵

 二人の対戦成績は村山の8戦全勝。これだけ偏るのも珍しい。佐々木の天敵といえる。対局を見ると、村山が少しずつリードを広げていることが多い。年上の佐々木は「村山さんは人柄的にはかわいい後輩だけど、痛いところで何回も負かされている。一番苦手な相手」と話すが、悲観はしていなかった。

 六段予選の準決勝と決勝で、過去に3戦3敗だった澤田真吾六段と2戦2敗だった永瀬拓矢六段の苦手だった二人を破って本戦入りしたからだ。「チャレンジャーとして臨めるのでプレッシャーはない」と語った。

 対局は10月27日の夜に行われた。東の空に満月が浮かんで、静かに対局を見守っているようだった。

【第1図】http://p.news.nimg.jp/photo/054/1662054l.jpg

 第1図まで進んで、佐々木がゴキゲン中飛車に村山の超速となった。二人の対戦では3回目となる。データを見ると、プロ間では居飛車側が勝ち越している。佐々木は本局の数日前に行われた▲杉本昌隆七段-△北浜健介八段戦(後手勝ち)で現れた指し方を用いた。村山もその将棋を念頭に置いて指し進める。

■佐々木の苦悩

 村山は深く研究していたわけではなかったが、▲杉本-△北浜戦よりも攻撃形の充実を急いだのが工夫だった。第2図で佐々木の手が止まる。時おり「いやぁ」とうめき声を上げて考え込む。

【第2図】http://p.news.nimg.jp/photo/055/1662055l.jpg

 △6五歩▲7七銀△5五歩と5筋の歩を突くつもりが、▲6八銀と中央を固めながら角を使われてしまうことに気づいた。先手が6九の金を6八へ動かしていれば、▲6八銀とできないので△6五歩から△5五歩としやすかったのだが。

 5筋の歩を突いていけないなら、ほかの駒を活用させたい。しかし、すぐ△4二銀は▲4五桂で参る。△4四歩から△4二銀とするのは、角筋が止まるのが不満なうえに▲2四歩△同歩▲2二歩(A図)の攻めもある。A図で△同角は▲3二飛成、△同金は▲3四歩だ。先手の飛車ににらまれて、後手は左銀を動かしにくいのだ。

【A図】http://p.news.nimg.jp/photo/059/1662059l.jpg

 第2図から佐々木は△9四歩に10分、次の△6五歩に5分、その次の△8五桂にまた5分使う。持ち時間の使い方に苦悩が現れていた。

■大局観

【第3図】http://p.news.nimg.jp/photo/056/1662056l.jpg

 △8五桂と跳ねた第3図。佐々木苦心の一手だった。▲8六銀なら△8八角成▲同玉△4四角と攻められる。先手の攻撃目標である角をさばけるのも大きい。

 とはいうものの、村山が銀を逃げずに▲6八金上としたのには驚かされた。駒損になって先手不利ではないのか。だが、表情は駒得した佐々木の方が厳しい。

 後日、村山が明快に解説してくれた。「極端だが、後手の左の金銀桂は働いていないので無視できる。そのうえで働いている金銀桂を数えると、銀桂交換になっても金銀はともに3枚ずつ、桂は3対0で先手に利があると考えた」と。これがプロの大局観。本局の場合、駒の損得より働きの差の方が大きかったのだ。

 本局の解説を務めた中田功七段は「私は中飛車を指すときに△3二金と指せなくて苦労しました。(師匠の)大山(康晴十五世名人)先生は必ず金を玉の近くへ使ったんですが、私はそうする前に戦って金が活用できなくなるんです」と自嘲気味に話していた。佐々木も3二金を働かせる前に戦いが始まってしまった。

■先手の理想的展開

 村山は今春の電王戦FINALでPonanzaと対戦した。「Ponanzaの強さを目の当たりにして、電王戦後は攻め将棋を意識した。アイデアも参考にしたこともある。ただ、何局か指してみて、そのアイデアを生かしきることが現時点の自分では難しいと感じるようになった。現在は参考にする程度。攻守のバランスを取った指し方をしているつもり」という。

 佐々木は将棋アプリでコンピュータ将棋と対戦することがある。「人間が指さない指し方をしてくるので面白い。自分なりに解釈して、似たような手を試すこともある」とのこと。

 記者からすると、コンピュータ将棋が示す手順は、登山でたとえると少し遠回りでも安全に尾根筋から山頂を目指すことができるところで、危険を顧みず「崖をよじ登ると早いですよ」といっているように感じられることがある。崖を登る技術を身に着けようと考えるかは人それぞれだろう。どういうスタンスであれ、最終的に盤上で対局者の価値観がぶつかり、火花が散る。

【第4図】http://p.news.nimg.jp/photo/057/1662057l.jpg

 銀桂交換以降、村山は佐々木の攻めに自然な指し手で応じた。第4図となり、先手は桂で銀を取り返せるようになった。後手は△5四飛と上部に利かしたいが、▲6六歩から銀桂を攻めに使われて苦しい。

 △5六歩はしかたない決戦策だった。飛車交換して佐々木はため息をつく。局面が激しくなるほど、村山がいうように後手は働いていない左の金銀桂が目立ってしまう。先手の理想的な展開になってしまった。

■村山快勝

【第5図】http://p.news.nimg.jp/photo/058/1662058l.jpg

 第5図は駒の損得がほとんどないのに、先手優勢がはっきりしている。後手は左の金銀を落として指しているのに等しいからで、プロ同士の対局で大きなハンデがあっては勝てない。佐々木は首を振り、歯を食いしばるしぐさを見せた。見た目にもつらそうだ。

 第5図では▲5五角と打てば分かりやすかったが、村山は▲2八角としたため△4四角から少し粘られた。ただし、大勢には影響はなく村山が後手玉を受けなしに追い込む。佐々木は、はっきりした声で「負けました」と告げて頭を下げた。そして、顔をしかめて天を仰いだ。大きな一番に敗れたこと、またしても天敵に屈したことへの歯がゆさがにじみ出たように感じられた。

 結局、後手の左の金銀桂は第2図から一度も動かずに終わった。局後の検討も第2図から第3図周辺に集中したが、後手は左の金銀の使い方が難しく、課題となった。

 勝った村山は「先崎九段も鈴木八段も負け越していて大変だが、力戦になりそうなので中終盤の精度を上げたい」と2回戦の抱負を語った。

(君島俊介)

◇関連サイト
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・将棋叡王戦 - 公式サイト
http://www.eiou.jp/

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