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第1期 叡王戦本戦観戦記 塚田泰明九段 対 山崎隆之八段(滝澤修司)

ニコニコニュース / 2015年11月10日 16時0分

第1図

■塚田の秘策

 叡王戦2回戦最初の戦いは、攻めっ気120%といわれる塚田と、形にとらわれない、力強い指し回しの山崎の激突だ。

 山崎がひときわ大きな声で「お願いします」と発し、対局の開始だ。第1図の△8五飛が塚田の用意していた引き場所。△8五飛を見て、山崎はときどき首をタテに振りながら、「そっか~、う~ん」などと言いながら、頬を人差し指と中指でペシペシとたたいている。

【第1図】http://p.news.nimg.jp/photo/294/1674294l.jpg

 本譜は△8五飛▲7七桂に△2五飛と大きく使う。局後に塚田は「秘策を用意してきたつもりだったんだけど、山崎くんの感覚は独特だからな」と話す。△2五飛と回った実戦例は少なく、力将棋になった。持ち時間がチェスクロック使用で1時間と決して長くはない。序盤で準備していた作戦をぶつければ、相手は時間を使ってくれ、戦いを優位に進めることができる。

■電王戦経験者ふたり

 本局のニコニコ生放送の解説は阿久津主税八段。電王戦FINALで大将を務め、ニコニコ生放送ユーザーにはおなじみだろう。電王戦FINALの打ち上げ後に塚田と阿久津八段と2次会に3人で行ったことを思い出した。阿久津八段が勝ったあとであり、塚田は自分のことのように喜び、おいしそうに飲んでいた。

 塚田も電王戦(第2回)に出場しており、『Puella α』と230手で持将棋の激闘を演じた。塚田が終盤、懸命に駒数を計算している姿は印象に残っている。駒を数えながらも指し手を読まなければいけないのだ。極限状態を体験したからこそ、阿久津八段の気持ちが痛いほど分かるのだろう。

■銀はいつ出る

【第2図】http://p.news.nimg.jp/photo/295/1674295l.jpg

 第2図の▲6八金が、山崎が「あまりよくなかった」と話した手だ。▲6八金から▲4八玉と自陣を引き締めたようでも、「たいして堅くなっていなかった。▲2六銀と駒を前に出すべきでした」と局後に振り返った。

 ▲6八金では▲2六銀△5五歩に▲3五銀の活用が検討され「こういう感じの方がよかった」と山崎。▲6八金△5五歩に▲8四歩が当初の山崎の予定。以下△同歩▲同飛に△5三金直と使われるのが損だと考え変更した。しかし予定変更では、本譜の順は失敗との旨を話していた。

【第3図】http://p.news.nimg.jp/photo/296/1674296l.jpg

 遅まきながら▲2六銀と出たのが第3図。山崎は「▲3九玉から▲2八玉と囲ったほうが、普通でよかったと思うのですが。ただ駒を前に出してね」と話し、駒を前に出すことを念頭に置いていたようで、▲2六銀と出て悔いはないという表情だった。

■大きかった取り込み

【第4図】http://p.news.nimg.jp/photo/297/1674297l.jpg

 ▲8五歩(第4図)の継ぎ歩に対して、△3七歩と迫ったのが疑問だった。△3七歩で山崎は△2八歩▲同金△6八銀と桂を取りにこられる手を気に掛けていた。後手は桂を持てば△3六桂が残る。

 山崎は△3七歩に▲同玉と取って「難しくなったと思った」と語る。山崎玉が三段目まで出てきて、危険なようだが、後手には二の矢がなかった。強く玉で取った山崎の好判断だ。▲3七同玉と取って、山崎は鋭い視線を盤上に向け、引き締まった表情を見せた。
△3七歩▲同玉△3三角に▲8四歩と取り込んだ第5図。「▲8四歩と取り込めて、面白くなった」と山崎は話す。

【第5図】http://p.news.nimg.jp/photo/298/1674298l.jpg

 阿久津八段にも感想戦後に話を聞くと「▲8四歩と取り込んだ貯金がね。潜在効果が大きいです」と述べた。

 ▲8四歩と取り込んだので、後手から△8八歩が飛んできた。▲同飛と取るのは△5五角▲同角に△5九角が痛打だが、山崎は▲4九飛と回る。▲6九飛は、△5五角▲同歩に△6八銀と捨てて、▲同飛△5九角の王手飛車があった。▲4九飛に△3六歩とたたいたのが、塚田にとっては痛恨だった。たたいたために▲4八玉と逃げられてしまった。ここでは先手に桂を持たれたときに備え、△7四歩と突いて、▲7五桂を消しておくべきだった。△7四歩以下は▲2八玉に△3六歩と垂らして、先手玉にプレッシャーを掛けておくのが有力だった。△7四歩に▲4八玉は△3四飛で「飛車の利きが直通していますから」と山崎。

■欲の出る場所へ

【第6図】http://p.news.nimg.jp/photo/299/1674299l.jpg

 優勢になった山崎は▲3二角(第6図)と打って飛車に照準を絞る。△2四飛ならば、山崎は▲3五銀と打つ予定だった。こうなれば上部が厚くなり先手が指せる。▲3二角で「優勢を意識しました」と山崎は感想戦後に話した。

 ▲3二角△2五桂以下、山崎は▲1四角成と飛車を奪って、堅実に寄せきった。

 山崎はベスト4に一番乗り。今後の抱負を聞くと「前回までは無欲だったのですが、本局から欲が出てきて、緊張しました。このあとも欲が出てしまうと思うので、どうしようかな」とにこやかに笑う。無欲の勝利から、意識の高まる場所へ。西の好漢は準決勝に向かう。

(滝澤修司)

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]【将棋】第1期叡王戦 本戦 塚田泰明九段 vs 山崎隆之八段 - 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv240028910?po=newsinfoseek&ref=news
・将棋叡王戦 - 公式サイト
http://www.eiou.jp/

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