第1期 叡王戦本戦観戦記 郷田真隆九段 対 阿部光瑠六段(君島俊介)
ニコニコニュース / 2015年11月16日 13時0分
■トップ棋士との連戦
1回戦で森内俊之九段に快勝した新鋭阿部。続いて郷田との対戦だ。トップ棋士との対戦が続く。
阿部はトップ棋士について「悪かったところをすぐに気づかれる感覚のよさや読みの深さを感じる」と見る。具体的には、森内九段が1回戦で飛車先の歩交換が甘かったとすぐ察知したことを挙げた。阿部は同様のことをコンピュータとしばらく指してから気づいたのだという。また、「悪い局面でのこらえ方がうまい」ともいった。それらは、同時に阿部自身の課題にもなろう。互角以上に渡り合えないと、上位にいけないしその地位を保てない。
実は、二人は研究会仲間でもある。郷田が2年くらい前に「それまで話したこともなかったけど、たまたま感じるものがあって、将棋指そうかって誘った」という。1カ月に1回程度で指しているそうだ。
■端の問題
対局は阿部得意の角換わり腰掛け銀に進んだ。最近は後手の対策として、本局のように9筋の歩を省略する指し方が増えている。1回戦の郷田-豊島将之七段戦や三浦弘行九段-行方尚史八段戦でも端の駆け引きがあった。
端をどうするかの問題は以前からあって、1994年に出版された島朗九段の名著『角換わり腰掛け銀研究』でも、端を工夫する指し方がページを設けられている。また、60年以上前の名人戦で後手が1筋の位を取らせる将棋も指されていた。定跡は歴史であり、歴史はらせん状に進んでいく。
郷田は9筋を突かない指し方について「以前から考えていて指したこともあるが、自信のない変化もあった。でも、他の人の将棋を見て、また自分も指す気になった。いろんな人がやると、自分が思いつかなかった手が出たり、もともと考えていた手でも深く掘り下げられるようになったりする」と話す。
一人の力で定跡を進めるのは難しい。集合知によって進んでいくことが多い。棋士の数が増えたり、研究会が増えたりすることで、定跡の進歩が早まっているし、コンピュータ将棋を取り入れることでさらに早まる可能性があるだろう。
【第1図】http://p.news.nimg.jp/photo/910/1682910l.jpg
第1図で阿部は▲4七金と上がった。先手では珍しい指し方だ。これを見て郷田は△9四歩と端歩を突く。駆け引きを経てから▲4五歩と阿部が突っかけて中盤戦に入った。
■新手筋
【第2図】http://p.news.nimg.jp/photo/911/1682911l.jpg
郷田が攻め合いに出た第2図。▲6八銀なら、△8六飛から後手の攻めが続く。阿部の▲6五同銀が好手だった。類例でも同じ指し方は見られないので新手筋といえる。銀を追い返して▲7四歩と反撃する。4筋にアヤがあるので反撃手段が多いのが先手のウリだ。「▲6五同銀と取る手が厳しいと思わなかった」と郷田。
■先手優勢に
【第3図】http://p.news.nimg.jp/photo/912/1682912l.jpg
第3図で郷田は△4六歩と突くか迷った。1▲4六同金なら、そこで△8一飛とすれば▲4五桂と跳ねにくい(△3七角がある)し、2▲8二とと飛車を取られても△4七歩成で△4一歩の底歩が利く。
△4六歩の善悪の判断は難しく、実戦は単に△8一飛と引いたが、▲7四角△4二金右▲4五桂△同銀▲6三角成という実戦の進行は先手よし。△4五同銀では△4四銀と我慢するところだった。
定跡が整備されていない形なので、第1図の▲4七金から第3図あたりの成否は今後の課題だ。
【第4図】http://p.news.nimg.jp/photo/913/1682913l.jpg
阿部の将棋は俊敏な攻めに特徴がある。本局もそれが現れた。取った飛車を打って、第4図で▲2四桂。教科書通りの攻めが厳しかった。「飛車を取られてもそこそこいけると思っていたんだけど...うまく攻められてしまった」と郷田。
■逆転
阿部絶好調の攻め。だが、将棋は勝ちきるのが大変なゲームだ。波乱が起きる。
【第5図】http://p.news.nimg.jp/photo/914/1682914l.jpg
第5図で阿部の予定は▲2三竜△同玉▲3五桂。しかし、△同馬▲同歩の局面で先手玉への頓死筋が読み切れず、秒読みの中でとっさに▲1一竜と予定変更した。「これは少しだけ逆転する可能性があると思った」と郷田。第5図では▲2三竜でも、▲3三成銀でも先手玉が詰まないので先手が勝っていた。「途中で時間を使いすぎました」と阿部は振り返っていた。
【第6図】http://p.news.nimg.jp/photo/915/1682915l.jpg
進んで第6図。ここでも阿部が勝勢だった。だが、▲2七香は手抜かり。△2五歩▲4三歩成△2八飛がいわゆる、詰めろ逃れの詰めろになって逆転。
第6図では、2七からもう一マス下に▲2八香とあえて馬の利きに打つのが好手だった。守りが離れるので△同馬とは取れない。▲2八香に△2五歩なら実戦の△2八飛がないので先手勝ちだ。「▲2七香はひどかったです」と阿部。
最後、詰まない後手玉に王手をかけるとき、阿部は自分の頬を何度かたたいた。会心譜となりそうな将棋を逃した無念さを感じた。
「阿部さんには残念でしたが、いろんな棋戦で活躍しそうな雰囲気が出ていますね」とニコ生解説の広瀬八段。来期の活躍を期待したい。
トップ棋士の強さは、90点の手を指すとそれ以上の点数の手ですかさず切り返してくるところにある。正確に読むという、将棋の基礎体力がずば抜けているのだ。40半ばに差し掛かった郷田だが、基礎体力は衰えない。終盤では観念していたが、息をひそめて逆転のチャンスを狙っていた。そして、相手のミスを逃さなかった。
郷田は「この将棋は負けだった。準決勝はいい将棋を指せるよう頑張りたい」と語った。
(君島俊介)
◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]【将棋】第1期叡王戦 本戦 郷田真隆九段 vs 阿部光瑠六段 - 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv240235080?po=newsinfoseek&ref=news
・将棋叡王戦 - 公式サイト
http://www.eiou.jp/
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