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明かされた「いい質問ですね」の秘密 池上彰×津田大介 in ニコファーレ 全文(後編)

ニコニコニュース / 2012年3月15日 1時58分

ジャーナリストの池上彰氏(左)と津田大介氏

 ジャーナリストの池上彰氏とメディア・アクティビストの津田大介氏が2012年3月10日夜、東京・六本木のライブハウス・ニコファーレで「情報で世界は変わるのか」をテーマに対談を行なった。後半では、わかりやすいニュース解説で定評がある池上氏が、会場の観客などから寄せられた質問に答えた。また、対談の終盤には、池上氏のお決まりのフレーズ「いい質問ですね」の秘密が本人から明かされる一幕もあった。

 以下、全文書き起こして紹介する。

・[ニコニコ生放送]全文書き起こし部分から視聴 - 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv82788026?po=newsinfoseek&ref=news#0:01:27
・池上彰×津田大介 in ニコファーレ 全文(前編)
http://news.nicovideo.jp/watch/nw215016

■「切実感があれば」情報で世界が変わる

津田: 今日は会場にお越しの皆さんから、事前にいただいた「情報で世界は変わるのか」ということに対してのアンケートがあって、それに対して池上さんの意見を伺いながらいきたいなと思います。

池上: どうぞ。

津田: ニコニコネーム「イケガミ」さんからです。

「どんな時代でも、情報によって人は動かされ、世界もそれに生じて変動してきていると思います。最近の有名どこで言えば、中東のFacebook革命しかり、一個人だってニコ生の配信でデビューを果せるなど、情報の使い方次第で世界を帰ることができていると思います。
しかし、『情報で世界を変える』、その事を意識して、普段情報を発信したり、触れているかといえば、私も含め、大部分の人が、そんなことはないと思います。ただ、なんとなく知識を蓄えたり、その場を楽しむためや、やり過すぐらいにしか考えていないと思います。
結果的に、世界が情報によって変わっていたというぐらいにしか、感じられないのではないでしょうか。情報自体で世界は変わると思いますが、それを駆使する私たち使い手には、情報で世界を変えることは、その意識が少ない分なかなか容易ではないと思っています」

という意見ですが、いかがですか?

池上: これはねぇ、モチベーションだと思いますよ。

津田: モチベーション?

池上: ええ。つまり、チュニジアにしても、リビアにしても、エジプトにしても、とにかく「変えないと未来がない」(いうように)、本当に切羽詰っていた。その時に、「情報を、どう出そうか」ということを考えるんですよ。

 その点、日本はいろんな問題はあるけど、目をつぶっていると、そこそこ快適に暮らせちゃったりするでしょ。いろんな問題はあるにしても。やはり、「切実感」がないと、「どうやって、情報で世の中を変えていこうか」ということに、なかなかならないだろうって思うんですよね。

津田: それは、でも、言葉を見ると、確かに3.11であれだけの人が情報を使って動き出し始めたっていうのは、まさに東北の地域では切実なことが沢山あったから、だから情報を発信し始めたし、繋がっていったというのはあるかもしれないですね。

池上: まさにそうだと思いますよ。そして、福島の原発事故が起きてくると、関東地方にしても、あるいは他の人たちにとっても、きわめて切実な自分の問題になってくると、必死になって情報を探したり、情報を発信したり、情報を拡散しようとしたわけでしょ。やはり、切実感があれば、情報で世の中を変えようという動きになっていくんだと思いますよ。

津田: 会場にイケガミさんがいたら、「切実さ」みたいな話を聞いてみたいと思うんですけど、イケガミさんいますか?あ、いた。ちょっとマイクを渡してもらってもいいですか。今、池上さんのコメントを聞いて、いかがでしたか?

イケガミ: そうですね、まさにモチベーションが低いだとか、切実感とかを持った状況にならないと、情報で世界を変えるということに繋がっていかないのかなとは思ったので、さっきみたいなことを書いたんですけど。でも、そういう状況に追い込まれないとダメなのかなって。

津田: ちなみに、年齢とかご職業とか聞いてもいいですか?

イケガミ: 23歳です。職業は、マスコミ関係を。

津田: お!マスコミ関係で働いていて、ある種、仕事として情報を発信する立場にいるわけです。情報を発信する立場における「切実さ」みたいなものって、まだまだ働き始めて時間が少ないんだと思うんですけど。

イケガミ: そうですね。僕も、何かを調べるとか、たまにTwitterやるとか、普通に「使う」レベルでしかネットをやっていなかったんですけど。実際に、こういう震災とかの話でボランティアとかいろいろなことが起きているというので、日本にも今そういう切実さとか出てきているのかなとは思います。

津田: そもそも、今のご職業は何で目指したのでしょうか?

イケガミ: 単純に、何かを見て、何かを自分で発信して、それで何か人が反応してくれるというのが、マスメディアにあるなと思ったのでやろうと思ったんですけど。

津田: 今の自分の日常的な仕事の中で、できていると思います?

イケガミ: まだこれからですね。まだまだです。

津田: いかがですか、池上さん。

池上: うーん・・・。やはり何か情報を伝えて、人がそれに反応してくれると、うれしいしね。それで人々が行動して、世の中少しでも良くなればいいなっていう思いは、あるわけだよね。だからこそ、こういう仕事を選んだんだろうと思うんだけど。そのときに「世の中の人がどう動いて、何がどうなれば自分にとっていいことなんだろうか」という問題意識を持っていくことも、とても大事だっていうふうに思います。

津田: 意識が少ないと、なかなか「情報で世界を変える」というのは難しい。普通にネットを使っているだけの人が多いというのは、僕もそうだと思うんですけど。でもそういう人たちに、これはソーシャルメディアをうまく使っている人もそうだろうし、マスコミもそうだと思うんですけど、「こういうことをすると、こういう情報発信をすると、このように世の中は変わりますよ」みたいなものを、ちゃんとわかりやすいパッケージで伝えることによって、「あ、意外とネットって役に立つじゃん」「ニコ動も捨てたもんじゃないじゃん」みたいなことを、偏見なく伝えることとで、少しずつ意識って変えていくことができるのかな、なんていうふうにも思うんですけど。

池上: 今の話を聞いて、ふと思い出したんです。こんな偉そうに言っているけど、私が23歳の時、やはり新人記者でいろいろ取材してニュースの原稿を書いていた。その時、ニュースバリューが分からなかったんですよ。

 つまり、「これは一体、どれだけのニュースなんだろうか」って。「交通事故で一人が亡くなった・・・。それが一体どれだけのニュースになるのか」とか。「火事でニワトリ小屋が焼けて、大勢のニワトリが焼け死んだ・・・。というのが一体どれだけのニュースなんだろうか」とかが分からなくてね。

 「何が情報なのか」ということに、実は悩んでいたんだなって、今にして見ると思うんですよ。だから表現は違うかもしれないけど、今のイケガミさんが言っているのと、私も実は同じだったのかなと、今になって見ると思うんですね。

 この後、いろんな情報を発信したときに、「こういう情報を発信すると、世の中の人がこういう反応をするんだ」っていうことが少しずつ見えてくると、どんな情報が力を持つのかということが、次第に分かってくるんじゃないかな。

津田: じゃあ、イケガミさんは今それをまさに学んでいる段階である、と。

池上: だと思いますよ。ただ、こういう問題意識を持っているということが、とっても大事だと思うんですよ。私が22、23の頃にそんな問題意識を全然持っていなかったなぁと・・・。

■わかりやすくニュースを解説する人は少ない!?

津田: ほめられましたね(笑)。それで、追加でちょっと質問したいのが・・・。

池上: どうぞ。

津田: ジャーナリストして、記者の立場で伝えてきて情報の重み付けとか、「こうすれば多くの人に伝わるんだ」というところを学んだ池上さんは、現在はフリーのジャーナリストとしていろいろな単行本とか、テレビで伝えています。

 池上さんのニュース解説って、分かりやすさが真骨頂と皆さんに言われているし、僕もそう思うんです。だけど、池上さん個人の価値判断とか、意見は敢えて伝えないようにして、ひたすら問題の噛み砕きっていうスタイルになっている。これは問題を噛み砕いて理解することが、モチベーションに繋がっていくっていう考え方があるのでしょうか?

池上:普通の新聞社もそうなんですけど、 NHKに入ると「とにかく自分の意見は出しちゃいけない」「客観報道に徹しなければいけない」って言われるんですよ。でも、実際にやってみれば、やはり自分の感情・思いがあって、「これをニュースで伝えよう」っていうのは自分の個人の感情はありますよね。

 ただ少なくとも、「自分の政治的な考え方とか、そういうものは一切出すな」と。ひたすら、自分を殺して、客観的に伝える。「視聴者が判断できる"材料"を提供すべきだ」と。「どっかのキャスターが偉そうに『これ、けしからんですよね!こうしなきゃいけないですよね!』って(コメントするが)それは言うな」と。それは、「視聴者が判断すればいいんだ」と。視聴者に判断する材料を提供すればいいということを、徹底的に叩き込まれたんですね。

 (NHKを)辞めたでしょ。辞めて、民放に出るつもりでNHKを辞めたわけじゃないんですが、辞めたら声がかかって、ちょっとコメンテーターで出ると。で、「これについて、池上さんはどう思いますか?」と聞かれると、ものすごく戸惑うわけですよ。今まで32年間の職業生活で「自分の意見は言うな」って徹底的に叩き込まれただけに、「うっ・・・」と詰まるわけです。

 何かを言ったところで、「所詮私がそんなことを言って、大した意見でないものを言って何になるんだ」っていう思いがあって。また、自分が何かを言ったことによって「世の中を動かそう」って言うのは、ものすごく不遜な態度だなって思ったんですよ。それは世の中の人たちが、みんなが考えるべきことで、私がいろいろ言ったことで世の中を動かそうっていうのは、とんでもない思い上がりだろうと。

 本当の民主主義というは、一人一人が判断をして、世の中を変えようとすることであって、誰かカリスマのリーダーが出てきて「ああやれ、こうやれ」ってやるべきではないだろうって考えた時に、私がやるべきことは、自分の意見を言うことではなくて、いろいろな人の意見を整理したり、あるいは「ここに問題点があるのか?」とか、そもそもその前に「これがどんなニュースか、みんな分からないで勝手な事を言っている」という部分があるわけでしょ。じゃあ、「そもそも、この話は何か?」っていうことを、まず、みんなに分かってもらって、その上でみんなが賛成か反対か、いろいろ判断してもらおう、と。

 私は、その役割に徹した方がいいんじゃないか。で、そういうことをやっている人が世の中にあんまりいないので、「これはニッチ(隙間産業)として食えていけるんじゃないか」

津田: ニッチだと思ったら、かなりそれがメジャーな存在になっていった、と。

池上: ニッチ産業だと思うんですけどねぇ。

津田: その話って、『伝える力2』でも書かれていた中で、原発報道に関して言うと、一般の市民の人たちが何に不安になるのかというと、「分からない」ということに不安になるっていうことなんですよね。だから、それを分からせるために、情報の整理というか、論点の整理みたいなものがすごく重要なものだと思う。

 去年の話題で言うと、TPP(環太平洋連携協定)の問題がありましたよね。TPPは21分野・24項目とかあって、それぞれによって、日本にとってメリットが大きい分野もあれば、デメリットが大きい分野もある。その24項目全部あって、それで全部見た上で、全部ある程度みんなが論点を理解した上で、トータルで見て日本にとっての国益はどうなのかっていうのが判断できなければいけないと思った。

 僕ずっと思っていたのは、TPPの問題がすっと紛糾しているときに、「この24項目を全部語ってくれる池上さんが24人いて、全部を連日特番で3時間ぐらいずつ、項目をやってくれるだけで、全然違ったのに」っていうのです。だからやはり、そういう意味での政策とか論点とかを解説できる人がいないでしょうし、ジャーナリストとは何なのかという職業の話にもなってくると思うんですけど。

 でも、ジャーナリストって客観・中立・公正だけに、分かりやすく噛み砕いたり、伝えるだけでいいのか。伝えた後、伝え方によって人々に動いてもらいたいために。多分、池上さんの情報発信も、最終的には「皆さんに考えてもらいたい」という思いがあるわけですよね。

池上: そうですよね。世の中やはり、いろいろな問題点があるわけだから、その問題点に気付いてもらって、そこをどう変えるかってことは、一人一人が考えてほしい。それは、結果的に世の中を良くすることであれば、私はとてもうれしいなということです。

 自分の理想を押し付けるつもりはまったくないし、「これが世の中の理想なんだ!ここに行けー!」みたいなことは、私はやるべきではない、と。

津田: 意地悪な質問になっちゃうかもしれないんですけど、「事実を提示すれば、分かるよね?」っていうような思いがあったりするのかなって思って。自分では価値判断はしないけれども、「こういう事実を挙げれば、もう答えは自ずと明らかじゃないですか?」っていうような・・・。

池上: ああ、そういうことってありますよね。

津田: ありますよね。そういう時でも、池上さんは「こうしたほうが良い」という言い方はしないんでしょうけど、事実だけをやるってことは・・・。

池上: 難しいですよね。その時に、それと同時に「でも、反対の考え方もあります。こういう考え方もありますよ」というのは、やはり一緒に提示しなければいけないのかなっていう思いはありますよね。よく「事実とは何か」「真実とは何か」という話はあるんですけど。私は、「真実とは何か」なんてことは、所詮人間には分からないんだろうと思うんです。

 「真実」は分からない。でも、そこにはいろいろな「事実」があるわけですよね。世の中に様々な事実があって、その総体として多分どこかに「真実」ってあるのかもしれないけど、人間はそんなこと分からない。その事実を1つ1つ集めてきて、自分なりに集めた物を、これを「真実だ」と言っている人がいるんじゃないかと思うんですよ。

 だから私は、「真実を伝える」っていう言葉は嫌いなんです。「私はそんなことできません」と。「事実を伝えます」と。でも、その時に、どの事実を選ぶかによって、そこで描かれるものって、違ってきますよね。そこがすごく怖い。

 そこに、やはり自分の主観は入ります。どうしてもね。何か言おうとすることに、自分の都合の良い論拠の事実だけを集めてきて構成することはできるわけですよね。それがとっても怖いです。

 自分は「何か間違ったり、歪んでしまったことをやっているんじゃないか」っていう恐れをいつも持っていて。もっとさらにいろいろな事実を知れば、「描いてきたものはまた違うのかもしれない」ということですよね。

■「早く私の出番がなくなる世の中になってほしい」

津田: 池上さんは経済問題から世界のいろんな問題、幅広くいろいろな問題を解説されているんですけど、自分の中で引っかかるものってあるんですか。すべての問題を追いかけ切れないとは思うんですけれども。

池上: できないですね。

津田: その中でも、自分の中で「これはちゃんと学んで、調べて、伝えよう」という「引っかかるもの」に法則性みたいなものってあるのかなって思って。

池上: 法則性はないですが、今まで自分がやってきた、あるいは、これからやりたいというジャンルで言えば、やはり今の世の中のことを、みんなに伝えたい。

 その時に、「今の世の中はどうなっているのか?」っていう形で政治の仕組みを解説したり、経済の仕組みを解説したりもあれば、そもそも「世の中がこんなふうになってきたよ」ってくる所以のところの現代史ですよね。ちょっと、その前に遡ってみれば、いろんなことが分かるという歴史を、若い人たちに伝えたい。

津田: 歴史から学んで「こういう選択肢があるから、それを君たちが選んでね」ってことですよね。

池上: そうですよね。だから、(2008年の)リーマン・ショックで「100年に一度の世界の大危機」と言われていたときに、「昔は恐慌って呼んでいたんだ。世界恐慌って呼んでいたんだよ」って。1929年(10月24日「暗黒の木曜日」)のニューヨークの株の暴落から始まって、世界不況になり、それがやがて戦争に繋がっていった。実は、1929年にニューヨークで株が暴落したからと言って、すぐ世界恐慌になってないんですよね。あの後の世界の対応が間違ったから、世界恐慌になっていったわけですよね。

 それを学べば、現代に対処法として参考になるんじゃないかとかですね。私はついつい、そういうふうに物事を考えちゃうんです。そして、それをやっていくうちに、そういう伝え方というコミュニケーション、あるいはわかりやすい説明法というのも、これは一つの仕事になるのかなと思いますけど。

津田: ちなみに、また全然違う質問なんですけど。池上さんは先ほど、自分のスタイルをニッチと仰いましたけど、若い人とかで「この人、自分と似た様なスタンスでやってるんじゃないか」「こいつは期待が持てるんじゃないか」という人は、誰かいます?

池上: すいません。そういうことをやろうという人がいないので、つい自分の意見を言っている人が(多い)。もちろん、それで良いわけですけれど。それをいけないとは全然思いませんけども。なので、とりあえず私がまだ仕事をやっていけるかなって。

津田: ワン・アンド・オンリー(唯一無二)な感じなんですね。

池上: 早く私の出番がなくなる世の中になってほしいって、本当に思いますよ。

■メディア・リテラシーをどう鍛えるか

津田: はい。ということで、次の質問にいきましょうか。ニコニコネーム「バンブー」さんです。

「ただ情報を与えられるだけでは、世の中は変わらないと思います。それを、精査・調査する能力(情報リテラシー)が人間に備わっていないと、デマで暴動や虐殺のようなことが起きると思います。今は情報が溢れている時代なので、情報リテラシーがある人をいかに増やすかが、今後の課題だと思います」

と。いかがですか?

池上: そういう意味と、デマとか暴動とかいうので言えば、例えば、かつてルワンダで、ツチ族とフツ族の虐殺の時に、あの時はラジオが「ツチ族がフツ族を襲っているぞ」というデマを流したことによって、フツ族によるツチ族大虐殺っていうのが起きましたよね。

 でも、その時に、例えばTwitterなり何なりがあって、「いや、そんなことはないんだぞ」とか、現地からの報告とか、そういうもっと多様な情報が入れば、そんなことがどこかで止まったんだろうって。

津田: 情報に多様性がないことが、そういうことを起こしてしまうってことで。その意味で言うと、バンブーさんの「デマが流れる」って言っても、打ち消すような譲歩経路があることで、対応もできていく可能性もあるってことですよね。

池上: ですよね。だから、(1923年9月1日の)関東大震災の時にもいろいろなデマが起きて、虐殺が起きました。

津田: 朝鮮人が、井戸に毒を入れたんじゃないかみたいなデマがありましたけど。

池上: そうすると、(当時は)すぐにそれを打ち消す情報って出なかったですよね。それはもう新聞社も被災してしまって新聞も出せない、ラジオもそこまでの情報が出せない中で、(デマが)拡がっていった。今ならそういうことはないですよね。

津田: ある意味で言うと、そういうソーシャルメディアみたいなものを評価するのであれば、そういうデマや暴動みたいなものが流れる温床でもあるけれども、それを唯一、打ち消せる手段の一つでもであるということ。

池上: そういうことですよね。だから、あの地震(東日本大震災)の後、東京の湾岸で工場が火災になって・・・。

津田: コスモ石油ですね。

池上: そのときに「危険な雨が降ります。気を付けてください」って、みんな善意から情報を拡散した。

津田: そうですね。チェーンメールとかでもいっぱい流れましたね。

池上: 結局、それがデマだったということになりますけれども、その後すぐ、それを否定するのもまた、流れました。

津田: そうですよね。翌日にはコスモ石油のページに「大丈夫です」って書いて、それがまたソース付きで流れていったのがありましたから。

池上: つまり、大きな災害なりがあると、みんなが不安になるから、デマって必ず起きるんですよ。ましてや、それがTwitterやネットの世界だと、前より非常に速く拡散する。しかし拡散するがゆえに、多くの人がそれを見て「あ、これはおかしい。そうじゃないよ」と打ち消すことができる。そういうところで、いわゆる『デマの拡散』とか『大虐殺』とかを止める"歯止めの役割"もまた、果たすんじゃないかと思います。

津田: ソーシャルメディアのネガティブな動員という意味で言うと、去年、イギリスの暴動とかありましたよね。ロンドンの暴動とか。あれもやはり、ソーシャルメディアで結構、呼び掛けられたりとかして、『Amazon(アマゾン)』でヌンチャクとかが、ものすごく売れたらしいんですよね(笑)。

池上: なるほど(笑)。

津田: だから、みんなネットで話題になって、ネットでそういう暴力のあれ(武器)を買って、やるんですけど。ただ、もうこれは酷いというんで、ソーシャルメディア、FacebookとかTwitterで呼び掛けられて、掃除していこうみたいな運動になったりがあるんで、そういう意味で言うと、デマに対する対抗措置として、ソーシャルメディアは重要な役割を・・・。

池上: つまり、解毒剤になるんだろうと思うんですね。

津田: なるほど。えっと、会場に「バンブー」さん、いらっしゃいますか?はい、ちょっとお話を伺っても大丈夫ですか。

バンブー: はい。

津田: 今の話を聞いていかがですか?

バンブー: そうですね。確かにそのように思いました。打ち消す力があるのは確かなんですけれど、そのタイミングが遅すぎたりとか、それを打ち消すものを見てくれる人が、やはりいないことには、それを広められなかったりとかいったこともあるので、やはり個々の人たちが、「デマなんだ」っていうことを判断させる力って言えばいいんですか、自分で「これが本当に正しいのかどうか」を調べる力って言えばいいんですか、そういったものを、個々の人たちが身に付ける必要があるのかな、というふうに思いました。

津田: だからデマが流れるといったときに、ああいう大きな震災みたいなものが起きると、そういう「デマが流れる」っていうことを、多分みんな頭の中に入っているだけで、だから、入ってきた強烈な情報は「嘘かもしれない」っていうふうに一呼吸置けるわけですよ。それを知っていることが情報リテラシーっていうことだと思う。

池上: まぁ、そういうことですよね。

津田: どうすれば、情報リテラシーを鍛えられるようになるんですかね?

池上: 実は、それが今の日本社会の課題で、小学校でも5年生以降、「情報」についてというところ(教育課程)があって、社会科でその「情報」についてやるんですね。あるいは国語でも、情報リテラシーの扱い方について、授業でやるようになっているんですよ。そういう問題意識があることは事実なんですけど、なかなか広がっていかない。

津田: これ、ネットの世界って難しいんですよね。「情報」とかって教科書を作っても、最新のTwitterとかFacebookの話って書けないですよね。なぜか言うと、作って、(教科書)検定があって、だいたい出るのに4年ぐらいかかっちゃうから、4年前に、こんなニコニコ生放送が伸びてくるかとか。もしかしたら、4年後にニコ生は潰れているかもしれないですしね(笑)。

池上: ははは(笑)。

津田: いや、そのくらいネットの世界というのは「速い」ので、多分、学校教育で教えるには、相当限界があると思うんですよ。

池上: 限界はあります。でも、私の小学校、中学校で、そんな授業ってそもそもなかったですから。「リテラシー」「情報リテラシー」「メディアリテラシー」なんて、言葉すらなかったですから。それで言うと、少しずつ動いているんだろうと思いますし、さっき津田さんが仰っていたように、「大きな災害が起きたときには、デマが付き物なんだ」っていうことを知っているだけで、実はずいぶん違う。

■『週刊こどもニュース』に鍛えられた"伝える能力"

津田: なるほど。「そういうようなことを少しずつ伝えていくことが大事だ」っていうことですかね。どうもありがとうございました。はい。ということでじゃあ、もう一つの質問にいきましょう。出してください。ニコニコネーム「DMRJP」さんです。

「情報で世界は変わるのか?私の考え方は否です。正確に言えば、情報だけで世界は変わらないということ。ただし、情報をインプットし、アウトプットできる熱意があれば、世界は変わると思います。『アラブの春』のように。いま私はiPadを購入したことで、様々な情報をいつでも手に入れられるようになりましたが、アウトプットができていない状態です。これは、やはりインプットしたものを自分なりに解釈できていない証なのかもしれません」

という、ちょっと悩みがあったんですけど、これはもう先に当ててしまいましょうか。「DMRJP」さんは今、会場にいらっしゃいますか?いたら、手を挙げて・・・いない。メールを送ったけれども今日は来なかった。このご意見に対してはいかがですか?

池上: まあ、それは当たり前ですよね。世の中を変えるのは人間ですから。情報だけで世界は変わらないっていうのは、まったく当たり前のことですよね。その情報で、どれだけ人が動かされるかっていうことなんだろうと思います。多分この人が言いたいことは、インプットとアウトプットのことなんだと思うんですよ。

津田: そうですね。

池上: 私もアウトプットをするようになって初めて、インプットがスムーズになったって思いがあるんですね。それは『週刊こどもニュース』をやるようになってから。とにかく、小学校高学年の子どもにもニュースを分ってもらえるようにならなければいけないと、こう考えるわけですよね。

 そのためには、「どうしたらいいだろうか?」って一生懸命考え、どういうアウトプットをすれば良いんだろうかっていう問題意識を持って、いろんなことを調べ始めて、初めてインプットがスムーズに入ってきたな、という思いがあるんですよ。

津田: なるほど。

池上: 最初から、何の目的意識もなく、ひたすら勉強してインプットしているだけだと、どうして良いか分からなくなる。

津田: それは、いわゆる社会部とかの記者時代で、ニュース原稿を書いて報道になっていく訳ですけども、あれはアウトプットではなかったってことなんですか?

池上: アウトプットですけど、あれはとりあえず取材したことをそのまま書く訳でしょう?それを、小学生に解るようにやろうなんて問題意識はまったく持ってなかった。

津田: じゃあ、まだ結構「生煮え」だったってことですか?

池上: 「生煮え」というより、ほかの新聞社が知らないこと・特ダネで書くってことをひたすら考えていましたから。民放や新聞社が大慌てをして、私の書いた記事を追いかけてくるのを見ると、快感だったわけですね。相当、性格悪かったと思うんですけど。ひたすらそれを追っかけ回していましたから。

津田: そういう意味で言うと、『週刊こどもニュース』っていうのは、まったく違ったわけですよね。

池上: そうなんですよ。

津田: 『伝える力』でもよく書かれていますけど、「子どもは、自分たちがまったく気付かないような視点からの疑問を投げかけて、それが自分の中での新しい「気付き」になる」っていう話があったと思うんですけど。

池上: そこは本当に愕然としましたよね。これまで自分は何をやっていたんだろう、と。本当に独りよがりに「みんなが分かるだろう」と勝手に思い込んで、みんなが分からないことを伝えていたんだなという。これは衝撃でしたよね。

津田: だから、「豊後水道の『水道』って何?」っていう話が(笑)。「なんで、水道がないのに『水道』なの?」みたいな話とかありましたよね。それも、調べてみると、意外な事実がどんどん発覚していくみたいなね。だからそれが、ある意味、ジャーナリストの原点とかだったりもするのかもしれないですけれど。その中でアウトプットってをする上で、さっきの方にアドバイスするとしたら何ですかね?

池上: それは、やはりモチベーションになるわけですよ。誰かに何か伝えたいことがあるんでしょ?それを伝えてごらんなさい。伝えてみようとすると結局、きっと上手くいかないよね。「どうして上手くいかないんだろう?」考えてごらん。多分そこですよ。

津田: これ、情報発信が独りよがりにならないための工夫というか、一番心がけておいたほうが良いのっていうのは何ですか?

池上: それは、具体的に相手が目の前にいるかどうか、いなかったらそれをイメージできるかどうかですよね。私の場合は、幸いなことに目の前に小学生がいて、その子たちが「分からない」と言ったら、お終いだから、分かるようにするにはどうだろうと考える訳でしょ。そういう人がいればいいわけですけど、いない場合は、バーチャルな存在を作っていくわけですよ。

 だから私の場合は、11年間(『週刊こどもニュース』で)徹底的に鍛えられたことによって、今は、何か伝えようとするときに、頭の中にもう一人の自分がいて、「お前そんな言い方じゃ分かんない。小学生に分かんないよ」ってツッコミを入れてくれるんですよ。

津田: なるほど。

池上: だから、「おっと、これじゃあダメだよね。じゃあ、どういう言い方にしようか」って常に考えるわけですよね。例えば身近なところで言えば、みなさん方が、お爺ちゃんやお婆ちゃんに、この話をどうやって伝えよう、と。

津田: そうですよね。

池上: 『ニコニコ動画』っていうのを、ネットを使ったことのない田舎のお爺ちゃんやお婆ちゃんに、どうやって説明すればいいんだろう、と。

津田: そうですよね。だから、若い人とかだったら、家でたまたま両親とテレビで一緒にニュースを見ていたときに、「小沢一郎さんが『ニコニコ生放送』で会見していました」ってなったときに、「じゃあその『ニコニコ』って何なの?」って聞かれて、ちゃんと分かりやすく納得して説明できるかっていうのが、いい訓練かもしれないですね。

池上: そのときに、ふと「ああ、それはインターネットで動画が出て、いろんな書き込みがあるんだよ」って言うだけだと、多分、聞いた人が何のことだか分からないんですよ。『ニコニコ動画』って、そもそもどんなものなのか、どういう影響力を持っているのかってことを本当の意味で知っていないと、一言で、お爺ちゃんやお婆ちゃんに説明できないんですよ。そこで初めて、自分のインプットが不十分だったなってことに気が付くんですよ。

津田: それが不十分だったら、それを調べていけばいいと。

池上: そうです。そこではじめて、インプットが非常に効率的になるわけです。

津田: なるほど。アウトプットで「これをやんなきゃいけない」っていうのが先にできた後に、そこに足りないものを探していくっていう方が、よりインプットとアウトプットが結び付きやすくなっていく感じがします。

池上: そうですね。大学生が卒業論文を書くときに、なかなか「書けない、書けない」っていうときに、よく先生が「何でも良いから、まず書き出してごらん」っていうアドバイスをすることがあります。ひたすらインプットして、頭の中で組み立てるんだけども、どうしても書けない。書き出してみると「あ、足りないな」ってことが次々に分かってくる。そこだと思いますよね。

津田: なるほど。コメントだと「そういう使い方みたいのが、いま記者クラブの記者に足りないものなんじゃないか」という辛辣なコメントがありましたけども。

池上: いや、本当にそうですよ。

■ソーシャルメディアで読み解く「橋下現象」

津田: やはり、そこに伝えていこうっていう意識でしょうね。はい。ちょっと、メールが今来ました。ちょっと読ませてください。ニコニコネーム「たいぞう」さん。

「『情報で世界は変わるのか?』。答えは、『情報で世界は変わっているのだ』と思います。『アラブの春』に象徴されるように、ソーシャルネットワークが国家を動かしました。その動きが現在も進行中です。また、同時進行的にアメリカではウォール街占拠が起こりました。この運動は、現在は下火になっていますが、選挙を控えたアメリカの政策に何らかの影響を与えたということになるんではないでしょうか?
そして、日本では現在、世間を騒がせている橋下大阪市長率いる『大阪維新の会』の台頭があります。私個人は、維新の会には賛成できないのですが、しかし、10年前だったら、一地域政党が府議会の過半数を獲って、そして国政へ乗り出していくという、そんな形なんかは考えられませんでした。橋下市長のTwitterはたいへん人気があると聞きます。
やはり、ここでもソーシャルメディアの影響が寡聞に感じられるのです。情報で世界は変わっています。そして、これからも変わっていくことになるでんしょう。だからこそ、私たち一人ひとりが、情報に踊らされないことが重要になると思います」

という意見でしたけれども。これはいかがですか?

池上: 「大阪維新の会」が全国的に伝えられて、あるいは橋下市長のTwitterが大勢の人に読まれるという形で、影響力が出てくるのは、明らかにそれですよね。

津田: なるほど。ちなみに橋下市長が今やられているのには、どういう・・・。まぁ、ご意見を伺ってもしょうがないんでしょうけれども。

池上: はい、意見は言いませんけども。

津田: 橋下市長が受け入れられているのは、どういう背景があると?

池上: 彼がやっていることは非常に計算し尽くされていると思います。弁護士ですから、法律の知識はあるわけでしょう。だから、例えば、その教育(基本)条例ね。あるいは、その職員の処分の問題についても、「どこまでできるのか」「どこまでやったら問題か」ってことは、彼は知っているわけですよ。法律の専門家で。

 みんなが大騒ぎをすることをまず敢えて出して。事実、「とんでもない人権侵害だ」とか大騒ぎになったでしょう。今あちこちいろいろ、微妙に修正しているでしょう。落とし所を探って、本来、落とし所のところに入れていくわけですよ。

 でも、最初に衝撃を与えたことによって、大きく変わっているでしょ。だから今は「大阪市交通局の運転手の給料が高すぎる」「4割削減しろ」という言い方で、まず出して・・・。

津田: まず注目させるために、敢えてそういう、ビーンボール(危険球)に近いものを投げて、それで調整しているってことなんですかね。

池上: これはあくまで仮定の話なんですけど、例えば運転手の給料・年収を「2割下げろ」って言って、なかなか2割下げられないでしょう。「4割下げろ」って言っといて、最終的に2割(削減)になったら、「落ち着くところに落ち着いたかな」「大阪市長もあんまり無理なことは言わないんだよね」って、みんなが受け止めてくれることによって動いていくでしょう。

津田: そういうのは交渉術ですよね。

池上: そういうものは非常に長けているな、と。そういう「突破力」っていうのは、今の日本に、大きく足りないところではありますし、(橋下市長には)「スピード感」がありますでしょ。政治に「スピード感」がないというときに、次々にやっていくっていうところで、みんながそれに期待するってことは、あるんだろうと思います。

津田: そういう意味で言うと、現状の政治、特に東日本大震災以降の政治に対する、失望、反動みたいなところが橋下さんに人気に繋がっている部分もあるのかもしれない。

池上: そうだと思いますよ。

■自然と「入ってくる」情報が重要

津田: なるほど。はい、次の質問です。ニコニコネーム「ギル」さん。

「情報によって世界を変えることができなくても、一人ひとりの社会や政治、被災地や各地の地域と情報に対応して、様々のものに対する意識に変化を与えることができると思います。ただ、意識に変化が起きたことが、そのまま人の行動へとすぐに影響するとは必ずしも言えないので、やはり、世界の変化には、もう一つ何かしらの外的チカラが必要となるかもしれないと思います。
そこでご質問です。現在の高校生や大学生が目指すべき、情報と上手く向き合える人間、そこに向かうに当たって、いま自分ができることについて、意見が聞きたいです」

ということなんですが。

池上: 「自分で考えろ」って言いたくなりますね。

津田: おっとー!まさか(笑)。

池上: 「甘えるなよ!」って話ですよね。

津田: まぁ、そうですよね。でも「自分で考える」っていうことが、やはりメディア・リテラシーを鍛える第一歩ではあるんでしょうけどね。

池上: そういう問題意識があることがとっても大事なことだと思うんですけど、「情報と上手く付き合える人間」なんて、そんな人います?

津田: そりゃそうですよね。みんなできませんよね。

池上: できませんよ。私だって、いつも試行錯誤、大失敗ばかり繰り返しているわけで、そんな「こうすればできる」なんて答えは多分ないだろう、と。それぞれ一人ひとりが、それを考えていくことが大事なんですよ。

津田: なるほど。

池上: そういう意味では、この人に敢えてアドバイスするとすれば、いろんな情報を、とにかく付き合って見てみましょう、と。自分の賛成意見だけではなくて、自分が読んでいて不愉快な意見とか、自分の考え方に違うものも含めて読んで、そこで初めて、自分なりの考え方ができてくるんだろうって思うんですね。

 例えばインターネットの世界で言いますと、福島の原発の事故以降、例えば放射能がとっても危険だと思っている人がネットで調べれば、いくらでも危険だって話が出てくるでしょ。

津田: そうですね。

池上: 「ほら、やはりとっても危険だ」ってことになる。その一方で、「いや、たいしたことないよ」って思っている人が、その問題意識で調べると「いや、騒ぎすぎだよ、たいしたことないよ」ってのが、これまた山のように集まるんですよ。

津田: そうですよね。

池上: 結果的にどんどん分かれていってしまう。津田さんが本の中で「誤配」、(情報の)配達が間違える形で、ほかのことが入って来ることによって、「違う視点」が入ること。これ、とても大事なことだと思うんですよね。

津田: これ、そういう意味で言うと、『ニコファーレ』とか『ニコニコ動画』っていうのは、結構ひどい意見があるんです。でも、一つの話をしているときに、自分と近い意見も出れば、そうじゃない意見、または、それとは違うまったく意見みたいな、これって、ものすごい勢いで出てくるんですけど、こういう番組とか情報環境は、池上さんはどう思います?処理できますかね。

池上: とても処理しきれないですね。処理し切れないけど、自分が処理し切れる限りにおいて、とりあえずチェックしてみるってことですよね。人間、所詮24時間。その上、頭がハッキリしている時間って、そう何時間もある訳じゃないですから、とても処理なんてし切れないですよね。

 でも、自分が調べたいことだけ能動的に調べていくというのではない、入ってくることが大事だと思うんですよ。それを、津田さんは"誤配"と言い、私は"ノイズ"と言っているわけですけども。

津田: なるほど。

池上: 例えば、私は新聞がなぜ良いかと言うと、自分が読みたいものだけ探していくと、その横に、全然違う話が出ているわけですよ。

津田: それが結構面白かったりしますよね。

池上: それが面白いんですよ。「えー、そんなことがあるのか」って知ること。これが大事なんだな、と。

津田: それは、だから本屋とか行ってもそうですよね。それこそ池上さんの本を買おうと思って、本屋さんに行ったら・・・。

池上: 津田さんの本があった、と。

津田: いやいやいや(笑)。でも、お隣に面白そうな本があって、一緒に買っちゃおう、みたいなね。結局、そっちの方が面白かったってことが結構あったりして・・・。

池上: 津田さんの本の方が面白かったと。こう言っているわけですね。

津田: いえいえ、そんなことないですけど。あ、すごい。11歳の人からメールが来ました。ニコニコネーム「さくら」さんですね。

「情報で世界は変わらないと思います。『小学生が分かる、分からない』は、まず大人が正しい情報を分かっているかが問題じゃないですか?まず近所で確かめ合い、そして協力して情報を集めればいいんだと思います」

という、素朴な意見が来ましたけれども。

池上: その通りです。大人が分かっていないくせに、と

津田: そうですよね。分かったふりをして、僕らどうしても語ってしまうところがありますからね。

池上: その「実は分かっていないんじゃないか」っていう恐れを持つってことですよ。

■言論の自由とネットの規制

津田: なるほど。ということで、今日は池上さんと生のディスカッションができるということで、池上さんが思わず「いい質問ですね!」と言っちゃうような質問も、同時に募集しました。まずはその質問見ていきましょうか?こちらになります。

「違法アップロードが多かった『Megaupload』。アメリカ司法省と連邦捜査局(FBI)によって閉鎖。秩序をもたらすものだと思う反面。私達のインターネットにアクセスする権利や表現もいつか制約されるのではないか危惧しています。インターネットの規制と権利をどのように両立させていくのが良いかお聞かせ下さい」

 池上さんへの質問ですね。

池上: うわぁ、何これ(笑)。

津田: 違法アップロードが多かった「Megaupload」というのが・・・。これ、インターネット界隈の質問ですね。アメリカ司法省と連邦捜査局(FBI)によって閉鎖されました。これ、ネット上にいろんなファイルをアップロードして誰でもダウンロードできるようになるっていうサービスで。

池上: あ、はいはい。

津田: これがFBIとかによって閉鎖させられちゃったんですね。「秩序をもたらすものだと思う反面、私たちのインターネットにアクセスする権利や表現もいつか制約されるのではないか危惧もしています。インターネットの規制と権利をどのように両立させていくかお聞かせ下さい」。これ、「WikiLeaks(ウィキリークス)」の問題と近いと思うんですよね。

 ウィキリークスも一時期、あのペンタゴン(米国防総省)が、ウィキリークスにとにかくアクセスさせないために、ネットのDNSっていう繋ぐサービスに圧力をかけて、「wikileaks.org」っていうのを打っても、(そのページに)いけないようにするみたいなことをやられていましたけど。

 ネットって、どうしても自由に表現できるし、言論の自由っていうのも与えてくれるし、それが結果「アラブの春」みたいなのももたらすけれども、なんならデマも流れるし、誹謗中傷みたいな個人攻撃にも使われる。その規制と自由のバランスってどの辺りになるのか。

池上: これは、ずっと永遠の課題であり、だから、かつては、活字媒体でも(規制が)あったわけでしょ。『四畳半襖の下張』(永井荷風の小説)とか、猥褻(わいせつ)かどうかの取締りがあったり。東京都の青少年育成条例のようなものであったりしますよね。

 要するに、「これは青少年にとって有害な情報である、いわゆる有害な写真である」と規制をする一方で、「それは言論表現に対する弾圧じゃないか」っていうのが、ずっときましたよね。それがインターネットの場でも同じことが起きているんだろうという、とりあえず歴史的な位置づけをつい解説してしまった上で言えば。

 だから、違法アップロードで言えば、これは法律違反ですから取り締るのは当たり前ということですよね。でも、そもそもウィキリークスに接続できないようにするっていうのはやりすぎだ、と。そこまでやってしまったら、中国とまったく同じですよね。

津田: そうですよね。だから今、去年の年末なんかは、アメリカ政府が自由にどこまで接続していいかみたいなことを政府の判断でできるような「SOPA」って法案がすごく話題になって。

池上: そうですよね。

津田: まあ、いろんな名だたるIT起業が反対して、結果ペンディング(先送り)になりましたけども。政府っていうのは、そういうものを規制したがる方向に行ってしまうんでしょうね。

池上: そのときに、総元締めを止めてしまおうというのは、とっても恐ろしいこと。出てきたものに関しては、法律違反であれば取り締まればいい、ということ。この大原則を踏まえた上で、個々に判断していくしかないんだろうと思うんですよ。中国に行くと、中国のインターネットで「民主」とか「法輪功」とかキーワードを探ると、ものの見事に繋がらないですね。

津田: だから、Twitterとかね。だから向こうだと、「Weibo(微博)」っていうTwitterに似たようなサービスがありましたけれど、中国(政府)がNGワードみたいなのを全部作って、それでフィルタリングしているみたいですね。

池上: やはりここまで行ってしまうと、もうダメだと思いますからね。

津田: そこは、まだまだここから。たぶん数年で結論が出る話じゃないですよね。

池上: 出ることないと思いますよ。

津田: ある意味、永遠に、規制と権利っていうのはバランスでってことなんでしょうけど。でも一点。別に僕、マスコミを特別扱いするわけじゃないんですけども、それなりの企業がやって、それなりに統制が取れているプロのマスコミと、いわゆる何でもありのインターネット。ここで基準は変えられるべき、変わってくるもんだと思います?

池上: どういうことですか?

津田: インターネットでやれる表現っていうのは、個人でもできてしまいますから、マスコミとかでやれることと規制のレベルを変えるべきじゃないかなっていう議論もあると思うんですよね。

池上: ああ。それはそもそも言論、表現の自由に反しますよね。そもそも平等なんですから。みんな平等に表現する権利が与えられているわけですから。

津田: ただ、テレビの場合、放送法っていうのがあって、放送法で縛りもあるじゃないですか?

池上: ありますよね。

津田: 縛りがあるからゆえに、報道番組を作らなきゃいけない。公共の電波を使っているがゆえに、ある程度公共的な役割を、NHKにしたってそういうものがあると。その代わりいろんな特権が認められているというところがあるんですけれど。インターネットはある意味、そこの縛りからも自由であるっていう。

池上: 縛りからは自由ですけど、法治国家の中でやっている以上、名誉毀損であったり、著作権法違反であったり、威力業務妨害であったりっていう法律に違反すればこれは取り締まられるわけですよね。

津田: でも、ある意味で言うと、その辺りが法律の枠組みの中で自由を担保するしかないってことですよね。

池上: そうだろうと思いますよ。

津田: なるほど。

池上: また逆に「こういうことやると捕まるんだな」ってことを学びながらやってほしいと思いますけどね。

■津田大介は「ネットの池上彰」を目指している!?

津田: なるほど。もう一つ、会場に来ている人からの質問ですね。ニコニコネーム「しの」さん。

「ネットの世界では匿名では話せても普段の実生活ではなかなかそれをできない、しない人が多いです。これ日本の大きな特徴でもあるかも知れないですけれど。つまり言い方を変えると、日本ではネットや言論セミナーなどの場では白熱しても電車に乗って、家に帰って寝て、翌朝また務め先のデスクに座ると、普段の自分になってしまうケースが多いと思います」

 うーん。これ大きな問題かもしれないですね。気持ちは持ち続けても、表に現れる行動としてはそうなっちゃうんじゃないか、と。

「津田さんもいろいろメディアを立ち上げようと準備されているようですが、その手法をネットだけの内輪向けでなく、普段の実生活に結びつけられる行動のヒントがあれば教えていただきたいです」

池上: おー、これは津田さんへの質問ですね。

津田: そうですね。僕もちょっと予想してなかったんですけど。

池上:政治メディアを立ち上げるとかなんとか言っているじゃないですか。

津田: でも僕は、だから池上さんがやられているようなことをネットでやりたいんですよ。ネットで政策のいろんな論点を洗い出して、「こんな意見があります。あなたはどう選択するのかっていうのを考えて下さい」と。例えば「反対したい人はこの議員に電話しましょう」とか。「賛成したい人は、ここにお金を振り込むと、そういうものをちゃんとやっている団体に行きますよ」とか。そういう道筋をつけてあげたいんですよ。

池上: なるほど。

津田: でもテレビって解説で終わっちゃうじゃないですか。新聞とか読んでも憤ったり、もしくは感動して終わるってときに、憤った後とかに具体的な行動の指針にボタンを押せば繋がるっていうのがネットのいいところなんで。そんなことをやらせてもらえるメディアを作りたいですね。

池上: なるほど。ネットの池上彰を目指そうという話ですね。

津田: ははは(笑)。いやいや全然、池上さんの足元にも及ばないですけれど。

池上: 分かりやすく説明してしまえばそういうことですね。

津田: そうなんですかね(笑)。どうですか。そういうニッチなところに、もしかしたらおいしいのがあるんじゃないかと思うんですけども。

池上: いや、その問題意識よく分かるわけ。新聞読んでいても「政策」の報道じゃなくて「政局」の報道ばっかり。

津田: そうですよね。「小沢(一郎)詣をしたか、しないか」なんてどうでもいいじゃないですか。

池上: そう。

津田: あれを、なんとかできないのかなっていうのはあって。それを現実に結びつけるっていうときに、僕がここ1年ぐらい考えていたのは、誰かが感動してネットを使って、例えばこういうことをやって動き始めたことによって「こう変わりました」っていうのも見えるようになってきたと思うんですよね。

 「なるほど。この人がこんなことをした。それによって、例えば石巻の人たちにはこんなことが起きている」みたいなところが見えると、自分が行動したことに対して多分リターンが見えやすくなると思うんですよ。

 今まで、若い層が政治に無関心になっているのって、「どうせ投票行っても何も変わらないんだよ」っていうところ、「諦め」みたいのがあったじゃないですか。でも、別に政治って投票行かなくても変わるし、自分が行動したことによって「あ、ここの人達がこんなに助かったんだ」ってことがすごく分かりやすくなってきているんで。

 そこをもっと見えやすくして、かつ、こういう手段で、「ワンクリックで手伝えるんだよ」みたいな、そういうような情報提供の仕方ができないのかなっていうのを今考えている。

池上: 同じですよね。だから今の小沢の話で言えば、民主党の中で小沢派が集まって、とにかく「消費税の増税には反対する勢力だって集会を開いた」とか「小沢が誰かに言った」とか。そういうことはいつも出るんですけれど、「じゃあ、なぜ反対なのか?」「消費税の値上げに、なぜ反対なのか?」ってちゃんと解説がないでしょう?

津田: そうなんですよね。

池上: 次の総選挙で怖いだけなのか。いやいや、今のような、こんなデフレの中で増税をしたら経済がよくならないっていう、ちゃんとした理屈があるのか。もし、そうであれば、いつ、じゃあどうすればいいのか。日本の財政について、どう思っているのか。彼らは何を思っているのか。分からないですよね。

津田: しかも、僕らテレビでその報道を見ていても、別に消費税賛成でも反対でもいいんですよ。増税に。でも例えば反対の人だったら、どうすればそれを止めることができるのかっていう、そこの道筋が、やはり今まったく分かっていないですよ。

 それは、ネットですべてできるとは思っていないですけれど、でもなんかしら、それこそ「アラブの春」で起きたようなきっかけみたいなものは、作れないかなって思うし。そういう空気をマスメディアも取り込んで来るようになると、ちょっとずつ日本も変わっていくのかなって思っているんですけれどね。

池上: つまり「アラブの春」のように、まずはネットが火をつけて、それに既成のメディアが加わることによって、世の中が大きく動いたと、そういう形にしていこうと。

■「わかりやすく説明するやり方が分かると、うれしい」

津田: うーん。でもあんまり今、日本の新聞・テレビにも期待はできないので。後は、やはり先ほど池上さんが仰っていた通りに、日本っていうのは空気、「けしからん罪」があるみたいな。すごく海外とは違う、なんかちゃんと現実の社会の感情とかも。あれですよね。理屈だけで世の中変わるわけじゃないじゃないですか。

 やはり、人間って感情の生き物だし、その感情にもうまく配慮した中で、日本ならではの、そういう変える方法論を探さなきゃいけないんだろうなってのは感じますね。すみません。あと、まだもう一つ(質問が)ありますね。ニコニコネーム「猫目」さん。

「インターネットの普及によって情報に触れる機会がとても増え、情報を選択する機会も非常に多くなりました。池上さんや津田大介さんが発信した情報だから、価値のある情報だと考える人も多いと思います。自身が情報発信することによって、情報に価値が発生したと意識したことはありますか?また意識するとしたら、どのような時に意識しますか?」

という、これはなかなかちょっと難しい質問ですね。

池上: 難しいですけどね。

津田: やはりありますよね。いわゆる「影響力」って話でしょうね。

池上: あるいは、私が書いた本が売れたってことは、「ああ、情報に価値が発生したんだ」ってことですよね。

津田: なるほど。『伝える力』が140万部ぐらいでしたっけ。

池上: 167万部ですね。

津田: あ、すごい。ちゃんと正確に把握されているんですね(笑)

池上: え、あの。その度ごとに出版社から連絡が来ますんで。

津田: 167万部の大ベストセラーになったことによって、池上さんの意識は変わられたことは?

池上: 何にも変わりません。

津田: それは変わらないですか?

池上: ええ。

津田: それはどうしてですか?

池上: だって自分は変わってない。ここにいる自分は何年も前も、今も。何にも変わりませんから。

津田: なんか自分がそれで、やりやすくなったところとかあったりしますか?

池上: いや、やりやすいどころかやりにくいですよね。街を歩きにくくなった。

津田: あ(笑)。

池上: つい数日前も、花粉症ですからマスクをして、本屋さんで本を探していたんですよ。そしたら横にスゥーっと来て、「あの、ちょっといいでしょうか?」、「なんですか?」、「僕、今転職活動をしているんですが、どうやって情報を集めたらいいでしょうか?」って。

津田: ははは(笑)。

池上: 最近あちこちで人生相談を受けるんです。

津田: なるほど。

池上: タクシーに乗ると、タクシーの運転手さんのいろんな質問に、ずっとひたすら解説し続けるんですね(笑)。

津田: ははは(笑)。

池上: ずっと解説し続けているんです。降りる時には、こちらで料金払うわけなんです。
津田: そうですよね。それ払ってほしいですよね。タクシー代ぐらいね。

池上: 「せめてこれ、チャラにしろよ」って言いたくなっちゃうんですが(笑)。とにかく、いいことないですよ。

津田: そうなんですね。それでも情報を発信し続けるっていうのは、どこにモチベーションがあるんですか?

池上: やはり、誰だってそうでしょ。珍しい話があれば、「ねえねえ、知ってる?こんな話がある」ってやるじゃないですか。

津田: それがどんどん大きくなって、ってことなんでしょうかね。

池上: それが「こんな話があるんだ」ってことをもちろん伝えるだけではなくて、私の場合「みんな、この話は難しくて分からないと思っていたでしょ?でも実はこうなんだよ」って。分かりやすく説明するやり方が分かると、うれしくなって言いたくなるわけですよ。

 だから、「AIJ投資顧問」のニュースの「厚生年金の代行部分」が分かっちゃうと、「厚生年金基金の代行部分ってなんだと思う?」みたいなことをつい説明したくなっちゃう。

津田: それによって、みんな説明された人がすごく納得してくれる、と。そこがうれしさを感じるってことですか?

池上: すごく教えたがりなだけだと思いますよ。

津田: なるほど。でも、昔は教えたがりじゃなかったんですよね。

池上: どうですかねえ。

津田: やはり『週刊こどもニュース』の経験が大きかったんでしょうね。

池上: まあ、そうなんでしょうけどね。

津田: なるほど。メールが着ています。

「池上さん否定になるかも知れませんが、分かりやすく情報を噛み砕いて発信することは受信側に知識を充填させるものの、理解力を下げてしまうことに繋がりうるのではないかと思いましたつまり、消化しやすい食物・消化しやすい情報ばかり与えるスタンスというのは、それは問題なんじゃないですか?」

っていう。

池上: まったく仰る通りです。

津田: おおっと。

池上: そりゃそうですよ。当たり前じゃないですか(笑)。

津田: というと?

池上: だから、そこで「私から早く卒業しなさいよ」って話ですよ。

津田: おー、なるほど。でも確かに「入り口」ですものね。

池上: ええ、単なる「入り口」です。

津田: 「入り口」として、その問題を掘りたいと思った人は、そこから先掘ればいいってことで。

池上: ええ、ですね。でもテレビではマスを対象にしていますから、そうやって優しいところでいますけど、これからは大学でも教えるということになったので、そこはもう少し違う話をしていこうと、当然思っていますけどね。

■池上彰はダジャレがお好き!?

津田: なるほど。えー、メールです。ニコニコネーム「ビックヒック」さん。

「私は池上さんを見るとき、いつも真面目な姿ばかりなのですが、冗談を言ったりすることはあるのですか?冗談を言うのは苦手だったり、そういう人は嫌いだったりするのでしょうか?」

池上: これ私のことを知っている人は・・・。ああ、そうか、この人は最近ですかね。

津田: にわかですよね(笑)。

池上: そうですね(笑)。私のことを昔から知っている人は「ダジャレの親父」で有名ですよね。

津田: 結構、冗談言われますよね。

池上: かつて、NHKの『ニュースセンター845』という首都圏向けのニュースをやっていたときには、毎日必ず最後にダジャレを言う、と。

津田: ははは(笑)。

池上: 「NHKのニュースでこんなダジャレを言う奴がいるのか!」みたいな話になって。今でもよく、その頃から見ていた人はかなりの年齢になっていますから、今でもよく言われますよ。

津田: ダジャレを言い始めたのは、自然と言い始めたんですか?

池上: それは、大きな声では言えませんが・・・。ネットで「ここだけの話ですが」って言った途端に拡散しちゃうんだけど、「NHKの原稿が何でこんなにつまらないんだろう」って。

津田: ははは(笑)。

池上: 「こんな面白い話を、なんでこんなにつまらなく書いているんだろう。面白く伝えろよ、」って、ちょっとやっていたら、それがクセになっちゃったんですね。

津田: それが『伝える力』に繋がり、167万部になっていったわけですね。

池上: それは全然違うんだけど(笑)。

津田: 違いました?(笑)

池上: 要するに親父ギャグですよ。親父ギャグを言っている。それこそ、テレビで海外ロケとか行っていると、(スタッフたちは)私の親父ギャグを聞かされて、みんなすっかりくたびれたりしていますよ。

津田: 池上さん、お酒とかは好きなんですか?

池上: いや、お酒は飲めない。

津田: お酒飲めないんですか。

池上: お酒飲めないから、本を書く時間がある。

津田: そうなんですね。じゃあダジャレは、いつ頃好きになったんですか?

池上: だから、「ニュースセンター845」をやるようになってからですよ。

津田: それで言い始めてからですか?

池上: そう。だから語彙力がないと、ダジャレはできないんですよ。

津田: 確かに、そうですよね。

池上: 聞き手も語彙力を持っていないと、私のダジャレをダジャレとして理解できないんですね。

津田: なるほど。

池上: それこそ、かつて「NTTが電報を廃止する」という話になった時、「なんて電報(伝法)な、と思う人もいるでしょうが」って言ったら、終わった後で「今の、どういう意味ですか?」って。「あ、『伝法な』って言葉が、もう死語になっていたんだな」って。どういうことか知りたい人は辞書を引いて下さいね。

■読者と繋がるための情報発信

津田: というわけで、そろそろ予定していた時間も過ぎつつあるんですけれど。でも、「どうしても池上さんに会場で質問したい」っていう人がいたら、1、2個受け付けたいと思うんですが。なんかある?貴重な機会なので。「俺の質問が読まれてないよ」みたいな。

 じゃあ彼。「好きな色は?」みたいなコメントも付けて。いやいや、どうぞ。マイクを持っていっていただいていいですか。ごめんなさい。

観客: 先ほどのデモの話になってしまうんですが、若者の世代間格差の問題で、若者がその問題を認識しているにも関わらず、デモとか、そういうのが起きないのは、個人的には若者の間に「切実さ」みたいなものが欠如しているような気がしています。その部分に情報が問いかけることって、何かありますか?

池上: うん、わかりました。だって「切実感」がなかったら、それはしょうがないでしょう、っていう話だと思うんですよ。なんとしてでも街頭に出て、世の中を変えようという切実な思いがないと、そりゃデモに行かないですよね。

 ただし、これまで一度もデモらしいデモがないと、どうすればデモができるのかってことが分からないって人がいますから、それはありますけれど。それは切実な感じがないと、それはダメですよね。

 反原発のデモが起きているのは、切実に思っている人が大勢いるからでしょ?これはしょうがないですよ。それぞれその人によって切実な意識がなかったら、そりゃ行動しませんよね。

津田: 切実さ。デモって意味で言うと、去年フジテレビに対するアンチなデモというのも行われましたけど、あれはどういう切実さが彼らにあったと思いますか?

池上: それは危機意識でしょ。つまり韓流ドラマ。「日本の国内が韓国のドラマばかりで占領されていいのか!」と。日本はどうなるんだろうかってことを、極めて切実に思った人たちが大勢いたから、起きた。

津田: それでネットで集まるって方法論があったから、日本でもああいうものが起き始めたってことですね。

池上: そうですよね。昔だったらネットで呼びかけるという仕組みがなかったわけですから、そんなデモってそもそもなかったですよ。

津田: なるほど。それが、ああいうふうに表面化したってことですね。ほかに誰か質問ありますか?あ、「猫目」さんて(今日質問するのが)2つ目じゃないですか?まぁいいです。はいはい。

観客: 自分が情報発信する場として、例えば津田さんのメールマガジンというのがありまして、でもそれはスピード感もありますし、後は著者に対する収益的にも、本を書くよりも有効的だと思うんですけども、メールマガジンという形に関しては何か意見はお持ちですか?

池上: はい。実は、「早くメールマガジンやれ」って言われているんです。

津田: おおー。ですよね。いろんな人が池上さんに言うでしょうね。

池上: 言われているんですけど。

津田: 本にこだわっている理由は何かあるんですか?

池上: 単に本が大好きだから。活字というか本が好きで、本屋で本に囲まれているのがとっても幸せですから。それを本にしてやろう、と。それを本という形で、形になってストックになっていく。フローとストックっていう言い方がありますよね。流れていくフローと、形になっていくストックと。ストックで、自分の形が結実していくということが楽しいなと思いがあるからですよね。

津田: 池上さんって、本を書かれる時、相当細かくアウトラインみたいなのを作って書く方ですか?

池上: モノによりますけど。一応、最初に基本的に全体の構成は作ります。構成を作る、つまり、目次を作った上で、それぞれのところに、どんな要素を入れるかっていうことをメモの形でどんどん書き込んでいって。だから、いわゆるワープロソフトが出来たからこそ、できることですけどね。そこにいろんな要素を入れていくとだんだん膨らんでいって、「これなら書けるな」ってなって、一つひとつの章を書いていく、と。

津田: そこで役に立つのがTwitterなんですよ。細かいものをフローとして、Twitterにメモ書きでいいから、ぽんぽん投げていって、いろいろな多様な意見が入ってくる中で、「そうか。そこもまた取材すると面白いかもな」みたいなのがきて、じっくり時間をかけて繋げていくっていうね。

池上: なるほど。ひっかかりましたね。こういうのを「我田引水」っていうですけど。ちょっとハマっちゃいましたね。

津田: いや、でも2年前にお話したときにも言ったんですけど、本ってどうしてもどんなに頑張っても1ヶ月前ぐらいの情報しか入れ込めないんですけど、やはり本出して、その本を感想をいろんな人からTwitterで感想が寄せられて、それをまた僕がリツイートって形で多くの人に発信していくと、なんだかみんなで読書会をやっているようなことがネットで実現できるんですよ。

池上: なるほど。

津田: 僕の本って感想とかが何千って来るんで、それを全部リツイートとかをしていくと宣伝にもなるんですけど。それ以外に読んでくれた人が「他人はこういう読み方をしたのか」みたいな新しい楽しみ方を与えてくれていて。池上さんが本を大好きだということを仰るのであれば、本の新しい楽しみ方を池上さんファンにTwitterで。

池上: なるほど。

 Twitter使っていて池上さんが好きな人に、Twitterを池上さんがやることによって。本に関することのツイートしかしないと池上さんが言えばいいと思うんですよね。いちいち全部の質問に答えるんじゃなくて、あくまで自分の本を豊かにするためにTwitterをやるっていう感じでやると、池上さんいいんじゃないかなっていう。

池上: 私がTwitterをやると、たぶん質問がいっぱいくるでしょ。質問されたら無視するわけにはいかないから、その質問に応えていると、それだけで夜が暮れちゃいますよね。

津田: Twitterは流れていくので、基本的に執筆中には書かない、と。でも執筆のメモを流していったりとか。あとは質問とか書評みたいなのが。池上さんがTwitterにいると、池上さんが本出したら、いろんな感想がすごい勢いで寄せられると思うんですよね。そういう形で池上さんやるといいと思うんですよね。

池上: なるほど。池上彰の書評ツイートという。そもそも、そういうタイトルにしてしまえばいい、と。

津田: そうですね。池上さんがTwitterやることは、人に求められていると思いますし、今日これニコ生でやっていますけど、多分やはりニコ生でテレビでは見られない、もう少し辛口な池上彰が見たいっていうのもあると思うんですよ。ニコ生で番組をやるみたいなのとか、いかがですか?

池上: とにかく、いま番組をやりたくない。なるべくやりたくなくて、正直な話をすれば「この4月からレギュラーやりませんか」みたいな話はいろいろあるんですけど、ひたすら断り続けて、逃げ回っていて。

 ただ、「緊急特番ならときどきやりますよ」ってかたちで、今日も3月10日ですから、夜9時から某局でやりますけど。緊急特番ならやるけど、それ以外は勘弁してくださいと逃げ回っている。それよりは自分で本書いていた方が楽しい、と。

津田: その本を書いている楽しみを、より増幅させてくれるのがネットなんですよね。

池上: なるほど。確かに読者とつながりたいって思いはありますよね。

池上: 例えば、町を歩いていて「いつも見ています」って言われると「最近テレビに出てないのに、この野郎、嘘ついているな」って思うわけですよ。それが「なんとかって本を読んでいます」って具体的な本の題名言われると本当にうれしいですね。

■明かされる「いい質問ですね」の秘密

津田: ある意味で言うと、本が本当に読者と繋がっている窓口になっていますから。今日ってどうでしたか?ニコ生の番組いかがでしたか?

池上: 会場のみなさん、なんておとなしいんだろう。

津田: これが外国のシンポジウムとかになると、関係なくても勝手に割り込んで来ますもんね。「言ってること違うよ!」みたいな。

池上: そうそう。激しく立ち上がって、罵られるのかと思ったら、紳士的ですよね。

津田: コメントなんかでは結構乱暴なコメントが。

池上: お互い、かなりツッコミされていますよね。

津田: 今日、質問としてはどうでしたか?とてもテレビ的で嫌なんですけど。

池上: あ、「いい質問ですね」って言わせて終わろうとしているんでしょ?

津田: そういうことじゃなくて、「いい質問はありましたか?」っていう。

池上: 難しい質問ばかりでした。

津田: 難しい質問っていい質問ではないんですか?

池上: 結局、自分がそれに触発されてモノを考えていかなければいけないという点で言えば、長い目で見ればいい質問なんでしょうね。それを後になって、いい質問だったなぁって思えるんでしょうね。

津田: テレビとかで「いい質問ですね!」って決めフレーズでいうときっていうの・・・。

池上: これ全然違うんですよ。テレビっていうのは、なんで「いい質問ですね」って言うかというと、とりあえず最初はもちろん当たり前ですけど台本があるでしょ。スタッフと相談をして、「こうやって。こうやって、こういうふうに話をしていこう」って考えていますよね。

 ところが出演しているスタジオのタレントさんがアドリブで次々に質問するでしょ。私は当然答えていくわけですよ。それにどんどん答えていくと、どんどん話がほかにいくわけですよ。どこかで戻したいなってときに絶好の質問が来ると「いい質問ですね」って。

津田: なるほど。自分にとっていい質問。この「いい質問ですね!」。いま明かされる「いい質問ですね」の秘密という。でも、そういうのが土田晃之さんとかが抜群に上手いんですかね?

池上: 大変上手いですね。ただ、そればかりでなくて、あなたがそういう質問してくれると、それに私が答えるとみんなにも分かってもらえるよねって。みんながそういうこと分からないんだっていう、みんなの代表としていい質問してくれたなっていうときは、もちろん「いい質問ですね!」って言いますよ。

津田: 「いい質問ですね!」には、2種類あるんですね。いま明かされた「いい質問ですね!」の秘密っていうので。今日は、それが分かっただけでも価値がある放送になったんじゃないかと思います。ということで、まだまだお話していきたいですが、池上さん、このあと特番もあるということで本日はどうもありがとうございました。

池上: ありがとうございました。

津田: また、このような番組を企画させてもらいたいと思いますので、また機会ありましたらよろしくお願いします。ぜひ、最後にTwitterを始めてください。ありがとうございました。

池上: ありがとうございました。

(了)

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]全文書き起こし部分から視聴 - 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv82788026?po=newsinfoseek&ref=news#0:01:27

(書き起こし:ハギワラマサヒト、武田敦子、吉川慧、内田智隆、小浦知佳、湯浅拓、編集:山下真史)



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