オセロ中島騒動は他人ごとじゃない 作家・岩井志麻子が語る「洗脳」の恐ろしさ
ニコニコニュース / 2012年4月9日 11時43分
お笑いコンビ「オセロ」の中島知子さんが、自称占い師の女性からマインドコントロールを受けていたとされる騒動。「他人事とは思えない」と話すのは、作家の岩井志麻子さんだ。岩井さん自身もかつて、占い師の女性に「洗脳」されて苦しみ、その経験をこれまで何度も小説に描いてきた。2012年4月6日には、一連の作品を収録した「あの女」(メディアファクトリー)を出版、その巧妙な手口や、マインドコントロールの恐ろしさを独自の筆致でつづっている。誰もが陥る危険性のある罠。心の隙間につけこまれないためにはどうしたらよいのか、岩井さんが語った。
■私を洗脳した「あの女」は偶然を装いやってきた
岩井さんが「あの女」と呼び、小説に度々登場させてきた女性との出会いは、7年前にさかのぼる。偶然を装って岩井さんに近づき、ファンだったことをアピール。「岩井さんと同じマンションに住んでいる。これは運命の出会い」、「自分は優秀な編集者でマスコミや政財界に人脈がある」といった嘘を並べ、岩井さんのスタッフとして雇われた。
ところが、女性はスケジュール管理の甘さや事務処理の滞りが目立ち、すばらしい触れ込みに反して仕事ができない。さらに、自分には霊感があると言って、「岩井さんの夫には悪い霊がついているので別れたほうがいい。その霊は夫が昔、殺した女だ」などと脅して岩井さんを疑心暗鬼に陥らせ、家族や友人から孤立させようとした。
やがて、女性の虚言や不審な行動によって岩井さんの周囲にはトラブルが絶えなくなり、岩井さんや家族の心の状態にも悪影響が出てしまった。しかし、ある知人からの助言をきっかけに岩井さんは現実に引き戻され、思い切って女性を解雇したことで「洗脳」は解かれたという。
調べたところ、華麗な経歴や岩井さんと同じマンションに住んでいたことも全て嘘で、岩井さんと知り合った直後、急いでマンションへ引っ越してきたことも分かった。獲物として狙われていたことを岩井さんが知ったのは、かなりの大金を給料として女性に支払った後だった。女性と決別できた岩井さんは、体験を現代の怪談として作品化、「あの女」シリーズと呼ばれて人気となっている。そして現在、「あの女」は驚きの展開を迎えている。
■「結婚してくれるかどうかは、占い師じゃなくて彼氏に聞け」
「その女性は今、電話をかけると1分200円とかで占いをしてくれる、電話専門の占い師になっています。彼女の虚言は長くは人を騙せませんが、瞬間風速的に口がうまいので人気のようです」
と岩井さん。
「電話占いは、メンタルを病み気味の人がかける。直接、他人と対峙できない人です。普通の人は困ったことがあったら、家族や親しい人に悩みや苦しみを打ち明ける。それができなくて、占い師の霊能に頼ってしまうわけです。"ジプる"っていう言葉があるのを、占い師に相談している人たちが集まる掲示板で知りました。一人の占い師じゃ納得できなくて、自分にいいこと言ってくれる占い師を探して、ジプシーしてしまうということだと。彼氏は結婚してくれるでしょうかって、占い師じゃなくて彼氏に聞けって話なのですが」
心の隙間を埋めようと占いを求めてしまうと、「あの女」のような占い師につけ込まれてしまう。岩井さんは、限りなく実話に近い形で書かれた「あの女」シリーズで、誰もが陥る可能性がある闇を繰り返し描いてきたが、オセロ中島さんの占い師が騒動になると、岩井さんのファンの間で「同一人物ではないか」とうわさになった。伝えられている出身地や年齢、イニシャルが同じばかりか、虚言の内容や手口も酷似していたからだ。
そこへ、2月27日に出演したテレビ番組「笑っていいとも!」で、岩井さんが、「彼らは偶然を装って近づき、華麗なる人脈を自慢する。とどめは、身近な人の悪口を吹き込む。標的を孤立させ、自分だけを信じさせる為です」とその手口を明かすと、うわさはネットで一気に拡大してしまった。放送後、マスコミから取材依頼が殺到。
「でも、中島さんを売名行為に使っていると思われたくないと思い、お断りしていた。その後も映画のトークショーに出たら、取材に来ている人達の質問が映画じゃなくて、中島さんのことばかり。映画の話もちゃんとしているのに、放送された部分は中島さんについてのコメントだけ。テレビの編集って怖いなあと思いました」
と苦笑する。
中島さんの占い師騒動に、岩井さんもすっかり巻き込まれた形だが、「週刊誌で中島さんの占い師の写真を見た瞬間、別人だと思いました」と同一人物説は否定する。
「でも、マネージャーから、『本当に別人ですか? 確たる証拠ありますか?』と聞かれてしまって...。この世では、何が確かで何が不確かなのか、何も証拠がない。『あの女』を確かに敏腕だと思い込んでいたこともあったわけですから...。ただ確かなことは、『あの女』は、私達のそばにいつもいるということです」
■「あなたは極端にすごくもないし、そんなにダメでもない」
では、「あの女」達のマインドコントロールから、どうやって逃れればよいのか。岩井さんは語る。
「自分に言い聞かせたいことですが、あなたは、あなたが思っているほどダメな人ではないし、あなたが思っているほど立派な人でもない。これに尽きます。どうしてあんな女に引っかかったのか、よく考えました。マスコミや政財界に顔がきいて、ヨーロッパ社交界で人気があって、大富豪に愛されている。『そんな人が岩井志麻子のスタッフをするわけがない』と思い至らないのですから、自分は特別だとうぬぼれていたわけです」
と振り返る。
「同時に卑下もありました。自分を空っぽにして彼女に全てを委ねたのも、特別だという自信がなかったから。それこそ中島さんみたいに、今日はこの服を着ろ、これを食べろと言いなりになるのは気持ちがいい。自分は本当にダメな奴だから、指示してもらってちょうどいいと思っていた。極端なうぬぼれと卑下がある人が引っかかる。だから、あなたは極端にすごくもないし、そんなにダメでもない。普通の人よ、と言ってあげたい」
近年、「普通」であることは「凡庸」で「つまらない」といった貶めの言葉になってしまっていると岩井さんは指摘する。
「自由とか、型にはまらないとか、何者かにならなければいかんと言われますが、昔の日本は普通の人であることが一番大事だった。分相応、人様に迷惑をかけない。個性的に生きるより、みんなと楽しく『和をもって尊しとなす』ことが大事。普通は偉大なことであると今は思っています」
◇関連サイト
・[ニコニコ市場]あの女(オンナ) - 岩井志麻子・著
http://ichiba.nicovideo.jp/item/az4840145725
(榊原有希)
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