関西俊英同士の準決勝 豊島七段―千田五段:第2期 叡王戦本戦観戦記
ニコニコニュース / 2016年11月17日 17時36分
プロ棋士とコンピュータ将棋の頂上決戦「電王戦」への出場権を賭けた棋戦「叡王(えいおう)戦」。2期目となる今回は、羽生善治九段も参戦し、ますます注目が集まっています。ニコニコでは、初代叡王・山崎隆之八段と段位別予選を勝ち抜いた精鋭たち16名による本戦トーナメントの様子を、生放送および観戦記を通じてお届けします。
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和服姿での対局
9月に始まった本戦も、いよいよ準決勝を迎える。豊島将之七段と千田翔太五段による関西俊英同士の対決は、11月12日に東京・将棋会館で行われた。
準決勝の見どころといえば、何といっても和服姿での対局だ。この日は棋士御用達の「白瀧呉服店」の主人、白瀧五良さんが早くから着付けのために将棋会館を訪れていた。豊島はタイトル戦などで和服を着慣れているが、千田は今回が初めての経験である。「11月4日に試着をしました。最初は『んん?』と思いましたが、対局時はやりやすかったですね」。普段から所作がゆったりとしている千田は、和服姿がよく似合っていた。
猛スピードの進行
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19時の対局開始からものすごい勢いで手が進む。15分ほどで第1図に。角換わりの最新形、先手の4筋位取りに対して後手が積極的に仕掛けたという流れだ。ただし後手が仕掛けてから第1図に至るまでの道筋は、決して一直線ではない。手が広く、互いに変化の余地が多い形だ。2人が猛スピードで進めた背景にはどのような思惑があったのか。
豊島は「研究があったわけではない。似た形を指したことがあり、どの変化もそこそこいい勝負と思っていた。難しい局面に時間を残そうと考えた」と話す。千田は第1図の数手前で想定を外れていた。「候補手があまりに多すぎる。本当はもっと考えたいが、持ち時間が1時間の叡王戦では5分、10分の比重が大きい。どこかで決断を迫られる」と千田。決して事前準備と一致していたわけではなく、互いに許容できる範囲で進んだという見方が妥当なようだ。
第1図から桂を食いちぎる△2五銀は決断の一着。▲同歩で手順に急所の歩が伸びるので、相応のリスクを抱えるからだ。「飛車も角も働くのでやりづらい。できればこちらには触らずに攻めたかったが、攻めあぐねたらおしまい」と千田。攻撃重視の選択というわけだ。この手を見た豊島には誤算が生じていた。「そんなに悪くないと思っていたが、考えているうちに自信がなくなった」と振り返る。
豊島、勝負手を逃す
両取りのかかった第2図が勝負どころだった。強く反撃するなら▲2四歩△同歩▲同角△2三歩▲4二銀(A図)の強襲だ。
豊島もこの筋を読んではいたが、A図以下△4二同金▲同角成△同玉▲2三飛成△3二銀でまずいと断念した。ところが手順中▲2三飛成では▲4四歩(B図)がある。B図で△同歩は▲2三飛成が厳しくなる仕組みだ。豊島は「▲4四歩が見えていなかった」と話した。
一方の千田は、豊島と同様の読み筋で▲2三飛成でまずいと読みを打ち切っていたという。後手が変化するならA図で△2二玉だが、▲3一銀打と迫ってどうか。成否は別にして、先手はこうして勝負するほかなかった。
本譜は第2図から▲5五角△6六桂▲同角と穏やかに進めたが、そこで△4六角が痛打になった。平凡に飛車を逃げては、△5五銀と押さえられて手も足も出なくなる。検討ソフト「Ponanza」の評価値が後手側に500点ほど振れた。
千田が決勝三番勝負進出
豊島は飛車を見捨てて勝負に出たが、直後に後手の好手に気づいた。それが△7八銀(第3図)だ。▲同玉と危険地帯に呼んでから△5八馬とにじり寄るのが好手順で、先手は受けが利かない。
午後8時59分、豊島はグラスのお茶をひと口飲んでから、「負けました」と頭を下げた。投了図で▲4三歩成△同玉▲1一角成としても、△8六桂が厳しく一手一手の寄りだ。
感想戦では、第2図から勝負に出る上記の順に時間が割かれた。印象的だったのは、第2図でのPonanzaの評価値が後手側にプラス250点ほど、と2人が知ったときの様子だ。「250なら、倒れない指し方が......」と千田が言うと、「そうですね」と豊島がうなずく。局後、豊島に改めて話を聞くと「Ponanzaの評価値が250点なら、踏みとどまる手があったかもしれない。ソフトを信用しているので」。評価値というひとつの数値と肌身の感覚が交錯する会話に不自然さはなく、むしろリアリティを持って響く。時代は変わった。
千田は「△2五銀を決断してからは、必然手が多かった。ラストの十数手で勝負した感じ」と一局を振り返る。決勝三番勝負に向けて、「兄弟子の山崎(隆之)叡王に続けるように頑張りたいと思います」と意気込みを語った。前期は山崎叡王の「軍師」として研究に打ち込んだ千田。今期、Ponanzaとの直接対決が叶うか注目だ。
(観戦記者:松本哲平)
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