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【新連載:『アクアノートの休日』飯田和敏氏】『GTA V』のあのサイコパスを超えた残虐性。現役不良が演じる「強制参加型」映画から考える「プレイ」の意味

ニコニコニュース / 2017年4月28日 16時30分

ニコニコニュース

 『アクアノートの休日』や『太陽のしっぽ』、『巨人のドシン』といった斬新なゲーム性を有した数々の作品を手掛けるゲームクリエイター・飯田和敏氏。2017年現在、立命館大学で教鞭を執りながら某新作タイトルに携わっているという彼が、ゲームメデイアでコラムを執筆するのは4度目だという(「ゲーム批評」→「コンティニュー」→「ファミ通WAVE」と媒体を変えながら足かけ20年にわたり連載を続けていた)。

 コラムのタイトルは「きのこのいけにえ」。氏曰く、

"きのこ"とは"マリオ"(自分が従事しているビデオゲームコンテンツを表す)のことで、"いけにえ"とはゲームを作るための肥やし(日常的な体験やコンテンツ)のこと。また、自分がもっとも愛してやまないB級映画の金字塔『悪魔のいけにえ』へのオマージュでもあります。

とのこと。というわけでこのコラムは、飯田氏が感銘を受け"肥やし"として消化したコンテンツを静かに熱くレビューし、同時に、そのコンテンツと同じ匂い(臭い?)を持つ"ゲーム"をピックアップして紹介する、というテーマでお送りする。

 第一回目は、ゲーム『グランド・セフト・オートV』×映画『孤高の遠吠』についてお届け。言葉の端々から、飯田氏流"ゲーム製作"のヒントを、きっと垣間見ることができるはずだ。

オープンワールドの可能性を確実にモノにしてきたロックスター・ゲームズが『GTAV』で挑んだ新たな仕掛けとは?

 オープンワールドゲームの金字塔『グランド・セフト・オートV』【※1】(2013年リリース。以下、『GTAV』)の素晴らしさについては、「ギネスブック」などのさまざまな記録【※2】が客観的に証明しているので、もはや解説はいらないだろう。僕はすべてのバージョンを遊び、達成度100%を3度果たしている。ただ、オンラインはあまりやっていない。

ゲームとは、作り手の制限とプレイヤーの想像力によって生み出されるアートだ。"不自由(制限)"と"自由(想像力)"という、背反する項目をデリケートに扱うことで成り立っている。オープンワールドのゲームデザインは、「ゲームとは何か?」 というキツイ自己言及を実践しなければならない。なので、これに挑むこと自体が野心のたまものだ。

 「GTA」の過去作や『レッド・デッド・リデンプション』【※1】『L.A.ノワール』【※2】などでオープンワールドの概念を拡大し、その可能性を確実にモノにしてきたロックスター・ゲームズが、満を持して『GTAV』で仕掛けてきたのは、しっかり構築されたワールドに3人の主人公が登場するというものだった。

※1 レッド・デッド・リデンプションの話
 2010年、ロックスター・ゲームズ社からPS3版、Xbox360版が発売された、オープンワールドのアクションアドベンチャーゲーム。20世紀初頭の近代アメリカを舞台にした作品で、プレイヤーは元・無法者のジョン・マーストンとして、かつての仲間であるギャングたちを始末していくことになる。

※2 L.A.ノワールの話
 2011年、ロックスター・ゲームズ社からPS3版、Xbox360版が発売された、オープンワールドのアクションアドベンチャーゲーム。1947年のロサンゼルスを舞台に、プレイヤーは市警の刑事となり、各部署で事件に潜む謎に挑んでいく。

 そのうちのひとりトレバー・フィリップスはこれまでのビデオゲームではあり得なかったキャラクターだ。破天荒、狂気の人、デタラメかつパワフルなどさまざまな形容ができるが、トレバー独特の行動原理や美意識というものがあり、そのサイコな人物像は一筋縄ではいかない。例えば、強烈な拷問シーンにあらわれている(これに関してはPC版がオススメ)。

トレバーは、裏街道を生きてきた人間として警察権力の存在を唾棄している。ただし拷問を依頼されると、喜々として協力する。おぞましい行為に耽溺した後、トレバーは被拷問者に対し、これまでの態度から一転、奇妙な優しさを示す。
 その急変に一瞬ついていけないのだが、プレイしているうちにトレバーの心に、自分の快楽のために痛みを供出してくれた者への敬意が生まれていることを理解する。自分勝手で理不尽このうえない理屈だが、そうした複雑なパーソナリティが、ゲームの主人公として描かれたことはなかった。

 『GTAV』が他のオープンワールドゲーム作品から頭ひとつ超え、いまも追随を許さない絶対性はトレバーの衝撃があるだろう。これを更新するのは「GTA」シリーズだけだ、と思っていた......。

"トレバー体験"を超える衝撃があった、日本映画『孤高の遠吠』

 その確信は、1本の日本映画の登場によって揺らいだ。ゲームと映画を比較することに違和感があるかもしれないが、どちらも映像作品である。クロスメディア【※1】やトランスメディア【※2】といった戦略がコンテンツ産業の現場で積極的に導入されているわけで、ごちゃ混ぜになっている情報環境から「刺さってくるもの」が浮上するのは当然という気もする。

※1 クロスメディア
一つのコンテンツやデータを複数メディアへ出力する手法。

※2 トランスメディア
複数の異なるメディアやチャネルを融合して商品やサービス、プロモーションを展開するコンテンツ表現の手法。

 その映画のタイトルは『孤高の遠吠』【※】という。僕が住んでいる京都では2日間、2回だけ上映された。僕は幸いスクリーンで観ることができ、しばらくの間は幻のプレミアム作品だったが、現在は全国のレンタルビデオ店で視聴することができる。なので『GTAV』のファンはすぐにGO! して欲しい。

※孤高の遠吠
2015年に公開された、小林勇貴監督による青春群像劇。4人の少年が、先輩から原チャリを買ったことをきっかけに不良の世界に足を踏み入れ、拉致、リンチ、監禁など、壮絶な暴力にさらされていく。静岡県富士宮市で起きた事件の数々を取材して作り上げられ、出演者には総勢46名に及ぶ富士宮の不良少年を起用した。

「強制参加型反抗映画」と銘打たれたこの映画は、1990年生まれの小林勇貴監督【※】によって作られた。地元の不良たちの間で伝承されている逸話(そのすべてが徹底的にヒドイ話!)を監督がヒアリングし、1つのストーリーとしてまとめ、役者ではない現役の不良たちが演じている。あのおそろしい先輩たちの数々の伝説をオレたちが再現するぞ! という少し浮かれた演技が映画に熱を与えている。
 現実のエピソードがドラマになり、それを当事者に近い者が演じることでリアリティを与えるという循環。このキャスティング手法は画期的な発明だ。

※小林勇貴監督
1990年生まれ。静岡県富士宮市出身の映画監督。『孤高の遠吠』のほか『Super Tandem』や『NIGHT SAFARI』などの作品を制作。

 劇場で観た時は、人外魔境の如きめくるめく不良世界に圧倒され完全に魅入ってしまったのだが、後日DVDで観直してみると、この映画は丁寧に作られた正当な劇映画だ。きちんと演出され、観客が状況を理解できるように適切なテロップやBGMが添えられている(『シン・ゴジラ』でテロップの楽しさにハマった人にもおすすめ)。また音質がクリアで、クセがあるセリフもきちんと聞き取れる。プロの仕事が映画を支えている。

「そうだったのかー」と感心していると、スクリーンで観た時と同様に、やはり不良たちのエスカレートしていく抗争世界に心が持って行かれてしまう。登場人物の誰かに感情移入するわけでもないのに、他人事としてそれを傍観することはできないとはどういうことだろう!? 「強制参加型」とは、この映画の性質をうまく言い当てている。

 予想を超えるヤバイ不良が次から次へと現れて、混沌の渦が大きくなっていく。現実世界では誰ひとりとも絶対に会いたくないコイツらが束になってかかれば、ロスサントスでは無敵だったトレバーも危ない......。

『GTAV』トレバー体験と『孤高の遠吠』の虚構に見た、"プレイ"という共通点

 ロックスター・ゲームズのリサーチ能力は凄まじいものがあり、日本のアウトロー映画もきちんとチェックしている。『孤高の遠吠』の評判もやがて彼らの耳目に届くだろう(お願い、届いて!)。彼らはトレバー超えのヒントをこの映画に見出すことができるはずだ。

 さてさて、「プレイ」には「遊ぶ」とともに「演じる」という意味もある。我々が『GTAV』で得た"トレバー体験"と、『孤高の遠吠』で不良が不良を演じる"虚構性"に、「プレイ」という共通点があることがわかる。VRなどにより体験の解像度が上がっていく現在、この「プレイ」の感覚については引き続き考えていきたい。

あとひとつ。『孤高の遠吠』でバイクを得た不良たちが、夜の道路を制度を無視して自由に爆走するシーンはたまらなく美しい。遊び尽くしたと思っていた『GTAV』をまたやりたくなってくる。今度はいよいよ公道(オンライン)デビューかー!

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