「基本無料、アイテム課金は嫌い」な中国インディー開発者が語る"苦悩"。コンシューマ市場が1%未満な世界でのゲーム文化のリアル【中国ゲーム事情レポ】
ニコニコニュース / 2017年8月4日 21時0分
7月末に上海で催された中国最大級のゲームショウChina Joy 2017を取材するかたわら、じつは電ファミ編集部は、クリエーターを始めとする中国のゲームの周辺で活躍する人たちに焦点を置いた取材を重ねてきた。この記事はその第一弾。中国でインディーゲームを作る、とあるデベロッパーとそれを売るパブリッシャーに聞いた話を紹介しよう。
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前提として、まず中国全体のビデオゲーム市場の現況を語りたいところだが、ここは今回の取材に同行いただいた、中国Webゲームメディア触楽の孔彧さんの言葉をお借りする。
「中国のビデオゲーム市場は、ネットゲームとモバイルゲームをメインにしている騰訊(テンセント)と網易(ネットイース)というふたつの会社が80%くらいを占める寡占市場です。コンシューマーゲームは、PCのネットワークゲームじゃないものをやる人と合わせても数%にも満たない程度なんですよ。つまりゲームを楽しんでいる人のほとんどがネットで何かしら対戦していると思ったほうがいい」(孔)
そんな日本とは大きく異なる状況下、たどってきた歴史やゲーム史の異なる国で、インディーゲームはどう作られているのか――?
なお、今回の取材は、小説投稿サイトであるカクヨムで連載され、単行本化された『The video game with no name』の作者である赤野工作氏と記者のふたりで行っている。赤野氏の中国ゲーム事情に対する造詣の深さはTwitter(@KgPravda)などからも窺い知れるだろう。
取材/赤野工作、小山オンデマンド
文/小山オンデマンド
郭亮氏はCotton Gameという小さなデベロッパーを率いるインディーゲームの開発者。だが、その作品は2015年にPlayStation4とVitaが中国本土に上陸したときに、中国初の専用ソフトとして多くのプレイヤーにその名を知られることになった。それ以前にも、スマートフォンの市場で中国では有名なアドベンチャーゲームをリリースしている。
そのリリース元となっているパブリッシャーが、丁勝氏の上海梦即網絡信息科技だ。今回はこのふたりにインディーズ開発にまつわる現状を訊ねた。
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ゲーム市場全体を100としたら、インディーズは1未満
──郭さんに伺いたいのは、中国のインディーズの現状です。中国の市場は日本に比べPCがとても強いのを訪中して実感しますが、コンシューマーでインディーズを作るという行為は、どのくらいのタイミングで始まったムーブメントなんでしょうか?
郭亮氏(以下、郭氏):
2015年の3月に、PlayStation4とPS Vitaが中国に入ってきたのがきっかけです。
──PC市場ではインディーが芽吹いていなかったんですね。ですが、そのコンシューマーの市場も小さいですよね?
郭氏:
とても小さいです。想像されている以上に、はるかに。ゲーム市場全体を100としたら、1未満じゃないでしょうか。
──なぜそんなに狭いところを狙ったんですか?
郭氏:
理由はふたつあって......。最初の理由は、多くの中国人のゲーマーと同様に、私はコンシューマーのゲームを遊んで育ったんですよ。
子どものころの思い出や思い入れがあるんです。ですからコンシューマー向けにゲームを作ること自体が有意義なことだと思っているんですね。
──中国でそのころのコンシューマーハードというと、非ライセンスファミコンの小覇王【※】とかですね。
※小覇王
1980年代の終わりに中国で発売され、もっとも売れたと言われる非ライセンスのファミコン互換機。「勉強ができる」という触れ込みでキーボードが付いたものなどさまざまなバージョンが発売され、「ファミコン」がゲームの代名詞であるように、「小覇王」が中国ではこの手のマシンの代名詞となっている。
郭氏:
小覇王は、勉強もできるマシンということで中国で大流行しましたが、私はATARIのコンシューマーゲームを持っていました。
──おおお。VCSかな?
郭氏:
形しか覚えていませんが、いちばん最初のやつです。小学3年生のときに親に買ってもらいました。
──VCSが中国にどのタイミングで入っているかがよくわからない(笑)。日本と同じくらい(1979年)ですと......年齢が合わなさそうですね。
郭氏:
ええ、1986~87年あたりです。そのころはまだファミコン互換機はなく、中国には『ブロックくずし』【※】があるくらい。中国製のファミコンやスーパーファミコン互換機はある程度大きくなってからですね。アーケードゲームでもよく遊んでいました。
※ブロックくずし
もともとはATARI社が1976年にリリースした『ブレイクアウト』を指すが、日本に導入されたときに「ブロックくずし」と訳され、以降類似のゲーム性を持つアーケードやコンシューマーのゲームの総称となった。ここで郭氏がどこの何を指しているかは不明。
──たとえば?
郭氏:
『双截龍』、『拳皇』、『百獣王』......。
──順に『ダブルドラゴン』【※1】、『ザ・キング・オブ・ファイターズ』【※2】......『百獣王』は『獣王記』【※3】かなんかでしょうか? まさか『ゴライオン』【※4】? 見事にアクションばかりですね。
※1 ダブルドラゴン......テクノスジャパンが1987年にリリースしたアーケード用のベルトスクロール型アクション。ふたりプレイが可能で、ファミコンに移植された際にレベル制が採用され、ひとり用となった。以降、多くのシリーズが登場したが、1996年に同社が倒産後、現在はアークシステムワークスが続編を製作している。
※2 ザ・キング・オブ・ファイターズ
SNKが1994年にネオジオでリリースした対戦格闘ゲーム。同社の『餓狼伝説』や『龍虎の拳』をはじめとするゲームキャラクターが一堂に会し、闘いを繰り広げるというもの。中国に対戦格闘ゲームが持ち込まれたときに大きく普及したのが同『97』で、以降中国では絶大な人気を誇る。取材に前後して訪れた上海のゲームセンターには、その『97』をはじめ、『2000』、『2003』、『XI』、『XIII』などシリーズが同時に居並んでいた。
※3 獣王記
セガ(当時)が1988年にリリースしたアーケード用横スクロールアクション。特定の敵を倒すと出現するアイテムを3つ集めると、プレイヤーキャラクターが獣化。獣化した姿はステージごとに違っていた。メガドライブをはじめ、のちにさまざまなハードに移植されている。
※4 ゴライオン
1981年から1982年にかけて放映された、東映製作のロボットアニメ『百獣王ゴライオン』。文脈から外れているが、じつは2011年にアメリカでPS3とXbox 360用ダウンロードタイトルとしてアクションゲーム化されている。
郭氏:
ほかにも『三国志』【※】など、いろいろなゲームを遊びましたね。そして大学を卒業した1997年あたりからPCが流行り始めたんです。
※三国志......文献的な確証が取れないが、取材の前後で訪れた上海のゲームセンターでは、本宮ひろ志によるマンガ『天地を喰らう』をカプコンがアーケード化した第二弾『天地を喰らう2・赤壁の戦い』(1992年)に『三国志』という名前が掲げられていた。
(画像は综合游戏动漫站より)
──Windows95【※】の影響ですね。伺うかぎり、日本で過ごしていた記者とほとんどやっていることが変わりません(笑)。そこからゲーム開発に邁進されたのでしょうか。
※Windows95
Microsft社による1995年リリースのOS。全世界レベルでインターネットの普及に大きく貢献した。
郭氏:
いや、私はすごくコアなゲーマーではなかったんです。
芸術表現のひとつとしてゲーム開発へ
──コアなゲーマーではないのに、どうしてゲームを作ることを仕事にしたんでしょう?
郭氏:
それがもうひとつの理由にもなりますが、ゲームのビジュアルやアートがとても好きだったんですね。とりわけ、『徳軍総部』(ウルフェンシュタイン)【※1】に始まって、『真人快打』(モータルコンバット)【※2】や『3D戦士』、『鉄拳』【※3】など、2Dのものが3D化されていくのがすごくおもしろいと感じて。
※1 徳軍総部
『ウルフェンシュタイン3D』。1992年にid SoftwareによってリリースされたPCゲームで、3Dダンジョン化したナチスの要塞に主観視点で潜入し、現れる敵を撃ちまくる、FPSの始祖的存在。この作品の成功が、後の『DOOM』や『Quake』に繋がる。
※2 真人快打
『モータルコンバット』。ミッドウェイゲームズが1992年にリリースした対戦格闘ゲーム。キャラクターに実写を取り込んでいることと、残虐描写が特徴で、フェイタリティと呼ばれる必殺技でやられるキャラクターのエフェクトが衝撃的。大人気を博し、現在に至るまで連綿とシリーズ作品が発売されている。
※3 鉄拳
ナムコ(当時)が1994年にリリースした対戦格闘ゲーム。当時人気絶頂だったセガ『バーチャファイター』に対抗する3Dポリゴンキャラクターを使用。異なる操作性とエクストリームなキャラクターで人気を博し、現在に至るまでアーケードとコンシューマーでリリースが続いている。
──『3D戦士』は何だろう? あ、『バーチャファイター』【※】か! なるほど。
※バーチャファイター......鈴木裕率いるセガAM2研が1993年の年末にリリースした、ポリゴンで描かれた格闘家どうしが3D空間内で戦う対戦格闘ゲーム。8方向スティックとパンチ、キック、ガードの3ボタンというシンプルな操作系で、奥深い駆け引きが楽しめたことから人気が爆発。その後に続くさまざまなムーブメントを興した。翌1994年にはセガサターンのロンチの起爆剤となり、同時期にアーケードでリリースされた『2』でその人気は空前絶後のものとなる。
郭氏:
(笑)。それらにゲームやアートの進化を感じました。ゲームは芸術表現のひとつだと思います。自分が創造したり表現したりしたものに、皆さんが触れてくれるのは単純に喜びになりますよね。気づけば私もいい歳だったので、これは仕事として自分も関与できるんじゃないかと思ったんです。それで作った最初のゲームが2015年の『南瓜先生大冒険』(ミスターパンプキンの不思議な旅)【※】だったんです。これがすでにPlayStation4で出ています。
※ミスターパンプキンの不思議な旅
日本ではPS Vita用として、2016年にフライハイワークス株式会社から発売された謎解き脱出アドベンチャー。PlayStation Storeにて500円でダウンロード可能。
──2015年ということは、中国にPlayStationフォーマットが上陸した年ですね。
郭氏:
ええ。『南瓜先生大冒険』は、PS4で初めての中国産ゲームでした。あらゆるバージョンの中国のPS4のハードに、このゲームの割引券が入っているんです。当時、Unity【※】が中国に入ると聞いており、まずはUnityのコンクールみたいなものに参加したところ、そこで賞を獲ったんです。それによって声がかかったんだと思います。PS4が中国に入るときに、中国発信として広めるにふさわしい作品を探していたんですよ。そのひとつに選ばれたんですね。Xbox Oneに移植したのはそのあとです。
※Unity
ユニティ・テクノロジーズによる統合開発環境を持つゲームエンジン。スマートフォンからブラウザ、コンシューマーなどを問わず、複数のプラットフォームに対応しており、幅広く採用されている。
──そうした流れもあって、1%の市場に先行して挑んだと。
ソニーに、インディーズを育てる誠意は感じる
──ソニーはいま、世界中のインディ―ズのデベロッパーに声をかけ、どんどん現地で開発力を伸ばしていこうとしているんですが、実際、皆さんの感覚からすると、中国のインディーズデベロッパーを本気で育てていこうとする気合いは感じますか?
郭氏:
一昨年にソニーの発表会のようなものがありました。最初は中国に入ってきたばかりの時期だったので、国産ゲームは本当に『南瓜先生大冒険』ともうひとタイトルくらいしかなくて。
ですが今年は海外発の大きな作品以外に、中国のインディーズゲームもかなりの数が出展されていたので、誠意をそこに感じたりしますね。
──後押しをしていると。
郭氏:
そうですね。あと『南瓜先生大冒険』は中国ではPS4だけで販売しているのですが、じつはPS4本体があまり売れていません。じつは香港で売れているんですね。そういう状況ながら、『南瓜先生』は毎月そこそこの売り上げがある。ですから手を組む甲斐はあって、いいパートナーだと思っています。
『南瓜先生』は中国だけですが、現在Steamでアーリーアクセスを実施している『小三角大英雄』(Little Triangle)もPS4などで、今度はグローバルで売る予定ですので日本からでも楽しめますよ。
──おお。アートがやはり独特のゲームですね。楽しみです。
丁勝氏(以下、丁氏):
じつは中国で最大のネット企業である騰訊(テンセント)でも、Steamのような販売プラットフォーム"WeGame"【※1】を9月から始めるのですが、そこでもアーリーアクセスから始めます。WeGameでも初めてのプラットフォーマー【※2】になっているんです。
※1 WeGame
騰訊が2017年9月1日よりサービス開始を予定している、Steamと同様のオンラインのゲーム販売プラットフォーム&コミュニティ。現在体験版が配布されている。
※2 プラットフォーマー
ソニーや任天堂などのプラットフォームホルダーの意味として使われることもあるが、ここでは『スーパーマリオブラザーズ』のようなスクロールアクションの意味で使われている。
──お話を伺うかぎり、コンシューマーベースで開発して販売されていますが、その1%だけで戦うわけではなく、やはりPCでも販売されているんですね。
丁氏:
中国のコンシューマー向け市場だけでは、たぶん採算が取れているゲームがひとつもないので、それだけだとリスクが高いんですね。
コンシューマーゲームのほうが求められる質も高いし、ゲーム内でキャラクターのレベルをひとつ上げるにも、時間やお金などがかかる。中国のゲームプレイヤーは、もっと明確な勝利などが報酬として欲しく、だから、みんなPCやモバイルのゲームをプレイするほうが効率的と考えるんです。
郭氏:
あともうひとつ、モバイルだけですが『迷失島』(ISOLAND)というゲームを過去に作っています。これはかなり人気です。
※迷失島......見失い島。2016年にリリースされた脱出ゲームで、絵本のような独特のビジュアルが特徴。App Storeより購入可能。
──ああ、地下鉄の駅にポスターが貼られているのを見かけました。たいへん雰囲気のあるゲームですが、アートワークは郭さんなんでしょうか? というのも、中国発のゲームにはプログラマー主導のものが多いので、こういうアート先行のタイプはものすごくめずらしいと思ったんです。
郭氏:
めずらしいかもしれませんね。アートワークは自分です。
──先ほどの『小三角大英雄』はどこか『チャイルド オブ ライト』【※】っぽいですし、こちらの『昇星巡航機』(The Milky Way)というシューティングにしても、中国ではめずらしいアートスタイルですね。
※チャイルド オブ ライト
ユービーアイソフトから2014年にリリースされた、ファンタジー感の強い2DタイプのRPG。スクロールアクションゲームのように移動するが、敵と接触することでエンカウントし、コマンドを選択するRPGライクな戦闘になる。
郭氏:
『昇星巡航機』はコンシューマー向けで、まだ作っている最中のものです。
──こういったアートワークはどうやって学んだのでしょう?
郭氏:
ノルウェーの画家のムンクが大好きで。ほかにも表現主義だとか。
──ああ、本当にアートからゲームを着想しているんですね。それにしても、『小三角大英雄』、『昇星巡航機』など立て続けに作られていますが、かなりリリース間隔が短いですよね?
郭氏:
いや、それでも『小三角』の開発期間は2年半くらいかかっていますよ。同時進行でほかのものも走らせていますから。
──あ、複数ラインが走る規模なんですね。Cotton Gameにはどのくらいの数のスタッフがいるんですか?
郭氏:
13人です。
──13人で2~3ラインも走らせられるんですか?
丁氏:
いまは同時に5つのゲームを作っています。
──とんでもない(笑)。
丁氏:
じつはもうひとつ、いまやはり作っているゲームがあって......。
──(映像を見て)ああ、おしゃれですね。アドベンチャーゲーム?
丁氏:
『ISOLAND』の2作目です。『迷失島2 時間的灰燼』(ISOLAND2 Ashes of Time)と言います。
──ということはアプリですね。
丁氏:
そうです。
──メガCDの『SWITCH』【※】みたいな感じがありますね(笑)。
※メガCDの『SWITCH』
1993年にセガ・エンタープライゼス(当時)がリリースしたメガCD用のアドベンチャーゲーム。WAHAHA本舗の喰始が企画に関わっており、画面上の味のある絵のスイッチなどどこかを押すことで、つぎつぎと部屋を移動し、マザーコンピューターのいる部屋までたどり着くのが目的。それ以上に、スイッチを押すことで繰り広げられるシュールなギャグの数々を閲覧するのがモチーフとなるゲームだった。
中国向けだけでなく、グローバル進出も決意
──郭さん丁さんにお尋ねするのもヘンですが、こうしたコンシューマー向けのゲームを作っている会社はどのくらいあるんですか?
郭氏:
最近は多くなってきましたが、50もありませんね。昨年、一昨年など遡るともっと少なくなります。ですので国内向けだけにプレイヤーのターゲットを絞ると、ほぼ回収できません。
「それじゃ」と小さなスタジオが世界を向いて戦えるかと言えば、ローカライズや販売先でのパブリッシャーを探さないといけなくなるのでほぼ無理で、そこが悩みどころです。
──ソニーの支援はライブラリの提供が中心なんですか?
郭氏:
ライブラリはもちろんですし、背中は押してくれますが、ソニーブランドで出るようなゲームは、やっぱりひと握りなので。これも変わっていってもらえればと思っています(苦笑)。
──ゲームに対しての自負は感じますが、お話を伺っていると、同時に「中国でこの先コンシューマーの波が来る」という期待を持っている感も受けません。むしろ先行きの不透明さを強く感じます。そういう状況に対して、将来どういうふうにゲームを作っていくのでしょうか?
郭氏:
そのとおり、これから中国のコンシューマー市場がどんどん良くなるとはあまり思っていませんが、世界規模で考えると、まだ売り込む余地はあると思います。ですので中国向けだけでなく、グローバルでやることは決意したと言いますか、「やるしかない」という感じはみんな持っていると思いますよ。
──それはインディー全体を覆っている感情なんですね?
丁氏:
なんというか個人的な意見でしかありませんが、「スマートフォンで基本無料でアイテム課金」というスタイルが大嫌いなんです。それに対しての反発の意味もあって、「自分たちの思いを込めたゲームをやっぱり届けたい」という気持ちがとても強いんです。
いまは、いまのペースでまあなんとかやっていけているので、そのまま続けていこうという感じですね。
──気概ですね。
丁氏:
自動戦闘ってご存知だと思うんですが、中国のネットゲームは最初から最後まで全部自動でできるものが多いんですよ。そういうゲームって遊ぶ意味があると思いますか? それに対する反発です。それらはビジネスとして成立していますが、私たちが目指すビジネスとは違います。
──同調される皆さんもいらっしゃることでしょう。
丁氏:
ソニーさんの宣伝のおかげもありますが、『南瓜先生』はインディーゲームとしてはそれなりに有名で、かつパズルゲームなんですね。中国市場ではパズルゲームはあまり受けないんです。なぜなら、まずそういうジャンルのゲームを作る人がいない。だからこういうゲームが大好きだというゲーマーもそんなにいないんです。
※レイトン教授......レベルファイブによる、2007年のニンテンドーDS用アドベンチャーゲーム『レイトン教授と不思議な町』に始まるシリーズ。監修に、昭和のベストセラー『頭の体操』シリーズで知られた多湖輝氏を迎え、町の至るところに潜むさまざまなナゾを解き明かすゲームとなっている。
たとえば日本で人気の『レイトン教授』であっても、みんな知らないんです。そのくらいなのですが、最近パズルゲームが少しだけ作られるようになっていて、これはもしかしたら『南瓜先生』の影響なのでは? なんて思ったりしています。
狭い市場をこじ開けながら
──郭さんも同じ思いですよね。いま自分たちが作りたいゲームを作っているのか、それとも売れるゲームを作っているのかでいえば、100%作りたいゲームを作っていると。
郭氏:
そうですね。もうまったくわがままに作っています。というかほかのタイプのゲームにあまり詳しくないので、この手のものしか作れないんです(笑)。ほかに中国でプラットフォーマーを作る人はいませんし(笑)。
──めちゃめちゃコアなんですね(笑)。それでも売れていると。
郭氏:
まあまあですね。『小三角』のSteamのアーリーアクセスで45000は売っています。需要はやっぱりあるんです。
──今後需要が増えたりは?
郭氏:
確実に増えてはいますが、速度や最終的な規模感はわかりませんね。中国では『英雄聯盟』(League of Legends)【※1】だけを遊ぶ人や、『英雄聯盟』でいまどきのゲームに触れたという人がものすごく多いんですが、Steamだったら『Dota 2』【※2】が人気です。その人たちが初めて触るほかのゲームがこの『小三角大英雄』だったりするんですね。その方たちに「これもいいな」とまあまあ評判はいいんですよ。
※1 League of Legends......Riot Gamesが2009年にリリースした、5対5で敵陣を制圧しあう、いわゆるMOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)ゲーム。MOD文化の中から生まれたゲームにして、いまや全世界的でもっとも普及しているゲームのひとつで、スポーツライクなゲーム性が高く、e-Sportsなどでも種目の筆頭として挙げられる。日本語版は2016年になってβ版が登場。
※2 Dota 2
ブリザード・エンターテイメントによるRTS『ウォークラフトIII』のMODである『Defense of the Ancients』が通称『Dota』と呼ばれ、Valveが開発した2013年リリースのその続編が『2』となる。
──『LoL』とは、また方向がぜんぜん違いますが、ウケていると。
郭氏:
スタッフが自分たちで遊んでいておもしろいし、友人に遊ばせてもおもしろいと言ってもらえます。開発に2年半くらいかけて調整をしたので、そこは自信があります。
──わがままに作った郭さんのゲームを、丁さんは売れるようにしていかなくてはいけないという構図ですよね? (笑)
丁氏:
そうです(笑)。
──丁さんはそのへんで郭さんをコントロールするコツとか、困っていることとかはありますか? がんばっているパブリッシャーの意見が伺えれば。
丁氏:
郭さんとは友だちですが......いろいろあります(笑)。私はもともとXboxでパブリッシャーをしており、当時からインディーズの方たちとたくさん接触していました。だからやり取りのノウハウはある程度あります。作り手は「自分の価値観を表現したい」などの夢を持っているので、尊敬する気持ちで接しています。だから自分の意見と沿わなかったとき、妥協もしますがケンカもします。
丁氏がゲーム実況が重要視している理由とは?
──丁さんが売るためにしている努力は?
丁氏:
いまは実況に力を入れています。できる努力ってとても地味で、何度もくり返して露出をするしかないんですね。
中国でよくやる方法は、メディアの編集と会って話をして、「このゲームはここがいいんだよ」とくり返し発信し、紹介テキストやレビューを書いてもらうというものです。それが主流ですが、そこに加えてプレイ実況をしてもらうようにしているんですね。あとはChaina JoyやGDC【※】など、ゲームショウに出展することですね。それから可能な限り、販売するチャネルを増やす。騰訊のWeGameもその一環です。
※GDC
Game Developers Conferenceの略。毎年数万人を動員する大規模なゲームイベント。1988年、ゲームデザイナー、ゲーム関連書籍の執筆者であるクリス・クロフォード氏が自宅のリビングルームのリビングルームにゲームデザイナーを集めて行われた会合から始まった。
──ひたすらメディアに対してPRをするんですね。
丁氏:
そうですね。中国のインディーゲームは発売して1ヵ月くらいみっちりと宣伝したらふつうはそこで露出が終わりになるんです。でも、『小三角』はもう1年くらい宣伝しているんですよ。くり返して宣伝するしかないという感じです。
郭氏:
それも昔外資系企業に勤めていた丁さん個人の人脈を活かしたりで。
──個人のつながりなんですね。
郭氏:
あとは、使える自分の時間をすべてPRに捧げてくれているんです。
──熱意ですね。
丁氏:
これからグローバルに宣伝するようになるので、このくらいの努力はしないと(笑)。
──実況は既存のメディアに比べてウェイトは高いんでしょうか?
丁氏:
実況は宣伝とはちょっと意味合いが違うんです。中国の実況者は偏っていて、みんな『英雄聯盟』と同じ騰訊の『王者栄耀』【※1】といういわゆるMOBA【※2】タイトルと、ちょっとだけ『炉石伝説』(Hearthstone)【※3】という3つのゲームばかりしているんです。
※3 Hearthstone......ブリザード・エンターテイメントによる、トレーディングカードを駆使して対戦するビデオゲーム。2014年リリース。同社のビデオゲーム『ウォークラフト』シリーズをモチーフにしたカードによって構成されており、世界大会が催されるほど人気が高い。
だからインディーゲームの実況をしても、観る人は本当に少ない。たとえば『英雄聯盟』を10000人くらいが観るとしたら、インディーゲームは3人くらい。
※1 王者栄耀
騰訊が2015年にリリースした、MOBAゲーム。ヒーローにあたるキャラクターには、元の時代のころまでの中国の歴史上の人物が当てられており、そのほかにもアーサー王や宮本武蔵、アテナ、SNKのナコルルや右京、不知火舞なども登場する。
※2 MOBA
マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナの略。チームに分かれて敵陣制圧を目的とする対戦型アクションゲームのジャンル。『League of Ledends』に代表される。
──そんな差に。
丁氏:
まれに実況を観てもらえても、「難しそうだな」と言って買ってもらえません。というのも、中国のゲーマーはキーボードとマウスで操作するのが主流なんですね。コンシューマーのゲームで、たとえば「コントローラのボタンを長押しすればキャラクターがより高くジャンプする」というのは、教えたとしても咄嗟にできないんですね。そういうことがもう難しいと言われる。そこで『小三角』にはもっと簡単にゲームを楽しめるカジュアルモードを導入したのですが、それをこれから実況者に遊んでもらって、どういう反応が視聴者から返るか様子を見ようと思っています。
──最後に、おふたりのように、中国市場に向けたインディーゲームをこれから開発するとなったときに、後進たちにはどんなアドバイスをされますか?
丁氏:
自分がやっていることをとても愛さないといけないということと、お金はもちろん儲けたいものですが、それは目的のひとつでしかないと考えないと難しいですね。お金儲けだけを目的にすると行き詰まると思います。
郭氏:
まさしくそうで、「好きなことだからやりがいがある」という前提あってのお金儲けでないと続かないと思います。中国のインディーゲームを開発している人は、その大多数がAAAのゲームを作りたいと思っていますが、そこは僕は違うんです。AAAのゲームがゲーマーにもたらす感動と、インディーゲームがもたらす感動はたぶんそんなに変わらない。たとえばラファエロとピカソの絵はぜんぜん別物。でも、絵から受ける力の強さはそう変わりません。ですから、これからもこういうゲームを作り続けたいと思います。(了)
穏やかな口調で身をクネらせながら語る郭氏だったが、現在の中国市場を覆う対戦と課金の一辺倒には辟易している様子で、なんというか、熱くプラットフォーマーのよさを語ったり、「それしか知らないので」と語る姿を見ていると、中国も日本もあまり関係なく、インディーズにはインディーズ魂が宿るのみなのだなあ、と記者は思った。
とはいえ郭氏や丁氏の話から、中国のゲーム市場全体を語るのは早計。彼らはかなり特殊な例でもある。ただ、一介のゲームファンとしては、世界中で郭氏のようなデベロッパーが増え、見たこともないような発想やアートのゲームに出くわせる機会がもっと増えることを祈るばかり。中国の人口の約14億という数字を見ていると、この国からそんなデベロッパーが現れる期待をどうしてもしてしまう。
『迷失島』(ISOLAND)のApp Storeはこちら
『小三角大英雄』のSteamはこちら
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電ファミでは今回取材に同行くださった赤野工作氏と、小説家・渡辺浩弐氏の対談も掲載中。未来のゲーム像をSFとして描く二人が語る、メタフィクションとしてのゲーム語り、そして現実と虚構が入り交じるメタフィクションが持つ魅力とは?
取材・文
小山オンデマンド
週刊ファミ通、ファミ通.comなどを経て、電ファミニコゲーマーに参加。
Twitter:@koyamaondemand
取材
赤野工作
ゲームストリーマー。『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』で作家デビュー。ゲームコレクターとしても活動しており、ニューメキシコ州はアラモゴードに実際に埋められていたATARI 2600の『E.T.』や、中国で国辱と呼ばれているMS-DOS用ソフト『血獅』などを所有。古今東西の低評価ゲームを探しては再評価する活動を続けている。
Twitter:@KgPravda
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