「民主主義の対義語は沈黙である」地下鉄サリン事件後のオウム真理教ドキュメンタリーを、マスメディアの同調圧力に抗った堀潤が語る
ニコニコニュース / 2017年10月17日 12時0分
北朝鮮の最高指導者・金正恩の素顔を描いたドキュメンタリー『金正恩 ~禁断のライフヒストリー(The Last Red Prince)』や週刊文春のスクープの裏側を描いた『直撃せよ! ~2016年文春砲の裏側~』など、テレビでは放送できないような衝撃作や問題作も含め、見たことのないドキュメンタリーを厳選してお届けする「ニコニコドキュメンタリー」。
そんなニコニコドキュメンタリーの新たな企画として、著名人がお勧めのドキュメンタリー作品を紹介する企画を開始。第二弾は、市民記者が最新情報を投稿するニュースサイト「8bitnews」を運営する堀潤氏。同氏が紹介するのは、サリン事件後のオウム信者や教祖の家族の日常を追ったドキュメンタリー映画『A』『A2 完全版』。同作品を通じて、監督・森達也氏はいったい何を伝えようとしたのだろうか。
すべての写真付きでニュースを読む
民主主義を成熟させるには、一人一人の発言・議論が必要
「民主主義の対義語は独裁か」。いや、私は沈黙だと思っている。おかしいことをおかしいと言えず躊躇し、黙ってやり過ごしたり、そうした声を未然に刈り取ってしまうために無言の圧力をかけたりと、沈黙の空気は多様性ある闊達な議論を阻害する最大の有効手段でもある。
独裁の実態は沈黙だ。自戒の念を込めて告白するが、薄々気がついていながら日々の平穏を優先させ、無関心を装いたくなることが私にも時々ある。無知であることは恥ずべきことだとは思わないが、他者の困惑や自分の疑問に対して無視を貫くことは、劣化した心の醸成を招く愚かな行為だと情けなく思うことがある。
未完と言われる民主主義を成熟させるためには、参加者である我々が目をそらさずに発言し、時にぶつかり議論を続けることを怠ってはならないとも肝に命じているが、沈黙を欲するもう一人の自分は常に私の隣に立っている。
対立を避けるために言葉を飲み込み、無言のうちに互いの欲求を察し、緩やかに決定し実行に移していく。これは「慮りだ」と自分を正当化してみたりもするが、本音はただの保身。うまくいけば美談だが、問題が起きるとそれは責任の押し付け合いとなり醜聞に発展する。忖度という言葉で括ってしまっては、語りつくせぬほどのどろどろとした業を抱えて生きていることを常に警戒している。
NHKに在籍しながら自らの組織の報道姿勢を時に批判的に発信し、上司とぶつかり退職の道を選んだのは、そうした警戒心が絶頂に達したことが原因だ。原発事故後に一時局内を覆ったことなかれの空気は、まさに沈黙を求めるもう一人の自分からの誘惑そのもののように感じたからだ。
再稼働を急ぐ政府や経済団体を慮ってか、一住民が抱える不安を伝えるのにも、随分と手続きが必要になった。ここでは詳述しないが、企画が突如ボツになったり、「政治家からのクレームがついたから」という理由で発信内容を捻じ曲げさせられたりしたこともある。
オウム真理教事件の隠れた一面をあぶりだした森達也
作家で映画監督の森達也は今年の春、月刊「創」での連載をまとめた「同調圧力メディア」を上梓している。森は前述したような業を無警戒に受け入れ、本分を忘れたふりをしてやり過ごす日本のマスメディアの現状を、1995年に発生した『オウム地下鉄サリン事件』以降の国家や大衆社会の変質を意識しながら、一人称の語りで解き明かす作品だ。
森はサリン事件後のオウム信者や教祖の家族の日常を追ったドキュメンタリー映画『A』『A2 完全版』で、国内外の映画祭で高い評価を受けた。
精神を病んだ松本智津夫死刑囚への治療を施すことなく、法廷での事件の真相解明を怠る国家の姿勢もあぶりだした。
オウム真理教を断罪し排除することでしか事実を受け入れられない社会に対して一石を投じたが、テレビは森を「使いづらくなった」と評価した。森は犯罪集団だとして社会から断罪される信者達の姿を、常に背中側から撮っている。「ドキュメンタリーは主観的でなくては撮れない」と語る森の姿は極めて現実的で、かえってそれが大衆社会を俯瞰して見せてくれる。
森は常に我々に問うている。原発事故、安保法制、共謀罪など、公益や公の秩序を大義に法制度の強化や情報統制を強める国家権力の有様に警鐘を鳴らし、「社会的に容認された存在にしか光を当てないメディアなど必要ない」と、易き市場原理に身を委ね迎合するメディアへの苛立ちを隠さない。
森が見据えるのはその先、我々一人一人の日常だ。「人は普段着のままで買い物帰りに取り返しのつかない残虐な間違いを犯す生き物だ」と語る。沈黙ではいけない。私とあなたの隣にいるもう一人の私たちの姿に無警戒ではいけないのだ。『A』『A2 完全版』がそう気がつかせてくれる。大いに困惑しながら、自分の心を見つめる日本のドキュメンタリー史に残る作品だ。
寄稿:堀潤
◇関連サイト
・[ニコニコチャンネル]【全編公開中】金正恩 ~禁断のライフヒストリー~
http://www.nicovideo.jp/watch/1504666543
・[ニコニコチャンネル]【全編公開中】「直撃せよ!2016年文春砲の裏側」ニコニコオリジナルドキュメンタリードラマ
http://www.nicovideo.jp/watch/1486228617
・同調圧力メディア
https://www.amazon.co.jp/dp/4904795466
外部リンク
- 任天堂自らゼルダ新作の開発秘話を明かした、伝説の8講演――三角形の法則、確認義務なきデバッグ...名作を生んだ数々の驚異的手法「オープン化」で彼らが問いかけたものを考察
- 将棋を知ったきっかけは『NARUTO』 将棋界初の外国人女流棋士・カロリーナ女流に対し、師匠の片上大輔六段が期待していること
- 映画『ダンケルク』が世界中で大ヒット。『ダークナイト』『インセプション』も手がけた天才監督・クリストファー・ノーランの手法に迫る
- 「アメリカのニュースを真に受けてはいけない」ブッシュ政権下で戦争をエンターテイメントにしたFOXニュースの手法をジャーナリストが解説
- 「憲法改正」について各党首はいったい何を語ったのか?――白熱のネット党首討論・書き起こしまとめ【衆院選2017】
この記事に関連するニュース
-
江川紹子さん、カルトの特徴は「絶対視した価値観を基に行動」…オウム3大事件など「語り継ぐべきだ」
読売新聞 / 2024年7月2日 14時28分
-
オウム遺骨返還訴訟、二審開始 元死刑囚の次女「父返して」
共同通信 / 2024年7月2日 12時40分
-
犠牲者出た跡地に献花台 松本サリン事件、27日で30年
共同通信 / 2024年6月26日 17時6分
-
松本サリン30年「忘れないで」 地下鉄事件被害の映画監督が訴え
共同通信 / 2024年6月25日 19時19分
-
旧統一教会、エホバ…なぜ世間にこれだけ叩かれてもなお、惹かれる信者がいるのか……そのヒントは“カレーライス”にあった
集英社オンライン / 2024年6月6日 19時0分
ランキング
-
1NYで人脈構築の小室圭さん、対照的な生活の眞子さんは「ほとんど外出せず」紀子さまが抱える“複数”の不安
週刊女性PRIME / 2024年7月4日 7時0分
-
2実刑判決で「頭が真っ白に」 法廷に両親の涙 静岡バス置き去り死
毎日新聞 / 2024年7月4日 20時58分
-
3「魚民」の大量閉店は“大正解”か。運営企業「モンテローザ」の“稼ぐ力”は他社を圧倒
日刊SPA! / 2024年7月4日 8時53分
-
4【那須2遺体】長女・宝島真奈美容疑者が遺体発見翌日に応じたTVインタビューで見せた“違和感”について臨床心理士が分析
NEWSポストセブン / 2024年7月5日 7時15分
-
5新潟上越市でマンホール点検中の男性死亡 夕方になっても帰社せず捜索、マンホール内で意識不明の状態で発見
新潟日報 / 2024年7月4日 23時40分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)