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動画アワード2011審査員賞受賞・手妻師、藤山晃太郎「ニコ動も伝統芸能も、わかる人同士で盛り上がるハイコンテキストカルチャー」<うp主インタビュー第2回>

ニコニコニュース / 2012年7月6日 15時0分

ニコニコ動画で人気の曲を邦楽のプロが本気で演奏

 日本の伝統芸能とニコニコ動画。まったく異なる世界の融合が、そこにあった。2011年の1月から3月にかけ、ニコニコ動画に投稿された作品のなかで、最も素晴らしかった動画を決定する「動画アワード2011(春)」で、審査員賞を受賞した「仏曲演奏『法界唯心』」。三味線や笛など一流の邦楽演奏家たちが、ニコニコ動画で人気の同人ゲーム「東方Project」の音楽を演奏したもので、多くの視聴者がその"大人の本気"に驚嘆した。

 この動画の仕掛け人は、"手妻師(てづまし)"藤山晃太郎(ふじやま こうたろう)さん。彼が継承する手妻(てづま)とは、江戸時代より以前から、口伝によって受け継がれてきた伝統的な奇術で、文化庁によって選択無形文化財にも指定されている由緒正しき分野だ。一方で、自らニコニコ動画のヘビーユーザーであると語る藤山さんに、伝統芸能を今に伝えていこうとする想いを聞いた。

(聞き手・森田浩明)

・[ニコニコ動画]仏曲演奏 『法界唯心』 - 会員登録が必要
http://www.nicovideo.jp/watch/sm13449139

■「伝統芸能と異文化の橋渡しをしていければ」

――2009年、藤山さんが初めてニコニコ動画に投稿されたのは、『【新ジャンル】ダブルラリアット 回ってみたでござる【回ってみた】』という作品でした。これは、音楽に合わせてサーカスなどで使われる大きな一輪、「シルホイール」でご自身がダイナミックに回るという動画で、現在45万回再生と人気です。その制作のきっかけは?

 自分のオリジナル芸で、「金輪舞」(手妻の伝承芸の一つ「金輪の曲」にシルホイールの演舞を追加したもの)があります。ニコニコ動画で人気のあった「ダブルラリアット」という楽曲作品が、そのコンセプトにぴったり一致していました。歌詞の「振り回しますので」とか、「動き回りますので」というキーワードが、自分も練習していて、ちょうどこの演技が当てはまるなと考えたり・・・。気付いたらぐるぐると回りながらビデオを撮っていました。

――数ある動画サイトのなかで、ニコニコ動画に投稿しようと思ったのはなぜですか?

 2007年くらいからどっぷりと、いわゆる"ニコ厨"(ヘビーユーザー)だったので自然と・・・。あと、YouTubeにも同時投稿をしています。生真面目でアクの弱い本芸はYouTubeに。ニコニコ動画独自の文化に親しみのある人にしかわからないネタが入っている動画はニコニコに、と分けていますね。

――2011年度動画アワードで審査員賞を受賞した作品、「仏曲演奏『法界唯心』」をプロデュースされました。これも58万回再生と大人気の動画ですが、邦楽の演奏家や本職の僧侶など、プロの方に演奏して頂いた狙いはどこにあったのでしょうか?

 動画という媒体を通すことで、敷居が高いと思われている邦楽に、気軽に触れてもらいたいというのが「法界唯心」の試みです。見てもらえれば、三味線を演奏している杵家七三(きぬいえ なみ)先生や、笛の竹井誠さんの技術や音が本物だってわかる。でも、それにはまず、ユーザーの目に留まるための工夫をしなければと考えました。

――その工夫とは?

 本職の住職であり、ニコニコ動画では屈指の人気を誇る動画投稿者である「蝉丸P」さんに参加して頂き、助けてもらいました。演奏が上手いってだけでは面白くなくて、本職のお坊さんがヘッドホンをして太鼓を叩いている映像が入ると、突然シュールになる。本人たちは、いたって真面目にやっているからこそのおかしみがあり、視聴者にツッコんでもらって、動画全体に笑いが起こるところはニコニコ動画ならではと思いますね。

 

 ツッコミによって動画全体がいきいきとしてくる。ツッコミどころを残しておく、というのは自分の動画作りにおいて大事なポイントだと思います。こうしたコンセプトは、後につくられた「傷林果」という作品にも引き継がれています。

――ニコニコ動画に投稿することで、何か変化はありましたか?

 昨年、自主公演を行った際に、横浜市芸術文化振興財団のニコニコチャンネルをお借りし、公演を有料ライブ配信しました。そこで、「これまで伝統芸能の舞台を見に来たことはありますか?」というアンケートを取ったところ、7割のお客さんが初見。そして視聴者の70%が10代~20代でした。これは驚くべきことです。三味線の世界も奇術界もそうですが、いつもは50~60代の愛好家の方がほとんどで、初めて見るという人は1割いるかどうかです。身内で固まってしまい、なかなか活動が外に開けていかないですから。

――ニコニコ動画によって新たな層を取り入れ、大きく前進したのですね。

 現在、杵家七三先生のところに動画の影響で少なくとも4名のお弟子さんが入門しています。高校生や大学生もいて、これはすごいことだと思います。動画内でも中学生の子が「高校に入ったら部活で邦楽を習おうと思う」というコメントを書いているのを見かけたりして。自分のような、ある程度どちらの立場もわかる者が異文化に対して橋渡しをしていければと思います。今後も、古典が持っている優れた技術を使って、面白い"ニコ厨動画"をアップしていきたいですね。

■「ニコニコ動画も手妻も、わかる人同士で盛り上がるハイコンテキストカルチャー」

――伝統を継承していくにあたり、その歴史が足かせになることもあるのでしょうか?

 伝統というものを継ぐ以上、過去を背負うことになりますよね。そうすると、それを変えてはいけないという力が働くわけです。そのこと自体は大事なことだと思うのですが、そこに縛られすぎて、新たな層との接点を持てないというのはすこし窮屈かなと。ただ、どんな芸能であれ姿を変えずに残っていくというのはあり得ない。過去にあったものをきちんと習い継承しつつも、現代の人たちが楽しめる感覚を取り入れることが大事じゃないでしょうか。

――では、藤山さんが継承していらっしゃる手妻の魅力をお聞かせください。

 手妻の魅力は、西洋のマジックにない、繰り返し見るほどに気付ける深さです。演技の背後にあるストーリー、見立ての型、所作の美しさ。これらは、短い動画が繰り返し見られる現代のメディアと非常にマッチすると思います。たとえば、何かを別の物に見立てる、"見立て"という技法があります。半紙をよじって蝶に見立てる。その蝶を初めて見ただけでは、何の動きをしているのか分かりかねるところがあります。それが繰り返し見ているうちに、蝶がどんな役割をもっているのかが理解できるようになる。

 それに気付けると、その奥にある物語の深みがだんだんと浮かび上がってきます。普通だと、何度も舞台に足を運んで頂いて知る奥深さなのですが、これが動画文化ですと図らずしも、興味を持った方は繰り返し見ることができ、それに気づくことができる、というわけです。

――ストーリーの奥深さを手軽に感じることができるツールとしても、動画文化は有効であると?

 それに加えてニコニコ動画の場合、視聴者自身がコメントを書き込んで補足できるという部分がありますよね。今は動画の制作者側が深い想いや、意図をこめてつくったものを、視聴者が読み取ろうとする風潮があると思います。ひとりがそれに気がつき、その仕掛けをコメントに書き込むことで「なるほど!」と多くの人が気付いたりして、動画全体が面白くなったりする。視聴者も参加して盛り上げていくところなど、とても興味深く感じます。

――ニコニコ動画と伝統芸能には、共通する部分がありそうですね。

 古典の多くは、「わかる人同士で盛り上がるハイコンテキストカルチャー」です。外圧への反抗で技術が伸びるのでなく、職人同士で技を競ってノリノリで盛りあがる。わかっている同士、オタ同士で楽しめるという点が奇しくも非常に似通っています。それから、生舞台と類似して、ニコニコ動画にはライブ感があります。動画を見ている人たちの実時間は朝だったり夜だったり3日前だったり、ぜんぜん違うのですが、コメントを投稿するタイミングによってみんなで一緒にそれを見ているかのようなライブ感が生まれる。そうした盛り上がり方は、舞台芸と非常に似ていると思います。

■「"もっと評価されるべき"動画に注目してほしい」

――今年の「2012年動画アワード」では、どのような動画を期待しますか。

 動画アワードでは、内容が素晴らしいのに評価が不充分なものを注目させる、という機能を持ってほしいですね。2011年の動画アワードで年間グランプリを受賞した「CBR1000RRとC57 1 貴婦人」のように、すばらしい動画なのに、ニコニコ向けではないために今まで注目をされなかったものを発掘し、審査員の先生方がその素晴らしさをご紹介することで、視聴者の関心を惹きつけていけばいいな、と思います。

――ニコニコ流に言うなら"もっと評価されるべき"という部分ですね。

 ただ、もう私の動画は取り上げないでください(笑)。"ニコ厨に楽しんでもらうため"として作った動画を、ニコニコ文化にあまり縁のない審査員の先生にけちょんけちょんに言われるとか何のプレーですかと(笑)。深海魚が深海から引っ張りあげられて、じろじろ見られて「キモイ!」って言われるような心境ですよ、もう(笑)。

――現在、ニコニコ動画ではいわゆる"二次創作"と呼ばれる、いわゆるパロディ文化が人気です。オリジンである日本の古典芸能を伝えていきたいという藤山さんの目にどのように映りますか。

 昔から芸能というのはパクリ、パクられ、という側面があり、決して我々のやっていることはオリジンとは言えません。模倣をガチガチに規制して囲い込むのはあまり良くないと思います。パロディ・オマージュなど、グレーなところを含めての創作性と考えなければ、クリエイトのかなりの部分が死んでしまうのではないでしょうか?

 模倣が許されないなら、芸能に触れる最初のきっかけの敷居があまりにも高くなってしまう。クリエイター推奨プログラム(ニコニコ動画の投稿作品に対して奨励金を支払う制度。創作活動の支援、および二次創作文化の推進を目的)などは、賛否いろいろあるようですが、活動方針そのものは大変素晴らしいことだと思います。

――2次創作も含めてクリエイトであるというお考えですね。

 難しいのは商業用のものの扱いです。ただこれも、2011年1月に経済産業研究所が発表した論文に「YouTubeを典型例として私的コピーによる著作権者の収益減少は限定的。場合によっては著作権者の収入を増やすこともある」という分析があるのをとても興味深く感じました。一次創作者とn次創作者がwin-winになり、創作が多様化される未来を個人的には期待しています。もちろん、度を超して反社会的なものは規制されるべきですけど、何らかの形であいまいな部分に対する緩めるベクトルが欲しいな、とは思いますね。

――本日はありがとうございました。

<了>

◇関連サイト
・[ニコニコ動画]【新ジャンル】ダブルラリアット 回ってみたでござる【回ってみた】 - 会員登録が必要
http://www.nicovideo.jp/watch/sm6745264
・[ニコニコ動画]【邦楽BadApple!!】傷林果 - 会員登録が必要
http://www.nicovideo.jp/watch/sm15183453
・[ニコニコ動画]CBR1000RRとC57 1 貴婦人 【山口県 山口市 島根県 津和野】 - 会員登録が必要
http://www.nicovideo.jp/watch/sm15282971
・動画アワード2012 - 公式サイト
http://blog.nicovideo.jp/award/index.html

(森田浩明)



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