「アントニオ猪木酒場が好きだった」 戦友が明かした「闘うジャーナリスト」日隅一雄さんの意外な素顔
ニコニコニュース / 2012年7月23日 17時53分
東日本大震災にともなう福島第一原発事故で東京電力を追及し続けた、ジャーナリストで弁護士の故・日隅一雄さん(享年49歳)を偲ぶ会が2012年7月22日、都内で行われ、生前親交のあったジャーナリストや読者ら約500人が参加した。日隅さんとともに東電の会見に参加し、『検証 福島原発事故・記者会見――東電・政府は何を隠したのか』を共著したジャーナリストの木野龍逸さんは、「お別れの言葉」として、日隅さんとの思い出話を披露。「戦友」である木野さんから、日隅さんのユーモラスな性格がにじみ出るエピソードが明かされると、会場からは時おり笑いがこぼれ、中継をしていたニコニコ生放送の視聴者からも「www」のコメントが寄せられた。
・[ニコニコ生放送]木野龍逸さんの「お別れの言葉」から視聴 - 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv99950447?po=newsinfoseek&ref=news#38:01
以下、木野さんの「お別れの言葉」を全文書き起こして紹介する。
■新聞記者にも関わらず、なぜか「ゴーストツアー」に思い入れ
最初に一言、「今までありがとうございました」と言いたいと思います。とは言え、いつも笑うのが好きだった日隅さんのことを思うと、僕はここであまりしんみりした話もしにくいので、日隅さんへの贈る話というか、先に死んでしまうと後から何を言われるかわからないぞということを含めて、昔の話をちょっと紹介させていただければと思います。
日隅さんに初めて会ったのは、二十数年前のオーストラリア・シドニーでやっておりました「日豪プレス」というフリーペーパーだったのですけれども、実はこの間、その当時の編集部の仲間から(日隅さんの)印象を二十数年ぶりに聞いたら、「産経新聞から来たわりには、なんでこの人は左寄りなのだろう」というのが第一印象だったようです。
私自身は実家で産経新聞をとっていたので、「こういう人もいるのだろう」と思っていたのですけれども、一方で、なんかこう「新聞記者というのはみんなこういう人なのかな、どうも妙にミーハーだな」と思っていたのが実感でした。
ひとつは、フリーペーパーなので、基本的にはタイアップの記事が多い新聞だったのですけれども、日隅さんは入ってきてすぐに「何か面白いことやりたいね」という話をして。新聞記者が面白いことと言うのであれば、ジャーナリズムとかかっこいいことやるのかなと思ったら、近くに第二次大戦中の検疫所があるのですが、「そこでゴーストツアーをやっているので見に行こうよ」というのが日隅さんの提案でした。
実際に行ってみると、地元の小さな代理店がやっているツアーなので、場所もただの検疫所で特に何か物があるわけでないのですけれども、例えば壁にシミがついていれば、「ああ、あれが顔にちょっと見えるね」というようなものだったのですが、日隅さんはそれを非常に楽しそうに参加していて。あとで嬉々として、記事は書いていたのですけれども、それから何年かしてから、実は「あの時のゴーストツアーはすごく楽しかったね」と言われて、僕はびっくりしたのです。なぜそんなに思い入れがあったのかわからないのですが・・・。
(会場から笑い)
「そういう細かいことを楽しんでいたのだな」と思いました。
■「英語の勉強をしに行こう」 なぜか女性のいるクラブに
またある時は、オーストラリアの30人くらいしかいない小さな会社で、会社のなかで誰と誰が付き合っているということを「なぜ俺に先に教えないんだ」と。なんでそんなことで怒るのだろうと思ったら、「人間関係が大事ではないか」と言っていたのです。基本的には非常に好奇心とスキャンダラスな部分があったような印象が非常に強くありました。
その後帰国してから、すぐに日隅さんが司法試験に受かった時には、やっぱり「ちょっと頭の出来がちがうんだな」と思いました。10年くらい前、よく新宿で夜飲んでいた頃には、夜中12時過ぎくらいに、短いメールで「メシ食った?」っていう一言があったり、「今、大丈夫?」という一言だったりで、夜中に呼び出されて、よくご飯を食べに行きました。
行った先は「アントニオ猪木酒場」というアントニオ猪木さんがやっている賑やかな酒場、居酒屋さんなのですけれども、そういうところが好きだったり、「木野ちゃん、英語の勉強をしに行こうよ」と言って、なぜか女性のいるクラブのようなところにも行ったりしたのです。(私が)「日隅さん、新宿の歌舞伎町で英語の勉強はできないよ」と言い、行ってみるとやっぱり英語の出来る人はあんまりいなくて、残念だとよく思っていたのですけれども、(日隅さんは)全くそんなことは気にしていませんでしたね。
今でも改めて言いたいのですけれども、日隅さんやっぱり歌舞伎町で英語の勉強はできないので、やっぱりそういうのはちゃんと(したところへ)行ったほうがいいと思います。
■「東電の会見に出なきゃダメだよ、僕がメシを食わせるから」
そういうようなことをしていたのですが、一方で先ほどから紹介されていたように、日隅さんが色々な難しい弁護団に入って、事件(の担当)をやっていたのは話をしていましたし、聞いてもいました。ただ、私としては、実際に現場に行ったわけではないので、具体的に日隅さんがどういう役割をしていたのかは全く知りませんでした。
それを改めて知ったのは、3.11の後でした。
僕自身、あの(福島第一原発)事故が気になって、3月17日に東電の会見に行ったら日隅さんがそこにいました。「何をやっているの、こんなところで真っ昼間から仕事もしないで」と言ったら、「木野ちゃん、これ大変なことだからずっと出なきゃだめだよ。僕がメシを食わせるから」と言い、その一言でそれからの一年間(東電の会見に)出続けることになってしましました。
その時は「迷惑な話だなあ」と思ったのですけれども、実際にそれから(東電の会見に)出続けてみると、以前から感じてはいましたが、そこから見えるものはやっぱり「原子力発電所が日本社会の縮図」であること、それを肌身で実感することができました。そこから実際に自分が、あるいは、これからの日本が、何をして行かなければいけないか、ということも実感することができました。その点は非常に感謝しております。
■「2ヶ月以内に本を出そう」 日隅さん、それは無茶です
ただ、病気になった後、僕自身はあまり無理をして欲しくなかったのですけれども、7月の半ばくらい、先ほど紹介いただきました岩波の本(=『検証 福島原発事故・記者会見――東電・政府は何を隠したのか』)を書くきっかけになった日隅さんからのメールがあります。それを読ませていただきます。
「昨晩、早慶の学生のトーク番組がネットであったのですが、学生のあまりのナイーブさ、『こんな重大な事故で東電が嘘をつくはずがない』にショックを受けた。きっと日本の教育のせいか、そのまま社会人になり、今度は『会社の方針』、『嘘は許される』にも疑問を感じることもなく従うのだろうな」
問題はここからなのですけれども・・・
「そこで、東電がいかに多くの嘘をついたのかを事実としてまとめておくことの重要性を痛感。木野ちゃん、共著で3週間以内に仕上げて、2ヶ月以内に(本を)出そう」
日隅さん、それは無茶です。
(会場から笑い)
その時にも言ったのですけれども、本はそんな早く出るものではありませんので、自分の生きるスピードにあわせて周りを動かすのは勘弁して下さい。ただ一方で、その無茶が日隅さんのその後の体調を含めてなんですけれども、年内に作業を終えることができて、1月に本を出すことにも繋がったのだと思います。「無理が通れば、道理が引っ込む」というのも、ある意味、日隅さんのおかげで体感できたわけです。
とは言え、先ほどからこれも話がありましたが、おそらく日隅さんが今回いろいろ蒔いた種というのが育っていくのだと思います。一方で、日隅さんと同じ事をしていると、やっぱりみんなどんどん倒れていってしまうとも思いますので、そこらへんはゆっくりと見守っていただければなと思います。
本当にいろいろとありがとうございました。
◇関連サイト
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(丹羽一臣)
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