「デモでもいいし、デモじゃなくてもいい」 リサイクルショップ「素人の乱」店長、松本哉さん<「どうする?原発」インタビュー第8回>
ニコニコニュース / 2012年9月3日 13時0分
毎週金曜日、東京・永田町にある首相官邸の前で行われている「原発やめろ」「再稼働反対」と訴えるデモ。当初は300人程度ほどの規模だったが、徐々に人数が増え、今や数万人が参加する盛り上がりを見せている。このムーブメントのきっかけの一つとなった出来事がある。福島第一原発の事故から1ヶ月が経った2011年4月10日、東京・高円寺で行われた脱原発デモだ。
「高円寺でデモが行われる」という情報は、チラシやポスターで地域に広がり、さらにツイッターによって拡散され、およそ1万5千人が集まった。このデモの仕掛け人は、高円寺でリサイクルショップ「素人の乱」を営む松本哉(はじめ)さん。福島第一原発の事故以降、脱原発の大規模なデモを6回ほど企画し、実行してきた。高円寺のデモや官邸前でのデモについて聞きに、若者向けの雑貨屋や居酒屋などが立ち並ぶ町を訪ねた。
・特集「どうする?原発」
http://ch.nicovideo.jp/channel/genpatsu
■"頭に来ることがあったらデモをやる"
「デモはゲリラ的に勢いでやる」。1974年生まれの松本さんが、デモという発想を得たのは、大学時代だそうだ。松本さんが通っていた都内の私大では、そのころまだ、ヘルメットを被った活動家が構内を闊歩していたという。松本さん自身も、校舎が建て替わり、学生の居場所なくなっていく時代の雰囲気に疎外感を覚えていたが、「学生運動には共感するものの、あまりセンスは合わなかった」
一方で、松本さんは、デモという形態については評価していた。そのため、大学のキャンパス再開発や授業料値上げに反対するために、大学内にコタツを置き、肉を焼いて、酒を配るという突発的な抗議活動を何度か行うようになる。そのうち、そういった形のデモにハマり、放置自転車撤去に反対する「俺の自転車を返せ」デモなど、「何か頭に来たことがあったら」、デモをやるようになっていった。
高円寺の脱原発デモのきっかけは、やはり昨年3月11日に起きた福島第一原発の事故。「理屈抜きにして、取り返しのつかないことになっている・・・。本当に頭にきた」。しかし、津波の被害を受けた被災地の状況を考えると、デモを行うかどうか、松本さんは悩んだ。やがて事故から2~3週間ほど経つと、テレビでもバラエティ番組が放送され、"日常"が戻ってくる。「結局、なし崩し的に元に戻るんじゃないか」。松本さんはデモの実施を決意した。
そして4月10日。松本さんは「人が本当に多くて、とても新鮮な感じだった」と感慨深そうに回想する。同日、これまでの市民運動家や反原発団体が芝公園(東京都港区)でデモを実行していたこともあり、高円寺に集まったのは、ツイッターでデモの存在を知った人など、初めて参加する20代や30代の若者が中心だったのである。
「『世の中が変わる』までは思わなかったけど、みんなの表情を見て、『世の中が変わっていくんじゃないか』とは思いましたね」
■"日本人は全部人任せにする"
昨年5月、当時の菅直人首相が浜岡原発(静岡県)の停止を要請。7月には、「脱原発依存」の方針を打ち出した。松本さんは、「もしデモを一つもやっていなかったら、今ごろ普通にすべての原発が動いているのでは」と、デモには一定の効果があったと評価する。だが、今年6月の会見で、野田佳彦首相は大飯原発(福井県)3、4号機の再稼働を発表。3号機は7月5日、4号機は7月17日に、それぞれ運転を再開した。
「解決方法が見つかるわけでもないのに再稼働するって、日本の駄目な部分がそのまま出ている感じがします。時間が経ったらウヤムヤになって元に戻るというのは日本の悪い部分ですよ」
日本の悪い部分――。「野田政権のようなものが生まれる日本の社会にも、問題がある」と松本さんは指摘する。「最近、日本人って、全部人任せにするでしょう?何かあったらすぐに警察を呼ぶとか、お上に任せている部分が多い。そういう自分で考えたり解決しようとすることを放棄した社会が、『原子力村』を生んだ元凶なんじゃないか」
「今すぐ廃炉に着手しても、短期間での全廃が不可能なのは分かります。だけど一刻も早く、原発はなくした方がいい。『エネルギーをどうするんだ?』『代替案を出せ!』という反論がありますが、とてもじゃないけど原発が人類に扱えないものだと分かった以上、まず原発をなくして、そこからみんなで考えなければならない」
■「面白い世の中にしたい」
再稼働が発表された6月ごろから、脱原発の声が激しくなっていった。「(大飯原発再稼働を発表した)野田首相の会見は、完全に開き直っている感じがあった。あれで火がつきましたね」。松本さんによると、官邸前のデモの主催者が地道に活動を続けてきたこともあり、「官邸前のデモは、気軽に参加できるくらいにハードルが下がっているのでは」という。
キャンドルを片手に「脱原発」を訴え、国会を取り囲むという特別のアクション「国会大包囲」が7月29日に行われた。一方、このような官邸前での大きな盛り上がりとは対照的に、松本さんの「素人の乱」が主催する脱原発デモのペースは少し落ちているという。「官邸前も盛り上がっているし、個人的には、今、大きなデモを仕掛ける気にもならないんです。あと実は、反原発デモばっかりやっている活動家みたいに思われるのも、ちょっと嫌なんです(笑)。自分は、別に活動家じゃないから」
それでも松本さんは、一参加者として官邸前のデモにも何度か向かった。「原発をなくすべき」という考えにブレはなく、これからもアクションは続けていく。ほかにも、商店街の副会長として地域を盛り上げる活動にも取り組みつつ、仲間と共にカフェや居酒屋など"場所づくり"を基本にしたいと語る。
「粘り強く脱原発の意思表示をしていく。ただし、それはデモでもいいし、デモじゃなくてもいい。デモだけをやっていても勝てない。デモ以外のこともやっていかないといけない。今は居場所がないため、世知辛く、孤独にもなりやすい。僕は、くだらない"場所"をたくさん作って、面白い世の中にしたいんです。そういうことが脱原発にもつながるんだと思います」
■松本哉(まつもと・はじめ)
1974年、東京生まれ。法政大学入学後、大学の再開発計画に反発し「法政の貧乏くささを守る会」を結成。学食値上げ反対闘争などを行う。卒業後、2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」を開店。福島第一原発事故後は、脱原発デモを主催している。主な著書に「貧乏人の逆襲!」などがある。
◇関連サイト
・特集「どうする?原発」
http://ch.nicovideo.jp/channel/genpatsu
(山下真史)
【関連ニュース】
- 東京・高円寺のリサイクルショップ「素人の乱5号店」店長、松本哉さん
- 「祝祭的脱原発デモは日常化し、分散する」 社会学者、毛利嘉孝さん<「どうする?原発」インタビュー第7回>
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