“なんでもあり”な『ドラクエ3』RTAがヤバい。「ファミコンを合計350台購入」「ホットプレートで本体の温度管理」──ついにはラスボスのゾーマを倒さずにクリアするチャートが開拓される
ニコニコニュース / 2021年12月29日 11時0分
『ドラクエ3』なんでもありRTAというジャンルをご存じだろうか。
ひと言で表すと、『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』(エニックスより1988年2月10日発売)を「どんな手段を使ってもオーケー(データの事前仕込みなし)な条件で最速クリアを目指す」わけなのだが……そのタイム短縮術が常軌を逸していた。
個体値の高いファミコンを求めて本体を合計350台購入する。
ホットプレートを駆使してファミコンの温度を管理する。
プレイ中に『ドクターマリオ』、『星のカービィ』、初代『ファイナルファンタジー』のカセットと入れ替える。
ファミリーベーシックを使ってコードを入力する。
これらのアクションでなぜタイム短縮を狙えるのか。その原理も、この方法を試そうと思い至った経緯すら想像できない。
そんな未知の世界に迫るべく、今回ニコニコニュースオリジナル編集部では、『ドラクエ3』なんでもありRTA走者であり、国内最大のRTAイベント「RTA in Japan Winter 2021」にも出走するばくぜろさん、ひっしーさん、ピロ彦さんにアプローチ。
最終的には室温28度、鉄板温度28度、本体基板温度27度の運用を目指します。窓はスタイロフォームで断熱済み、エアコンの電源工事、取り付けもしました。温度計は鉄板と基板温度の2系統。操作は互換機改造ジョイカードmk2(連射あり) ドラクエ3は初期ロットのMMC1搭載モデルを使用します。#RTAinJapan pic.twitter.com/6JdMvTZIXj
— Hitsheegame@ホットプレート使い (@Hitsheegame) December 24, 2020
昨年の「RTA in Japan」でも話題になったホットプレートが具体的にどのような効果をもたらしているのか。なぜこのようなトンデモナイ手法を思いついたのか。知られざる『ドラクエ3』なんでもありRTAの世界を覗き見すべくお話を伺った。
……のだが、どうやら『ドラクエ3』なんでもありRTAはさらに次のステージに進んでいたようだ。ホットプレートによる温度管理チャートから別次元に進化した新たなチャートでは、なんとラスボスであるゾーマすら倒さないでクリアをするらしい。
合計350台ものファミコンを購入して最強の本体を厳選
──『ドラクエ3』RTAのタイム短縮のためにホットプレートを使うというちょっと意味がわからないテクニックは、一時Twitterトレンドにも入るほど話題に(参考リンク)なりました。そもそもの疑問なのですが、なぜゲームのRTAでホットプレートを使うことになったんでしょう?
ひっしー:
それについてお答えするには、「電源ON/OFFバグ」と「ファミコンの個体値」から説明する必要がありまして。
──「ファミコンの個体値」……いきなりすごい単語が出てきましたね。
ひっしー:
『ドラクエ3』のなんでもありRTAでは「電源ON/OFFバグ」というバグを使っていたのですが、このバグを発生させて生じる結果(所持アイテムや覚えている呪文など)がファミコンごとに違うんです。
最速でのクリアを目指すには、ラストダンジョンに入るための“にじのしずく”というアイテムを所持していて、最後の町であるリムルダールにルーラで移動でき、鍵開けに必要なアイテムか魔法があって、かつラスボスのゾーマを倒せる戦力が揃っている必要がある。そのデータを錬成できる本体があるかどうかが重要だったんです。
──な、なるほど……。いい記録を出すためには、いかに強いデータを出せるファミコンを持っているかが大事だったと。
ひっしー:
はい。だから記録のために最強の本体を求めて買い漁っていたんですが……いつの間にか350台も買ってしまっていました。家に置いておくだけでもスペースをとるので大変です。
──350台!? も、もしや『ドラクエ3』なんでもありRTA界隈ではそのくらいファミコンを買いまくって厳選するのが常識なんですか?
ばくぜろ:
いえ、うちは20台くらいですね。
ピロ彦:
僕は2台のみです。
ひっしー:
僕がちょっと特殊なんだと思います。ばくぜろさんが当初最強に近い本体を持っていて、ピロ彦さんも2台のうち1台が偶然にも神本体だったので、それが羨ましくて本体を買い漁っていたらこんな台数になってしまったんです(笑)。
──それを聞いて少し安心しました(笑)。
ピロ彦:
ただ、うちのファミコンは部屋を寒くしないといけないという欠点を抱えていまして。
──部屋を寒く……?
ピロ彦:
このバグ、じつは同じ本体だったとしても温度によって結果が変わってしまうんです。うちのファミコンは温度が上がりすぎると、賢者の枠が遊び人になってしまって、タイムに影響が出てしまうので苦労しました。
──温度によって結果が変わる……ホットプレート使用の理由がなんとなく見えてきた気がしました。
ピロ彦:
僕は純正のファミコンを使っているんですけど、古いぶん本体の発熱が強くて42度くらいまで上がってしまうんですよ。
だから本体が熱くならないように部屋も冷やして、室温18度くらいでRTAをやっていました。幸いにも、僕は家が北海道にあるので、冷やす手段には困りません。
ばくぜろ:
うちは28度くらいがちょうどいいですね。ファミコンではなく互換機の“FCテックプラス”という本体を使っていて、こちらは回路がひとつにまとまっているぶん本体の温度もそこまで高くはならないんです。
ふつうにプレイしていればだいたいそのくらいにいくので温度管理はしやすいです。ただ、僕のエース機はほかのおふたりに比べると、バグ後に出てくるキャラクターがちょっと弱いんです。安定性は高いけどベストタイムでは一歩譲る感じですね。
──28度以外の温度になるとどのような変化が?
ばくぜろ:
うちの場合は30度を超えてしまうと、重要なアイテムである“にじのしずく”が出にくくなってしまう傾向があるんです。なので、一時期は保冷剤で30度を超えないように冷やしながらプレイしていました。
ひっしー:
僕もばくぜろさんと同じFCテックプラスを使っていて、基本的にはやっぱり28度から26度くらいががいいんです。だいたい室温が20度のときの平均温度なので、温度管理もしやすくて安定性もある。ただ、僕が持っているものは39.5度から40度にかけてもいいデータを出せるポイントがあったんです。
──ひっしーさんのファミコンの28度前後と40度付近ではどのような違いがあるのでしょう?
ひっしー:
まずひとつは、“にじのしずく”出やすさが高いこと。加えてパーティーメンバーにレベル99のアタッカーが増えるか増えないかの差があるので、タイムにもけっこう影響してくるんです。
去年のRTA in Japanのときは、28度とか29度を狙っていたんですけど、今ではタイムの安定性を高めるために40度近くまで上げる手法に変えています。
ピロ彦:
ホットプレートが話題になったときには「ファミコンを加熱するなんて!」みたいに言われることもありましたけど、実際は互換機をファミコンの温度に近づけているだけなんですよね。
偶然が導き出したファミコン温度管理の概念
──ここで新たな疑問が出てきました。温度によって結果が変わるのって、どういう経緯で判明したことなんでしょう?
ばくぜろ:
去年の10月ころ、僕が引っ越しをしたんですが、引っ越しをした途端、それまで出ていた“にしのしずく”が突然出なくなってしまったんです。
ひっしー:
それでTwitterやなんでもありRTAのDiscordで大騒ぎになって、いろいろ検証していったんです。ACアダプターは同じの使ってる? とか。
ピロ彦:
電力会社の周波数は変わってない? とか。
ばくぜろ:
そうそう。オーディオマニアの方は電源にこだわるという話もありますし、そういうところから影響が出ているんじゃないかって、いろいろ検証していったんです。突き詰めていった結果、温度が影響しているということが判明して。
ひっしー:
それで僕もホットプレートを使ったら温度を調整できるんじゃないか、と思って試した結果、実際に結果が安定してきたんです。
──おお、ここでホットプレートが登場するんですね。
ひっしー:
はい。最初は冗談半分だったんですけど、データをとっていくと本当に温度管理が大事らしいことがわかっていって、そこから状況も変わっていきました。
ばくぜろ:
保冷剤を使ってみたり。
ピロ彦:
室温を下げて、アルミ板をファミコンの下に敷いて温度を下げようとしたり。
ばくぜろ:
それまでは僕の本体がかなりいいデータを出せていてほぼ独走状態だったんですけど、温度管理の概念が生まれてからはほかの皆さんもタイムが伸びてきたんですよね。
ひっしー:
温度管理の概念がなかったときはばくぜろさんの本体が強くて。例えば自分の本体だと“にじのしずく”が全然出なくて、30回に1回くらいしか最後まで走り切れなかったんです。ばくぜろさんは3、4回に1回は走れるので、その差が圧倒的だったんです。
でも温度管理という概念が発見されて、これは「極めるしかない!」と思い立ってホットプレートを購入しました。最終的に10台くらい買っています。
──10台も!? いやはや……温度に対するこだわりがすごいですね。
ひっしー:
ただ……この温度管理の概念も、ピロ彦さんが全部ぶっ壊しちゃったんですよ(笑)。
──えっ!?
ラスボスのゾーマを倒さないで『ドラクエ3』をクリアする
──全部ぶっ壊した、とはまたすごいワードが出ましたね。詳しく教えていただけますか?
ピロ彦:
ちょっと意味がわからないと思うんですけど、まず『ドラクエ3』をクリアするために『ドクターマリオ』など『ドラクエ3』以外のソフトを本体に差して、そのメモリの状態を『ドラクエ3』に持ち帰ることで任意のコードを実行させるんです。
──なるほど……?
ピロ彦:
簡単に言えば、これまでは本体の個体値や温度に左右されていたバグの結果を任意で、こちらの望むように実行できるようになったんです。
そのために『ドクターマリオ』、『星のカービィ』、初代『ファイナルファンタジー』の3本を使って必要な値をとってくる、というのが最初の任意コード実行でした。
──???
FC版DQ3カセット差し替え任意コードRTAチャートは一応ここに置いておきます。
— ピロ彦 (@pirohiko) April 5, 2021
このリンクがずっと見れるかは不明だけど。https://t.co/T90U4q3QEQ
ひっしー:
去年の12月まではみんな温度管理チャートで走っていたんですけど、今年の1月に任意コード実行が登場してタイムが一気に短縮されたんですよ。
ばくぜろ:
任意コード実行にも何種類か方法があるんですけど、今年のRTA in Japanだと僕がいま話に出た3本のソフトを使う方法で走る予定です。
ピロ彦:
でもこの方法だと、ソフトの入れ換えなどで時間がかかってしまうんですよね。
そこで、ファミコンでゲームプログラミングをするためのソフト『ファミリーベーシック』を使うことにしたんです。これと専用のキーボードでコードを入力した後に『ドラクエ3』を起動して、任意コードを実行することでクリアできるんです。
──もはや何のRTAなのかわからなくなりそうですね。任意コード実行はどのように発見されたのでしょうか?
ピロ彦:
僕は長年TAS【※】をやってきたので、コードが読めるんですよね。
※ツール・アシステッド・スピードラン:エミュレータ上で操作を行うことで人間にはできないようなプレイを行うプレイスタイル。
おかげでバグを細かく見ることができて、バグったアイテムを使うとフリーズしてしまうのはとあるアドレスを読み込んでいるのが原因らしい、じゃあそこに何か置けば好きなことができるんじゃないか、と思ったんです。
──そして狙い通りにコードを実行させることに成功した。
ピロ彦:
最初はチートを使うなどして再現していましたが、RTAのチャートとして成立させるには実機で実行できないといけないので、そこには苦労しました
2P側でセレクトボタンを押さないといけないけどファミコンの2P側にはセレクトボタンがないから、そのためにジョイスティックを買ったりして、失敗を重ねながらトライした結果いまの任意コード実行に辿り着けました。
ひっしー:
任意コード実行の影響は本当に大きいんですよ。去年のRTA in Japanから変わった点として、今年は全員がラスボスのゾーマを倒さないでクリアしますから。
──まさに“なんでもありRTA”ですね。しかし一方で、あれだけ話題になったホットプレートが過去のものになってしまうのは寂しい気もします。
ひっしー:
やっぱりスピードランでは速さが正義なので、そこは仕方ないですね。でもやっぱり温度管理チャートは走っていて楽しいんですよ。
ピロ彦:
そうなんですよね。寒くなってくると「そろそろ『ドラクエ3』の季節かな」なんて思いますし(笑)。
ひっしー:
僕も含めて好きな人はいまだに温度管理チャートで走っているんです。タイムとしても去年16分くらいだったのが今は10分を切るところまで来ていますからね。この前も新しいホットプレートを買いましたよ(笑)。
──RTA in Japanに関係なくホットプレートチャートは生きているんですね。
ひっしー:
そうなんですよ。新しいホットプレートは本来実験で使うような0.1度単位の調節ができるもので、より緻密な温度管理ができるようになっています。
3人の出会いは『ドラクエ3』なんでもありRTAのDiscord
──現在、『ドラクエ3』のなんでもありRTAに挑んでいるみなさんですが、初めて『ドラクエ3』を知ったときのことって覚えてらっしゃいますか?
ばくぜろ:
僕はものごころついたときにはファミコンが家にあって、小学校に入って「あいうえお」を勉強し始めたころに『ドラクエ3』で初めてRPGに触れました。
そのころはゲームシステムやストーリーについてはよくわかっていませんでしたが、敵を倒してレベルが上がっていく感覚は楽しかった覚えがあります。
ひっしー:
当時、『ドラクエ3』は社会現象になっていた気がします。ひとつ記憶に残っているのが、父親が『ドラクエ3』の発売日に「これも勉強だ」と平日の午前中に連れ出していっしょに買いに行ったんですよね。
──すごいお父さんですね。
ひっしー:
当時は、「うちの親大丈夫か?」と思ったものですが、今になって思い返すと貴重な社会勉強だったなと。
ピロ彦:
小さいころは特定のソフトをどっぷりハマるようなことはありませんでしたけど、『ドラクエ3』は父が遊んでいるのを後ろからよく見ていました。
ひっしー:
自も兄がプレイするのを見てました。それでストーリーは全部知っている状態でプレイすることになるんですが、それでもすごく楽しかったです。年に1本、2本しかゲームを買ってもらえなかったので、全裸縛りなどいろいろな方法で遊び尽くしました。
──RTAを知ったり、実際にご自身で走るようになったのはどのようなきっかけが?
ばくぜろ:
2007年くらいからニコニコ動画で動画を見るようになって、ゲームのやりこみ動画を投稿されていたboxさんという方が生放送で『ロマンシング サガ3』のRTAをやっていたんですよね。
RTAを見たのはそれが初めてで、最初は何をやっているのかわかりませんでしたけど、何かすごいことをやっているなという印象でした。
それから3年ぐらい経った後に自分でもRTAをやってみたくなって、ニコニコで自分のコミュニティを作ってRPG制作ゲームの『RPGツクール3』に収録されていたサンプル作品のRTAをやったんです。当時『サガ』シリーズのRTA大会があって、そこに参加するためにゲームボーイの『Sa・Ga2 秘宝伝説』のRTAを始めました。
ひっしー:
RTAを知ったのは2009年ごろで、綿棒さんという人が『スーパーマリオワールド』のRTAをやっていたのを見たのが最初ですね。自分の知らないバグ技とかも駆使してすごい早さでクリアしているのを見て、この人はヤバいなと。それからほとんど毎日見るようになったんですけど、当時は仕事が忙しいのもあって見る専門でした。
でも2017年の2月ごろにスーパーファミコンのゲーム大会を開くというので誘われて、種目のひとつに『ストリートファイター2』があったから出場したんです。タイムアタックとスコアアタックを組み合わせた、RTAっぽさもある種目で優勝したんですよね。
そこで「RTAにも挑戦してみれば?」と言われて3月くらいにRTAを挑戦し始めて、コツコツやっていたらいつの間にか海外の記録を超えていました。なのでRTAを始めたのはかなり遅いほうですね。
ピロ彦:
僕は最初TASから入っていて、SDA(スピードデモアーカイブ)というサイトの動画を見ていたのが最初ですね。
小さいころからバグが好きで、とくに『ゼルダの伝説 夢をみる島』は“スクロールバグ”と呼ばれるようなもので遊んでいました。その『ゼルダの伝説 夢をみる島』のTASを見て更新できるんじゃないか、と思ったのをきっかけにTASを触り始めて、そこからRTAも走るようになっていった感じです。
そうすると今度は「RTAでこのTAS技を再現するにはどうしたらいい?」みたいな相談を受けるようになって、人力ではむずかしいと思いつつもこうやったらできるかも、と答えたらそれを実現してくれる人がいたんですよ。その影響はけっこう大きくて、おかげでギリギリできるかわからないようなことにも挑もうと思えている部分はあります。
──お話を聞いていると、3人それぞれRTAへの入りかたが違いますが、みなさんの交流ってどんなきっかけで始まったんでしょう?
ひっしー:
僕は元々ばくぜろさんのリスナーだったんですけど、去年の9月ごろにやわらかさんという方が、『ドラクエ3』なんでもありRTAのDiscordを作ってくれて、そこにみんなが入ってきて顔合わせたという感じでした。数人規模のコミュニティなのですが、情報交換をはじめ密度の濃いやりとりをさせてもらってます。
──情報交換はライバルを強くすることにもつながると思うのですが、そのあたりは気にされないのでしょうか。
ばくぜろ:
情報交換をしても、ほかの人のチャートをそのまま再現するのは不可能なケースが多いんですよね。
ピロ彦:
本当に、ひとりひとり本体によって事情が変わってきますし。
ひっしー:
むしろお互いに情報を出さないと何もとっかかりがないので、逆につらいと思います。誰かのアイデアから閃きが生まれることも多いので、情報交換は大事ですね。
『ドラクエ3』のRTAなのにドラクエ以外のゲーム画面が見られる
──そんな3人が今回の「RTA in Japan Winter 2021」で出走する『ドラクエ3』RTA“Any%任意コード実行”って、ひと言で表すとどんなレギュレーションなんですか? 「なんでもあり」と何が違うのかいまいちわからなくて。
ばくぜろ:
簡単に説明するのがむずかしいのですが、先ほども話に出た通り、ファミコンのCPUが読みとるコードをどこかに用意して、それを実行させるのが任意コード実行です。
今回のRTAは何かしらの方法でコードを作成して、ほかのバグで生まれるバグアイテムを使うことでそのコードを実行してゲームをクリアする、というものですね。
ピロ彦:
基本的になんでもありなんですけど、事前に作ったデータを利用するのだけはナシになっています。だからクリアデータを用意して読み込む、みたいなことだけが禁止で、リアルタイムにやるぶんには何をしてもいい感じですね。
ばくぜろ:
『ドラクエ3』のエンディングフラグはカートリッジ上のデータにあるんですけど、「電源ON/OFFバグ」でいじれるのは本体側のメモリで、カートリッジ側のデータは自由には動かせないんです。それを無理矢理書き換えるために、いろいろな工程が必要になってくるんです。
ひっしー:
セーブデータ、ぼうけんのしょを書き込むような場所にフラグを保存せざるを得なかった、という『ドラクエ3』の仕様上、ほかのゲームに比べて書き換えが難しくて。
ピロ彦:
電源ON/OFFバグが使えないTASの場合、ルビーバグとして有名な棺桶バグを利用して任意コードを調整することも可能ですが、それだと時間がかかりすぎるので『ドラクエ3』の任意コード実行TASの制作は構想だけのものになってました。
それで電源ON/OFFバグを利用すればRTAなら速くクリアできるのではと思った次第ですね。
──なるほど……とにかく「データを事前に仕込むのはなしだけど他はなんでもありで最速を目指す」ってことですよね。では最後に、今回のRTA in Japanでここに注目して見るとより楽しめるよ、的なポイントとがあれば教ていただけないでしょうか。
ばくぜろ:
僕がやるのは最初期のチャートで、さっきも話に出た『ドラクエ3』以外のソフト3本を使ってクリアするチャートです。
当日もカメラで映すと思いますが、いちばんタイムを分けるポイントになるのはカセットを交換するスピードですね。僕のチャートはソフトを計4本使うので、『ドラクエ3』のRTAなのにたくさんのゲームの画面が見られるのが見どころだと思います。
ピロ彦:
僕とひっしーさんは『ファミリーベーシック』を使ったコード入力を行うので、タイピング速度がタイムに関わってくるポイントではあります。
『ドラクエ3』のRTAでタイピング速度っていうのも変な話ですけど……(笑)。これは本当に練習しないとですね。
あと、ファミコンで出来るかわからなかった禁断の技に成功してしまったので、本番をお楽しみください。
──禁断の技……!! 楽しみなような怖いような……。
ひっしー:
僕は、やることのベースはピロ彦さんと同じなんですけど、僕の場合は使用する機材が多いんです。“電撃ボタン”と呼んでいるコントローラーを使って、特定のタイミングでショートさせることで本来起こり得ない挙動をさせてイベントをスキップするので、そこがピロ彦さんとの違いであるので注目してもらえるとうれしいです
僕はプログラム的な部分は一切わからないので、神であるピロ彦さんから伝えられた聖典を紐解いて、そこに人間の知恵を入れて戦っている感じですね(笑)。電撃ボタンって何だ、というところに注目してもらえればと。
──なるほど。三者三様の走りで画面はカオスになりそうですね。
ひっしー:
今回は、4͛S͛T͛さんと姫榊みみさんに解説を担当していただくので、そちらも楽しみにしていただければと。
ちなみに、『ドラクエ3』のなんでもありRTAに関しては4͛S͛T͛さんが完全に元凶なんですよ。4͛S͛T͛さんが視聴者から情報をもらったバグの検証動画を上げて、そこからみんなRTAいけるじゃん、ってなっていったんですね。その元凶たる4͛S͛T͛さんが実況ということで、そこもおもしろいんじゃないかなと思います。
(了)
ゲームのRTAになぜホットプレートが使われているのか。取材を通してその原理や経緯についてはある程度理解できたつもりだ。
しかし、それを知ってなおホットプレートの上で焼かれている(正確には焼かれていないが)ファミコン本体の景色は非常にシュールなものであることに変わりない。
しかし、ホットプレートを使ったRTAはいまや過去のもの。
温度管理という概念から解脱し、『ドラクエ3』以外のカセットを入れ替えたり、ファミリーベーシックでコードを入力したり、さらにカオスなテクニックを駆使し、最速でゴールを狙う。
これにより、ラスボスのゾーマを倒さずにクリアするチャートが開拓された。つまり『ドラクエ3』なんでもありRTAの世界線ではもうゾーマは倒されないわけだ。さよならゾーマ、そして安らかに眠れ……。
―「やりこみゲーマー列伝」シリーズ―
・のんびり農業とは無縁な『天穂のサクナヒメ』RTAの世界──「ダッシュ機能がないけどダッシュは必須」「稲作を利用して時間を飛ばす」世界記録保持者・ratiltさんインタビュー
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2022年1月「〇〇動画応援月間」のテーマ・ジャンルは「RTA(ゲーム)」
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