『ポケモン』クリアのために現実でひまわりを栽培。過酷溢れるヒマナッツ縛りのリアル──レベル2ビッパに負けるしゲーム実況なのにガーデニング知識がないと詰みかける
ニコニコニュース / 2022年2月16日 11時0分
『ポケットモンスター』。1996年に発売された『ポケットモンスター 赤・緑』から始まり、25年以上に渡り世代を超えて多くのプレイヤーを魅了する国民的人気ゲームである。
最初にヒトカゲを選んだらタケシ戦で地獄を見た、シロガネ山にレッドがいて驚いた、何日も何日も自転車をこいで卵を孵化させ続けた、メガシンカ・ダイマックスなどの新要素追加にワクワクした……世代により初めて触れたシリーズは異なるだろうし、思い出もさまざまだろう。
だが、シリーズが違えど、博士からポケモンをもらい、草むらで野生のポケモンと戦い、ときにモンスターボールで捕まえて仲間にする。そしてレベルを上げてクリア(殿堂入り)を目指す、というのはトレーナー共通の体験としてあるはずだ。
そんな『ポケモン』において、現実でひまわりを栽培しすることでゲームクリアを目指すという、謎過ぎる縛りプレイに挑戦する者がいた。その者の名はマサ(社畜王子)(@masa1225kami)。
「『ポケモン』をクリアのために現実でひまわりを栽培する」とはどういうことなのか?
まず、使えるポケモンはヒマナッツのみ。これだけでも大分しんどい縛り条件だ。ヒマナッツの種族値は180。コイキングやキャタピーより低い。
さらに、このヒマナッツはレベル1から育てることになるため、序盤はたとえビッパ(レベル2)相手でも苦戦は必至。連続で「たいあたり」されるだけで儚く散ってしまう。
もしHPが0(ひんし)になってしまったら、そのヒマナッツはもう使用できなくなる。いくらレベルを上げようが、何時間かけて育成しようが、この縛りプレイではただ一度の敗北でパーティから消え去る運命にある。
そして、ここからがこの縛りプレイのキモなのだが、ヒマナッツがひんしなったら、ゲームから現実に場を移しひまわり栽培が始まる。植木鉢にひんしになったヒマナッツの名前をつけたひまわりの種を植え、発芽したらそのヒマナッツは戦線に復帰できる、というルールだ。
しかし、逆に枯れてしまったらそのヒマナッツは二度と使えなくなる。ゲームの縛りプレイなのになぜかガーデニングの知識が求められる。不思議な縛りプレイとしか言いようがない。
その奇抜さに反して、縛り難易度じたいも相当なもの。手持ちがヒマナッツのみだとただの草むらを進むのすら命がけであるし、現実のひまわりは育てかたを間違うとすぐに枯れてしまう。
ゲーム内では能力的に貧弱なヒマナッツを育て、現実ではひまわりを育て……その様子はまるでゲーム内の苦行を現実にも持ち込んだような大変さにも見える。
「本当にクリアできるのか?」と疑問を抱いてしまうほど厳しい縛りを自身に課し、信じられないほどの時間と労力をゲームに注ぎ込むやりこみゲーマーの頭の中に迫るシリーズ「やりこみゲーマー列伝」。
やりこみプレイの準備だけに半年以上かける者、バグを見つける技術を高めるためプロのデバッガーになった者……みな、常人には理解できないゲームにかける狂気じみた情熱を持っていた。
今回お話をお聞きするマサさんは、果たしてどのような気持ちで縛りプレイの世界に身を置いているのだろうか。
自分が楽しむために縛り条件の難易度は高く。縛りプレイ中は当然苦しいがそれが楽しさでもある。そして「詰んだら詰んだ状況を楽しめばいい」と語る、マサさん独自のゲームの楽しみかたがそこにはあった。
ムックルやホーホーでもぎりぎりの戦いになるヒマナッツ縛り
──ヒマナッツ縛りプレイの動画ですが、培養土に肥料を混ぜて土作りをしたり、ゲリラ豪雨がきて雨避けを作ったり、虫食い対策をしたり、ゲーム実況動画とは思えない絵面で最初は驚きました。
マサ:
そうですね(笑)。配信や動画では、ひまわりの成長過程も映しているので、ゲーム実況に見えないところも少なからずあると思います。
──「ヒマナッツのみでクリアを目指す。ひんしになったら現実でひまわりを栽培する。発芽したら使える」というこの縛りですが、とくに大変な部分ってどのあたりになるんでしょう?
マサ:
序盤から終盤まで全部ですね。ご存じかもしれませんが、ヒマナッツってあまり強いポケモンではないんですよ。
レベル1の状態からスタートすると、最初の草むらに出てくるムックルやホーホーにもぎりぎり勝てるか勝てないか。洞窟でたくさん出てくるズバットも天敵です。くさタイプの技のダメージは4分の1になってしまうし、素早さが高くてなかなか逃げられない。
縛りのルールで、ひんしになったヒマナッツは使用できなくなってしまうので、とくにレベルの低い序盤では野生のポケモンとの戦いでも死に物狂いではあります。
──一度ひんしになってしまったら使えなくなるのは非常に厳しいルールに感じます。試行錯誤を重ねて……というのができなくなってしまうような。
マサ:
ひんしになったヒマナッツの名前をつけたひまわりを現実で栽培して発芽すれば再度使えるようになるので、そのあたりは問題なくプレイできました。
──なるほど。とは言え、ヒマナッツの種族値は合計180。コイキングやキャタピーよりもさらに低いです。やっぱりレベルをめちゃくちゃ上げて攻略していくんでしょうか?
マサ:
普通にプレイする以上にレベル上げが必要なのは間違いないんですが、レベルを上げ過ぎるとまた別の問題が出てくるんです。
──別の問題?
マサ:
はい。この縛りプレイで育てるヒマナッツは、ほかのゲームから連れてきているので、一定のレベルを超えると反抗期のようにトレーナーの言うことを聞いてくれなくなってしまうんですよ。
──反抗期(笑)。
マサ:
反抗期に入ってしまうと、バトル中に昼寝したり、いうことを聞かなくなったりするので、基本は反抗期に入る直前でレベルを止める必要があります。ですので、ひたすらレベルを上げて攻略というのは難しいんですよね。
ジムバッジをゲットすることで反抗期に入るレベル上限が引きあがっていくので、その上限ぎりぎりまで育てて、あとは戦略や試行回数でなんとかする必要が出てきます。
──レベルでのゴリ押しができないのは辛いですね……。
マサ:
ただ、ゲームの中で何度挑戦してもなかなか勝てない……というのはじつはそこまで辛くはないんです。何度も負けてたとしても、「そのうち勝てるはずだ」と思えるので。心情的に一番キツかったのは、「ひまわりが枯れるかもしれない焦り」との戦いです。
──と言いますと?
マサ:
ゲームの中では何度もトライできても、現実でひまわりが枯れてしまったらやり直しはできないんです。ひまわりは夏の植物ですので、秋になったら自然と枯れていくんですよね。そうじゃなくても育てかたが悪くて枯れてしまうこともあって。
一時期、8個の植木鉢にあったひまわりたちが、同時に枯れかける事態になってしまって、「やばいやばい!」と焦りながらプレイを進めることもありました。
とくに苦戦したトレーナーはアカギ、レッド、むしとりしょうねん
──「何度も挑戦すればいつかは勝てる」と思っていても、ヒマナッツで挑むとなるとトレーナーとのバトルは苦戦の連続だと思います。縛りプレイのなかでとくに苦戦したトレーナーがいたら教えてください。
マサ:
とくに苦戦した相手……思い浮かぶのは、『ダイヤモンド』ギンガ団のボス・アカギ、『ハートゴールド』のレッド、そして『ハートゴールド』のむしとりしょうねんの3人でしょうか。
──むしとりしょうねんですか!? 強いイメージはあまりないのですが。
マサ:
『ダイヤモンド』でNPCと一緒に行動するときに、むしとりしょうねんとミニスカートとの2対2のタッグバトルがあるんです。そのむしとりしょうねんが使ってきたアゲハントがトラウマで……。
──アゲハント?
マサ:
「むし/ひこう」のアゲハントはヒマナッツとの相性が最悪で、なんとか耐えて相方のポケモンに倒してもらうしかなかったんですが、その相方のラッキーが全然アゲハントを倒してくれなくて。しかもヒマナッツに集中攻撃がきてしまって結局森を突破するまで3日かかりました。
──まさかの相手に苦戦……ヒマナッツ縛りだからこそではありますね。アカギ、レッドとのバトルについても教えていただけますか。
マサ:
『ダイヤモンド』のアカギは二度と戦いたくない相手です。本当に全然勝てませんでした。
あのときは使えるヒマナッツが2体しかいなくて、反抗期を迎える直前のレベル70で挑んでいるのにまったく勝てる気がしなくて。いっそレベル100まで上げるしかないんじゃないか……いや、レベル100でも無理なんじゃないかと感じるくらい厳しい戦いでした。
──アカギ戦は具体的にどこが厳しかったのでしょうか?
マサ:
ドンカラス、クロバット、マニューラ、ギャラドス……アカギのポケモンすべてが、ヒマナッツに対して効果抜群な技を持っていたんです。加えて、相手のほうが素早さは上で、わざによってはヒマナッツのHPが満タンでも一撃耐えるのが限界、急所を引いたら終わりという状況でした。
──それだけ聞くと「勝つのは無理なんじゃないか」と感じてしまいますね……。
マサ:
最終的には、「かげぶんしん」で回避率を上げて攻撃を避けることを祈り、「つるぎのまい」で攻撃力を倍増させ、「にほんばれ」を使うことで相手より先に行動できる素早さを得て、上から殴る作戦で突破しました。
最後の最後、バトル中にヒマナッツのレベルが71に上がり反抗期を迎えてしまい、言うことを聞いてくれなくなったのも含めて記憶に残っているバトルです。
──バトルに勝てないときの試行錯誤ってどのようにしているんですか?
マサ:
1ターン目に「やどりぎのタネ」を使ったらどうなるのか、「かげぶんしん」ならどうなるのか、というのをひたすら総当たりで試していく感じです。スプレットシートにフローチャートみたいなのを作ることもあります。
こちらの行動、相手の行動、そして持ち物などを併せて考えていくと、さまざまなパターンに分岐していくので、それらをひとつずつ潰していって勝てる可能性があるものがないのか探していくんです。相手の行動を祈る詰将棋に近いのかもしれません。
──おお。この資料はレッド戦のものですかね!?
マサ:
そうですね。レッド戦で作った資料です。このレッド戦が『ハートゴールド』でいちばんきつかった一戦かもしれません。
──普通にプレイしていてもレベルが高くてわざも強くて苦戦したトレーナーも多いと思います。
マサ:
レッドの手持ちには「ふぶき」を使ってくるポケモンがいるんですが、シロガネ山の山頂は、『ハートゴールド』だとあられが降っているので、ふぶきが絶対に外れないんで、ヒマナッツにとってはたまったもんじゃありませんでした。
じゃあ「にほんばれ」を使えばいいのか? というとそうでもないんです。相手にはフシギバナやリザードンがいるので、晴れさせても相手が有利な状況になってしまう。
いろいろ試行錯誤していった結果、進化後のキマワリが6体使える状況ではあったんですが、あえてヒマナッツを2体連れて行って、「あられ」を利用する戦法で倒しました。
苦戦したジムリーダーたち
──『ポケモン』って最初に選ぶポケモンで苦戦するトレーナーやジムリーダーがガラリと変わるじゃないですか。フシギダネを選んだらタケシには余裕で勝てるけど、ヒトカゲを選んだら苦戦したとか。ヒマナッツの場合、とくに苦戦したジムリーダーは誰になるんでしょう?
マサ:
『ダイヤモンド』では、スズナ、ナタネ、スモモの3人が抜きんでて苦戦しました。
スズナはこおりタイプのジムリーダーで相性が悪いうえにユキノオーはくさ・こおりだから「やどりぎのタネ」が効かない。くさタイプのジムリーダーのナタネも同様の理由で厳しかったです。
──ヒマナッツ縛りなうえにタイプ相性も悪いと苦戦は必至と。
マサ:
ええ。ただそれ以上にスモモはエグかったです。ジムリーダーの中で一番苦戦した相手は彼女ですね。
相性的にはくさとかくとうで悪くはないのでそこまで苦戦するとは思っていなかったんですが「みやぶる」という技が厄介でした。「やどりぎのタネ」を使い、かげぶんしんで回避率を上げて、時間を稼いで倒すという戦法をよく使っていたので、それを無効化されてしまって……。
でもそういう敵がいないと、戦いが「やどりぎのタネ」一辺倒とかになりかねないので、スモモたちがいてくれたからこそ、山あり谷ありで楽しめたのかなぁとも思います。
──『ハートゴールド』のほうではどうなんでしょう?
マサ:
『ハートゴールド』はハヤトとツクシですね。序盤のジムなんですが、「これは終わったかも……」と思うくらい追い込まれました。
苦戦した理由としては、タイプ相性が悪いというのは勿論のこと、相手がピジョン、ストライクという「速い・硬い・強い」の三拍子揃ったポケモン(ヒマナッツ比)だったからです。
こちらは、「遅い・脆い・弱い」の三拍子揃ったヒマナッツなので、行動する前に相手の攻撃を食らい何もできずに一発でやられてしまうことが多く、運ゲーにすら持ち込めないという展開が多々あって……。何度も挑んでいる内にCPUが選ぶ技のクセをなんとか掴みながら運9割と戦略1割で切り抜けました。
──そういう強敵とのバトルでとくに頼りになったわざって何になるんですか?
マサ:
『ダイヤモンド』だったら「かげぶんしん」、『ハートゴールド』だったら「がむしゃら」です。
『ダイヤモンド』では、いかにひ弱なヒマナッツに攻撃が当たらないようにして、試行回数で押し通して勝つかみたいな戦法が基本でした。
『ハートゴールド』では、相手のAIが賢いのか『ダイヤモンド』に比べて無駄技を選んでくれないので、「かげぶんしん」を使って試行錯誤を重ねるよりも「がむしゃら」で相手のHPを大きく削って後続に託すパターンに助けられることが多かったです。
──お話に度々出てきた「やどりぎのタネ」じゃないのが意外でした。
マサ:
「やどりぎのタネ」も強いんですけど、強敵に対しては使っている暇すらないので、重要なところで活躍したイメージはあまりなかったりします。
キマワリに進化しても楽勝にはならない
──『ダイヤモンド』と『ハートゴールド』、それぞれヒマナッツ縛りでプレイしているマサさんですが、この2つのシリーズだとどちらのほうが難しく感じましたか?
マサ:
現実パートは『ダイヤモンド』、ゲームパートは『ハートゴールド』かなあと思います。
『ダイヤモンド』のときは、まだガーデニングの経験も知識もゼロで、現実でのひまわりの育成のコツが掴めていなかったのが大変ではありました。水やりの加減とか、虫にたかられたときの対処もわからなくて。結局、ひまわりが咲いたのは縛りプレイ完結後でした。
逆に『ハートゴールド』ではひまわりを育てるのも2回目なので、1回目に比べて知識も蓄積され準備もしっかりできて。その結果、ひまわりも咲いてヒマナッツもキマワリに進化させることができましたが、それでもぎりぎりのクリアでした。最初に挑戦したのが 『ハートゴールド』だったらクリアはできなかったと思います。
──確かに2回目の挑戦の『ハートゴールド』ではひまわりの育成がうまくいってましたよね。それに伴ってヒマナッツをキマワリに進化させられて戦力も強化できましたし。
マサ:
キマワリはヒマナッツと比べたらそれは強いんですけど、くさタイプの普通のポケモンなので当然弱点もあるし、強力なポケモンかというとそうでもないんです。
ヒマナッツの弱さで感覚が麻痺しているだけで、キマワリになったからといって楽勝にはまったくならないんですよ!
四天王戦なんかはノートにびっしり対策を書きまくって、1週間くらい入念に準備をして挑んだにも関わらず、クリアまで20時間近くかかってしまっているので。
──うわぁ……。
マサ:
負けまくりました。じつは当時の僕もちょっと感覚がおかしくなっていて「キマワリがこれだけいれば余裕かなぁ」とか思っていたんですけど、ぜんぜん負けるんですよ。儚いものです。
──種族値的には進化して何倍にもなっているわけですけど、ツラいことには変わりないと。
マサ:
ツラいままでした。冷静になって考えてみると、ヒマナッツ縛りのほかにもおいしいみずとふしぎなアメしか使えない縛りも設けていたので、楽に勝てるはずはなかったんですよね。
──そうそう。ヒマナッツ縛りだけでも大変なのに回復アイテムや強化アイテムも縛る。しかも、プレイ途中で縛り条件を追加することもあるじゃないですか。なぜそこまで苦行を求めるのか謎で。
マサ:
途中で縛りを追加した理由は、プレイしていて楽勝になってしまう気がしたのが正直なところですね。楽がしたいなら最初からこんな縛りプレイはしなければいい話なので(笑)。
──確かに(笑)。
マサ:
想定よりも難易度が低いと感じたら軌道修正はしようとはいつも意識はしています。それは動画としてのおもしろさを意識してもありますし、自分が楽しくプレイするための意味合いもあります。
例えばマラソンが趣味の人って走っているときまったく苦しくないわけではないと思うんです。当然苦しい、でもそれが楽しさでもある。縛りプレイの感覚もそれに近いんじゃないかなと。
ゲームに対して普段以上に本気になれるのが縛りプレイの魅力
──「苦しくても楽しいのが縛りプレイ」とのことですが、マサさんがとくに魅力に感じている部分ってどういうところなんでしょう?
マサ:
自分で好きにルールを作れる(難易度を設定)というのがいちばん魅力的に感じています。ある意味、そこって遊ぶ側が自由自在にできるところじゃないですか。
うまくプレイできたときには当然楽しいですし、難しい、苦しい部分がでてきたとしてもそれを乗り越えて達成できたときはすごくうれしい。ゲームに対して普段以上に本気になれる、という感覚です。
──ゲームに対して本気になれる、ですか。
マサ:
はい。普通にプレイしていたときはなんとも思わなかったポケモンがすごく恐ろしく見えたり……ジムリーダーでもないトレーナーとのバトルに一喜一憂したり……僕はもういい歳した大人なんですが、縛りのルールしだいではそんな僕でも本気でハラハラできるんです。
買ったばかりの新作ゲームをはじめてプレイするときって、ただ草むらや町を歩いているだけでも楽しいじゃないですか。それに近い新鮮さやワクワク感を味わえるのが縛りプレイの楽しいところですね。
──なるほど。縛り条件を設けるときの難易度についてはこだわりや指針ってあるんでしょうか?
マサ:
あまりそのゲームを知らない人が見ても「それは無理だろ!」と思われるくらいの難易度ですね。友人に聞いてその反応を参考にしたり、配信中に視聴者の方と考えることもあります。
──下調べやロケテはどの程度行うんです?
マサ:
自分の場合、下調べはほぼしません。おもしろそうな縛り条件が思いついたら、最低限スタートできるかどうかだけ確認して始める感じです。
──えっ!? それだと詰んでしまうリスクもあると思うのですが……?
マサ:
実況者の友人や視聴者の方にも「これ詰まない? 大丈夫?」って心配されます。でも、「詰んでも死ぬわけじゃないしなぁ」くらいに考えていて。詰んだら詰んだで、そこから「じゃあどうしよう?」と考えるのも醍醐味でおもしろいかなあとも思っています。
配信をしながら録画しているので、失敗する様子も含めて、見ている人と共有できるじゃないですか。いまやっている縛りがどれだけキツいのかがそのまま伝わるっていうのは、それはそれで楽しんでもらえるんじゃないかなと。
──配信でやっているというのが大きいのかもしれないですね。それこそ失敗してもその過程自体がコンテンツになっているわけで。
マサ:
そうなんですよ! 「詰みました」っていう結果が残るというのも、ゼロにはならないと思っているので。その考えかたは、配信でプレイしているのが大きいんでしょうね。
これまで配信してきて、まだ完全に詰んだことってないんですけど、もし完全に詰んでしまったらそれは失敗として受け入れようと思っています。そこから「詰んでしまったので、ここでルールを改定します」とか、もしくは新しいルールで最初からやり直すとか。動画にするときもそれ込みでまとめることになるんじゃないかなと。
ゲームって楽しくてやっているわけじゃないですか。詰んだら詰んだ状況を楽しめばいいと思っていて、僕にとってはどこまで行ってもゲームは娯楽なんですよね。
「やりすぎること」がおもしろさに繋がる
──ここからはマサさんとゲームの出会いやゲーム実況を始めるきっかけなど、ゲーム実況者としてのルーツをお聞きしていければと思います。まず、初めてゲームを遊んだのはいつごろになるのでしょう?
マサ:
幼稚園のころ、父親が初代『ポケモン』を遊んでいるのを後ろで見ていたのが、ゲームとの出会いでした。最初のうちは訳も分からずなんとなく見ていただけだったのですが、途中からちょいちょい触らせてもらえるようになって。
一応、ゲームは1日1時間ってルールがあるにはあったんですが、父親も守っていなかったのであってないようなものでした(笑)。
──あってないようなもの(笑)。とくにハマったゲームって何かありましたか?
マサ:
また『ポケモン』になってしまうのですが『ポケモン金銀』ですね。前作で遊んだカントーに行けるっていうのがやっぱり驚きとして大きかったです。何回もやり直して、くり返し遊んでいました。
(画像[右]は「ポケットモンスター 銀」より)
──『ポケモン』大好きな子供時代だったわけですね。
マサ:
思い返してみると、子供のころだけでなくずっと『ポケモン』を遊んでいますね。
小学生のころに思い描いていた20代後半くらいの大人って、子どもがいて奥さんがいて、休日は犬と戯れて……みたいな。そんな想像をしていた記憶があるんですが、実際はずっと『ポケモン』をプレイしてます。
──子供のころからずっとゲームが好きで『ポケモン』を遊び続けているマサさんですが、ゲーム実況という世界に足を踏み入れたきっかけは何かあったんですか?
マサ:
ゲーム実況というものを知ったのはけっこう遅くて。学生時代、就活も終わってダラダラしていた時期に、当時いちばん仲が良かった友達から「ゲーム実況をやってみたい」と持ちかけられたんです。
僕の知らない世界で、なにをするのかもよくわかっていなかったんですが、「一緒に話していればいい」と言われたので「じゃあ」と、とりあえず話すだけってところから始めたんです。でもその友達は飽き性ですぐに飽きてしまったんですよね。
──あらっ。
マサ:
逆に僕のほうがどっぷりハマってしまって。友達から機材を譲ってもらって、僕ひとりでゲーム実況をするようになっていたんです。
最初のうちは「ゲームをプレイしながらしゃべる」ことじたいが楽しくて投稿していました。そのうち、ほかの人の動画もチェックするようになって、縛りプレイというものを知って。「こういうのをやってみるのもおもしろそうだなぁ」と、縛りプレイに興味を持つようになりました。
──動画で縛りプレイを知ったと。影響を受けた投稿者や動画ってありましたか?
マサ:
いちばん印象に残っているのはレオモンさんの動画です。
金のコイキングの縛りプレイは、いち視聴者として見ておもしろいなあと思いますし、企画の内容だけでなく動画編集の作り込みも本当にすごくて。「やりすぎること」がおもしろさに繋がるんだと気づかせてくれた動画です。
──ではもしかしたらそこでレオモンさんの動画を見ていなかったら、実況スタイルも違ったかもしれなかったり?
マサ:
まったく違うものになっていたかもしれないです。
生放送は公開収録のイメージ
──マサさんって、テイク数が重なりがちな縛りプレイでも「生放送」しながらプレイされているじゃないですか。これってわりと珍しい印象なんですが、縛りプレイを生放送で配信しようと思ったのには何かきっかけが?
マサ:
ゲームの縛りプレイを配信しようと思ったきっかけはヒマナッツ縛りでした。この縛りは厳しいというのはやる前からわかっていたので、その過程も含めて楽しんでもらおうと思ったんです。
どちらかと言えば、生放送というより、公開収録というイメージでやっているんです。あくまで動画を作るための撮影を生放送で公開している、という。
──おお、なるほど。配信は公開収録のイメージ。
マサ:
動画に落とし込む場合、わかりやすく短く編集するので、20時間黙々とプレイしていたとしても、「20時間経った……」みたいなテロップで済ませることになるじゃないですか(笑)。その20時間の大変さを分かってくれる人が少しでもいれば、ちょっと報われるなって思ったんですよね。
──やはり生放送と動画で視聴者層って違うんでしょうか?
マサ:
違いますね。生放送は『ポケモン』をライトに楽しまれている方が多い気がします。「『ポケモン』の縛りプレイ」というより「なにかおもしろそうなことやってるなあ」と覗いてくれる、そんな印象です。
動画になると、いわゆるガチ勢の方のコメントが多く見えるので、それぞれ見てくれている層は違うんだなと実感はあります。
──動画を見る、生放送を見る、どちらの視聴層にも届くのはメリットですね。逆に、生放送で大変なこと、動画で大変なこと、もそれぞれあるんでしょうね。
マサ:
大変、というのとは少し違うかもしれないのですが、生放送はなかったことにできないので、ある意味、逃げ場がない状況なのはありますね。何が起きても、それは起きたこととして受け止めて、どうにかしなくちゃいけない。
動画はとにかく編集が大変ですね……。収録している時間よりも動画編集の時間のほうが長いので。ゲーム内で苦戦するよりも、動画の編集が進まないほうが大変かもしれません。
──極論ではありますが、生放送がコンテンツになっているので、大変な想いをして動画にしなくもいい、みたいな考えかたもあると思うのですが。
マサ:
そこは、やはり動画でないと見ない人もいて、そこに届けたいというのはあります。僕自身もそういうタイプなんですよ。
生放送って「好きな人の配信を見る」のが大きい動機だと考えていて、よく知らない人の配信を見続けてくれる人って多くないじゃないですか。
一部の超有名な方を除くと、「知ってはいるけど大好きというわけではない」というのが多くの人が配信者に抱く感覚じゃないかなと。動画はそこにリーチできると思っています。
縛りプレイのネタをどう考えているのか
──そもそもどのような経緯で「ヒマナッツがひんしになった分だけ現実でひまわりを栽培」という縛りプレイを思いついたんですか?
マサ:
じつは大きなきっかけがあったわけでもないんです。もともと、ヒマナッツについては一番弱い(種族値が低い)ポケモンというのは知っていたので、なんとか工夫して縛りプレイに組み込めたら楽しそうだなとは考えていて。
仕事中にふと「ポケットモンスターヒマナッツ」という言葉がおぼろげに頭に思い浮かんできて、語感がいいなって。
──確かに語感は不思議なくらいいいです(笑)。
マサ:
ただ、調べてみたら「ヒマナッツ1体でクリア」する動画はもう投稿されていたので、別の要素を組み合わせられないかと考えていたら「ヒマナッツ……あぁ、ひまわりの種」かと。
たまたま家の近所に植物の種屋さんがあったので、「植木鉢で育てられるひまわりないかな?」と相談してみたら本気になって調べてくれて、海外のものを発注して取り寄せてくれたんです。
──縛りプレイのために海外から種を取り寄せ。ガチですね。
マサ:
あまりのスピート感にびっくりしましたし、そこまでしてくれたら「どうなるかわからないけどとりあえずやってみよう!」ってなるじゃないですか。その勢いでスタートした感じですね。
──ふむふむ。最初に『ダイヤモンド』を選んだ理由はなにかあったんですか?
マサ:
そのバージョンでヒマナッツ縛りの動画がなかったからです。シンオウ地方が好きというのもあるんですけどね。
──マサさんの動画って、ヒマナッツ縛り以外にも「羊毛フェルトで自作したポケモンしか使えない縛り」や「自分より重いポケモン使用禁止縛り」など、縛り条件をゲーム内だけでなく現実にもリンクさせるのが特徴ですよね。
マサ:
もともと現実で起きたことがゲームに影響を及ぼしたり、その逆だったりっていう要素があったらおもしろいなと思っていたんです。
「もし現実にポケモンがいたら」っていうのは子どものころ、誰しもが考えるじゃないですか。大人になっても考え続けるとこうなってしまうみたいな(笑)。
──(笑)。これらの縛り条件ってどういうときに思い浮かぶものなんですか?
マサ:
羊毛フェルトはヒマナッツ(ダイヤモンド編)が終わって、雑談配信で「企画を練ろう」というテーマで喋っていたときのやりとりがきっかけです。視聴者の方のコメントを読みながら「こういうのやってみたいなぁ」とか話していて。
その中で、「絵を描いてみて、上手く描けたポケモンは使えるというのはどうか」というアイデアを思いついて。そこから公平に判断してもらうためにAIの画像認識アプリがないか探してみたり、せっかくならもっと真似できない縛りにしたいと考えていたところ、コメントで出てきたのが羊毛フェルトだったんです。
──ほうほう。視聴者のコメントがきっかけ、と。
マサ:
はい。そこから企画の詳細をまとめて1ヵ月後には縛りプレイを始めていました。
──羊毛フェルト縛りって、なんとなくゲームプレイじたいはそこまで難しくなく、羊毛フェルトで作るほうの難易度が高そうに見えます。
マサ:
そうですね。やっぱりポケモンを作るのが大変でした。
羊毛フェルトじたい初めて挑戦したので、最初のうちは「どうすればいいんだ?」と困惑しながら作っていました。アチャモのようなデザインが複雑ではないポケモンでもネットや教本を見ながら8時間くらいかかっていました。
ただ、徐々にコツがわかってくるとおもしろくなるもので。グラードンを作ったころには、楽しくて仕方がなくなっていましたね。「樹脂粘土を買ってきて、爪をつけよう!」、「黒い模様には蛍光塗料を塗って光るようにしてみよう」みたいな。必要ないことをいろいろやったりして。
やりたい縛りプレイの企画をやり尽くしたい
──実況をするようになって、さまざまな縛りプレイに挑戦して、ゲームの楽しみかたや向き合いかたは変わりましたか?
マサ:
うーん、無言でゲームをプレイしていたのが喋りながらゲームをプレイするようになったくらいの違いに思っているので、そこまで大きく変わってないかもしれません。
自分が楽しいこと、やりたいことを配信を通して公開しているだけというか。それを視聴者さんが見に来てくれているという感じでしょうか。
──縛りプレイばかりしていますが、普通に(縛らないで)ゲームを遊んで楽しめるものなんでしょうか?
マサ:
もちろん普通に遊んでもゲームは楽しいです! ただ、何度もやりこんだゲームほど新鮮さは薄れていくのはあります。
ですので、縛りプレイと普通のプレイ、半々くらいで遊んでいくのが、自分にとってちょうどいいのかなとは思っています。
──半々でバランスよく、と。実況でプレイするゲームと、それ以外で遊ぶゲームの線引きってあるんです?
マサ:
僕のことをまったく知らない人が見ても「何をやっているか分かって楽しめる内容」かなって思えたら、配信します。
僕の場合はやりたいこと先行なので、「こういうのをやってみたい」というのがまずあるんですけど、せっかくやるんだったら、なるべくたくさんの人にウケるものにしたい。それで、いろいろな人に見てもらうにはどうすればいいかって考えながら作っていく感じですね。
だから、専門用語はできるだけ使わないように意識しています。たとえばヒマナッツ縛りだと、「ひまわりを育てる」っていう誰でも分かることをやっているのに、専門用語を連発して楽しめない人が増えちゃったら、すごくもったいないと思うんです。
──「自分のやりたいこと」がまずありつつ、配信するのなら「可能な限り多くの人に楽しんでもらいたい」、それがマサさんのスタンスなんですね。
マサ:
そうですね。そこは大事にしています。
──ちなみに2年連続でやっているヒマナッツ縛りですが、第3弾って期待しても?
マサ:
たとえばシリーズを『ブラック・ホワイト』にしてできなくはないんですが、『ハートゴールド』まででおもしろいことはやり尽くしたんじゃないかって気もしているんですよね。
同じルールでやったら、もう倒す敵とマップが違うだけなので、新しいドキドキはないかもなと。やるとしたら改めていろいろ検討しないとは思っています。
──なるほど。では今後はどんな縛りプレイをしたいや、どのような活動をしたい、など今後の展望って何かあったりするんでしょうか?
マサ:
とりあえずまだ思いついた企画(縛りプレイ)を全部できていないので、まずはそれを全部やり尽くしたいと思っています! ゲームでも現実でもいろいろやるのでこれからもよろしくお願いします。
(了)
やりこみプレイ魅力について、「ゲームに対して普段以上に本気になれる」「新作ゲームをはじめてプレイしたときに近い新鮮さやワクワク感を味わえる」と語るマサさん。
確かに、ムックルやビッパと命がけの戦いを繰り広げ、むしとりしょうねんに苦戦することは普通にプレイしていればなかなか体験できないことだろう。ほとんど下調べ(ロケテ)を行わないと聞いたときは驚きもしたが、新鮮さやワクワク感を楽しむためと考えると、理にかなっている。
たとえ詰んでしまったとしても、「詰んだら詰んだ状況を楽しめばいい」。
やりこみプレイでの条件を設定する際には、「いかにきびしい縛りにしつつ、詰まないギリギリのライン」を攻めるのがよくある考えかただとイメージしていたので、この言葉も印象的だった。配信でプレイしているから、詰んだとしても詰んだという結果が残りゼロにはならない、そう語るマサさんの話を聞いて、なるほどなと思った。
うまくプレイできれば楽しいし、難しい部分がでてきてもそれを乗り越えたときにはすごくうれしい。そんなゲームの楽しさを新鮮な気持ちでより楽しむため、縛りを課して(難易度を設定して)プレイする。
マサさんにとってやりこみプレイとは、ゲームを楽しむひとつの手段なのだろう。
・常人には理解できないやりこみゲーマーの世界に迫る──「ゲームプレイ開始まで準備に半年」「リセマラで1ヵ月」絶望と不可能を超えた先に生まれる感情とは【ゲーム実況者:shu3インタビュー】
・『FF6』のバグを令和になっても探し続ける男──「縛りプレイ記録更新のために本職のゲームデバッガーに」狂気に満ちたやりこみゲーマーの生き様に迫る
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『逆転裁判』のテキストを「日→英→日」と再翻訳して初見の友達にプレイさせてみた! 単語に名前、あらゆる言葉が変化してしまった“逆翻訳裁判”をクリアできるか?
ニコニコニュース / 2024年12月28日 11時50分
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2セゾンカード、不正懸念の顧客に「ご利用内容確認のお願い」動画送信へ
ITmedia NEWS / 2025年1月17日 16時56分
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310年前の携帯電話で“できたこと”が878万表示 見かけなくなったガラケーの機能に「割と忘れられてる」「東日本大震災ですごい助かった」
ねとらぼ / 2025年1月19日 20時50分
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4「新年初笑いこれ」 注意喚起の張り紙をよく見ると……“まさかの語尾”に26万いいね 「縦ロールしてそう」
ねとらぼ / 2025年1月19日 21時0分
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5スクエニ味溢れるレトロフューチャーなピクセルRPGが繁体字圏で配信開始―次なるヒット作を探せ!日本未上陸の注目ゲームアプリ3選【2025年1月19日】
インサイド / 2025年1月19日 15時0分
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