伝説のクソゲー『ミシシッピー殺人事件』のクリア手段が狂ってる──”自作攻略本”をまとめながら2年の月日を費やしてクリアを果たしたとある投稿者の話
ニコニコニュース / 2022年6月30日 11時0分
理不尽な要素盛りだくさんで「クソゲー」とも呼ばれるレトロゲームを、既存の攻略情報を一切見ずに2年の月日をかけてクリア。しかも自作攻略本を作りながら。
さらに、検証に2、3ヵ月かかるような大変な作業にぶつかったときはワクワクしながら楽しんでいたという。
(画像は「自作攻略本メイキング」より)
「本当にクリアできるのか?」と疑問を抱いてしまうほど厳しい縛りを自身に課し、信じられないほどの時間と労力をゲームに注ぎ込むやりこみゲーマーの頭の中に迫るシリーズ「やりこみゲーマー列伝」。今回お話をお聞きするのは、ゲーム実況者のわかる(@2wakaru5)さんだ。
わかるさんを知ったのは、「やりこみゲーマー列伝」シリーズ第1回目、ゲーム実況者のshu3への取材中の出来事だった。
ゲームプレイ開始まで準備に半年かけたり、雑魚モンスターを38時間以上かけて倒したり、常軌を逸した数々のやりこみプレイに身を捧げるshu3。そんな彼の口から「すごい動画です」と語れたのが、『ミシシッピー殺人事件』の実況動画「始まりはいつも3号室」シリーズだったのだ。
理不尽な難易度、即死トラップ搭載、セーブ機能なし。
攻略情報がないとすぐに行き詰まってしまうような『ミシシッピー殺人事件』を、わかるさんはひたすら総当たりで検証、時間の暴力で突破していく。
shu3への取材から約2年半。わかるさんの実況動画の新シリーズが投稿されたのをきっかけに『ミシシッピー殺人事件』の実況動画を見直してみたところ、改めてヤバイと思った。同時になぜここまでゲームに時間を捧げられるのか、聞いてみたいと思った。
なぜ2年という月日をかけてまで自力でゲームクリアを目指そうと思ったのか。
なぜ大変な作業をワクワク楽しめるのか。
普通に考えれば、苦行にしか思えない作業なはずなのになぜ?
2年くらいは“仕事か『ミシシッピー殺人事件』か”な生活
──わかるさんの動画を知ったのは、やりこみ系ゲーム実況者のshu3にインタビューした際に名前が挙がったのがきっかけでした。「理不尽な難易度のゲームを既存の攻略情報なしで人並み外れた努力でぶつかっていく」動画と。
わかる:
shu3がインタビューの中で紹介してくださったおかげで、たくさんの方に動画を見ていただけるようになりました。shu3には感謝しかないです。
──shu3とはもともと知り合いだったんですか?
わかる:
超有名な方なのでお名前じたいは知っていましたが、やりとりじたいはこのときが初めてでした。
「インタビューでわかるさんのお名前を出しても大丈夫ですか?」と、DMをくださって。私としてはもうぜひぜひと。私の動画を見ていただけるなんて思っていなかったので、死ぬほどビックリしました。
──インタビュー後に動画を見ましたが、『ミシシッピー殺人事件』の難易度の高さと、それを膨大な時間と手間をかけて乗り越えていくプレイはすごいなって思いました。実際、クリアにはどのくらい時間がかかったんでしょうか。
わかる:
プレイ時間を計ってはいなかったので、具体的に何時間……というのはわからないのですが、クリアするまでに2年くらいかかっていて、その期間は仕事をするか『ミシシッピー殺人事件』をするか、な生活をしていました。
──そんなに!?
わかる:
『ミシシッピー殺人事件』は、船内で起きた殺人事件を探偵役の主人公が調査していく謎解きゲームで、容疑者の人たちから聞いた話をメモしながら、そのメモを使うことでさらに証言を集めていくんです。……けど、登場人物たちは基本的に一度しか証言をしてくれなくて。
──えっ?
わかる:
再度話しかけても「もう言いました」と言われてしまうので、特定のメモを取り忘れるとその時点でクリアできなくなってしまうんです。
しかもメモに保存できるのは3つが上限なので聞き取る順番を間違えてもアウトで。だから詰んだ状態だって知らないまま、ずーっと彷徨ってしまうことになったり。
──ええ……。
わかる:
それにセーブ機能がないんですよね。なので、検証するにも毎回最初からやり直しする必要があります。
あと、これは死に覚えすれば回避できるので問題ないんですが、即死トラップもいくつか仕込まれています。ゲームを開始した直後、事件が起きる前に探偵役が死んでしまってゲームオーバーになってしまったときは驚いちゃいました。えっ!? どういうことって。
(画像は「始まりはいつも3号室(1)【実況】」より)
──殺人事件を解決するのが目的のゲームなのに……。
わかる:
難易度が高いうえにヒントもなくて。だからなのかYahoo!知恵袋では「何がしたかったのか聞きたい」と書かれていました(笑)。
──(笑)。そもそもなぜ『ミシシッピー殺人事件』をプレイしようと?
わかる:
『ミシシッピー殺人事件』の前に『キョンシーズ2』というゲームを実況プレイして、私としてはすごく楽しめたゲームだったのですが、どうやら「クソゲー」と呼ばれているらしいということをゲームクリア後に知って。
「クソゲー」と呼ばれているゲームでもこんなに面白いんだと興味が出て、Yahoo!知恵袋で「クソゲー」について調べたんです。そうしたら、『ミシシッピー殺人事件』がでてきたのでプレイしてみようと思ったんです。
──そんな「クソゲー」と呼ばれている『ミシシッピー殺人事件』を攻略情報なしで、2年という月日をかけてクリアしてみてどうでしたか?
わかる:
私も最初のうちは戸惑っていたんですが、プレイしているうちに深いゲームだなあと思うようになっていきました。
──深いゲーム、ですか。
わかる:
はい。最近のゲームはプレイヤーが迷わないように丁寧に説明があったり、テキストもログで読み返せるじゃないですか。でも、実際の人との会話はそうじゃなくて、同じ話を何度も聞き返せないし文字で読み返せもしない。そういう、ある意味人間の会話に近いものがあるゲームなのかなって思いました。
──た、確かに……?
わかる:
ゲーム画面をスクショしてそれを繋ぎあわせてマップを作ったり、登場人物の証言をまとめて自作攻略本を作っているうちに、思い入れも強くなっていって。ゲームでは平面の世界なんですが、何年もプレイしていると徐々に立体的なイメージが頭の中にできていくんです。
ゲームで船が進むルートは現実に存在するので、グーグルストリートビューを見て「あ、ここを通っていたんだなあ」とか「こんな長距離を一緒に過ごしていたら仲がよくなったり悪くなったりもするよなあ」とか、いろいろ想像して楽しんでいました。
大変な作業があるとわかるとワクワクしちゃう
──「自作攻略本」という気になるワードが出てきましたが、ノートかなにかにまとめているんでしょうか。
わかる:
あ、いえ。「自作攻略本」とは言いつつ、紙ではなくエクセルでまとめているものをそう呼んでいるんです。「攻略メモ」のほうが近いかもしれません。
「本じゃないな……」とは気づきつつも、情報がびっちり並んでいるのがそれっぽくて、私的にしっくりきているので、これからも「自作攻略本」と意地でも呼んでいきたいと思っています(笑)。
──レイアウトされていて攻略本っぽさはあると思います。この自作攻略本ってどういう経緯で作ろうと思ったんです?
わかる:
もともと、私にとってゲームって、手軽にその世界で「神視点」になれて楽しめるイメージがあったんです。
でも初めてゲーム実況プレイをした『キョンシーズ2』では、どう進めていけばいいかまったくわからなくなってしまって。レトロゲーをプレイしたことがあまりなかったのもあるんですが、初めてゲームで「神視点」にたてなくて不安だしもどかしい体験をしたんです。
──ゲームがスタートしたらいきなりフィールドに放り出されていて、チュートリアルもないし説明もないし。
わかる:
そうなんです! だから最初のほうは何をすればいいのかわからなくて……ただダラダラとプレイしていただけだったんですが、パート4の動画で「マッピングとかしてるのかな?」ってコメントを見て、「あ、その手があったかー」と。
──それでフィールドの地図を作ろうと。
わかる:
はい。ゲーム画面のスクショをつなげて地図を作っていきました。そうしたら……。
──そうしたら?
わかる:
プレイするのがめちゃくちゃ楽になったんです! ゲームの世界を上から一気に見通せて「神の視点」を手に入れられた感覚になれました。
それに作っているうちに「あ、これ昔の攻略本みたいだー!」ってまとめることじたいも楽しくなってきて。『キョンシーズ2』の実況では1700枚くらいのスクショを繋げてマップを作りました。それからはずっとマッピングするようにしています。
──でもこういう情報を調べてまとめていくって大変そうです。これまでで一番大変だったパートだとどのくらい時間がかかったんでしょうか?
わかる:
一番時間がかかったのが『ミシシッピー殺人事件』のパート7だと思います。事件解決への正解ルートを見つけるために、ゲーム内でとった行動を全部洗いだして調査が進展するフラグがどの行動なのか探したんですが、検証だけで2、3ヵ月くらいはかかったと思います。
動画では「アイテムが怪しそう。じゃあこうしたら?」みたいにすぐ答えが出ているんですけど、実際はそれ以外にも総当たりで試しているので。セーブ機能がないこともあって時間はかかってしまいましたね。
それにこの膨大な検証結果をどう動画1本(30分)に納めればいいのか。どう見せたらしたら伝わりやすいのか、編集の面でもすごく頭を悩ませたパートです。結果、ものすごい時間がかかってしまって、前のパートから半年近く期間が空いてしまいました。
──ひええ……。何ヵ月も検証をするって大変な作業だと思うんですが、大変な作業にぶつかったとき逃げたくならないんですか?
わかる:
情報が多すぎるときは「まとめるの大変だなーー」って思うときはあります。でも「大変=苦痛」ではなくて、大変だと思いながらまとめていくのも楽しいんですよね。
それに、どちらかというと大変な作業があるとわかった瞬間はワクワクしちゃいます。
──ワクワク、ですか。どういうことです?
わかる:
見せ場……というわけではないですが、大変な作業があるほうが動画としては楽しんでもらえるじゃないですか。見てもらうことを考えると、なんでも苦じゃなくて楽しくなっちゃうんですよね!
──大変な作業を乗り越える原動力っていうのは、視聴者の反応?
わかる:
そうだと思います。もともと動画投稿を始めたのも、おもしろいものを作って、見てほしいと思ったからなんです。
自分が作った動画にコメントしてもらえるのを見て、なんとも言えない快感があって。それがずっと残っていて……。そのためにずっと投稿し続けているんだと思います。
──その快感があるから途方もない作業を乗り越えられるのかもしれませんね。
わかる:
かもしれないです。
わかるさんにとって投稿する動画も自作攻略本
──自分用の攻略メモをとることって、ゲームをプレイしている人なら大なり小なり経験したことはあると思います。とはいえ、ここまできっちり作るのは珍しいなと。
わかる:
確かにメモ書き程度のシンプルな作りでもよかったんですけど、ちゃんと作るようにしないと私と自作攻略本の間で「なあなあ感」が出てきてしまうと思ったんです。
「フォント違うけどいいかあ」とか「時間ないからササって走り書きでいいや」ってなってしまうと、後から見返したときに困るのは自分なので。そうならないように「自作攻略本作りルール」を最初に決めておいたんです。
──そのルールとは?
わかる:
そんなかっちりしたルールではないんですが、「確定事項のみ載せる(それ以外はEvernoteや紙に)」「省略しないで全文載せる」「枠やフォント(種類やサイズ)は変更しない」とかです。
ゲームをしているときの私が混乱しないように、わかりやすく、余計なことは書かないようにというのは気を付けています。
──どのように攻略情報をまとめていくのでしょう?
わかる:
ゲームをプレイしながら情報をまとめて……ってできたら一番いいんですが、同時進行で複数のことをやることがすっごく苦手なので、動画編集のときにマップを作ったり情報をまとめたりしています。
「こうなのかな?」って思ったことをとりあえずバーーっと書き出して、残しておきたい情報だけをEvernoteに整理して。最終的にエクセルで自作攻略本にまとめていく感じです。
──ほうほう。このエクセルは完全に自分が見る用としてまとめている感じですか?
わかる:
そうですね。なので、カラーが一色でちょっとダサくても気にしなくていいは気が楽です。動画となると、見ている方に伝わるようにさらにわかりやすく編集が必要になるので。
そういう意味では、私にとっては動画も自作攻略本なんですよね。その際には、私含めて見ている方全員に伝わるよう意識してまとめてはいます。
──動画も自作攻略本……なんかいいですね。
わかる:
もともと、イラストや文章などの情報がぎっちり書き込んである図鑑や攻略本が好きなんです。
とくに、ドラゴンクエスト25周年記念のときにWiiで発売された『ドラゴンクエストI・II・III』同梱の初版についていた攻略本が、もう本当にめちゃくちゃ刺さって!!
「ここをわたるのは橋を通るしかないぜっ」とか、まるで近所のゲームに詳しいお兄ちゃんが教えてくれているような文章で、攻略本ってこういう距離感でいいんだあと、ずっと印象に残っています。そういう寄り添うような雰囲気を動画でも出したいと思っています。
──攻略本が好きなのに、いまプレイしているゲームでは攻略情報を見ないのにはなにか理由があるんでしょうか。
わかる:
全部のゲームが攻略情報を見ないでプレイするわけではないんです。自分にとって、どっちのほうがゲームを楽しめるかで変えていますね。
例えば、脱出ゲームや謎解きのような、自分で考えるのがおもしろいゲームだと思ったら見ないですし、逆に『アトリエ』シリーズや『ドラクエ』シリーズなどのRPGは、イベントの見落としがないように進めていくのが楽しいのでちゃんと攻略を見てプレイします。
でも攻略情報を見たほうが楽しめるゲームは、実況動画ではプレイしないと思います。
──というのは?
わかる:
私、初見プレイじゃないとリアクションできないので……(笑)。
──なるほど(笑)。
自分の感じたことを表現できる唯一の手段が動画だった
──動画も自作攻略本というお話がありましたが、わかるさんの動画って編集がすごく丁寧だなあと見ていて思っていて。パートによると思うんですが、ひとつの動画を編集するのにどのくらいの時間がかかっているんでしょう?
わかる:
ありがとうございます!パートによるんですが、『ミシシッピー殺人事件』だったら動画1本につき編集にかかる時間は48時間くらいでした。じつはそんなにかかってないんですよ。
──いやいや、48時間って8時間労働で週6勤務したときと同じくらいじゃないですか。十分時間かかっていると思います。やっぱりそんなに時間かかるものなんですね……。
わかる:
あ、でもいま投稿している『Return of the Obra Dinn』の実況動画はもっと早くできますね。比重としてはカット作業のほうが大きくて、だいだい24時間くらい編集すれば完成する、くらいの感じです。
ただ、実況を始めたばかりのころに、同じような編集をしようとしていたら動画1本につき1年くらいかかっていたかもしれません。
──昔に比べて動画編集のスキルが上がって編集のスピードが上がった、と。
わかる:
そうですね。2017年から動画編集の仕事をしているんです。
ゲーム実況動画を投稿する前もいろんな動画を編集して投稿して、編集について褒めてもらえることはあったんですが、それは元ネタ(漫画やアニメなど編集の素材)ありきのものだとわかっていたので、あくまで趣味として編集を楽しんでいて。
でも、ゲーム実況動画を投稿したときに、編集についてたくさん褒めてもらえたんです。そこで、「もしかしたら本当に編集のことを褒めてもらえているのかも?」と、これまで一番好きな趣味としてずっとやってきた編集を仕事にできるんじゃないか、って思うようになったんです。
──動画投稿をきっかけに趣味が仕事になったんですね。
わかる:
いま動画編集の仕事をしていられるのは視聴者のみなさんのおかげです。本当に感謝しています!
そこから、「わかる」名義ではないんですが、YouTuberさんの動画編集をメインに3年くらいで600本くらいの動画を編集してきて。それで編集のスピードが前よりは上がりました!
──3年で600本!? 1年換算で200本、週5本ペースくらいじゃないですか。
わかる:
正直、大変ではありました。でも、ひたすら作り続けたことで技術力は上がったのはよかったかなと。それもあって自分のゲーム実況の編集に時間をなかなか取れなかったのもあるんですが(笑)。
──仕事の編集とゲーム実況の編集だとやっぱり違うものですか?
わかる:
仕事の場合は、どうしても責任が発生するのと、やっぱり締め切りがありますからね。
それに対して自分の動画の場合は締め切りもないですし、どんな要素を入れるのも自由、100%好きにできるんです。どんな演出を入れるか考えたりするのが楽しいんですよ。
──動画投稿者の方とお話すると、ほとんどの方が「動画の編集が一番大変」とおっしゃるんですが、わかるさんは編集作業じたい辛く感じないんでしょうか。
わかる:
私は喋るのも得意じゃないですし、絵も描けなくて、文章も下手なんです。すごく美味しいものを食べても、「美味しい」しか出てこないみたいな。そんな私にとって唯一できる表現、感じたことを伝えられる方法が動画だったんです。
なので、大変だとか辛いとか思うことはないですね。逆に、編集を取り上げられてしまったら外の世界と意思疎通ができなくなるって思っちゃうほど依存してます。
──そんなわかるさん的に、動画編集が楽しくなるコツ、みたいなのってなにかあるんです?
わかる:
自分がすごく作りたいものを見つけるのが近道だと思います! ジャンルはなんでもよくて、(自分が)なにがなんでも作りたいって思うことが大事で、「楽しくなるコツを知りたい」って思う時点でもう楽しくなれない気がしています。その時点で動画編集への好感度がだいぶ低いと思うので……。
そうではなく、編集したくなるものを見つけていただくのが一番いいかと! そしてできれば誰かに見てもらって褒めてもらえると、上達に繋がると思います。
「テニミュ」をきっかけにニコニコ動画を知った
──わかるさんのお話を聞いていると、本当に編集が好きなんだって伝わってくるのですが、編集に興味を持つきっかけって何かあったんですか?
わかる:
きっかけはニコニコ動画です! 楽しそうに動画を作っている方々を見て「私もやりたーい!」って家族共用だったパソコンにムービーメーカーを入れ動画を作ってみたのが最初でした。
──確かゲーム実況の前にも動画を投稿されていたんですよね。
わかる:
「わかる」名義ではなくて別アカウントで、投稿していた動画はもう削除されているんですけど、じつはそうなんです。友だちに「テニミュ」の動画を教えて初めてニコニコを知って。
──まさかの「テニミュ」。
わかる:
正直なところ、とんでもないところに来ちゃったな……!! と最初は思ったんですが、そこからニコニコに通っているうちに自分でも動画を作りたいと思うようになって。
最初は、ラジオの書き起こし動画みたいなものをムービーメーカー使って作っていました。3000枚くらいスライドを用意してパラパラ漫画みたいな感じのを(笑)。
──3000枚のスライドを用意するって相当ヤバイですね。
わかる:
多いですよね(笑)。時間もめちゃくちゃかかっていました。熱量だけで動画を作っていましたね。そのときに鍛えられたからか、多少の編集は大変とは思わなくなりました。
(画像は「自作攻略本メイキング」より)
──いやあ……本当にすごい。
わかる:
そのあともアニメのMADを作ったり、動画投稿はけっこう長いあいだ続けていたんです。
──そんななか、実況動画を始めるようになったきっかけは?
わかる:
ネットで知り合った友達から「一緒に実況動画をやってみない?」って誘われたのがきっかけです。いっしょに、と言っても同じタイミングで実況を始める仲間がほしかったようで。その前から動画投稿をしていたので声をかけられたみたいです。
そのときに初めてゲーム実況というジャンルには触れたんですが、 どのジャンルにも暗黙のルール的なのがあるじゃないですか。それを乱してはいけないと、動画を投稿する前に「実況プレイ」タグを見ながらいろんな動画をチラチラ見ていって。
──あー、ありますよね。昔のゲーム実況は発売されたばかりの新作はすぐに動画にしてはいけない、みたいな雰囲気があったと思います。
わかる:
そうそう。そういうのがあると怖いじゃないですか。それで当時のゲーム実況動画を見た感じ、あまり編集をしている動画がなかったので、私としては「編集はそんなにしちゃいけない」のが暗黙のルールだと思ったんです。
だから最初は編集控えめで……どこまでなら許してもらえるのか探り探りでやっていました。
──なるほど。
わかる:
それに私ってゲームのプレイが上手くないので、そのゲームを好きな人が見て不快な想いにさせてしまったらどうしようっていうのも不安でした。初めて投稿するときは怖かったのを覚えています。
動画のタイトルも、最初は「キョンシーズ2をやる」みたいなゲームの名前を入れていたんですが、投稿する直前に検索で引っ掛からないようにゲームの名前を入れないようにしたんです。
小学校、中学校のときの趣味がいまの動画編集に繋がっている
──『キョンシーズ2』と『ミシシッピー殺人事件』とレトロゲームを実況プレイされていましたが、もともとそういうゲームが好きだったんですか?
わかる:
王道ゲームは遊んだことがある、くらいでしたね。一番ハマっていたのは『アトリエ』シリーズで、攻略本を片手にイベントをチェックして、どう進めるのかまとめながらプレイしていました。
ほかには『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』、『クロノ・トリガー』や『クロノ・クロス』、『テイルズ オブ』だったり『ときめきメモリアル』だったり。
──THE・王道って感じのゲームですね。
わかる:
小学校のころはゲームよりも漫画のほうに興味があって、ひたすら4コマ漫画を描いてはクラスメイトに見せる子どもでした。ギャグ漫画家になりたかったんですよ。
──まさかの。
わかる:
『ドラクエ』の4コマ漫画を描いて雑誌の賞に応募したこともあって、そのときはネタを探すためにゲームをプレイし直して、街の人のセリフや主人公の行動を書き出していました。
──それって、いまゲーム実況動画でやっている自作攻略本作りに似ていますね。
わかる:
ですです。今もそうなんですが、とにかくメモをするのが好きな子どもでした。手帳が好きで、その日の日記とかやりたいこととかを自由にメモしていました。
そこから中学校では漫画のアフレコごっこにハマるようになって。誰がどのキャラクターの声を担当するか決めて、録音した音声に効果音やBGMをつけて……そのCDを流しながら漫画を読むと、2倍楽しいという画期的な遊びで(笑)。
──それもいわゆる編集に近いことですよね。小さいころから好きだったことがいまのわかるさんの活動に繋がっているという。
わかる:
不思議なんですが本当にそうなんです。小学校中学校時代に好きでやっていたことを今も編集でやっているんですよね。あの黒歴史たちはなにひとつ無駄じゃなかったんだなって。
──黒歴史(笑)。話を戻しまして、いま投稿されている『Return of the Obra Dinn』はレトロゲーではなく比較的新しいタイトルですよね。実況されるタイトルはどのように選んでいるのでしょうか。
わかる:
私はどんなゲームをやっても同じようなリアクションになってしまうので、30%くらいの実況にしかならないと思っているんです。そこに編集の力で70%を乗せて私のなかで100%の実況動画にできるかどうかで、投稿するかしないかを決めています。
じつはいろいろなゲームを、動画にするかは置いておいて録画するだけして試しに実況プレイしてみたこともあったんです。でも、ゲームとしてはおもしろくても、編集したい気持ちが湧かなくて。最新のゲームってものすごく丁寧な作りなので、編集を入れる余白がないんです。
──編集するっていうのがわかるんさんにとって一番大きい欲求としてあるんでしょうね。
わかる:
そうかもしれないです。私すごく頑固で、やりたくないことは本当にやらないんですよ。
──編集していて楽しいポイントってどのあたりなんですか?
わかる:
『キョンシーズ2』のときはアフターエフェクト(Adobe After Effects)を触りたてのころだったので、何をするのもワクワクして。いま見返すと、ものすごい見にくい作りにはなってしまっているんですが、当時は編集することじたいが楽しくてしょうがなかったんです。
『ミシシッピー殺人事件』のときには、多少いじれるようになったので、『キョンシーズ2』の編集での反省点を書き出して、テーマや一貫性を意識して編集をするようにしたんです。
──テーマや一貫性ですか。
わかる:
はい。『ミシシッピー殺人事件』の主人公は探偵なので、「探偵が手帳に書き込みながら調査をしている」ような編集テーマを設けました。この縛りが入ったことで、ものすごく楽しくなっちゃって!
──縛りが入ると楽しくなる?
わかる:
そんな感じです。『Return of the Obra Dinn』でも、「オブラディン号の世界観を崩さないように編集が前に出すぎてもダメ」という縛りがまたひとつ乗ったので、編集していてすごく楽しいんです!
2020年に入ったら動画編集の仕事が0本に。そんなとき声をかけてくれたまだら牛さん
──最近は、ナポリの男たちの「狂気山脈」や舞台「カタシロRebuild 侵蝕」PVだったり、TRPG関係の動画編集もされていますよね。
わかる:
はい。ありがたいことに、まだら牛さんに紹介していただいて、担当させていただいています。
──どういう経緯で担当することになったんでしょうか。
わかる:
もともとはクラウドワークスで動画編集の仕事を受けていたのですが、コロナ禍になってYouTuberさんたちが外で撮影できなくなった影響もあってか、2020年に入ったら編集の仕事が1本もない状態になってしまったんです。
どうしようかなと思って、「わかる」名義のほうで仕事を募集したんですけど、そのタイミングでまだら牛さんが声をかけてくださったんです。
──まだら牛さんとはもともとお知り合いだったんですか?
わかる:
Twitterでまだら牛さんが「いつも動画見てます」とフォローしてくださって、私も狂気山脈を見ていたので「こちらこそ見ています」みたいなTwitter上でフォローしあうくらいの感じでした。
まだら牛さんの誕生日にDMでお祝いのメッセージを送らせていただいたら、そのときに「じつはわかるさんに動画編集のお仕事を頼みたいです」と。
そこから、ディズムさんやナポリさんに紹介してくださって。まだら牛さんのおかげで「わかる」名義でたくさんお仕事をいただけるようになって、今はほぼ「わかる」名義の仕事だけで生きていけているので、本当に感謝しかありません。
わかるさんのミシシッピー殺人事件実況「始まりはいつも3号室」は、マジでクソゲー実況の歴史……どころかゲーム実況動画の歴史に名を残す名作中の名作だと思う。
— まだら牛🏔🎲 (@m_Usi) August 19, 2020
あらゆる意味ですごすぎる。https://t.co/pHOGlVTMWL
──まだら牛さんがわかるさんの動画編集を評価してくれて、そこから仕事が広がっていったと。
わかる:
本当にありがたかったです。編集方針も私にお任せしていただけていて、普段自分が作っていないタイプの編集をすることもあるので、編集としても楽しめています。
──ナポリの男たちの「狂気山脈」の動画はTRPGのリプレイ動画ですが、これまたものすごい時間かかってそうな編集ですね。
わかる:
TRPリプレイ動画の編集をするのが初めてだったので、最初のころはすごく苦戦しました。
勉強のために、まにむさんの「実はめっちゃ面白いクトゥルフ神話TRPG」やコウノスケさんの「ちょっと噛み合わない初心者たちのクトゥルフ」などを見たりして、漫画風な編集を意識して作らせていただいています。
ゲーム実況の時間はほしいけど仕事の縛りがあるのがちょうどいい
──いやあ……しかし、仕事で動画編集、趣味のゲーム実況でも動画編集と、わかるさんって普段どのような生活をされているんでしょう?
わかる:
ここ数年は起きている時間も寝る時間もまばらで、起きている間は仕事をして、その合間に趣味のゲーム実況の動画を作る。眠くなったら寝る、という感じです。
だいたい2時間くらい寝たら目を覚ますので、2時間寝て起きたら眠気がくるまで動画編集、眠気がきたら寝る……のくり返しですね。
──じゃあ眠くならなかったら2時間しか寝ないことも?
わかる:
そういうときもありますね。今日なんかも取材があるって緊張しちゃって……1時間しか寝られなかったんです。
──ええ、大丈夫ですか!? わかるさんの食生活も心配になってきました。
わかる:
家族と暮らしているので、何とか飢えずに済んでいます(笑)。
──身体は大事になさってくださいね……。逆に動画編集以外で何されてるんですか?
わかる:
TikTokがめちゃくちゃ好きでよく見ています。動画の時間じたいは短いのに、細かくカットされていたり見てもらうための工夫が詰まっていてすごいんですよっ!
──動画編集の視点じゃないですか(笑)。
わかる:
編集されているものを見ると、いまの演出はどうやって作ったんだろう、みたいなところが気になっちゃって(笑)。編集ってその人の個性がものすごく出るので、見ていてすごくおもしろいんです。
──ある種の職業病的な。
わかる:
そんな感じかもしれません。動画編集はどんどん楽しくなっているんですが、仕事が忙しくてゲーム実況の動画を編集できないときは焦っちゃうことはありますね。
ただ、実況動画のなかだとものすごく投稿ペースが遅いほうだと思うんですが、仕事の隙間時間でも動画を作りたいって気持ちになれるのは、間違いなく見てくださっているみなさんのおかげです。私の生きがいになっています。本当に感謝しかありません。
──今後の目標とかやってみたいことってありますか?
わかる:
ゲーム実況が今一番楽しいので動画を作る時間を増やしたいのですが、お仕事もとっても楽しいし生活もあるので……。宝くじが当たったりしたら半年くらい仕事を休んで実況をしたいですね。
たとえば動画が収益化して、それだけで生活費が賄えるなら仕事をしなくてもいいんですけど、そのためには動画の本数を増やすところからで、仕事の時間を削らなきゃなので、現状だと難しいところです。
でも、性格上、縛りがないと楽しめないところもあるので、仕事が縛りとしてあるのがちょうどいいのかなとも思います。
──無理のない範囲で……。(いち視聴者として)待つのは慣れているので(笑)。
わかる:
ありがとうございます(笑)。
既存の攻略情報に頼らず自力でゲームをクリアすることじたいは、ゲーマーなら珍しくもないだろう。検証しながらいろいろ考えるのは楽しいし、自力で攻略できたときは達成感でいっぱいになる。
だが物事には限度がある。
クリアのために2年間同じゲームをプレイし続けたり、ひとつの検証プレイに何ヵ月もかけたり、1700枚のゲーム画面を繋ぎ合わせて自作マップを用意したりするのは、なかなかどころじゃなく大変な労力を伴う。
できればそんなことしたくないと思う人が大多数だろうし、「楽しい」範囲を突き抜けて「辛い」感情が芽生えてもおかしくない。しかし、わかるさんはそれらも「楽しい」「ワクワクしちゃう」と語る。
取材中にこの話をお聞きしたとき、まず最初に思い浮かんだのは「本当に?」という若干の疑いの含んだ感情であった。「まさか」「そんなバカな」と。だが、お話を聞いていくうちにその気持ちは納得に変わっていく。わかるさんはなにも「苦行に身を置き続けたい」わけではなかった。
「大変な作業があるほうが動画としては楽しんでもらえる」
「見てもらうことを考えると、なんでも苦じゃなくて楽しくなっちゃう」
おもしろい動画を作りたい。それを見て、楽しんでもらいたい。そのためにわかるさんは何時間かかろうがゲームに真正面から挑んでいくし、途方もない時間をかけて丁寧に動画を編集していく。
「自分が作った動画にコメントしてもらえるのを見て、なんとも言えない快感があって。それがずっと残っていて……。そのためにずっと投稿し続けているんだと思います」
そして、そんな傍から見れば苦行に見える作業に楽しく臨める原動力こそ、自分の作った動画に寄せられる視聴者からのコメントであるという。
……わかるさんの動画にコメントしにいこう。いち視聴者としてふとそう思った。
・常人には理解できないやりこみゲーマーの世界に迫る──「ゲームプレイ開始まで準備に半年」「リセマラで1ヵ月」絶望と不可能を超えた先に生まれる感情とは【ゲーム実況者:shu3インタビュー】
・『FF6』のバグを令和になっても探し続ける男──「縛りプレイ記録更新のために本職のゲームデバッガーに」狂気に満ちたやりこみゲーマーの生き様に迫る
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