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『アイドリッシュセブン』アイドル達の衣装はどうつくられている? 担当スタイリストが語る衣装制作の裏側【対談:中原幸子×南圭衣子】

ニコニコニュース / 2022年8月20日 17時0分

 きらびやかにドレスアップした姿を見せてくれたり、

©アイドリッシュセブン

 かと思えば肩の力が抜けたカジュアルな服を纏ったり、

©BNOI/アイナナ製作委員会

 『アイドリッシュセブン』の衣装はアイドルたちのさまざまな一面をあらゆる角度で楽しませてくれる。

 手掛けるのは、原案を務める漫画家の種村有菜先生をはじめ、超有名アイドルのライブや、大人気舞台の現場で活躍するスタイリストなどさまざまなクリエイター陣。

 また、多くの『アイドリッシュセブン』マネージャーが楽しみにしているライブ──アイドルたちを演じる声優陣が、ステージに立ってパフォーマンスを行うイベントで着用される衣装の存在も欠かせない。

 見慣れた衣装が目の前に再現され、大きな感動を呼ぶ。セットリストや演出と同じように、どんな衣装が見られるのかもライブのお楽しみポイントになっている。

 本当に……『アイドリッシュセブン』の衣装へのこだわりは凄まじい!

 そんな『アイドリッシュセブン』の衣装を担当されているクリエイターのなかでも、SNS等で『アイドリッシュセブン』にまつわる情報を発信し、マネージャー【※】たちに『アイドリッシュセブン』の衣装さんとして愛されている中原幸子さんと南圭衣子さんのおふたり。

※マネージャー……『アイドリッシュセブン』におけるプレイヤーの立ち位置。転じて、ゲームのファンの総称として使われる。

 舞台『千と千尋の神隠し』や『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-Rule the Stage』等、人気舞台やアーティストの衣装を手がける中原さんは、メインストーリー第4部から『アイドリッシュセブン』に関わっている。

 「ナカサチ」さんというTwitterアカウントでデザイン画や衣装に込めた想いをつぶやいているところを目にしたことがある読者もいるのではないだろうか。

 AKB48の衣装を手がけた経歴を持つ南さんは、『アイドリッシュセブン』にとって初の声優が出演するイベントとなった「ファン感謝祭 vol.1」からライブやイベントでの衣装を担当してきた。

 ライブ開催後に発売される写真集「Stage Costume Book」や展示会開催を楽しみにしているマネージャーも多いだろう。

 そんなおふたりは実際どのように衣装をデザインしているのか。『アイドリッシュセブン』での衣装づくりならではのこだわりや苦労話など、衣装にまつわるさまざまなお話をうかがった。

 また、普段は交わることのないおふたりだが、中原さんがデザインした衣装を南さんがライブでキャストに着てもらうための形にする、というコラボ的な絡みもある。当時の心境や、お互いの仕事に対して思うことにも話題は発展。

 さまざまな仕掛けを打ち出し、アイドルたちをこの世界で輝かせ続けてきた『アイドリッシュセブン』。スタイリストとしてその一端を担ってきたおふたりが7周年を迎えるまでを振り返る様子をお届けする。

取材・文/朝倉有希
編集/竹中プレジデント

ファンレターを送ったことがきっかけで『アイドリッシュセブン』の衣装を手掛けることに?

──本日は『アイドリッシュセブン』にて、アイドル達の衣装をデザインされている中原さんとライブの衣装を手掛ける南さんのおふたりをお招きして、『アイドリッシュセブン』の衣装をテーマにお話をお聞きできればと思っています!

 本題に入る前に、まずはおふたりと『アイドリッシュセブン』との出会いについて教えていただけないでしょうか。

中原:
 『アイドリッシュセブン』にお仕事として関わらせていただいたのが2019年に配信開始した第4部のメインビジュアル「ハツコイリズム」からなので、3年になります。

 ただ、仕事で関わらせていただく前から『アイドリッシュセブン』を応援していたので、付き合い自体はもう少し長いですね。

南:
 私もです。リリース初期から応援していました!

──なんと! おふたりとももともと『アイドリッシュセブン』のマネージャーだったとは。中原さんが『アイドリッシュセブン』を応援するようになったのはどういうきっかけがあったんですか?

中原:
 友人から『アイドリッシュセブン』に関する熱烈なプレゼンを受けたのがきっかけでした。

 当時はアプリゲームにあまり触れていなかったのですが、「アイドリッシュセブンのここがいい!」と魅力を語り聞かされました(笑)。

──身近に熱いマネージャーさんがいらっしゃったんですね(笑)。

中原:
 そうなんです。それで私自身も話を聞いているうちにどんどん引き込まれていって、試しに遊んでみたんです。そうしたらハマってしまって!

 アプリだけでなく、実際にCG STAR LIVE「IDOLiSH7 PRISM NIGHT」も見にいきました。『アイドリッシュセブン』のアイドルたちが本当に生き生きとしていて感動してしまって……勢いでバンダイナムコオンラインさんにファンレターを送ってしまいました。

── ファンレター!? 

中原:
 はい。感想と共に、「いつかぜひ衣装デザインをさせてほしい」という内容のものを。本来はアイドルの皆さんに向けた手紙などをいれるボックスに手紙を投函したんです。

──すごい熱量です……。ちなみにお返事はあったんですか?

中原:
 はい。後日お返事をいただきました。それがきっかけで『アイドリッシュセブン』の衣装に関わらせていただくことになったので、今でも当時のことは印象に残っています。

── いきなり熱いお話がきけました。南さんは「IDOLiSH7 ファン感謝祭 vol.1~キミと愛を語らないと!~」から関わっていらっしゃいますが、まさかのリリース初期勢だったとは。

南:
 はい。リリースのタイミングから応援させていただいています!  ですので、最初にお仕事のお話があったときはうれしかったですね。

──どのようなきっかけで『アイドリッシュセブン』のお仕事に関わるように?

南:
 バンダイナムコに、『アイドリッシュセブン』以前からお世話になっていた方がいて、そのご縁で声をかけていただいたんです。ちょうど独立したタイミングだったので「機会があったらお仕事ください!!」とお話をしていて。

 私はもともと前の会社で女性アイドルの衣装を担当していたので、男性アイドルのスタイリング自体は初めてで。当時は不安な気持ちもありましたが、「アイドリッシュセブンのお仕事ができるんだ」って嬉しい気持ちのほうが強くて「やります!」ってお答えしました。

アイドルたちのルーツや生き様を衣装に詰め込みたい

──『アイドリッシュセブン』において中原さんは、アイドルたちの衣装のデザインを担当されています。実際にどのように衣装づくりをしているのか教えていただけないでしょうか。

中原:
 『アイドリッシュセブン』における衣装のデザインはちょっと特殊で、アイドルたちがこれまで辿ってきた道のりを衣装に詰め込んでいくことが多いです。

──辿ってきた道のり、ですか?

中原:
 はい。私たちプレイヤーはゲームのストーリーを読んでいるので、登場するアイドルたちの想いだったり裏事情を知っているわけじゃないですか。

 『アイドリッシュセブン』の世界のファンたちは知らない、プレイヤーであるからこそ知ることができる彼らのルーツや生き様、物語……それらを衣装で表現したいと思ってデザインしています。

──すごい素敵です……!! 例えば、中原さんが『アイドリッシュセブン』で初めて手掛けられた「ハツコイリズム」の衣装には、アイドルたちのどういう生き様や物語が詰め込まれているんでしょう?

中原:
 事前に「ハツコイリズム」を聴かせていただいたときに、アイドルみんなが「恋とは」という質問に答える2周年記念の特別ストーリー「この先もずっと…」を思い出したんです。

 例えば(逢坂)壮五は、好きな洋楽の歌詞から引用して「Love is crazy」というセリフがあり、「相手を心身ともに強く求めること」とも言っていました。だから大胆な感じにしたいなと。

©アイドリッシュセブン
デザイン・中原幸子

──そんな細かいセリフまでチェックして、しかも2年も前のストーリーでの描写もデザインの参考にしているなんて……まさにアイドルの生き様が詰まっている衣装ですね。

中原:
 あとは、時代のトレンドを取り入れるというのは意識していますね。

 「ハツコイリズム」の衣装は、当時、透け感やレースが流行っていたので「これいい!」と思って入れ込んでみました。

──なるほど。今のお話を聞いて改めて中原さんがデザインされた衣装を見てみると、「ミライノーツを奏でて」や「Dancing∞Beat!!」もトレンド感があって素敵だなあと。

中原:
 ありがとうございます。オーバーサイズは今も流行っていますよね。「ミライノーツを奏でて」は、アニメの別所監督からのオファーで「シンプルだけど印象のあるものにしてください」というような依頼だったんです。

 アニメ2期のエンディングテーマで、本編ではシリアスな話が続いていたので、THE・アイドル!という衣装よりは、ホッとできるような心温まる色合いでまとめました。とてもやさしい曲ですし。

©BNOI/アイナナ製作委員会
デザイン・中原幸子
デザイン・中原幸子
デザイン・中原幸子

──作中のどのシーンで衣装が登場するかも大切にされているんですね。アニメ2期のRe:valeは、カチッとした衣装のイメージが強いユニットだったので意外に思ったファンも多いと思います。

中原:
 当時の『アイドリッシュセブン』は私服を除くとアイドルらしい衣装が多かったイメージが私の中でありました。ちょうど『アイドリッシュセブン』でのお仕事にも慣れてきたころだったのもあり、リアル・クローズ寄り(現実性のある服)をデザインしてみようと、ある意味ちょっとした挑戦でした。

 とくにRe:valeのイメージとは大きく異なる衣装だったこともあり、ファンの方からの反応も沢山いただいて、「こういうのやってもいいんだ!」とホッとしたのを覚えています。

──イメージが変わったと言えば、「Dancing∞Beat!!」も。これまではショート丈と言えば(和泉)三月でしたが、(四葉)環も履きこなしていました。最年少でやんちゃな環にショートパンツはぴったりですよね。

中原:
 リアルのアイドルでも「ショート丈と言えばこのメンバー、ロング丈と言えばあのメンバー」みたいに固定されてしまいがちなのですが、いい意味でそれが崩れることがあってもいいと思っているんです。

 この衣装もいつもとはちょっと違うスポーティなものだったので、環の違う魅力を見せてもいいのかな、と思いました。

©BNOI/アイナナ製作委員会
デザイン・中原幸子

ステージに立つキャストさんの魅力を引き出しつつ『アイドリッシュセブン』の世界観を崩さないのが役割

──一方で南さんは、アイドルを演じる声優陣がライブでパフォーマンスする際の衣装を製作されています。衣装デザインのオファーからライブ本番までの流れはどんな感じですか?

南:
 『アイドリッシュセブン』での私の役割は、既に存在するデザインの衣装をライブ用に起こす(再現)ことです。

 まずは、ライブのセットリストとともに、1曲目から4曲目はこの衣装、5曲目から8曲目はこの衣装、のような楽曲に対応した衣装の資料をいただくんです。そこから、どの生地を使おうとか、ライブ衣装を作るにあたってどうアレンジしようとか、考えていくのが基本的な流れになっています。

──どのくらいの再現度にするか、アレンジを加えるか……といったところも指示があるのでしょうか。

南:
 いえ。そういうガチガチの指定はとくにないですね。1st LIVE 「Road To Infinity」のときも「そのまま再現するのもアレンジするのもお任せ。ただ、あの衣装だってわかるようにお願いします」くらいのオーダーでした。

 どちらかというとステージに立つキャストさんとのやりとりのほうが多いかもしれません。

──インタビューやTwitterでもキャストさんとの衣装に関するやり取りを披露されていましたね。

南:
 そうですね。本当に皆さん演じるアイドルへの想いが強いので。丈の長さやパンツの太さやボタンの個数から、それこそ“襟を立てるかどうか”や”はだけ感”のような本当に細かいところまで一緒に相談しながら調整していきます。

──はだけ感にまで……。

南:
 例えば、(和泉)一織役の増田俊樹さんは、まさに「一織が降りてきている」ほど役に入り込むタイプの方で、衣装のやりとりをしていても、自分に似合うかどうかはもちろん、「和泉一織として」の見えかたを非常に大事にしていることが伝わってきます。

 今年1月に開催されたライブ「IDOLiSH7 LIVE BEYOND “Op.7” 」で「Mr.AFFECTiON」の衣装を作らせていただいたんですが、じつはもともとは長袖で揃える予定だったんです。

 でも、増田さんから「一織が半袖だから半袖がいい!」と頼まれて、その場で袖をジョキジョキと切って。

©アイドリッシュセブン

──さすが「増田俊樹はいなかった(そこには一織がいた)」とファンの間で語られるほど、ライブで一織を演じきっている増田さんですね。

南:
 いまお話をした増田さんだけでなくて、本当に皆さん演じるアイドルを大事に考えてくれていて。しかも、ライブを重ねていくごとに演じるアイドルへの理解度や解釈が深まっているのは感じます。

 私も少しずつアイドルへの理解が深まっていますし、キャストさんとのお付き合いも長くなり「こういう提案をしたらこう返ってくるだろう」というのがわかってきているので、どんどんやりやすくなってきました。

──素敵なチームワークです!

南:
 それに、ライブを見てくださる方々が何を求めているかって、楽曲によって違うと思うんですアレンジされていても喜んでいただけるのもあれば、「星屑マジック」のように、あの衣装をそのまま見たいでしょ! っていうのもあるじゃないですか。

©アイドリッシュセブン

──「星屑マジック」! 劇中劇の衣装は人気も高く、マネージャーにとって“現実に再現”してほしい衣装かもしれません。

南:
 なので、かなり気合を入れて作ったところ、衣装がかなり重くなってしまって……。

 衣装を着ていただく千役の立花慎之介さんは日本舞踊をされていて、立ち振る舞いはもちろん布の動きも意識されている方なんですが、「かっこよければいいよ!どんどんやっちゃって!」と、調整のときに言っていただけてありがたかったです。実際、美しく衣装を見せるような立ち振る舞いをしていただけました。

──頼もしいですね……!

南:
 『アイドリッシュセブン』に登場するアイドルたちと演じるキャストさんたちって、ちょっとした乖離があるじゃないですか。

 そんななか、ステージに立つキャストさんの魅力をより引き出して、なおかつ着る本人のテンションが上がるように。でも作品の世界観を崩さず、ファンの人たちが見て喜んでもらえるような。そのバランスを見つけていくのが私の仕事だと思っています。

おふたりの初コラボはサプライズだった

──普段は基本的に別々にお仕事をされているおふたりですが、「TRIGGER LIVE CROSS “VALIANT”」での「Treasure!」の衣装では、中原さんがデザインした衣装を南さんがライブ衣装として再現するいわゆるコラボとなりました。このとき、おふたりの間ではどのようなやりとりをしたのでしょう。

中原:
 いえ。やり取りはありませんでした。そもそもライブで「Treasure!」の衣装がお披露目されること自体知らなくて。配信で見ていてめちゃくちゃビックリしちゃいました!

 直後にプロデューサーの下岡聡吉さんから「サプライズでした」って連絡をいただいたんですが、サプライズにもほどがありますよね(笑)。

デザイン・中原幸子

──本当ですね! ご自身がデザインした衣装が実際のライブの衣装として登場するのってどういうお気持ちなんですか?

中原:
 それはもう、とても嬉しかったです!

 自分の手ではなく南さんのアレンジで作られたことで、また違う魅力が見えつつ、ちゃんと「Treasure!」で他のクリエイターの方が自分のデザインした衣装を作ってくださるのは初めての経験だったので、いつもの仕事とは違う感動がありました。

南:
 ありがとうございます……! ものすごいプレッシャーのもと製作していたので、そう言っていただけてとても嬉しいです。

中原:
 私も「他のスタイリストさんがデザインした衣装を形にしてください」って言われたらプレッシャーを感じちゃうと思います。勇気いりますよね……。

南:
 でも、同業者の方に褒めていただけるなんてはじめてでうれしいです。わたしも中原さんのデザインかわいくて大好きです

中原:
 本当ですか! ありがとうございます。同じ現場に他のスタイリストの方がいる機会なんて滅多にないですもんね。

南:
 じつは今日お会いする前も、どんな方なのかドキドキしていました(笑)。

──まさかの(笑)。中原さんも南さんも単独でのインタビューは拝見したことがあるんですが、おふたりが揃ってお話をしているインタビューがなかったので、いちマネージャーとしておふたりがお話をしているのをぜひ聞きたくて今回取材の打診をさせていただいたんです。

「Treasure!」衣装に込められた中原さんの想い、南さんの想い、そしてカオルちゃんの想い

──お話を「Treasure!」の衣装にもどさせていただいて……。「Treasure!」のライブでの衣装はかなり中原さんのデザイン画に忠実ですよね。

©アイドリッシュセブン

南:
 資料として中原さんのデザイン画をいただいたのですが、生地や装飾などの仕様がガッツリと書かれていたので「これは崩せないな……」と

 それにそのデザイン画の情報は、中原さんのインタビューが載った雑誌に掲載されていて。すでに知っているマネージャーの皆さんもいらっしゃる時期だったのでなおさら。

──TRIGGERにとっても、ストーリー上で転機が訪れたタイミングでした。

中原:
 そうなんです。「Treasure!」は、TRIGGERが一度芸能界を追われて、路上や小さなライブハウスから改めて一歩一歩を積み重ねて、ついに多くのお客さんの前に出る!っていう時期だったじゃないですか。

 そんな晴れ舞台で、私がTRIGGERのマネージャー、カオルちゃんだったら予算がキツくても絶対にみすぼらしい服は着せないと思ったんですよね。

──姉鷺カオルさんの想いが盛り込まれているんですね!だれよりもTRIGGERをかっこいいと思っていて、輝かせることに全てを注いでいますもんね。

中原:
 もちろん、いつもいつも豪華な衣装が続くと飽きがくるので、物語の展開や前後の流れを考えて、シンプルな衣装にするか、派手な衣装にするか、バランスをとる必要はあります。

 でも、ここはファンの方々も輝く彼らの姿を求めているだろうと。絶対に派手な方がいい! 思いました。

南:
 そう。ファーがついていたりマントを羽織っていたり、豪華なんですよ。でも、その衣装を着るのがライブの中でもとくに振付が激しいパートだったので、これは困ったと。

──困ったとは?

南:
 普通に作ってはどうしても重くなって稼働に制限がかかってしまうんです。ただ、中原さんの想いもありますし、マネージャーの方の期待もあって、中原さんがデザインされたビジュアルのシルエットは崩したくなかったんですよね。

 なので、軽い生地にさせていただいたり、丈を短くさせていただいたり仕様にギミックを入れて、極力デザイン画のままいけるようにめちゃくちゃ試行錯誤して。とくに(十)龍之介のマントが大変でした。

デザイン・中原幸子

──龍之介の衣装が一番シンプルに見えますが、どのあたりに苦労されたのでしょうか?

南:
 マントを革ジャンに固定させると、どうしてもマントの重みで肩からズレて踊れなくなってしまって。形もきれいに見えなかったんです。

 だから、マントにハーネスをつけて、革ジャンとシャツに通して動いてもガッツリズレないようにさせていただきました。龍之介役の佐藤拓也さんにも喜んでいただけたのでよかったかなと。

中原:
 そういえばこのライブ後、下岡さんから「(九条)天のニーハイブーツすごくかっこよかったです!」ってメールが来ました(笑)。

南:
 そうなんです。このロングブーツは天の衣装の一番のデザインポイントだと思っていて。「斉藤(壮馬)さんなら履いてくれるだろう!」と思いつつも、ブーツの長さやヒールの高さが違うものをいくつか用意したんです。

 いろいろ試してみて、デザイン画の通りのヒールの高いニーハイブーツを「履きましょう!」って言っていただけました。

デザイン・中原幸子


ステージ開幕の直前まで理想の動きを追求する衣装の調整

──想像以上に細かい部分までキャストさんとやりとりしているんだなあと驚いているんですが、衣装の調整時間ってどのくらいあるものなんでしょう?

南:
 キャストさんが衣装を着て実際に踊るのは、ゲネプロ(最終リハーサル)とそのひとつ前の着リハ(衣装を着てのリハーサル)の2回くらいです。

 立ち姿はもちろん、踊っているところを見て衣装を調整したり、着替えにかかる時間を計ったりで、けっこうギリギリまで調整しちゃうんですが、どの現場もそうなんですかね?

中原:
 私も舞台の仕事の時は幕が開いてキャストさんがステージ上に出ていく直前まで調整しますね……! ファンの方が見たいであろう理想の服の動きを出したくて。

南:
 めっちゃわかります!

中原:
 服の流れって振付によって動きかたも全然違いますよね。

 衣装をフィッティング(試着)してから振付を微調整していただくことはできるのですが、大きく動きを変えることは難しいので、衣装側で合わせていくこともあるんです。

──衣装側でどうしても調整できない……みたいなときに振付師さんに相談するみたいな感じですか?

南:
 そうですね。例えば「Treasure!」衣装のパートの中で(八乙女)楽役の羽多野渉さんに、しゃがんで足を上げる振付があったので、危なくないようにマントを短くしたんです。

 そうしたら、マントを後ろに払うような振付が綺麗に見えなくなってしまって。そのときは振付を調整いただきました。

デザイン・中原幸子

──なるほど。

中原:
 ステージに立つと、会場の広さや床の色、照明の当たりかたなどで衣装の印象がガラリと変わるので。本番前に何もすることがなくて余裕があることはあまりないと思います。

南:
 確かに。今のお話を聞いて思い出したんですが、「Treasure!」のとき、楽と龍之介の衣装はクリスタルのスワロ(スワロフスキー)をつけていたので照明の下で綺麗に反射してくれたんですけど、天の衣装につけていた2種類のピンクのスワロは反射が弱くて他の2人と並ぶとキラキラ感が足りなくて……。

 クリスタルやオーロラのスワロをつけ足したりして、ギリギリまで調整していました。

──そういうトラブルというか、その場で予定になかった調整をするというのはけっこうあるんでしょうか?

南:
 そうですね。着リハで天の衣装のスワロがボロボロと落ちてしまったり。

──えっ、それって大変じゃないですか!?

南:
 天の独特なシルエットを出すために、楽と龍之介は違う少し柔らかめで伸びやすい合皮を使っていたんですが、そのせいかスワロの定着が悪かったみたいで……全部とってつけ直させていただきました。

─むしろ本番直前が大仕事なんですね.……!

アイドルのための衣装ではなく舞台衣装として考えた「Last Dimension」

──おふたりのコラボと言えば「Last Dimension」の衣装もそうですよね。もともとの衣装とは違うデザインの衣装がアニメで出てきて驚きましたが、どういったオーダーから始まったのでしょうか。

中原:
 アニメでは実際にLast Dimentionが演じられるシーンのために「舞台上の登場人物(役)としての衣装デザインをお願いします」というオーダーでした。

 舞台では第1部で物語を演じて第2部で歌とダンスのステージという構成がよくありますよね。今回デザインした登場人物用の衣装が第1部に着るもので、楽曲用の衣装は第2部で衣装替えしてライブをしているイメージとお聞きして。

 舞台の衣装からライブの衣装になるということをわかるようにしてほしいとリクエストがありましたね。

©BNOI/アイナナ製作委員会

©アイドリッシュセブン

──すごく難しくないですか!?

中原:
 さすがに難しかったです。なので、3人それぞれ均等にライブ衣装の要素が入っているわけではなく、3人トータルで見たときにライブ衣装の要素が50%くらい入っているようなイメージで作りました。

──なるほど。中原さんは実際の舞台の現場でもご活躍されていますが、そういったお仕事でのノウハウも活かされているのでしょうか。

中原:
 はい。私が実際に舞台衣装としてリアルに手がけるとしたらどうするか考えました。

 「天の衣装はスタイリングと既製品のリメイクで」「羽根はこういう材質で」というようなところまでお伝えして。舞台衣装とライブの衣装って考えかたが全然違うので、『アイドリッシュセブン』でこういう衣装をデザインするのはすごく新鮮でした。

デザイン・中原幸子
デザイン・中原幸子
デザイン・中原幸子

──ありがとうございます! ライブで登場した衣装もそのまま再現というよりは、アレンジが加わっていましたね。

南:
 もともとは舞台衣装ですが、ライブで登場するんだったらもう少しライブ衣装っぽくしたいなと思ってアレンジしました。

 と言うのも、この衣装はライブ2日目に登場するので、ライブ1日目の「ダンスマカブル」とのバランスもとりたかったんです。

 「ダンスマカブル」も人によってはリアル・クローズ寄りの衣装ではあったのですが、生地や装飾にライブ用の衣装感を持たせていて。龍之介の衣装もマントが続いていたので、印象にメリハリをつけたいとも考えて、形を変えさせていただきました。

中原:
 じつはこの衣装が登場することも私は知らなくて。下岡さんから1日目の「Treasure!」の後に「明日もサプライズがありますよ」って連絡があったので、ドキドキしながら配信を見ていたのですが、アレンジが加わっていてもすぐに「Last Dimension」だとわかって嬉しいサプライズでした。

デザイン・中原幸子

スタイリスト同士だからわかる、じつはすごいあの衣装

──おふたりともそれぞれSNSなどでアイドリッシュセブンの衣装について発信されていらっしゃいますが、交流はほとんどなかったんですね。お互いの担当されているお仕事に対してすごいと思う点や好きな衣装はありますか?

中原:
 私は『アイドリッシュセブン』ではデザイン画を描くところまでなので、ライブに関してはキャストさんたちが着ている衣装を見させていただくくらいなんですが、二次元的に衣装デザインされたものをリアルに起こすって絶対大変だろうなっていうのはいつも思っています。

 「2nd LIVE REUNION」の時の2着目の衣装がすごく好きなんですが、種村有菜先生のデザイン画をリアルに起こすのって相当難しかったんだろうなって。

CD:Arina Tanemura

南:
 おっしゃる通りすごく難しくて……。メインカラーの淡い水色ってチープになりやすいんですがチープには見せたくなくて、高級感が出るようにスウェードを使用しました。どの素材を使うかは相当悩みましたね。光り物の生地を使わないという縛りも自分に課していて。

 なにより、種村先生の撮り下ろしがすごく素敵じゃないですか。それをライブ用に起こしたときに、その素敵さは絶対に損ないたくなかったんです。

中原:
 しかもあの時は屋外のメットライフドーム(現ベルーナドーム)での開催で、昼間の公演もあったので、明るくて周りのお客さんの服の色や看板が目に入ってくる環境だったんです。その状況での水色って相当難しいんですよ。

 キラキラした生地というわけでもなくて、それなのに登場した時の印象がすごくしっかりしていて。かつ、種村先生のよさも生きていて、とても感動しました!

南:
 ありがとうございます! デザインをされた種村有菜先生にも喜んでいただけて、自分が『アイドリッシュセブン』で手掛けた衣装のなかで一番のお気に入りかもしれません。

──種村先生の完成された色彩のCDジャケットに出てくるアイドルらしい衣装と、中原さんの作りがリアルでスタイリッシュな衣装。それぞれに再現する際の難しさがあるんですね。

中原:
 そもそも、衣装づくりに何人ものクリエイターの方が関わっているのは『アイドリッシュセブン』ならではだと思います。

 私は、「自分以外にアイドル衣装が得意な方はいらっしゃるし、自分に求められているのはリアリティだろう」と思って作っています。

──ご自身の強みを意識的に表現されていると。

中原:
 各クリエイターごとに持ち味があると思うのですが、どの衣装を見ても曲とマッチしていて違和感がなく、それぞれ合った人を選んでいるんだな……! と驚いています。

 いろいろなクリエイターの方が衣装をデザインすることで、作品の世界観の幅が広がっていって……アイドルたちのさまざまな姿を見られるというのは素敵ですよね。

南:
 それこそ、私にとって中原さんは『アイドリッシュセブン』の衣装の幅を広げてくださる存在です。

 中原さんから、これまでなかったようなデザインがでるおかげで、私の『アイドリッシュセブン』においての衣装づくりにも幅を持たせられるというか。ですので「本当にありがとうございます」という気持ちです。アイドルたちがどんどん大人になっていっている感じもしますし。

中原:
 いえいえ、こちらこそありがとうございます、なので!

「ハツコイリズム」のライブ衣装を作ってみたい

──今後、アイドルたちに着せるこんな衣装を作ってみたいとか、ライブであの衣装を再現してみたい、といったものはありますか?

中原:
 私は最近はリアル・クローズ寄りの衣装が続いているので、原点に戻ってアイドル系の衣装をデザインしてみたいです。

──おお! 楽しみです!

中原:
 あとは、さきほどお話にもあがった「2nd LIVE REUNION」の時の2着目みたいにメンバーカラーの入っていない衣装にも挑戦したいですね。同じカラーで揃えて、全員お揃いに見るけど、デザインは違っている、みたいな。

南: 
 いいですよね。私もメンバーカラーが入っていない衣装を作ってみたいなと思っていて……あとは「ハツコイリズム」作ってみたいです!

中原:
 わあ! 大変そうですけど、「ハツコイリズム」作ってほしいです!

南:
 絶対「熱さが……」って言われますよね(笑)。

中原:
 ありそうですね(笑)。

南:
 あと、すごく個人的な気持ちとしては、「星巡りの観測者」の環の衣装が本当にかっこいいと思っていて……

──ラズ役の衣装ですね。アイマスクで目が隠れていました。

南:
 そうです、そうです! 目が完全に隠れているので、そのまま再現するのは難しいと思うんですが、もうめちゃくちゃ作りたいですっ!

──「星巡り」はRe:valeのみライブで登場しているので、もし全員が揃った景色が見られたら壮観でしょうね……。

『アイドリッシュセブン』にとって衣装とは?

──『アイドリッシュセブン』は7周年を迎え、ストーリーも一旦大団円となりました。とはいえアニメ「Third BEAT!」第2クールや「Re:vale LIVE GATE “Re:flect U”」を控えていますし、第5部のストーリーでは大きな変化も匂わせられました。

 まだまだ先へ先へと続いていきそうな『アイドリッシュセブン』に対して、衣装のお仕事はどんなことができるとお考えですか?

中原:
 『アイドリッシュセブン』って、ストーリーや登場人物や楽曲などいろんな魅力がある作品じゃないですか。私も経験があるんですが、身近な人におすすめするときは「ストーリーが重厚なんだよ!」「楽曲がすごく良いんだよ!っていろいろな要素を挙げますよね。

 そんなときにおすすめするポイントとして、『アイドリッシュセブン』に興味を持ってくれるきっかけのひとつとして、衣装があるのであればうれしいなと思っています。

──なるほど。『アイドリッシュセブン』のファンが「あの衣装このアイドルにとっても似合ってる!」と喜んでくれるのはもちろん、作品への入り口にもなり得ると。いや、もうすでになってそうです。

中原:
 じつは……「ミライノーツを奏でて」の衣装がきっかけで『アイドリッシュセブン』をインストールしましたというメールをいただいたことがあるんです。とっても嬉しかったです!

──それは嬉しすぎる! 南さんはいかがですか?

南:
 マネージャーの皆さんに喜んでいただくことはもちろん、作った衣装を着てステージに立つキャストの皆さんにとっての鎧のようなものになったらいいなと思ってます。衣装を着たらテンションが上がるような、パフォーマンスをするための一助になれたら、と。

──キャストさんと南さんのアイドルへの想いが込められ、キャストさんが動きやすいように調整された衣装はまさに「戦闘服」ですよね。いろいろとお話が聞けて楽しかったです。本日はありがとうございます!(了)


 アイドルたちのために、数多くの衣装をデザイン・制作してきた中原さんと南さん。

 おふたりが各衣装を作った当時を思い出しながら語るエピソードを聞いていると、こちらもライブや楽曲との思い出がありありと思い浮かんできた。

 「Treasure!」の衣装を見て思い出すのは、ライブビューイングと配信のみの開催ならではの演出や凝ったカメラワーク。わくわくしつつも、また必ず直接パフォーマンスを見たいと強く思った「TRIGGER LIVE CROSS “VALIANT”」。

 第4部の展開に不安と期待を寄せて何度も眺めたPVと「ハツコイリズム」の衣装。バックには「Mr.AFFECTiON」のインストが流れていた。

 MEZZO”らしいカラー……ふたりの衣装なのかな? と思いきや、IDOLiSH7全員がメンバーカラーのないお揃いの衣装で現れ驚いた2nd LIVE「REUNION」の水色の衣装。

 7周年のこの機会にお気に入りの楽曲やライブの思い出を振り返る際は、ぜひ衣装にも想いをはせてみてほしい。

 中原さんと南さんが感じていた当時の大変さ、嬉しさを読みつつ、アイドルたちと自分の思い出を振り返っていただけたら、こんなにうれしいことはない。

 そして筆者も、アニメ「Third Beat!」第2クールや「Re:vale LIVE GATE “Re:flect U”」の衣装にもおおいに期待して待ちたいと思う。

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