【推しの子】制作秘話を作者ふたりにネタバレ全開で語ってもらった! 神回と評される”エゴサ回”で作品の方向性が決まった?【赤坂アカ×横槍メンゴインタビュー】
ニコニコニュース / 2022年8月25日 11時0分
『【推しの子】』がすごい。
なにがすごいのか? 原作の赤坂アカ先生と作画の横槍メンゴ先生による阿吽の呼吸から紡がれるストーリーが、である。
初期ネームの時点では棒人間だったキャラが、横槍先生が描く作画をきっかけに赤坂先生のお気に入りキャラに。その後、単行本で表紙を飾るメインキャラ級の存在になったり。
当初はぽっと出のキャラだったはずなのに、横槍先生が描いたシーンをきっかけに再登場。“まるで主人公のような”熱い姿を見せてくれたり。
まさにアドリブ進行。週刊連載の中、あらかじめ定まった一本道の物語を進むわけでなく、お互いを「友だち」と呼び合うふたりの漫画家による化学反応が『【推しの子】』では起きている。
そんなライブ感が読者の支持を集めたのか。『【推しの子】』は読者投票により順位が決まる「次にくるマンガ大賞2021」コミックス部門で第1位を受賞。
また、2022年6月10日にはアニメ化の発表も告げられ、Twitterトレンド上位に入るほど大きな話題を集めるなど、今ノリにノッている人気漫画となっている。
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— 『【推しの子】』アニメ公式 (@anime_oshinoko) June 9, 2022
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さて、『【推しの子】』が「次にくるマンガ大賞2021」コミックス部門で第1位を受賞してから約1年。去年もっとも「次にくる」と言われた作品のひとつ『【推しの子】』のいまはどうなっているのか。
ニコニコニュースオリジナル編集部では、『【推しの子】』作者である赤坂先生、横槍先生のおふたりにインタビューを実施。
もともと人気漫画家だったふたりが『【推しの子】』でタッグを組むようになった理由とは?
「千年に一度のアイドル」である星野アイはいかにして生み出されたのか?
読者の心をつかんで離さないストーリーの展開はどのようなやりとりを経て作られたのか?
『【推しの子】』のルーツから、アニメ化を含めた今後の展開までお話をお聞きすることができた。
物語の重要な要素のネタバレは記事の後半に収録しているので、『【推しの子】』のファンもそうでない方も安心して本記事を楽しんでいただければ幸いだ。
取材・文/トロピカル田畑
文/小林白菜
取材・編集/竹中プレジデント
■「千年に一度のアイドルって描ける?」星野アイはいかにして生まれたのか
──まず、赤坂先生と横槍先生が『【推しの子】』でタッグを組んだきっかけをお伺いしたいです。赤坂先生は過去にインタビュー(ライブドアニュース)で、横槍先生が描いたジュニアアイドルの心の闇をテーマにした短編作品『「かわいい」』を読んだことが作画をオファーする決め手だったとおっしゃっていましたが……。
赤坂:
メンゴ先生が描く女の子は顔がいいんですよ! でないと短編のタイトルに『「かわいい」』なんて書けませんよ(笑)。
横槍:
あはははっ! たしかに自信ありげなタイトルだね……。
赤坂:
だからこそ、この人なら星野アイを描ける、そう思ってお願いしたんです。
横槍:
本当の最初の最初、「千年に一度のアイドルって描ける?」って聞かれた気がする。
──すごい質問ですね……。
横槍:
アカピーからオファーをいただいたときは正直びっくりしました。当時、ちょうど絵を頑張ろうと思って修行中だったんです。そんなときに、友だちだけど、実力のある作家さんだと思っているアカピーから声をかけてもらえたっていうのは純粋にうれしかったです。
──ちょっと気になったのですが「アカピー」とは?
赤坂:
『タコピーの原罪』が連載されだしたころから僕のことアカピーって呼び始めたよね。
横槍:
タコピーならぬアカピーと(笑)。
──なるほど、タコピーから来ている呼び方だったんですね。「千年に一度のアイドル」である星野アイについては、赤坂先生からどのようなオーダーがあったのでしょうか?
横槍:
星野アイちゃんに関してはアカピーが、もう完成に近い状態のデザインを描いていて、それをちょっといじったぐらいですね。
──なるほど。赤坂先生は星野アイをどうイメージして作り上げていったんでしょう?
赤坂:
とにかく、アイは違和感のあるキャラクターじゃなきゃいけないっていうのがあるんです。
──違和感?
赤坂:
そう。やっぱり「千年に一度」って言うからには「そのへんにいる人感」は出ちゃいけない。
僕が人生の中で出会ったことがある天才と呼ばれる人たちの雰囲気を入れてアイの性格は作られていきました。あと、とりあえず目には星入れとくか! みたいな(笑)。
で、アイドルといえば前髪がちゃんとあって黒髪ロングだろうな、というところまでは僕が描いたんですけど、そこからは「メンゴ先生、あとはお願い!」って感じです。
横槍:
めちゃめちゃ期待されてたので、すごく頑張った気がしますね。とにかくオーラをまぶして。
でも、アイの絵をアカピーはすごく褒めてくれるけど、アカピーも私と同じぐらい可愛い女の子をサクッと描けるじゃんと思っています。
赤坂:
いやいやいや違うんよ(笑)。
横槍:
違うんだ(笑)。
──どこが違うのか気になります(笑)。
赤坂:
メンゴ先生の絵にはね、針が仕込まれているんです。
──えっ、針ですか。
赤坂:
手で触ってみると、ふわふわなシルクのような肌触りなんですが、「この素材、いい肌触りしてるなぁ」って思っているとチクってくるんです。
横槍:
へぇ~。ちょっと毒気がある、みたいなのはたまに言われるけど。
赤坂:
僕の漫画のキャラクターデザインや絵柄って多分“媚び寄り”なんですよ。メンゴ先生の絵には女性の強さっていうか、媚びないかっこよさが絶対に入っているんです。
横槍:
そうね。女性受けと男性受けの配分のバランスの違いじゃない? 言い換えると私が描く女子たちはみんな我が強いから。
■「熱さが伝わる絵にしてくれ」横槍メンゴが『【推しの子】』で切り拓いた新境地
──絵柄のお話ですと、『【推しの子】』に出てくるキャラクターは、横槍先生のこれまでの作品に見られるような儚さを感じる絵ではなく、線が太めで性格も強い印象があります。
横槍:
実際、線は太くしてます。女の子がどうっていうよりは、作品に合わせて今回は太くしたいなと思ってやっている感じですね。
赤坂:
頑張って「ヤングジャンプ」に絵柄を合わせてくれてると思っています。
横槍:
そう! 「ヤングジャンプ」と「少年ジャンプ+」の読者に頑張って絵柄を合わせてるんです、これでも(笑)。『【推しの子】』は私が描いてきた漫画とは雰囲気も違うし、動きのあるシーンも多い作品だったので。
どうしても私が素の状態で描くと儚い感じとか、かわいい感じになっちゃうので集英社の編集者さんからオファーいただいたときは「熱さが伝わる絵にしてくれ」とすごく言われました。
連載してるのが男性誌なので、重厚で男性も手にとってくれるような……そこの兼ね合いもかなり気にしたおかげでいい塩梅に出来たと思います。
──たしかに、『【推しの子】』は少年誌のバトル漫画や青年誌のスポーツ漫画のような勢いや迫力を感じる描写も多い気がします。その点は編集者さんの判断が働いていたんですね。
横槍:
絵柄の雰囲気が今まで通りのままで私がアイドルものを描くと、少女漫画レーベルっぽい雰囲気が強くなって、従来の「ヤングジャンプ」の読者的にもどうかなというのはありました。表紙の雰囲気で書店で手に取りにくいかなというのも考えましたね。今回は特に性別問わず広く読んでもらえたらいいなというのがあったので。
赤坂:
こんなふうに、メンゴ先生は絵柄を男性に寄せようとしてくれている節がありつつ、僕も原作を女性に寄せようとしてるところはあります。
横槍:
結果ニュートラルになると理想かもね。漫画家が2人揃ってやるときに、それぞれの我をめちゃめちゃ出しまくって相手に合わせようとせずにそのままやってうまくいく例もあると思うんだけど、今回はお互い頑張ってすり寄せてるよね。私はそれがいい感じになっていると思う。
赤坂:
そうだね。でも、すり寄せることに無理は感じてないんだけどね。
横槍:
私も無理してない。アカピーがくれるネーム【※】はめっちゃうまいから。
※ネーム
漫画を描く際のコマ割り、コマごとの構図・セリフ・キャラクターの配置等を大まかに表したもの。
赤坂:
僕にも『【推しの子】』はメンゴ先生の描く絵で見たいっていう気持ちがあるし。
横槍:
私は逆に、会話劇のコメディシーンをあんまりやってこなかったから、そこはめちゃめちゃ頑張って『かぐや様』とかを研究して寄せるようにしてる。
そういう、協力プレイみたいなことはしてますね。「相性が合っていなくてお互いの良さを殺し合ってる」みたいな意見って私たちの場合、ほとんど来ないもんね。
赤坂:
うん、ほとんど来ない。なんだったら、原作もメンゴ先生が書いてるって思われることもあるくらい(笑)。
横槍:
誤解されてるぐらい、マッチしてるということで(笑)。多分みんなが“メンゴみ”を感じてくれてるっていうのは、アカピーが「メンゴ先生の作品にありそう」みたいなのをうまいこと入れてくれてるんだと思います。
赤坂:
メンゴ先生のファンに「あーあ、やっぱりメンゴ先生がオリジナルを描いたほうが良かったじゃん」って言われたらけっこう悲しいので、メンゴファンも喜ぶ作品にしなきゃいけないっていうのはあったよね。
■原作と作画でどんなやりとりを経て『【推しの子】』は作られているのか?
──原作を赤坂アカ先生、作画を横槍メンゴ先生のタッグで描かれている『【推しの子】』ですが、作品づくりの際はどのようなやりとりをされているのでしょうか?
赤坂:
やりとりですか……僕がまず好き勝手やって、メンゴ先生と編集さんが整えてくれる、そんなイメージです(笑)。
横槍:
私はアカピーが好きなものはどんどん出した方がいいと思ってる。それがモチベに繋がるならなおさら。
それに、漫画は話の流れとか空気はひとりで作りあげるしかないものっていう意識がすごくあるの。だから最後は全部アカピーが決めなきゃいけないし、そうした方が絶対いいものになるって分かってるから下手に私の要素を入れて脱線させたくない。
赤坂:
僕としては、「メンゴ先生は書かなくてもわかるやろ」って感じで、どんどんネームが簡略化していってる現状です。
横槍:
でもぜんぜん見やすいけどね。たしかにアカピーはそんなに描き込むネームじゃないんですよ。顔がないところもあったりします。
でも、決めのシーンとかは「あっ、ここはこれぐらい描いてほしいんだな」みたいなのはネームの描き込み度合いから伝わってくるのでそれは絵に反映させています。
──基本的にストーリーについて横槍先生から赤坂先生に提案することはそこまでない感じですか?
赤坂:
ネームに詰まったとき相談したり、「ここ、どう思う?」みたいな質問をすることはけっこうありますよ。かまってちゃんな感じで「いまいい?」みたいな連絡を。
横槍:
「もう描けない~」みたいな(笑)。
赤坂:
「ネーム何時まで待てる?」みたいな(笑)。
横槍:
そうそう。そもそも、作品全体の大きな流れについてはネームに入る前に打ち合わせをするので、もし「これはさすがにどうなの?」っていうのがあれば、ネームの前の段階で意見してるしね。
──なるほど。お話をしていて、赤坂先生と横槍先生のおふたりの距離感が近いというか、非常に仲良しな雰囲気が伝わってきます。
横槍:
間に人を挟んでやりとりしなくていいのは確かに楽かも。アカピーには敬語も使わなくていいし。
赤坂:
あはははっ! 普段からこんな感じだよね。
■『【推しの子】』は既存のアイドル漫画に対してのカウンター
──『【推しの子】』が世の中にいま受けているのは、この作品が広く世間の関心ごとである“推し”や、アイドルを題材に選んでるっていうところも大きい要素だと思っています。
『【推しの子】』のアイディアを思いついた切っ掛けを改めてお伺いしてもよろしいでしょうか?
赤坂:
アシスタントさんたちと「どういう話がいいんだろうね?」ってお話ししていたんですよ。そのときに僕がアシスタントさんたちに出したお題が「みんなが持ってる願望って何?」というものだったんです。
そのときにアシスタントさんが「アイドルの子どもになりたいですね 」って言ったんですよ。「いま死ねば推しの誰々の子どもになれるぞ」みたいなネットのジョーク的なノリで。
それを聞いたときにそういう願望があるのはすごく理解できたんです。それがきっかけになって「もし推しの子どもに生まれ変わるなら?」というアイディアが生まれました。
──過去の赤坂先生は華々しいところだけ描くとどうしても嘘くさくなるとおっしゃっていて、いわゆるリアリティラインにこだわりがあるのかなと個人的には思っていたんですけれども、実際にそのあたりはどうでしょうか?
赤坂:
そうですね、リアルなものの方がより良いと思っているので。それに嘘をつくにしても、嘘っぽい世界で嘘をついても何も面白くないんですよね。よりリアルであればあるほど嘘が刺さるというか、そこは大事にしているところですね。
──たとえばさっきの『【推しの子】』が生まれる切っ掛けのお話で、「推しの子どもに生まれたら」っていうのは、リアルとはちょっと遠い要素から入っているじゃないですか? そのあたりはどういうお考えで落とし込もうというふうになっていったんでしょう?
赤坂:
「大きな嘘をひとつだけついて、他はリアルで埋めろ」っていうのは現在の作劇のスタンダードになりつつあるんです。『イカゲーム』とかもそうじゃないですか。あんな金持ちの道楽あるはずがないんだけども、「あります」ってことにして。他のことは全てシビアなんですよね。
ああいうのがいまウケる土壌になっているというのがあって。僕は昔からそれをやりたいなって思っていた節があるんですよね。
なかなかコメディってリアリティに寄らない部分があるんですけど、コメディをやるにしても、周りの設定も含めてリアルな方がコメディがなお映えるかもしれないっていう考えがあって。
『かぐや様』からこれは一貫していて、リアルにできるところはリアルにするっていうのは気をつけている部分でもあります。
──コメディ漫画はリアルに描くのがなかなか難しい存在なのかなと思います。シリアスなジャンルだとありえないことがギャグやコメディだとそれが許容されちゃうみたいなのがあって、リアリティラインが難しいのかなと。
赤坂:
そうですね。コメディをやるっていうことは、奇抜なキャラクターが登場して、突飛な考えとか、人とは違う考えを持っていたりすることが多いんですよ。
『かぐや様』とか『【推しの子】』とかっていうのは、突飛な考えを持ちつつも、「リアルな思考で変な状況を作る」っていうのを心掛けているというか。
そこに対してリアリティライン……展開の持っていき方は現実の高校や芸能界でもありそうなものっていうのをチョイスしています。
──そのバランスが絶妙だと思います。『【推しの子】』は生まれ変わりがそもそもありえないですが、読んでいるときはそれを忘れてしまいます。
赤坂:
『【推しの子】』のアイディアを考えているときは、芸能界に対してそんなに思い入れはなかったんですが『かぐや様』の映画化を踏まえて、芸能界の舞台裏もチラチラ覗くようになって「描けるかも」ってなったんです。
──てっきりアイドルを描こう、ということが先にあったのかと思っていました。
赤坂:
実は、オタク寄りの人間なのでほんっとアイドルとか芸能界には興味がなくって。編集さんがキャラクターを芸能人に例えたりすることが多かったんですが、「なんかガッキーみたいな感じ」と言われたら「だ、誰だろう?」みたいになっちゃうことばっかりで(笑)。
それで『【推しの子】』を描くって決めたときから芸能界を調べるようになって……逆に言うと僕はフラットな視点で芸能界っていうものを見ているのかもしれない。
アイドルもキラキラしている側面よりダークな面の方を多く描いているっていうのは多分そういうところが影響していると思います。
──『【推しの子】』はアイドルや芸能界のダークな面を意識的に描いているということでしょうか?
赤坂:
既存のアイドル漫画って、キラキラ輝くものがメインだったりとか、スポ根要素がめちゃくちゃ強いんですよ。
よくありがちなのは、大きいアイドルフェスみたいなものがあって、それで1位を取ったら凄いぞみたいなお話。でも、リサーチした結果、現実にはそんなキラキラした大きなアイドルフェスって無いと思ったんです。
──現実にはそんな弱小アイドルのシンデレラストーリーはなかった、というわけですね。
赤坂:
だから、僕は嘘を付きたくなかったんです。アイドルたちってもうちょっと陰鬱としていて、リアルなことを考えている気がして。キラキラしていて都合が良くて、人間離れした考えを持っているのは腑に落ちないというか。
『【推しの子】』は既存のアイドル漫画や芸能界漫画に対してのカウンターでもあるとは思ってますね。
■一緒に漫画を作ることは「ぜんぜん想像していなかった」
──横槍先生はニコニコ動画で「ヨリ」というハンドルネームでボカロ絵師として活動されていたことを知っている人の方が今では少ないかもしれないですね。
「『いーあるふぁんくらぶ』の絵を描いたのはメンゴ先生だったんだ!」みたいな感じで。
横槍:
アカピーともボカロ周りで知り合ったんです。
赤坂:
そうなんですよ。僕は『IA -ARIA ON THE PLANETES-』のキャラクターデザインを担当してからボカロまわりとの繋がりができて、そこでメンゴ先生と知り合いました。
──その頃には、原作と作画のタッグを組んで漫画作品を一緒に作ることになる……というのは想像されていましたか?
横槍:
ぜんぜん想像してなかったですねぇ。
赤坂:
よもやよもや(笑)。そんなことは考えてなかったです。
──では、漫画ではなくても「一緒に仕事することになるかも……」みたいな予感めいたものはあったり?
赤坂:
IAの楽曲を使ってどうこうっていうのはワンチャン見えていたかもしれないですけど。
横槍:
でも絵描き同士で役割が被っているし、やっぱり無いかなぁと思っていましたね。
──歌をつくる人と絵を描く人がコラボすることはあっても、絵を描く人同士が……というのは確かに。
赤坂:
そうなんですよね。もともと僕は原作でやっていきたいと思っていたんですけど、当時は一介のイラストレーターでしたから。そんなとき「横槍先生に作画の仕事振るかー」なんてことを考えられたら、それはもう予知能力者ですよ。
■「MEMちょのB小町への加入は、まさに“ライブ感”です」
──赤坂先生と横槍先生は過去のインタビュー(ライブドアニュース)で、週刊連載ならではの“ライブ感”を大切にしている旨をおっしゃていますが、そのようなライブ感の中で作られた具体的なエピソードをお伺いしてもいいでしょうか?
赤坂:
MEMちょです! MEMちょのB小町への加入はまさに“ライブ感”です。初めはこんなに活躍する予定はなかったんですが「こいつ、マジでいいこと言い始めたな」って思って、それで「MEMちょ好きだわ」ってなったんですよ。
──今となってはMEMちょは、B小町チームに欠かせない存在になっていると思いますが。
赤坂:
「私達目線の今ガチをやりたいんだ」って言ってるシーンとかいい顔してません? そのあたりから「あれ? MEMちょ、お前……B小町くるか?」って(笑)。
──そこでB小町への加入が決定した、と。まさに赤坂先生というプロデューサーの目に留まって「キミ、B子町やっちゃいなよ」って感じだったんですね。
横槍:
でもライブ感ってそういうのも含めて週刊連載は楽しいなって思っています。これが初期のMEMちょです。ネームの時点だとなんか棒人間だったよね、虚無だった。
──こ、これは……。
横槍:
次に来たネームはこんな感じでなんか耳みたいな謎のものがついていたから、髪を外ハネにしたんだけど「これは何だったんだろう?」ってずっと思ってるんだけど。
赤坂:
帽子……だと思う、たぶん(笑)。僕は、本当に帽子が大好きなんで。
横槍:
あぁ、帽子のつもりだったんだ。私はこのスヌーピーの耳みたいなやつが「外ハネってコト!?」と思って外ハネにしたし、有馬かなも最初なんか丸いのが頭に乗ってたからじゃあベレー帽にしようかなとか。
赤坂:
でもね、メンゴ先生はMEMちょにツノ生やしたでしょ? あれが決定打だよ。
横槍:
あ、そうなの? ツノは自分の『レトルトパウチ』って漫画でやったから1回やっちゃおうと思って流用したの。そしたら、思ったよりアカピーが気に入ってくれた。
赤坂:
あははは(笑)。単行本8巻は表紙だし。
横槍:
虚無から表紙にまで……MEMちょって出世したAKBの子みたいだね。
──プロデューサーに見いだされたアイドルはここまで輝いていくんですね。
赤坂:
でもよくよく考えてみたら、YouTuberっていうのは必要な要素だったんだよね。
だから最初はルビーたちがYouTubeを始めてみて、MEMちょはライバルとして絡むっていうプランもちょっと見えたりはしていたんですけど。
横槍:
でも味方になったんだよね。
赤坂:
引き入れたほうが早いわってどこかで気づいたんでしょうね。
■鳴嶋メルトが2.5次元編で見せた成長について「メルト、お前……伸びるのか?」
──MEMちょ以外にも印象に残っているシーンだったり、キャラだったりはありますでしょうか?
赤坂:
鳴嶋メルトくんですね。メルトくんはメンゴ先生が描いたときに、なんかこう、反省の色を感じまくって。「メルト、お前……伸びるのか?」みたいな。
横槍:
なんか気に入られちゃったよね。
──2.5次元編のとき、まるで主人公のような熱い回がありましたよね。
赤坂:
やっぱり、男性キャラクターがもうひとりくらい欲しかったんだよね。
横槍:
それって自分の演技を反省してるシーンの表情とかが思ったより反省してる感が出てたってこと?
赤坂:
反省してるシーンっていうより。殴っちゃって「ごめん」って言ってるところの顔が、なんかリアルで可愛いなって思って。
横槍:
アカピーは、かわいそうな子が好きだからね。
赤坂:
いやいや、“可愛い”ですよ。“かわいそう”じゃないです、これはね。
──僕もここでメルトが好きになっているので、おふたりの策略に見事にハマっております。
横槍:
のちのちサブメインみたいになるって聞いてなくて、あまり重要じゃないキャラだと思ってデザインしてるから最初は展開に合わせていくのが大変だった。
赤坂:
ごめんごめん。でもそれがいいんですよね。メンゴ先生が素のまま描いたキャラクターが「こいつちょっと輝き持ってるぞ」ってときがあるので。
だから今後も「メインキャラクターになるっていうのは言わずにやっていきます(笑)。
横槍:
メルトもアカピーからの初期のデザインはこうでした。
赤坂:
あははは。コイツ、ムカつくなぁ(笑)!
■黒川あかねの付箋だらけの部屋は赤坂先生の仕事部屋と同じ
──赤坂先生の仕事部屋の壁に付箋がたくさん貼られている写真(ライブドアニュース)を見たことがありまして。あれって黒川あかねと一緒だなと思うんですけれども。
赤坂:
そう、めっちゃウケてますね、これは。付箋は『かぐや様』でもやっています。白銀御行の部屋がめっちゃ付箋だらけっていう。付箋って闇だなって思うんです。
記号のひとつでもあるし、自分自身もやっていて「あれ? おかしなことやってるな 」っていう自覚があるので、そこらへんがけっこう素直に出てきたっていう感じです。
──この回であかねのことが好きになったという読者も多い気がします。
赤坂:
そう、みんなけっこう闇キャラ好きですよね。僕も好きです。
──この子は当初からこういうことを想定されていたんですか?
赤坂:
ここまでは想定していました。ただ付箋キャラクターっていうところまでは見えていなかったんですけど、実はこの子は最初からメモが多いんですよ。ここは伏線を張ってますね。
──たしかに言われたことを律儀にすぐメモしますよね。
赤坂:
それが行き過ぎてるから、「これが才能なのかも」って思わせられる。最初、鷲見ゆきちゃんってキャラクターがいるんですけど。彼女は完全にフェイントとして入れてました。
横槍:
なるほどね。鷲見ゆきは闇があってヤバい女かと思ったら、いい子だと思ってたあかねの方がヤバいみたいな。あかねも根はいい子なんだけど、闇深いよね。
──たしかに、黒川あかねのファンとしてはすごく気になる話題です。今後の展開に注目ですね。
■作品の方向性を決定した恋愛リアリティーショー編
──『【推しの子】』は、急展開が起きるとたびたびTwitterのトレンド欄を賑わせていますが、そうしたネット上の盛り上がりは作品に影響しているのでしょうか?
赤坂:
『【推しの子】』で “エゴサ回”っていうのがあるんですよ。黒川あかねが自殺未遂するという……あのとき『【推しの子】』が単独でトレンド入りして作品の方向性を決定づけた回だと思っています。
いまの読者にどういう方向性のものを投げたら刺さるのかが、ちょっとわかったと思うのですが、あれはウルトラCみたいな回だったのであれを今後再現するのは難しいかもしれません。
横槍:
でも、あのあともトレンド自体には何回か入ってるよね。パラパラ入ってるからそこだけってわけじゃないんだけど、印象的だったのはエゴサ回と、「アンタの推しの子になってやる」の回?
赤坂:
そうですね。正直な話をすると、そこまではネット上の反響から作品は影響を受けていないんですよ。描きたいものを描くだけなんで。影響を受けたら受けたで、それはそれで媚びた作品になるというか。
横槍:
私も影響を受けないように気をつけてます。
赤坂:
右に寄ってるから左に修正しようと思うと、左に曲がった瞬間にものすごい批判が来たりするんですよ。だからいま寄せられている声で判断すると大怪我するんですよね。
横槍:
私はTwitterで作品のエゴサをするのは自分のモチベーションのためにしか見ていないので。いい影響は受けたいけど、悪い影響を受けないようにすごい気をつけてます。ブレたくないので。
──敏感にネット上の反響を取り入れていって、作品が展開していくというわけではなく……?
横槍:
それをやると、すごいブレブレになっちゃうと思います。それですごく成功しているものもあるのかもしれないですけど、個人的にはちょっと怖いかなって感じですね。
赤坂:
批判の意見に目を向けると大体失敗するんですけど、「これ楽しかった」みたいな意見の方が参考になることは多いです。「あぁ、こういうの好きなんだね。じゃあもっとやろっか」みたいな感じになるんですよ。
■「私とアカ先生はエンタメがやりたい人間」ふたりが語る次マンへの想い
──読者からの反響という点では、赤坂先生は2020年に『かぐや様』で次マンを受賞後にアニメも大ヒットしておられて……『かぐや様』と『【推しの子】』の次マン受賞時の反響の違いのようなものはありましたでしょうか?
赤坂:
あの頃は『かぐや様』は賞を取れる作品だと思っていなくて……「次マン」は読者アンケートみたいなところがあるじゃないですか? 個人的には「『かぐや様』のようなラブコメ作品にも票を入れてくれるんだ!?」っていう意外性のほうがまず強かったんです。
横槍:
「次マン」のいいところはノミネートされた後は完全に投票の結果で決まるところで、それなら人気投票と変わらないから嬉しいんですよね。
私の場合、2015年に『クズの本懐』で一度ノミネートされてからこれでノミネートは2回目です。アカピーは『かぐや様』で1位を取っているけど、私はこれまで上位に入賞みたいなことをしたことがなくて、だから今回は大賞が取れてすごい嬉しかったですよ。
『クズの本懐』で11位に入ったときは、アカピーが『インスタントバレット』で似たような順位に入ってたよね?
赤坂:
そうそう、確か『インスタントバレット』が13位だった。何かの賞で1位になるって結構、漫画家の心の支えになるんですよ。
──そうなんですね。てっきり「◯◯万部突破!」とか「アニメ化!」とか、そういう方が漫画家さんは嬉しいのかと思っていたのですが。
横槍:
賞もそういうもののひとつかなぁ。たとえばどうしても数字や部数にコンプレックスがあって苦しいときに、いただいた賞が心の支えになったり……ということはあるんじゃないかなとは思います。
赤坂:
そうそう。賞は心の盾になってくれます(笑)。何を言われても「次マン取っとるんやぞ!」っていう心持ちでやれるっていうのはデカいですね。
──「次マン」を心の盾とまで言っていただけるとは……。
横槍:
漫画好きはみんな知っている賞だと思いますよ。
──ありがたいことです。赤坂先生がおっしゃたように次マンは選考に読者票が大きく関わるところが特徴だと思っていまして、「次にくるマンガ」と銘打たれてはいますが「いま読者が夢中な漫画」という色合いが強いのかなと。
横槍:
そうですよね。「もう来てる」みたいな作品も多いですもんね(笑)。
──おっしゃるとおり、ネット上からも「次にくるマンガ大賞はもう来てるよ」というお言葉をいただくことは少なくないという(苦笑)。
横槍:
私とアカピーはエンタメがやりたい人間なので、次マン大賞はめちゃめちゃ嬉しかったですね。
赤坂:
ほんと、こういう漫画を評価してくれて嬉しいなって思うことは多々あるんですよね。
■横槍メンゴが語る『【推しの子】』表紙へのこだわり
──次マンを受賞したとき、表紙にはかなりこだわりを持っているとお伺いしました。その点をお伺いしてもいいでしょうか?
赤坂:
僕からちょっと言わせてもらうと、メンゴ先生の絵って、目が合ったときの「ギュイン!」っていう感じがすごいんですよね。
横槍:
「買わせてやるぜ!」っていうね。
赤坂:
そう。メンゴ先生の表紙の中で僕が好きなのって、正面絵でがっつりこっちを見てる絵なんですよ。
横槍:
1巻の表紙のアイちゃんは、ポーズとラフをアカピーがけっこう描いてくれました。自分は絵柄で見せた方がいいと思うので、絵柄がすぐわかるように人物は引きよりもバストアップのほうが良いと思っています。
あと、私が本屋さんに行ったとき、「ヤングジャンプ」のコミックス売り場に彩度が高いコミックスがあんまりなかったので、目立つ色彩にしたくて、『【推しの子】』のはじめの数巻は手袋で全部差し色を入れて目立つようにしました。
──3巻の表紙は、まさにそういうことでしょうか。
横槍:
そうですね。さらに彩度の高い色を手袋で置いて、目立つようにしています。
赤坂:
やっぱり、1巻の表紙はすごい気に入ってるんですよね。
横槍:
あぁ、うれしい。1巻の表紙ってその漫画が続けられるかどうかの「初速」にかなり影響すると思ってます。
赤坂:
大事だし、すべてが上手くハマってる感じがしてる。
横槍:
よかった~。でも『【推しの子】』が褒められるとき、「表紙で敬遠してたけど、読んでみたら良かった」みたいな意見もあるから。
赤坂:
それは……正直に言って、アイドル漫画自体がそれと分かった段階で避ける人が何割かいる“はずれのジャンル”だからだと思う。
横槍:
だから表紙からして不穏な感じを出したほうがいいのか、一切不穏さを消したほうがいいのかで悩んでました。
──1巻の表紙と5巻の表紙では雰囲気がまったく違いますよね。
横槍:
5巻のときはもう読者さんも付いていて、内容も不穏なのが知られていたので、もういいかなと思ってやっちゃってますね。
■「みんなが『【推しの子】』で見たかったのはこれじゃない?」今後の展開について
──今後の構想みたいなものを話せる範囲でお伺いしてもいいでしょうか?
赤坂:
『【推しの子】』は“中堅アイドル編”っていうのが始まっています。より芸能界らしい展開が広がっていくので「みんなが『【推しの子】』で本当に見たかったのはこれじゃない?」っていうのは用意しています。
横槍:
うん、良い言い方(笑)。
──『【推しの子】』アニメ化が決まったときの心境はいかがだったでしょうか?
横槍:
「アニメ化が決まった!」みたいなのって1年半ぐらい前、4巻ぐらいのときかな。
赤坂:
まぁ、ホッとしましたよね。やっぱりメンゴ先生を引き連れて、アニメ化まで行かないなんて言ったら責任問題ですから。
横槍:
そんなことない(笑)。まぁ、お互いにそう思っていたということですね。
赤坂:
当然嬉しいんですけども、とりあえず“第1チェックポイント”だと思っています。
アニメ化した後、そのアニメが素晴らしい作品になるかどうかとか、それによってメンゴ先生の生活がどれくらい安定するようになるかとか。
横槍:
すごい気にしてくれるよね、それ(笑)。
赤坂:
マジでここはいちばん大事だと思う。人様の時間を何年も奪ってるわけですからね。僕は『かぐや様』をやりながらだったからちょっと条件が違うじゃん。
週刊連載が過酷なのを重々承知してるんで週刊の世界に引き込んでしまったっていう責任は果たさなきゃいけないですよ。
横槍:
週刊が大変だし辛いからこそ、アニメぐらいになったらやっぱりやる気も出て嬉しいなとは思ってます。
赤坂:
うんうん、やっぱりメンゴ先生のモチベがいちばん響くところなんで。
──アニメでは原作者として作品作りに関わっていくと思うのですが。『【推しの子】』の作中でも原作者と脚本家のお話もあったと思うんですけど、おふたりはどのように作品づくりに関わっていく感じなんでしょう?
赤坂:
我々はもう、この業界の失敗談をたくさん漫画にしているので、二の舞いを演じないようなムーブをしようっていうのは心掛けていますね。
──そうしたムーブのポイントみたいなものってあったりするんですか?
赤坂:
そうですね、「折れないところは折れない」っていうのがひとつ。
横槍:
私は言い方にすごい気をつけてます。2.5次元編に出てきた漫画家のアビ子みたいに、原作者だからって脚本家に対してあんな無神経な言い方したら最悪だから。
赤坂:
現場に嫌われないことが第一だけど、やっぱり「ん?」って違和感が残ったらちゃんとそこは考えること。
「そういうものです」っていうふうにスルッと流そうとするズルい人って必ずいるので、だから、流されないようにすること。
横槍:
すごい良いこと言った。何の専門分野でも「ここってもうちょっとこうならないですか?」と質問しただけで「この業界はこういうものなので」とこっちが言い返せないようにくくられることって多々あるので。
赤坂:
直感的に「おかしいな」って思ったらまず確実に確認する。集英社にも編集さんと法務さんとか、もちろんメンゴ先生も、仲間がけっこういるので。
これだけ失敗談を描いていて、それでアニメが大失敗したら……ね(苦笑)。アニメ制作の関係者の方にもプレッシャーはかなりあると思うんですよ。メディアミックスについて深掘りしたのは、本当に吉と出るか凶と出るか……。
今後『【推しの子】』でアニメ化回が無いとも限らないので、そこは怖いところですけど(笑)。
──ファンからの期待も高まっているので、それに応えるプレッシャーは相当大きいでしょうね……。最後にファンの方へのメッセージをいただければと思います。
赤坂:
アニメ化が決まって、作品のストーリーにも大きな動きがある中で、僕らも『【推しの子】』って描いていてやっぱり楽しいんですよ。
だから、読者もアニメ関係の方もみんな楽しんでこの作品をやっていけたらいいなって思っていますので……ぜひ一緒に楽しんでもらえたらと思っております。
横槍:
そうですね、プロジェクトが大きくなっても、関わってくれる人が同じぐらい楽しんで作っていけるような感じでやっていけたらなと。
やっぱり現場がギスギスしているとそれは作品に出ちゃうんです。だから楽しい感じでこれからも進めていけたらなと思いますので、ぜひお楽しみにしていてください。
──本日は、お忙しいところありがとうございました。
いま、もっとも勢いのある漫画と言っても過言ではない『【推しの子】』。
その作品を担っている二人のインタビューはいかがだっただろうか?
個人的には、創作についてそれぞれが一家言を持っていて当然のクリエイターであるふたりが、普段の打ち合わせもインタビュー中のような和やかなやりとりで進行しているという点がとても印象に残った。
それは、二人が単なる役割分担を超えて、お互いのクリエイティブを信頼し尊敬しているからこそ生まれる関係なのだと思う。
「クリエイターが団結すると、トガッた作品になりがちなんだよなぁ!」
この記事を読んで、2.5次元舞台編の雷田澄彰のセリフが頭をよぎった人は自分だけではないと思う。
新章に突入し漫画も、これから始まるアニメもますます楽しみだ。
■『【推しの子】』アニメ化決定!
■漫画『【推しの子】』単行本8巻は2022年6月17日より発売中!
■「次にくるマンガ大賞2022」受賞作品発表会は8月31日19時より
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