不遇すぎる最強アサルトライフル『XM8』――人間工学に基づく先鋭的なデザインを採用したプラスチック製の“未来の兵器”はなぜ表舞台から消えたのか?
ニコニコニュース / 2023年9月25日 13時0分
今回紹介するのは、オスガ71さんがニコニコ動画に投稿した『迷銃で撃て! XM8 & XM29OICW 【迷列車派生シリーズ】』という動画。
再生数は10万回を超え、歴史カテゴリで過去最高1位を記録しました。
オスガ71さんが未来の歩兵が持つ武器と考えらていた銃器・XM29とXM8の解説を行います。
■最強のアサルトライフル…になるはずだった『XM29』
「X」、軍事においては試験機や実験機などの形式番号としてつけられることが多くあります。今回ご紹介するのは、いわば『X-GUN』。
1980年代後半、アメリカ軍ではもっと身近なスケールで具体的なものとして「OICW」というものが考えられていました。
「個人主体戦闘武器」とは平たく言ってしまえば歩兵が直面するあらゆる戦場に対応できるアサルトライフル、当時考えられていた「未来の歩兵」が持つ武器です。
さて、あらゆる戦場に対応できる歩兵用小銃とは何物か。
アメリカ軍はこう考えました。「爆発物を飛ばせて、照準装置が万能な感じでいいんじゃね」
これにより歩兵の戦闘力を大幅に向上させることが期待されました。そんなOICW計画のプロトタイプとしてまず設計されたのがXM29。
29mm口径のグレネード弾と5.56mmライフル弾を愛用し、それぞれの発射機構が垂直に配置される構造になっています。
グレネード弾は指定目標上空で爆発、信管を遅発させて貫通した目標内部で爆発、などなど幅広い攻撃が可能。
特徴的な照準装置には、レーザー測距、赤外線照準、最大6倍の望遠スコープなど多くの機能が組み込まれています。
「昼間、夜間と戦場を見通せる照準装置で敵を捉え、グレネード弾と通常銃弾で的確に制圧する」そんな未来の歩兵が誕生するはずでした。
グレネード弾と通常銃弾の射撃機構、多機能照準装置と、求めるものを全部盛りした結果、全長は89センチに達し重量は最大8キロまでに増加。
いくら高く正確な攻撃力が有ろうと機動力を削いでしまっては歩兵の意味がありません。そして虎の子のグレネード弾自体にコストと威力が釣り合わない等の問題まで生じ、2004年にはXM29はOICW計画ごと中止されました。
XM29が重くなってしまったことに、「おかしいだろwww」「重すぎだwwwwww」「あほかwwwwwwwww」「鈍器より重くなってどうするw」といったコメントが殺到しました。
最終的には各段階での成果を統合することを目指してそれぞれを進行させることにします。
■未来の兵器…になるはずだった『XM8』
XM29の開発下請けを担ったHECKLER&KOCH社が開発、同社のベストセラーG36をベースにプラスチック成型を活用して人間工学に基づくデザインを施した、未来のアサルトライフルです。まず照準装置にはドット式の赤外線ポインター、赤外線照準、最大4倍の光学サイトとXM29が持つ多機能性を継承。
銃床は人間工学的デザインがフィットし、射撃時の反動や跳ね上がりが大幅に軽減され、ハンドガードは射撃時にバレルから生じる高熱を遮断する素材が用いられるなど、使いやすいものになっています。
通常時で3.4キログラムとアサルトライフルとして平均的な重さに収まっています。
さらに整備性にも優れており、バレルやストックは特殊な工具を使わずに交換が可能、射撃時に燃焼ガスが内部構造に吹き付けられない設計のため、2000回以上の射撃を行った後でもクリーニングが必要ありません。
マガジンリリースバーやコッキングレバーは左右どちらからも操作可能で、様々なアクセサリやアタッチメントを取り付けられるポイントも完備と、使いやすさには事欠きません。
そしてXM8は2005年にアメリカ軍の次期制式ライフルへの採用が公式に発表されます。未来の歩兵がついに現実のものとなったのです。
未来の歩兵がついに現実のものとなったのであれば、M16やM4とすっかり入れ替わったはずですが、
そう、HECKLER&KOCH社が思い描いた未来は、夢物語に終わったのです。
新機軸を多数盛り込んだXM8。そのために、このシリーズにおいて登場した他の銃器たちと同様に致命的な欠陥を抱えてはいませんでした。
信頼性のみならず、コストもM16やM4シリーズと比べて低く抑えられていたとも言われています。ここはガチのHECKLER&KOCH社です。
しかしXM8は2005年に制式採用が公式発表されたにも関わらず、その年も跨がぬ10月に採用が撤回されました。
致命的な欠陥は何もなかったXM8が採用されなかったことに、コメントでは「なんで!?」「え?」「!?」など、驚きを隠せないようでした。
■欠陥のない『XM8』がなぜ採用されなかったのか?
1.現場の兵士が使いたがらなかった
プラスチック製の部品を多用し形状も工夫されたXM8の外観は、未来的ではありますが既存の銃器とは大きく異なるものです。一部兵士からは、「見た目が玩具のようだ」「こんなものに命を預けられない」などの声が続出。
『海兵隊や特殊部隊からの猛反発も重なり決定が覆される』、一因になったと言われています。
現場の兵士の言葉に、「M16でも同じこと言ってたよね?!」「M16もおなじこといわれてたやんけ」「お前らM16採用の時も同じこと言ってたろw」といったコメントが寄せられました。
軍として少々後ろ向きな面があったという話もあったりなかったり。
2.コルト社によるキャンペーン
特に多数を占めるM4やM16を生産している「コルト・ディフェンス」がいい顔をするはずはありません。
3.生産会社の態度
その中でもピカティニー造兵廠は、米軍の決定に先んじてアメリカ国内にXM8の生産ラインの設置を決定するほどの力の入れようでしたが、最終的に決まっていないのにあたかも正式決定されたかのような宣伝をした、選考プロセスにおいて競争入札が行われないなど独占的な部分があり、兵器会社から軍、政府に対し抗議が行われた……などの話もあります。
4.完全無欠ではない
そのためG36において存在していた幾つかの短所も引き継いでいるほか、プラスチック製の部品が紫外線により劣化する等の問題も抱えていたようです。
完全無欠ではないということに、「そんなのあたりまえやん」「そもそも完全無欠の兵器など、これまでもこれからも世に送り出されることは決してないだろう」といったコメントが。
結局のところ現場に政治に会社のややこしい事情のロイヤルストレートフラッシュが決まった結果、欧州からやってきた未来の歩兵を実現するアサルトライフルは新大陸から蹴飛ばされ歴史の闇に消え去ったのです。
第1と第2の段階における成果を統合して進められる第3の計画は当然ながら手を付けられていない白紙状態。未来の歩兵が登場するのはまだ先の話かもしれません。
以上、XM29とXM8をまとめてX-GUN、ダメというよりは不憫不運という言葉が似合う、哀しみが際だつ哀銃ともいうべき、未来を目指した銃たちの物語でした。
XM29とXM8が採用されないことについて、視聴者からは「まあ大きな戦争でもない限り難しいわな」「銃が売れないというのは喜ぶべきことなんだろうがな…」といったコメントが寄せられました。
XM29とXM8の解説をノーカットで楽しみたい方はぜひ動画を視聴してみてください。
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