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Yostarがアニメ制作会社を設立した理由──労働環境の改善、チーム作り、作品への愛…いいアニメを作り続けるために変えたかったこと【李衡達×稲垣亮祐×斉藤健吾】

ニコニコニュース / 2020年4月17日 11時0分

 『アズールレーン』をはじめ、数々のスマホゲームを運営するYostarが、アニメ制作を主軸事業とするYostar Picturesを新たに設立した。

 Yostarといえば、もはや説明不要の人気ゲーム『アズールレーン』や『アークナイツ』に加えて、NAT Gamesが開発中の『Project MX(仮称)』の日本国内配信契約を締結するなど、いまノリに乗っているゲーム会社だ。

「そんなYostarがなぜアニメ会社を設立したのか?」

※Yostar Picturesが制作した『アークナイツ』アニメPV。2020年1月8日に公開された。

 Yostarと同様、代表取締役社長を務めるのはエッチでオタクな李衡達氏。さらに取締役には、合同会社アルバクロウの稲垣亮祐氏斉藤健吾氏の名が連なっていた。

 稲垣亮祐氏は、『キズナイーバー』のラインプロデューサー、『異能バトルは日常系のなかで』のアニメーションプロデューサーなどを担当、斉藤健吾氏は、『プロメア ガロ編』の作画監督、『SSSS.GRIDMAN』総作画監督などを務めている。

「なぜこの実力派メンバーが揃ってアニメ会社が設立されたのか?」

「これからなにを仕掛け、なにを成そうとしているのか?」

 その疑問を解決すべく、ニコニコニュースオリジナル編集部はYostar社へ向かった。

 アニメ会社設立の経緯から、社内でのアニメ制作の手法、さらには今後の展望など、お話を聞いていくなかで明らかになったのは、Yostar Picturesがとにかくアニメーターを大事にする組織だということだった。Yostarがなぜあえて新たにアニメ会社を設立したのか、純度100%混じりっけなしのイイ話をお楽しみいただきたい。

稲垣氏(左)、李氏(中)、斉藤氏(右)。Yostar社でパシャリ。

聞き手/前田久(前Q)
文/竹中プレジデント
撮影/金澤正平

会社設立のきっかけは『アークナイツ』PV制作

──まずは李社長にお聞きしたいのですが、ゲーム会社であるYostarがなぜアニメ制作会社を立ち上げようと思われたのでしょうか。

李:
 Yostarでスマホゲームの運営事業をするなかで、宣伝施策の一環としてアニメPVが有効だと思っていたんです。しかし、他社様にお願いしてPVを作っていただいても、我々が目指したクオリティのものにはならず、ユーザーのみなさんへお届けできなかったこともあったんです。

 そもそもの話、外の会社さんとですと密にすり合わせをする時間的余裕もないですし、外部に委託すると、このままならぬ環境がずっと続くんじゃないかという予感もありました。この状況を変えるために、自分たちでアニメを作るラインを1本手元にほしいと思うようになったのが、Yostar Pictures設立に繋がっています。

──会社設立を思い描いた時期はいつころなんでしょう。

李:
 2019年の春くらいです。

──えっ! というと、思いついてから1年もたっていないじゃないですか!?

李:
 なにをおっしゃる! 我々は中国企業ですから(笑)。

──さすがのスピード感です。思いついた段階で、どういった方々にお声かけをしようかは、社長のなかである程度構想はあったんでしょうか。

李:
 とくにありませんでした。ただ、普通の中国の会社ですと、すでにあるアニメスタジオを買い取ってしまうのが一番手っ取り早い方法ではあるんですが、それは考えていませんでした。

 というのも、アニメ業界には個性豊かなスタッフさんがたくさんいて、そのひとりひとり個人の技術だったり発想だったりが、クリエイティブな部分ですごく大事なんです。そこに着目しないとうまくいかないんじゃないかと思いまして。

 例えアニメスタジオを買い取ったとしても、そこにいるスタッフさんが別のスタジオへ移ってしまう可能性も想定できます。ですので、まずは中核となるコアメンバーを集めて、そこから事業を広げていけばと、従来とは逆の発想で進めていきました。

──なるほど。その発想から、稲垣さんと斉藤さんへのオファーという流れに繋がっていくんですね。おふたりはどのような経緯でYostar Picturesで関わっていくようになったのでしょう?

稲垣:
 もともと僕と斉藤は、アルバクロウという会社でいろいろなスマホゲームの会社からPV制作などを請け負っていました。そのひとつとして受けた仕事に、Yostarさんの『アークナイツ』PV制作があったんです。

 そのとき、半年ほどやりとりしていくなかで、Yostarのみなさんと仲よくなれたというのがひとつのきっかけですね。

斉藤:
 『アークナイツ』のPV制作中、毎週Yostarさんで会議をさせてもらっていたんですが、ある日、帰宅中の車内で、稲垣さんから「Yostar Picturesというかたちでアニメ会社を作る?」みたいな感じでお話があって。じゃあ、やりますか、と。

──Yostar Picturesを将来的に作る前提で『アークナイツ』のPV制作のお話があったわけではなく、きっかけがそこなんですね。驚きました。というと、やはり李社長としても『アークナイツ』のPVは感触がよかったのでしょうか?

李:
 よかったです。戦闘シーンの見せかたもかっこよく、クオリティの面でも満足のいくものでした。それと大きかったのは、PV制作の終盤で、ひとつだけリテイクをお願いしたのですが、そこもすんなり対応してくれたことでした。そのおかげで1発目のPVは、想定していたより遥かに多くの反響があったんです。すごくいい感じです。

──ちなみにリテイクをお願いした箇所とは?

李:
 PVの最後、アーミヤの髪の毛がなびくシーンです。もっとヌルヌル動かしたいと。成果物としては申し分なくヌルヌル動くものに仕上げてくれました。

稲垣:
 中割りの枚数を足してフルコマ【※】にしたので、すごく滑らかに動くようになりました。

※24コマあったら24個の絵で動かしていること。12個の絵を2コマずつ動かす2コマ打ちや、8個の絵を3コマずつ動かす3コマ打ちなどもある。

こちらが李社長がリテイクをお願いしたアーミヤの髪の毛がなびくシーン。確かにヌルヌル動いている。
(画像は「アークナイツ」アニメPV フルVer.より)

労働基準法を守ってちゃんと会社としてやっていく

──いまの経緯をうかがうと、アルバクロウとしてはYostarとは業務提携を結ぶだけに留めて、他の会社とも取引がしやすい状態を残すという選択肢もあったと思うのですが、なぜあえてYostar Picturesという新しい会社で、はっきりとしたかたちを作ろうと考えたのでしょうか。

稲垣:
 アルバクロウは、僕と志をともにする仲間たちが気軽に集まれる、同人サークルをそのまま会社にしたような場所だったんです。つまり規模としては小さい会社で、昨今アニメ業界で問題になっている労働環境の改善に向けて、会社として動くことが難しかった。具体的には、参加してくれるアニメーターのみなさんを社員として継続的に雇うことが難しかったんです。

 Yostarさんから新会社設立のお話をいただいたのは、そうした状況でこれからアルバクロウを会社として大きくするか、それとも逆に、規模を縮小して同人サークルに近い状態に戻るか、今後についてちょうど考えていた時期だったんですね。

 そんな一番いいタイミングで、アルバクロウはアルバクロウとしてかたちを残した上で、Yostar Picturesの一部門として活動する選択肢をいただいた……ということだと、理解していただければ。

──なるほど。アニメーターを月給制で社員として雇うことの難しさはどこにあるのでしょう?

稲垣:
 やはり、どうしても会社としての人材維持のコストが高くなってしまうことですね。だからアニメ業界では基本的に出来高制なんですが、そうすると稼ぐためにはどうしても長時間労働が必要になって、労働実態がブラックになってしまいがちなんです。

 Yostar Picturesはその点、立ち上げの段階から労働基準法を守った状態でやっていける体制を作る前提でお話をいただいたんです。

李:
 個人的には、結果主義なので、いいものさえ作られるのであれば、全然出社しなくてもなんの問題もありません。給料もちゃんと払います。

稲垣:
 そう聞いて、「めっちゃいいじゃん!」と斉藤とも話していて。そういう条件をいただけるのであれば、我々もその分、しっかり納期を守ってやっていこうと。

 言わないとやらない、言ってもやらない人ばかりなこの業界のなか、斉藤を中心に条件をよく理解して、集まってくれたのがいまのチームのスタッフになります。

斉藤:
 例えばですが、“連絡したら連絡が返ってくる”って、社会人だったら普通のことじゃないですか。でも、アニメ業界にはそれができない人がすごく多いんです。そうしたことが当たり前にできる人が、一般の、普通の社会人のように暮らしていけるようにしたかった。

 Twitterでも書かせていたのですが、少しでも変えられるチャンスをいただけるのであれば、この環境を変えたいという想いがずっとあったんです。なので、Yostar Picturesの労働条件を伝えて、「いっしょに仕事しない?」と僕自身が直接スカウトをして連れてきた後輩の子もたくさんいます。

──アニメ業界の働きかたは特殊というか、働く時間も人によってバラバラで、出社形態や連絡手段も会社によって異なるのを、膨大なマンパワーで調整している。結果的に、いろいろなセクションに過剰な負担がかかるケースも多い。そんな印象です。

斉藤:
 そうなんです。そこを一般的な労働環境に近づけることで、もっとチームとして仕事がしやすくなると思うんです。それによって、コンスタントに成果物をあげられるようになり、安定して仕事を受けられる体制に繋がる、そういうチーム作りをしたかったんです。

クオリティの低いものを無理に作る必要はない

──会社が立ち上がり、実際に動き始めているところだと思いますが、現在動いているタイトルについて教えていただけますか。

李:
 すでに発表済みですが、『アズールレーン びそくぜんしんっ!』と『アークナイツ』のPV制作が中核事業となっています。

アニメ映像化企画の開始が発表されている公式4コマ漫画『アズールレーン びそくぜんしんっ!』。
(画像は株式会社Yostar Pictures公式Twitterより)

──当然かもしれませんが、Yostarが運営しているゲームタイトル関連の展開を軸とされているわけですね。『アークナイツ』のPV制作スケジュールは、年単位でかなり先のイベントに合わせたものまで決まっているんでしょうか?

李:
 全然決まってないですね。すべてのイベントに合わせて作る必要はないと思っていますし、アニメ会社を持ってるから、「とりあえずがむしゃらに作ろう」みたいな雰囲気は出したくないんです。と、言いながらも、けっこうがむしゃらにやっているところもあるのですが(笑)。

斉藤:
 というのも、僕らのほうがわりかしがむしゃらなんです(笑)。

稲垣:
 そうですね。『アークナイツ』にしろ『アズールレーン』にしろ、僕らにとってすごく好きなタイトルなんです。それが仕事の原動力として大きいです。

李:
 稲垣さんも斉藤さんも遊んでくれてますが、アニメーターの方々も『アークナイツ』を遊んでくださってますよね。

稲垣:
 みんなやってます。『アークナイツ』でもらった給料を全部『アークナイツ』に還元するくらいの勢いです(笑)。斉藤はとくにすごくて。

斉藤:
 現状出ている★6オペレーターは全員持ってますね。「出るまで引けばいいし! 」という、ファンキーなやりかたでやってます。

『アークナイツ』は、さまざまな性能を持つオペレーターを配置して、進軍してくる敵を迎撃するタワーディフェンス系のゲーム。
かわいいオペレーターも数多く登場する。

──無理ない課金は無課金って言いますから(笑)。

稲垣:
 それだけ好きなタイトルのPV制作ができて、しかも「やれるだけやっていい」と言われたら、じゃあ、「やれるだけやろう!」って気持ちになるじゃないですか。

──そこもYostar Picturesの特殊なところですよね。通常の受注関係だと、作るほうがどんどんやりたいことがあっても、提案することはできない。でもこの会社では、発案すれば、できる環境がある。

斉藤:
 本当は『アークナイツ』のイベントごとにに全部ムービーを作りたいって……。

稲垣:
 思っているんですけど、実際やるとなると、作業量的にまあ大変だよねって話してはいて(笑)。

※『アークナイツ』サイドストーリー 騎兵と狩人の告知PV。

──Yostarさんがそういうことを言うならわかるんですよ。「アニメ会社を作ってスタッフを抱えたからには、何本作っても人件費は同じ。作品をどんどん作ってもらわないと困る」と。でも、逆なんですよね。むしろスタッフ側がどんどん作りたい。

稲垣:
 李さんからはむしろ、クオリティの低いものを無理して作る必要はない、とお話いただいているんです。

 なのでそこは、我々として真摯に受け止めて、しっかりとしたものを作れる体制とスケジュールを作っていきたいと思っているんです。

──いい話すぎますね。クオリティにうるさいアニメ好きの気持ちがよくわかられているというか……。

李:
 何度か申し上げていますが、我々はオタクだらけな会社ですから。作品を作る人たちが好きで楽しんで作れないと、ユーザーが楽しめるコンテンツになるわけがないと思っています。なので、いまの環境は超望ましいんですよ。

稲垣:
 李さんがおっしゃられた通り、オタク度が同じくらいなので、ものすごくやりとりがしやすいんです。これまでゲーム会社からアニメ制作の発注をいくつも受けてきましたが、作品に対して愛を感じられない発注ってあるんです。本当はゲームを好きじゃない、オタクをバカにしているだろ、って。そういうのってすごく伝わるんですよね。

 それがYostarさんでは社長から出てきていただいて、会社の空気感もお話いただいたので、非常にやりやすかったんです。


制作もアニメーター同じ責任をもって作品に向き合う

──ではそんなYostar Picturesにて、李社長、稲垣さん、斉藤さんそれぞれの役割はどのようになっているのでしょう。

李:
 僕は仕事をしていません! 会社の登記を早くすませるために、とりあえず僕が社長をやっているだけで、基本的に現場の方々にお任せしています。強いて言えば、お金(予算)を出すのが僕の仕事です。

──と、李社長はおっしゃっていますが?

稲垣:
 ありがたいことにある程度お任せいただいています(笑)。基本は、自分のほうで必要なメンバーを選出し、もうひとりの取締役の柴田さん【※】と話し合って、最終的に決算いただくみたいな。

※Yostar Pictures取締役の柴田進氏。Yostarの管理部長を兼任し会社運営を担当。

斉藤:
 そうして降りてくる案件に対しての人員配置が僕の役割でしょうか。「この人だったらこういう作画が得意だから、この案件をお願いできる」だとか、「この人にはこんな内容の仕事に挑戦させてあげたい」など、状況に合わせて僕から仕事を振っていく感じです。

──一般的なアニメ制作工程における、アニメーションプロデューサーや制作デスク、制作進行……いわゆる制作班のスタッフがやっている仕事を稲垣さんと斉藤さんが分担しあってるみたいなイメージですか。

稲垣:
 “分担”というより“いっしょに”というイメージのほうが近いかもしれません。

 僕の持論として、制作側もアニメーター側も同じ責任をもって作品に向かい合いたい想いがあります。制作側、アニメーター側とで分けすぎても、お互いに隔たりが生まれてしまうかと思いますし、どちらかが悪いから、どちらの責任で、とかではなく、お互いに協力して作品を完成させていこう、みたいな。

 斉藤とはこれまでいっしょにやってきて、同じ感覚で仕事ができていると思っているので、『アークナイツ』PV制作含めて、Yostar Picturesでも同様に任せている感じです。

斉藤:
 作りかたもちょっと特殊なんです。まず稲垣さんが制作スケジュールをざっくり作り、それが僕のところに降りてきます。PV制作ですと、5、6人のスタッフで作ることになるので、僕が主導して担当を決めて、仕事を進めていきます。

稲垣:
 実際にアニメーター側の人間に音頭をとってもらったほうが、人も集まりやすいんです。PV制作がメインのいまだからできているのかもしれないので、今後どうなっていくかわからないですが、現状この雰囲気ができているのは非常に理想的だと思います。

斉藤:
 みんなでスケジュールを共有しているから、もし他の人が間に合わなくなりそうになったときに、すぐに誰かが手伝える。そんな状況がいまできているのを、維持していきたいですね。

稲垣:
 制作班が主導していると、どうしても「制作班のスケジュールの仕切りが悪いからこんなことになったんだ!」とアニメーターのみなさんには不満が溜まりがちなんです。

 それがいまの体制だと、作業に入る前の段階で斉藤から「この納期でこのくらいのスタッフを集められれば、これくらいのクオリティの映像ができる」と、言ってもらえるので、その基準に辿り着くためのサポートにも入りやすいですし、社内にいるコンポジット(撮影)のスタッフも含めて、どう全体工程をまとめていくかの話ができるんです。

 実際、そういう体制で『アークナイツ』のPVをこれまで作ってきて、すごく楽しかったんですよ。甘いことを言っているのかもしれないですが、このまま楽しんでやっていけたらいいなと思っています。

求めるのはYostarのクリエイティブの力になるための人材

──ちなみにいまは何人くらいのスタッフの方が所属されているんですか?

稲垣:
 だいたい20人くらいで、最終的にアルバイトを含めると30人くらいの規模になるかと思います。

──セクションごとの内訳でいうとどんな感じですか?

斉藤:
 ほとんどがクリエイターです。制作管理スタッフが増えるほどコストが上がっていくので、制作班側の視点をクリエイター側がある程度持ってもらいたい。それが僕の理想です。それによりコストは抑えられますし、スケジュール感を身に着けることでクリエイター本人の将来性にも繋がると思っています。

──そうして身につけた自己管理能力は絶対に活きますよね。ともあれ、同じ規模の通常のアニメ会社と比べると、アニメーターさんが多い体制なわけですか。

斉藤:
 そこなんですが、仕事の内容をアニメーターに限定したくないとも思っていて、募集にも“アニメーター募集”ではなく“クリエイター募集”とあえて銘打たせていただいているんです。

 というのも、Yostar側の仕事でも我々のできることは絶対にあるはずなんです。例えばLive2DやゲームのCGを使った映像のコンポジット(撮影)のお手伝いといった、宣伝用ムービーを作成するための仕事は、アニメーターでもできる人間はいます。

 ゲーム会社側の仕事もできるようになることで、ただ“原画を描いて稼ぐ”仕事だけでなくなり、さらに出来高の概念から外れるはず。そんなアピールを、我々としてはしたいと思っているんです。

──そんなところも新しいかたちですよね。それこそ最近の若いアニメーターさんは、みなさんPCやタブレットを使用して作業されているわけですから、ソフトの使いかたを覚えれば、やれることはどんどん増えていくわけで。

稲垣:
 そういうことですね。アニメーターの中には、せっかく能力があるのに、原画だけやっているから稼げない人もいるんです。でも、原画の手が速くなくても、ほかのスキルを持っていて、しかもそのスキルはゲーム会社としての仕事だと代えのきかない貴重な能力だったりするケースも少なくなくて。

 アニメ制作に限らず、Yostarさんのクリエイティブの力になるための人材、と思ってクリエイター募集をさせていただいています。

──アニメーター班と制作班の仕事を混在させることに加えて、絵に関連した仕事の中でもセクションを分けず、自由に行き来を可能にする。そんな発想なわけですね。もしかして、制作環境をデジタル統一にしているのも、その意識があるからですか?

稲垣:
 おっしゃる通り。デジタル作画とアナログ作画の混在が、いま制作のワークフローの中でもっとも混乱を生み、コストがかかる部分ですので、紙は極力なしで。地球の環境のためにも(笑)。

──Yostar Picturesで働きたいと思ってる方っていまでも多いでしょうし、今後もどんどん増えていくと思います。ズバリ、Yostar Picturesで求めている人材、資質とは?

李:
 さきほど触れましたが、アニメーターではなくクリエイターですね。あとは社会人としての常識を持っている方。

 あとは応募いただくときに送っていただくポートフォリオが履歴書以上に重要です。どのような作品を作られるのか、現時点で持っている技術や今後うまくなる才能、の人の人間性など、だいたい作品に出てきますから

稲垣:
 そうですね。あとはチームで動いていくので、コミュニケーションできるかどうか。僕や斉藤との相性も大事な部分です。

円盤売上頼りではないアニメの新たなビジネスモデル

──現状のタイトルを見ていると、運営タイトルのプロモーションとしてのアニメ制作が、Yostar Picturesの主軸になっていると思うのですが、今後、アニメ作品のみでも独立して採算がとれるようなかたちでの作品展開も検討されておられるのでしょうか?

李:
 正直なところ、この業界では目先のことをやるだけで精一杯なので、そこまで深くのことは考えていませんでした。

 しかし、みなさんのおかげでPVを公開してからの反響がよく、なにか期待されているっぽい感じはちゃんと伝わっています。我々の会社は、デカい目標は設定せずに、なんとなくの空気感で行動する会社ですので、そこまで言われたらやるかもしれないです(笑)。

──期待がものすごいですからね……。

李:
 でもぶっちゃけ、利益に関してはそこまで考えていませんでした。なぜかというと、我々のビジネスの主体はスマートフォンゲームの運営ですから、収益の軸としてはそこが基盤にあるんです。

 いまのところは、Yostar Picturesでは社内の既存タイトルに関連した作品を作り、いいものを作ってユーザーさんの間で盛り上がってもらって、その人たちがまたゲームを遊んでくれて、ちょっとだけお金を落としてくれるんだったら、それでいい。そこで収益をトータル的に考えられればいいんです。

 普通のアニメの円盤売上だよりなビジネスモデルより健康的だと思いますし、これまでとは異なる視点で作品のポテンシャルを見られる新しいビジネスモデルを作れるんじゃないかと。

──メーカー主導の製作委員会モデルとは違ったかたちですよね。

李:
 ちょっといやらしい話になるかもしれないんですけど、昔のロボットアニメやヒーローアニメも、関連商品の宣伝という側面を持っていたりするじゃないですか。そこまで赤裸々にとはいかないですが、ゲームとアニメのふたつを連動させて、トータルで収益を見られるような感じで動きたいなと思っています。

──ある意味、日本のテレビアニメのビジネスモデルとして、原点回帰に近いところではありますよね。お菓子やおもちゃを売る代わりに、ゲームの収益を高める。そのためのより洗練された仕組みを作っていこうとしているように感じます。稲垣さんや斉藤さん的には、野望というか、展望というか、今後目指していきたい目標はありますか?

稲垣:
 最初に労働環境の話をしましたが、もっと本質的な話をすると、お金の問題ではないんです。僕たちの目標は“もっとちゃんとクリエイティブに集中して仕事したい”ということなんです。本当に、それに尽きます。

 アニメ業界だけの話ではないかもしれないですけど、作品を作り上げたはいいものの、その一本を作るために疲弊して、死んでいく現場をたくさん見てきました。

 いい作品ができたならまだいいですよ。いいものができなくて、会社も、人も残らなくて、いったい自分たちはなにをやっていたんだろう……というケースは、アニメ業界にはたくさんあるんです。安定した環境を作ることで、よりよいものを作ることだけに集中できるようにするのが、当面の目標ですね。

斉藤:
 いま、Yostar Picturesではその目標に向かえているように感じているので、僕としてはこの現状を維持していけるようにがんばるのが目標です。あとは、Yostar Pictures側からも、もっとコンテンツを提供していきたいと考えています。「こういうCMを作ってみるのはどうですか?」みたいに。

稲垣:
 そうですね。言われるままやっていくのではなく、我々のほうからもこういうのができますよ、というのをどんどんあげていくべきかなと思っています。そこのコミュニケーションもYostarさんとならうまくいくと思うので。

──ゆくゆくは……な大きな質問をしてしまいましたが、直近でいうとなにかしらアクションはあるのでしょうか。

李:
 いろいろ仕込んでいますよ! まだ公表はできないですけど(笑)。

──せっかくなので、公表できるものをなにか、ぜひ!(笑)

李:
 そうですねー。『アズールレーン びそくぜんしんっ!』は、何話になるか、どういうかたちで公開するのかなど、まだいろいろと調整中ですが、2020年中にはなにかしらのかたちで出ます。

同席編集:
 『アズールレーン びそくぜんしんっ!』毎話ありがたく読ませていただいています。必ず1コマは青少年の性癖をぶっ壊すような描写があって、アニメ化非常に楽しみにしています。

李:
 『アズールレーン びそくぜんしんっ!』はまあまあエッチですね。最初は全然エッチじゃなかったんですけど、だんだん作家さんがエッチにしていきたいとおっしゃって、いまあんな感じです。

同席編集:
 作者さんすばらしいですね。最後の最後に変な話を出してしまいましたが、『アズールレーン びそくぜんしんっ!』に『アークナイツ』PVにと今後の展開を楽しみにしています。

李:
 いや、エッチな話をケツに持って行くのは最高です

──(笑)。本日はありがとうございました!


 労働環境を整え、制作側もアニメーター側も同じ責任をもって作品に向かい合い、“分担”ではなく“いっしょ”に作品を作っていく。そんな体制でアニメ作りが行われているYostar Pictures。

 そこには、純粋に「よりよいものを作ることだけに集中したい」という、アニメ制作に携わるクリエイターの想いが詰まっていた。

 とくに、取材中、李氏が語ったこの言葉が頭から離れない。

「作品を作る人たちが好きで楽しんで作れないと、ユーザーが楽しめるコンテンツになるわけがない」

 ユーザーと同じ目線から作品を愛し、楽しむ。それこそがYostarらしさであり、Yostarの魅力なのだろう。そしてYostar Picturesにも間違いなくこのイズムがある。そう強く感じたインタビューであった。

 アニメ業界という大海原に乗り出したYostar Picturesが、今後どのような海路を進んでいくのか。その航海のなかでユーザーにどんな景色を見せてくれるのか、非常に楽しみである。

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