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コロナ影響で献血者が減少。コミケ中止だからこそ「コンテンツの力で人の命を救う手助けを」コミケ献血実施への想い【コミケ献血担当者インタビュー】

ニコニコニュース / 2020年5月2日 11時30分

 新型コロナウィルスの影響で開催中止となったコミックマーケット98(C98)だが、“C98”の証を残すべく、おもにネット上を“場”とした「エアコミケ」企画が実施されている。ニコニコでも、C98の日程に合わせて「【C98】コミケのカタログを4日間めくり続ける放送」が配信中だ。

 同人文化やコミケを愛する多くの人々が、同人文化を盛り上げようとしているなか、「コンテンツの力で人の命を救う手助けを」と、動き出しているイベントがあることをご存じだろうか。“コミケ献血”である。

 献血をするとアニメや漫画、ゲームなどのイラストが描かれたポスターをもらえる、コミケ当日に防災公園やプロムナード会場の献血バス【※】で実施されているコミケ献血応援イベント。コミケの参加者なら見かけたことや、実際に献血に協力した方もいるのではないだろうか。

※所定の献血ルームでの献血も対象。コミケ開催日から翌月末まで実施される。

 そんな“コミケ献血”であるが、コミックマーケット98(C98)開催中止にも関わらず、単独でのイベント実施を発表した。

 そして、実施の背景にはどうやら“献血者が減少して血液がピンチ”という深刻な事態が関係しているらしい。聞くと、病気の治療が止まってしまったり、事故にあった際に輸血が難しくなったり、そんな事態に発展する可能性すらあるとのこと。

 そこで、ニコニコニュースオリジナル編集部では、コミケ献血応援イベントの企画・運営を事務局として9年間担当している株式会社シーエージェントの中田大作氏にインタビューを実施。献血の現状や今回の献血応援イベント実施の流れ、さらにコミケと献血の関わりをお聞きした。

イベント開催期間は2020年5月21日~6月30日(予定)。所定の献血ルームが対象となる。
4月18日、東京都赤十字血液センターにて、ソーシャルディスタンスを保ったうえでお話をお聞きした。

取材・文/竹中プレジデント

目標に対して70%前後の血液量の日が続いている現状

──本日は、コミケ中止にも関わらず実施される献血応援イベントについてや、そもそもコミケと献血にはどのような関係にあるかなど、お聞きできればと思っています。本題に入る前に、まずは献血の現状について教えていただけないでしょうか。「献血者が減少して血液がピンチ」らしいとは耳にしたのですが……。

中田:
 前提として、血液というものは長期間保存できず、保存可能な期間が最大21日なんです。しかも人工的に作ることもできない。そのため、継続的かつ安定して確保できるよう、献血協力への呼びかけがされているわけです。

 赤十字社さんのサイトでも公開されているのですが、日本では1日平均約3000人の方が輸血を受けていると言われています。患者さんによっては大量の輸血を必要とする場合があるため、赤十字社さんでは、1日につき約13000人分の献血を目標に掲げています。その目標の血液量に対して70%前後の日が続いているのが現状です。

(画像は「初めて献血される方へ|献血する|日本赤十字社」より)

──平時の3割減ってことですよね。それってやはり新型コロナウィルスの影響が大きいのでしょうか。

中田:
 そうですね。3月に入り、新型コロナウィルスが全国に感染拡大し、外出を自粛する方が増えました。それに伴って、献血者の数もガクンと減りました。

 その際に、ニュースや芸能人の方を含めた有志の方から「献血者が減っている」と呼びかけがあり、一度は献血者数が戻った時期があったんですが、3月の3連休(20、21、22日)後から、より一層外出を控えるようになり、その結果、目標数に届いていない日が毎日続いている状況です。

──なるほど。献血に参加するためには外出する必要がありますから、外出する人が減ると必然的に献血者も減少するという。

中田:
 それ以外にも、本来であれば3月~4月ですと、赤十字社さんのほうで大学や企業などに献血バスを出して、いろいろな場所で献血のご協力をお願いする時期でもあったんです。

 それらも新型コロナウィルスの影響で多くができなくなってしまっているので、継続的な献血者不足に繋がっているというわけです。

(画像は「緊急事態宣言下でも献血は必要です – 日本赤十字社」より)

──この献血者不足が続くと具体的にどのような事態になってしまうのでしょうか。

中田:
 一般的には、事故で大けがした際の輸血が……というのが想像しやすいと思いますが、じつはもっとも影響が大きいのはガン治療なんです。

 日本にはガンと闘っている患者さんは非常に多いです。抗がん剤をうちますとご自身で血液が作れなくなるため、抗がん剤投与の治療のなかで日々輸血が必要になります。

 血液不足が続くと全国の患者さんに血液をお届けできなくなる。それによって治療を数日待っていただくことになると、身体に負担を強いてしまう、そんな事態が起きてしまう恐れもあるかなと思います。

──それって相当まずいですよね……。

中田:
 そうですね。献血者の減少がこのまま続けば、病気の治療が止まったり、それこそ事故にあったときに血液が足りなくて……なんてことも大いにあり得るんです。

コンテンツの力で人の命を救う手助けを

──現状が想像以上に深刻だということはわかりました。そんな状況もあって、コミケ中止にも関わらず今回のコミケ献血応援イベント実施に繋がっているという認識であっていますでしょうか。

中田:
 はい。コミケが開催できなくなるくらい新型コロナウィルスの影響があるなかで、果たして献血応援イベントも中止にしてしまっていいのか。

 とは言え、献血をするとアニメや漫画、ゲームなどのポスターをプレゼントする施策は、もともとコミケ献血から始まっているものでもあるので、コミケがなくなったからこそあえてコンテンツの力で人の命を救う手助けができればコミケの面目躍如でもあるのかなと。そう考え、実施しようと思いたったんです。

──コンテンツの力で、というのはまさにコミケらしさを感じます。今回の献血応援イベントでも参加企業さんからポスターのご提供がありましたが、これはもともとコミックマーケット98でのイベントのために用意されていたものなのでしょうか。

中田:
 いえ。じつはコミケ自体が中止になった時点で、もともと募集していたものは1回リセットされちゃったんです。

──というと、一から探し直しされたということですか。

中田:
 そうですね。本来であれば5月にコミケ、その前の3月にもアニメジャパンがあったわけで、イベント自体は中止になってしまったものの、なにかしらポスターに使用可能なイラストがあるはずだと考え、過去の献血協力企業さんにご連絡させていただきました。

 しかし、企業さんもリモートワークになっているなか、通常営業をしなければならず手が回らなかったり、外に出る施策へのご理解がいただけなかったり、献血ルームの安全性に関して不安視されたりと、非常に協力が得られにくい状況でした。

──確かにこの状況だとそうなってしまいますよね。

中田:
  そんななか、こういうときだからこそ「コンテンツの力で社会貢献を」と、ご協力いただけたのが、カバー株式会社、株式会社コロプラ、株式会社Cygames、株式会社ブシロード、株式会社ピラミッドの5社さんになります。

──純粋にいい話ですよね。このご時世、きっと本来の業務を行うだけでも大変なのに、状況を理解して協力してくれるという。

中田:
 はい。担当者さんの心意気的なところも非常に大きい部分はあると思います。

ホロライブ所属VTuber宝鐘マリン、『白猫プロジェクト ZERO CHRONICLE』、『グランブルーファンタジー』、アニメ『プリンセスコネクト!Re:Dive』、『アルゴナビス from BanG Dream!』、『アリス・ギア・アイギス』の6作品のポスターが今回の献血応援イベントでプレゼントされる。

コミケと献血の関わり

──さきほど、アニメや漫画、ゲームなどのポスターをプレゼントする施策はコミケ献血から始まったとお聞きしましたが、そもそもコミケと献血の関わりはいつころからになるんでしょうか?

中田:
 コミケと献血の関わり自体は本企画の前からありまして、コミックマーケットが当時新しく誕生した東京ビッグサイトに移ったコミックマーケット50からになります。年数でいうと、いまから24年ほど前の1996年からですね。

 人の集まるイベントということで、日本赤十字社さんから会場付近に献血バスを置いての献血の場を作れないかと提案があり、赤十字社さんが独自にやられておりました。

──このイベント以前は大学や企業などで見かける献血バスの配車場所の提供というかたちだったと。それが、コミケ献血応援イベントというかたちとしてスタートしたのにはどんなきっかけが?

中田:
 自分がコミケに参加している際に、赤十字社さんの方々が会場の外で献血の呼びかけをしているのを見かけて、献血にもサークルのような行列を作れたらおもしろいのにな、と思ったのがきっかけです。

 そのとき、自分がコミックマーケット準備会のスタッフとして企業ブースの企画、営業、運営に携わっていたこともあり、献血とコミケ参加企業とをつなげて立ち上げたのがいまのかたちになります。

──なぜ献血の特典にポスターをつけようと?

中田:
 コミケ、企業、参加者、そして赤十字社の輪を考えたときに、もっとも成立しやすいと思ったのが、絵を特典としてプレゼントすることだったんです。加えて、社会貢献を通じて、コンテンツの地位向上を狙いたいという想いもありました。

 当然、過去に前例のない企画でしたので、提案から約1年半ほどかけて企画を進めていきまして、実際にスタートに至ったのはコミックマーケット81(2011年)からでした。

──企画が通るまでに1年半も?

中田:
 前例のない試みでしたし、当時の企業ブースといえば美少女ゲームの企業、いわゆる成人向けゲームの企業がメインの時代でした。そのイラストを赤十字社さんの献血ポスターとして展開することへの議論に時間が必要だったんです。

(画像は「コミックマーケット81 献血応援イベント」より)
(画像は「コミックマーケット82 献血応援イベント」より)

──そんな苦労を経て実施にこぎつけたこの献血応援イベントだと。いまでは、防災公園にある献血バス含めておなじみのイベントになりつつありますが、実施当初は参加者の方はどのような反応だったのか。とくに記憶に残っているエピソードがありましたら教えてください。

中田:
 記憶に残っているものですと、2012年のコミックマーケット83で『魔法少女リリカルなのは』の描き下ろしポスターが特典だったときでしょうか。

 1ヵ月前から生活サイクルを見直して、ラーメンを控えて、水分を多めに取るようにして、試合前のボクサーのように準備をして献血に参加してくださった方がけっこういらっしゃいました。

──『なのは』のためにそこまで。すごい。

中田:
 コンテンツへの愛って深いんだなとあらためて実感しました。

コミケ献血の効果

──コミケ献血では実際にどのくらいの血液が集まるものなのでしょうか。

中田:
 準備会のTwitterにて発表させていただいていますが、前回のコミックマーケット97当日の献血応援イベントでは1864人もの方々にご協力いただけました。

 献血バス1台に対しての平均献血者数というデータを見ますと、防災公園で59.1人、プロムナード会場で66.6人となります。東京都内の献血バス1台あたりの平均献血者数が48.1人(最新版)ですので、バス1台につき約1.3倍の方にご協力いただいたかたちです。

 また、コミケ当日だけでなくコミケ開催日の翌月末までをポスター配布イベント期間にしており、献血にご協力いただいた方の人数は全体を通すと4000人にのぼります。

──全体で4000人。すごいですね。

中田:
 数値的な部分はもちろんそうですが、全員が幸せになれる企画なんですよね。参加者さんはポスターがもらえてうれしい。参加企業は社会貢献ができて、メディアが取り上げてくれるので宣伝にもつながります。赤十字社さんは献血者が増える、コミケとしてはコンテンツの集まる場として機能を果たせると。

──コミケ献血は、作品が好きで、その作品のポスターがほしくて献血に参加する方が多いイメージがあるのですが、実際はどうなのでしょうか。

中田:
 コミケ献血も9年の歴史がありますから、年を重ねるごとにリピーター率は上がってはいますが、それでも全体として献血初回者の割合は約18~20%でしょうか。献血全体での初回率が約3%なので、6、7倍ほど新規率が高い計算になります。

──おお、かなり高い。

中田:
 ちなみにもっとも初回者が多かったのは、さきほどもお話した2012年のコミックマーケット83、『魔法少女リリカルなのは』のポスターが特典だったときで、45%が初回者でした。

 この年は勢いもすごくて。イベントでは、用意しているポスターの在庫がなくなったら終了というかたちなのですが、このときは3000部ご用意したポスターが、12月29日からスタートして1月3日で配布終了と、歴代でいちばん早かったです。

──『なのは』の人気はすさまじいですね(笑)。

中田:
 初回率が高い以外にも、献血者の年代が若いのもコミケ献血の特徴なんです。献血全体ですと40~50代の割合が高いのですが、コミケ献血は20~30代がトップゾーンになります。

(画像は「年代別献血者数と献血量の推移 – 厚生労働省」より)

──それまで献血に興味を持っていなかった方々が、ポスターがほしいからという理由だとしても献血に参加するきっかけになる。献血者の母数を増やしていく意味でも、非常に重要な働きかけのように思えます。

中田:
 おっしゃる通り。いま日本の献血を支えているのが40~50代のリピーターの方々なのですが、原則的に献血をできるのは69歳までなので、この年代の方々が年齢制限に差し掛かったときにごっそりいなくなってしまうんです。それを避けるために、若い世代の新規の方々への献血の普及していく、というのが目指すべきところでもあります。

(画像は「初めて献血される方へ|献血する|日本赤十字社」より)

──なるほど。だからこそ、アニメや漫画、ゲームなどのポスターを特典とするかたちの施策が広がっているのかもしれませんね。

中田:
 じつは、第1回の献血応援イベントから、初回献血率や献血者の年代などのデータを取っていました。それを血液事業学会という赤十字の社員様がメインの学会におけるシンポジウムで、データを発表させていただいたこともあるんです。

 発表後、地方で独自のアニメ、漫画ポスター企画が実施されるようになっていったので、やはり施策の効果が数値としてしっかり出ているのが大きいのかなと。もし、初回献血率や献血者の年代というデータを集計していなければ、ほかの展開はなかったでしょうね。

献血へ行く人へ

──このコミケ献血の実施を受けて献血へ行こうと考えてくださる方もいるかと思いますが、献血ルームの安全性について不安に思う部分も少なからずあるのかなと。もちろん、安全を確保したうえで運営されていることは存じていますが、具体的にどのような対策をしているのか教えていただけますか。

中田:
 感染対策として、多くの献血ルームでは予約制をとっています。そのうえで、同伴者をお断りにしたり、待合室の席の間隔を空けたりと、人が密集する状況を作らないようにしています。

 さらに、献血ルームに入る前には、熱の測定や消毒液による消毒、ご自身のまわりに感染者がいないか、味覚は大丈夫かなどかチェックさせていただいたうえで、中に入れるようになっています。要は献血ルームに入室する前にひとつの砦が作られているんですね。

 加えて、献血ルーム内では、平時の厳格な基準を設けて【※】献血を行っているというとこで、現在のところ献血から感染者がでるというケースはでていません。

※24項目の問診事項に回答したうえでドクターからの問診があり、それらをすべてクリア―して初めて献血となる。帰国後4週間以内や歯科治療から3日以内、手に傷があるだけでも献血不可と、非常に厳しい基準で行われている。

──なるほど。逆に献血に行く際に気を付けたほうがいいことがあれば教えてください。

中田:
 献血は不要不急の用には当たらない、必要な活動の扱いなのですが、家族に高齢者がいらっしゃる方や、持病をお持ちの方は、無理に危険をおかしてまで外出はしないでほしいです。

 どうしてもポスターがほしい方は、ポスターの絵柄のタペストリーを格安で販売しますので、どうしても外出が難しい方はこちらを購入いただければと。

 今回のコミケット98の絵柄のタペストリー購入いただいた利益については、日本赤十字さんに寄付いたします。献血ルームに行かなくてもウェブ上で協力いただけますので、決して無理はしないでいただきたいです。

──本日はありがとうございました! (了)


■コミケ献血応援イベント概要

開催期間:2020年5月21日(木)〜2020年6月30日(火)

イベント内容:400mLの献血をされた方に献血応援イベントロゴ入りポスター6枚組(サイズ/A1)をプレゼント

開催予定の献血ルームはこちらから

■協力作品一覧

・カバー株式会社
ホロライブ所属VTuber宝鐘マリン

・株式会社コロプラ
『白猫プロジェクト ZERO CHRONICLE』

・株式会社Cygames
『グランブルーファンタジー』

・株式会社Cygames
アニメ『プリンセスコネクト!Re:Dive』

・株式会社ブシロード
『アルゴナビス from BanG Dream!』

株式会社ピラミッド
『アリス・ギア・アイギス』

献血応援イベント事務局ページ

●コミックマーケット献血応援イベントTwitter

●コミックマーケット準備会Twitter

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