「殺し合いはものすごい百合」「TSは百合なのか」──百合愛好家たちが語る“尊いだけじゃない濃密な百合の世界”【菅沼元×永田たまインタビュー】
ニコニコニュース / 2020年8月3日 11時0分
女の子同士の尊い関係を描く“百合”というジャンルがある。
柔肌が触れ合い、頬が紅色に染まる。男女の恋愛関係にはない、こう……神秘的な雰囲気にドキドキしてしまう方は少なくないだろう。
しかしながら、百合愛好家たちがどのように百合成分を摂取し、百合を愛しているかは謎に包まれている部分が多い。
そんな神秘的な百合界隈へ精力的にアプローチし始めているゲームメーカーがある。『魔界戦記ディスガイア』シリーズをはじめ、豊富なやりこみ要素が魅力のタイトルを数多く手掛けている日本一ソフトウェアだ。
本日より、本アカウントは【じんるいのみなさまへ公式アカウント】から【日本一ソフトウェアの百合ゲーム】総合アカウントに更新させていただきました!
— 百合ゲー×日本一ソフトウェア公式アカウント@「夜、灯す」7月30日発売 (@nis_yuri_games) March 28, 2020
今後ともよろしくお願いいたします!!
日本一ソフトウェアと百合。珍しい組み合わせに感じる方も多いだろう。
しかし、同社は、2019年6月27日に“日常百合ゲー”を謳う『じんるいのみなさまへ』を発売、さらには2020年7月30日に“百合ホラーゲー”『夜、灯す』の発売と、続々と百合作品を世に送り出している。さらに、百合専用Twitterアカウントも立ち上げ、なにやら穏やかではない。
そこで今回は、百合専用Twitterアカウント設立のキーマンかつ『じんるいのみなさまへ』『夜、灯す』のプロデューサーである菅沼元氏と、『夜、灯す』のシナリオライターを務める永田たま氏のおふたりにインタビューを実施。
なぜいま百合なの? 百合の歴史って? そもそも百合の魅力とは? など、百合のプロフェッショナルであるおふたりに百合というジャンルについてお話をお聞きした。
「いたるところに百合はあって、目線が変われば百合になる」「女の子同士が憎しみ合っていてもそれは百合」など、驚きの発言も飛び出た本対談を通して、知られざる百合好きの世界を覗いていこう。
自分が百合好きだと気づいていない方が多い
──本日は、百合愛好家であるおふたりをお迎えして、百合というジャンルの歴史や魅力についてお聞きできればと思っています。普段触れられないニッチな世界のお話を聞けるとあって非常にドキドキしています。
菅沼:
ジャンルとしては確かにニッチではあるのですが、声を大にして「百合が好きです!」と言う方があまりいないだけで、隠れ百合好きの方は意外と多いんですよ。
永田:
そもそも、自分が百合好きだと認識していない方も多いと思います。
菅沼:
それはあるかもしれません。
──認識していないとは?
菅沼:
例えば『けいおん!』のような“女の子たちの日常を切り取って描かれる作品”ってあるじゃないですか。これらは百合好きからすると百合コンテンツなんです。
永田:
百合ですね。
(画像はAmazon「けいおん! 全4巻完結セット」より)
──えっ? どのあたりが百合なんでしょう。
菅沼:
捉えかたや楽しみかたは人それぞれというのは前提に、百合というジャンルは“女性同士の関係性を第三者視点から楽しむコンテンツ”というのがおおよその定義と言えると思います。
──それはつまり、女の子がいて女の子同士の関係性があれば、もはやそれは”百合”であり得ると?
菅沼:
そうなります。ですので、『けいおん!』や『ゆるゆり』などの作品への好きと、百合が好きという感情には境界線があるようでないんです。これらの作品が好きな方であれば、自覚していないだけで百合好きの才能をお持ちの可能性があると思います。
永田:
いたるところに百合はあって、目線が変われば百合になるというものは多いんです。
(画像はAmazon「ゆるゆり: 1」より)
恋愛関係なだけが百合なわけじゃない
──認識していないだけで、もしかしたら百合好きかもしれないと。なるほど……これまでの人生で築いてきた価値観が揺らいでいる気がします。
菅沼:
あと、百合を恋愛関係だけと誤解されている方が多いかもしれませんが、我々百合好きからすると女の子同士が憎しみ合っていてもそれは百合なんです。
──えっ?
菅沼:
その反応がまさにそうで、憎しみの感情でも百合だと認識されている方はそこまで多くないと思います。どうしても仲のよさや恋愛関係にあるのが百合だという認識に落ち着いてしまうんですね。
永田:
例えば、『デストロ246』という漫画があります。私にとってこの漫画は、どえらい感情が渦巻いている百合作品なんですよ。
(画像はAmazon「デストロ246(1)」より)
──高橋慶太郎先生の作品ですか? あれって女の子同士で殺し合いをしてますよね。
永田:
殺し合いはものすごい百合です。命はその人のすべてでその命を自分の手中に収めるか否か。その人のすべてをほしいと思うのは完全に百合でしょう。殺し合いは百合ですよね、菅沼さん?
菅沼:
百合でしかありません。僕は『ヨルムンガンド』も百合だと思っています。
(画像はAmazon「ヨルムンガンド(1)」より)
──つまり、愛だろうが憎しみだろうが女の子同士の感情のぶつけ合いが百合であると?
菅沼:
そうですね。関係性こそが百合ですので。
永田:
百合とは、ふたり以上の女性で構成される関係性を意味しているんです。
菅沼:
あとはビジネス的なお話になるのですが、どれくらいの描写なら百合好きが振り向いてくれるか、百合として認識してくれるか。企画としてのデザイン部分のお話になります。
永田:
あくまで私個人としてはなんですが、性的行為の有無というともひとつの基準になっています。
「この子の裸を見たい」という性欲は持っていてもいいんですが、一線を踏み越えてはいけない。そんな葛藤こそが百合の醍醐味であり、そこで簡単に押し倒してしまうと複雑な問題になってしまいます。
でも、性的な関係を直接書いている作品でも、「これは百合だ」と思うものもあるので、切り分けはとても難しいんです。
菅沼:
百合は現在進行形で成長しているジャンルなので、みんなそれぞれ違うイメージを持っているんです。
永田:
なんで興味を持っている人が少ないんでしょうね? 綺麗な女の子がイチャイチャしてたら2倍美味しいじゃないですか。みんな女の子好きでしょう? なぜ?
百合に目覚めるきっかけ
──先ほど、百合好きだと気づいてない人がいるというお話もありましたが、では百合好きに目覚めるきっかけってなんなんだろうと気になってきました。おふたりはどのようなきっかけがあったんですか?
菅沼:
よく聞かれることなのですが、じつはこの作品と挙げられるものがなく、気づいたら百合好きになっていたんです。
思い返すと、男女の恋愛作品を見て登場する女キャラを好きになったとしても、この女の子が好きなのは僕ではなくて作品内の男の子なんだよな……と違和感みたいなものがあった気がします。
永田:
私もはっきりとこの作品というのはなく、物心ついたときから女の子と女の子を取り巻く環境に興味が向いていて、いつの間にか百合好きでした。
個人的に思っているのは、百合好きは、たくさんあるコンテンツの中から勝手に百合要素を見つけて勝手に育んでいく傾向にあるんじゃないかと思います。だから明確にこの作品って出てきにくいのかなと。
菅沼:
確かにそういう人は多いかもしれません。
──ちなみに、百合ポイントの高い描写ってどういうシチュエーションなんでしょうか。
永田:
私の場合、過去を関係性によって乗り越えるというところがキュンっときます。
例えば、『マリア様がみてる』には辛い過去を持っているキャラもいるのですが、出会った姉妹たちとの関係性によって成長していくんです。その姿がとても百合百合しいんです。
恋愛という男女の関係性ではなく、同じ痛みを共有しやすい女の子同士の関係性によってそれが起こるのが、私の中におけるひとつの百合ポイントかなと。
(画像はAmazon「マリア様がみてる11 パラソルをさして」より)
──菅沼さんはいかがですか?
菅沼:
思い浮かぶものはいくつかありますが、女の子が女の子の髪の毛を結ってあげている描写がとくに好きですね。
永田:
絵面的な話ですよね。
菅沼:
もうあの構図がものすごく好きで。
永田:
お好きだと聞いていたので、『夜、灯す』にもちゃんと入れたんですよ。
菅沼:
そうなんです(笑)。店舗特典にも1個描いてもらいました。ゲーム内容に関しては、商品になるものですので、自分の趣味とは割り切って制作に臨んでいたんですが、ここだけは僕の完全なる趣味でやらせていただきました。
百合というジャンルの生まれ
──百合ジャンルとはいつごろ生まれたんでしょうか?
永田:
色々な説がありますが、大正時代の作家で吉屋信子という、少女小説の祖と呼ばれている方が書いた『花物語』という連載小説シリーズが始まりと言われています。
恐らく百合作品と聞いて多くの方が女学校ものをイメージすると思いますが、この『花物語』では女学校が舞台になっているのは半分くらいで。そのほかにいま流行りの“社会人百合”をいち早く取り入れているんですよ。
(画像はAmazon「花物語 上」より)
──また新しいワードが。社会人百合というのは?
永田:
その名の通り、社会人同士の百合や社会人と学生の関係性というのもあります。メジャーなタイトルだと得能正太郎先生の『NEW GAME!』という作品が社会人百合にカテゴライズされると思います。
(画像はAmazon「NEW GAME! 1巻」より)
──まさか『NEW GAME!』も百合だとは。ところで、この『花物語』は百合好きにとっては、知らぬ人はいないほどの有名作品なんでしょうか。
菅沼:
古典のような立ち位置の作品でしょうか。でも、百合好きの中でも一部の人しか読んでいないイメージですね。
永田:
日本において百合を突き詰めようとすると行きつく先です。
菅沼:
海外に目を向けると、古いギリシャの古典作品もあるんですが、そこまで追いかけるとキリがないから……。
──日本と海外では百合の位置づけは違うんですか?
菅沼:
違うと思われます。そもそも、英語圏では百合に該当する言葉がないのかもしれません。ですから「YURI」という言葉で向こうでは流通しています。日本の百合漫画も「YURIBOOK」のようにジャンル分けされています。
永田:
中国のある地方には、親しい女友達同士で疑似姉妹の契りを交わす風習が残っているそうです。そして、この契りは、将来男性と結婚したとしても夫よりも高い優先順位なんだそうです。このような百合に近しい関係性が一部民間に残っているケースもあります。
『マリア様がみてる』は全人類が読むべき
──日本では『花物語』から始まったという百合文化ですが、ジャンルとして盛り上がりを見せたのはどのタイミングなのでしょうか。
菅沼:
『マリア様がみてる』の登場ではないでしょうか。
永田:
『美少女戦士セーラームーン』のはるみち【※】や『少女革命ウテナ』も火付け役になっていたと思いますが、大きいのはやはり『マリア様がみてる』ですよね。
※天王はるか(セーラーウラヌス)と海王みちる(セーラーネプチューン)を指す言葉。
菅沼:
この作品も百合界における古典って感じです。
永田:
10年くらい前に全人類が読むべきだと法律で決まったじゃないですか(笑)。
──(笑)。そこまで『マリア様がみてる』の影響というのは大きいんですね。
菅沼:
じつは『マリア様がみてる』に関しては語りたいことがありまして……。僕は新作ゲームを出すとき、タイトル名にかなり気を使っているんです。今回の『夜、灯す』も前作の『じんるいのみなさまへ』もそうなんですが、ゲームをプレイした人が「あーなるほどそういう意味があるのね」と感じてくれるように設定しています。
そういう視点から見ても、『マリア様がみてる』っていうタイトルはめちゃくちゃいいんですよ。タイトルの時点で、なにかよからぬことをしようとしているのがわかる。「マリア様」という単語で舞台が一発でわかる。読んだ人がすごい納得できるし、読む前にもドキドキできるという、めちゃくちゃ素晴らしいタイトル名なんです。
永田:
そうなんです。タイトルがいいんです。私も『マリア様がみてる』が好きすぎて聖地巡礼もしました。
あと、学校が舞台だから主人公や名前が出てきているキャラクター以外にも無数の姉妹がいるはずなので、その架空のキャラクターの部活やクラス、学年を設定して、お姉さまとの出会いから別れのシーンまでを妄想して遊んでいました。10年くらいはこれだけで遊べるのでおすすめですよ!
──そんな遊びかたが……初心者にはレベルが高すぎませんか?
永田:
そうかな? 自分がもしリリアン女学園に入学したら、どんな生徒で、どんなお姉さまに見初められて、どんな妹を作るのか想像しません?
菅沼:
テーマがわかりやすい作品であり、描写も丁寧なので、そういう楽しみかたもあるとは思います。ただそのあたりは人それぞれじゃないでしょうか。
もし『マリア様がみてる』をおもしろいと感じる方でしたら、百合好きの素養は少なからず持っていると思います。
永田:
とりあえず3巻の「いばらの森」まで読んでもらいたいです。
日常に潜む百合
──『花物語』、『マリア様がみてる』と、なんとなく百合文化は読み物(小説)の世界が中心という印象を受けたのですが、実際はどうなのでしょう。
菅沼:
世間の多くの方が持っている印象で間違いないと思います。でもそそれ以外にも、百合というのは数多く日常に潜んでいるんですよ。
例えば、いま流行りのVtuberの配信。女の子同士の関係性に魅力を感じて見ていらっしゃる視聴者の中に百合好きである自覚はほとんどないと思いますが、じつは百合好きの才能は持っている。もしかしたら今後なにかしらの拍子に百合好きとして目覚める可能性は高いと見ています。
永田:
バ美肉おじさんっているじゃないですか。中身はおっさんだけど、かわいいアバターとかわいい声をあてて配信をしている。私は、あのおじさんたちのコミュニティはものすごい百合だと思うんですよ。
──おじさんなのに百合?
永田:
お互いかわいいを追求してかわいいをぶつけ合って、いわゆるかわいいの切磋琢磨をしているわけでしょう。かわいいに真摯に向き合っているおじさんたち、これは百合だと思うんですが、菅沼さんはどう思います?
菅沼:
僕的には、肉体的に女性かどうかではなく、性として女であるかが重要だと思っています。ですので、中身が男なら、性的には男性で百合ではなないというのが個人的見解です。
『週刊少年ジャンプ』で矢吹健太朗先生の『あやかしトライアングル』の連載が始まって、この作品はTS(性転換)百合ものなんですが、それによってTSは百合なのか議論が活発になったんです。こうした議論そのものが百合の世界の盛り上げにつながればいいなと思いました。
(画像はAmazon「週刊少年ジャンプ(28) 2020年 6/29 号」より)
永田:
作品を読んでビックリしました。百合界に追い風きたなと思いましたもん。
菅沼:
この議論が盛り上がることで百合の世界に入ってくる人が増える気配もあるので、全力で矢吹先生を応援したいです。
──『週刊少年ジャンプ』に百合漫画というのは意外な印象はありますよね。
菅沼:
ほかにも『週刊少年ジャンプ』で連載している『アクタージュ act-age』も百合を感じることができ、超絶おすすめです。会社の中で布教活動をし続けるくらい素敵な百合なのでぜひご覧いただきたい。
(画像はAmazon「アクタージュ act-age 1」より)
──『アクタージュ act-age』が百合!?
永田:
うちの旦那さんは百合好きではないんですが、『週刊少年ジャンプ』で一番好きな作品は『アクタージュ act-age』なんです。私が「それは百合だよ」と言っても「意味わかんない!」となって。でも百合なんですよ。
菅沼:
今展開しているお話も百合百合しい展開がたくさん描かれているので、非常に楽しみにしている作品です。
──なるほど。例えば、主人公の夜凪景とライバルの百城千世子の関係性がいわゆる百合にあたるのでしょうか。恋愛関係でもないけれど、お互いを意識していて。ときには憎しみの感情もあるのに本人にとって特別な人みたいな……。
永田:
そうです。わかってるじゃないですか。それが百合です。
菅沼:
もうそれがわかれば今日から百合好きとして生きていけます。
この身が果てるまで百合コンテンツに関わっていきたい
──ここまで奥深い百合の世界のお話をお聞きしてきたわけですが、ここからは今回発売する『夜、灯す』のお話をお聞きしていければと思います。ゲームにおいて百合ジャンルはけっこう珍しいですよね。
菅沼:
後発にあたります。そもそも百合の市場自体はまだまだメジャーな市場であるとは思っていません。よく「百合ってビジネスになるの?」と聞かれるんですが、そこを大きくすることにこそビジネスの意味があると思っています。
──現状市場の小さい百合ジャンルのゲーム制作、会社の上層部を説得するうえで大変だったのでは?
菅沼:
最初に百合について理解してもらうためにプレゼンをする必要がありました。そのための資料を作りにはだいたい調査も含め2ヵ月くらいかかりましたね。そして会社の偉い方々10人くらいを前に「百合とはなにか」を30分くらいかけて説明しました。
永田:
これだけはお伝えしておきたいのですが、菅沼さんががんばってくれたから、世の中に新しい百合をお届けできるんです!
──2ヵ月かけて資料作りとは百合への愛がすさまじいですね……。
菅沼:
現時点における百合は文学的というかやや高尚な印象が世間的な認識だと思うんです。そこで、まずは敷居の低い百合をと思って作ったのが、昨年発売した『じんるいのみなさまへ』だったんです。
──今年も百合をテーマにしたゲームを発売するということは、百合ジャンルを広げていくという強い意思の表れとと捉えて間違いないのでしょうか。
菅沼:
そうですね。百合ジャンルに少しでも貢献していくのは自分が天から与えられた使命として受け取っています。この身が果てるまで百合コンテンツに関わっていきたいと考えています。
恐怖体験を通じて深まる女の子同士の関係性を描く百合ホラー
──そのプレゼンの成果があって百合専用Twitterアカウントが作られ、『夜、灯す』発売につながると。ジャンルが百合ホラーとありますが、なぜ百合にホラーを組み合わせたのか、その理由をお聞きしたいです。
菅沼:
日本一ソフトウェアでは、毎年1本ホラーコンテンツを出そうというイズムがありまして、2020年夏ホラー枠が空いておりましたので、百合と相性のよさそうなホラーで企画書を出してみたのがきっかけです。
ホラーが先行してスタートした企画ですが、ホラーというのは「なにかを乗り越える」のがテーマとして置きやすく、乗り越えた前後での女の子たちの関係性の変化を描きやすいため、百合と相性のいいジャンルだと思っています。
永田:
菅沼さんから「百合書きませんか?」とご連絡いただいたときには、「ヨッシャー!」ってなりました。でも、私怖いのがダメで……。ジャンルがホラーだと聞いて、苦手なホラーを書けるかどうか悩みました。
──シナリオを書く側の立場として、百合とホラーの相性はどうなんでしょう。
永田:
百合は「関係性」なので、設定や舞台などはシナリオを書くうえで重要ではないと思っています。どんな舞台設定でどんなお話でも、キャラクターが登場する限り関係性は発生するので、そこからいかに百合に寄せていくのかが大事なのかなと。
菅沼:
そうですね。もちろん向き不向きはありますが、百合が描けない舞台や設定というのはほとんどありません。
──この百合ホラーというジャンルで描きたい、見せたい百合とは?
菅沼:
恐怖体験を通じて深まる女の子同士の関係性です。ゲーム内でホラー的なイベントが起きるたびに女の子同士の関係性がちょっとずつ変わっていくんです。ストーリーの最初と最後のころを比べるとその変化が明確に見えてくるかと思います。
永田:
恋愛感情がなくても、例えば「好き」「貴方が大事」などの言葉がなくても、百合を感じていただけるお話にしようとは思いました。普通の友達と比べて付き合いや持っている感情も濃くて、でも親友という言葉でも表せない。そんな関係性を描きたかったんです。
──なるほど。最後に本取材の締めとして、本作の発売を楽しみにされている方、そして百合を愛する皆さんへメッセージをいただけないでしょうか。
菅沼:
私は百合が好きで、ただ好きというだけで百合の仕事をやらせていただいていますが、仕事を通じて百合を広めていくのが自分の使命だと考えています。今回発売される『夜、灯す』は自分が手掛けた百合作品としては第2弾となりますが、ホラーと百合のどちらかが好きであれば、間違いなく楽しめるコンテンツになっていると思います。
カオミンさんのイラストも素晴らしいですし、ちょっとでも気になったらぜひ手に取っていただけたら嬉しいです。ちなみに私は、もう4回泣きました(笑)。
永田:
百合の市場は小さいという理由で百合作品をやらせていただく機会がない中で、今回菅沼さんに拾っていただき遂に百合作品を書く機会に恵まれました。この恩を返すために、菅沼さんを泣かせようと思ってシナリオを執筆しています。
日本一さんのショップで予約していただくと、特典小説が付くんですけど、そちらでも菅沼さんを無事に泣かせることが出来ました(笑)。
菅沼:
「これが百合じゃなかったら何が百合なんだ」という出来になっておりますので、ぜひお楽しみになっていただければと思います。
──本日はありがとうございました! (了)
女の子がいて女の子同士の関係性があれば、もはやそれは百合になり得るポテンシャルを秘めており、目線を変えれば人によって百合コンテンツになる。そして、百合は恋愛関係だけを指すのではない。憎しみ合いや殺し合いも百合であると。百合好きの世界は奥深かった。
もともと、特段百合好きではなかったのだが、本対談を通して「これも百合」「あれも百合」とお話を聞いていくうちに、「あれ、自分も百合好きなのかも?」という考えが何度か頭をよぎったことを告白しておこう。もしかしたら目線が変わったのかもしれない。少なくとも対談後、『アクタージュ act-age』を百合目線で読んでいる自分がいる。
さて最後になるが、本対談で濃密な百合トークを語っていただたいた菅沼元氏と永田たま氏が制作した百合ホラーアドベンチャー『夜、灯す』が7月30日より発売中だ。これだけ百合好きなおふたりが手掛けた百合作品にて、どのような百合が描かれているのか。百合の世界に興味がある方はぜひ足を踏み入れてみてはいかがだろう。
それでは皆さん、夜を灯してきてください。#夜灯す 本日発売
— 百合ゲー×日本一ソフトウェア公式アカウント@「夜、灯す」好評発売中 (@nis_yuri_games) July 29, 2020
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