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学校に通わないことも一つの選択肢として受け入れられる社会に── 「明日、学校へ行きたくない」という人たちから寄せられた投稿について考える【話者:茂木健一郎、信田さよ子、山崎聡一郎】

ニコニコニュース / 2020年9月28日 12時0分

 「2学期が始まるけど学校に行きたくない」

 自殺総合対策推進センターのデータによると、子どもの自殺が最も多いのは夏休みが終わる8月後半と言われています。

 ニコニコ生放送では、8月24日に『「明日、学校へ行きたくない」投稿をもとに みんなで考える生放送』を実施。

 本番組は、「いじめに遭っていて学校に行きたくない」「何かしらの原因があって学校生活がつらい」「過去、いじめを受けた経験がある」等という人たちから寄せられた「いじめ&不登校」等に関する投稿について、脳科学者の茂木健一郎さん、原宿カウンセリングセンター所長の信田さよ子さん、『こども六法』著者の山崎聡一郎さんの3名と一緒に考えるという内容。

 実際に、「将来が不安」というフリースクールに通う中学生、いじめられているけど「学校には行きたい」と話す中学生の投稿など計6つを紹介し、茂木さん、信田さん、山崎さんがこれらの投稿やいじめ・不登校などについて考えた模様を紹介していきます。

※本記事はニコニコ生放送での出演者の発言を書き起こしたものであり、公開にあたり最低限の編集をしています。


茂木:
 みなさん考えてください。昔は学校って行けることがどんなにありがたいことだったか。時が流れていつの間にか学校に行くことが重圧になってしまったり、それが本当に苦しいことになってしまったりしています。
 そして今、新型コロナの影響で、学校に行くこと自体がなかなかできない状態になっています。

 今日は我々と学校の関係、特に今、学校に行く年齢の子どもたちがどういう思いでいるのか、「明日、学校に行きたくない」というテーマでこれからいろいろお話しします。

出演者紹介

脳科学者・茂木健一郎さん
原宿カウンセリングセンター所長・信田さよ子さん
62万部発行された『こども六法』の著者。教育研究者、写真家、ミュージカル俳優と多様な肩書きを持つ山崎聡一郎さん

コロナ休校で周りと差がついてつらい

山崎:
 15歳の男性の方からの投稿です。

投稿者1:
 私は県下一の進学校に通っています。志願理由はただ単に楽しそうだったからです。将来の夢もなく、目標もなく、医者になるようなやつが入る学校です。

 周りとは違っていました。このコロナ禍による休校により、1学期の半分以上がなくなったのは周知の事実でしょう。しかし進学校だからか、休校中に高校の課題を与え、先に勉強していました。いきなり高校の課題を与えられて、自分で勉強しなさいと、今までになかったことをいきなり強いられました。

 しかし自分で勉強するモチベーションがそもそもなく、そのせいで周りとかなり差がつきました。結果、1学期の成績は留年の2歩手前、絶望的です。以前より感づいていたうつ状態が、より進行したように感じます。

 正直、学校に行くのがつらいです。先生の目も、同じクラスの目も怖い。親の目も怖い。親の期待が怖い。世間の目が怖い。必然的に自分の居場所を求めて、ついネットの世界に閉じこもってしまいます。

 いったいどうしたらいいんですかね。思春期もあって、親とのコミュニケーションも取りづらいです。これはカウンセラーとか、心療内科とかを受けたほうがいいのでしょうか。

左から、茂木健一郎さん、信田さよ子さん、山崎聡一郎さん

信田:
 ズバっと言っちゃって申し訳ないんですが、カウンセリングでいいんじゃないですか。

 別に医療機関に行く必要はないし、すごく文章力もおありだし、留年も1歩手前ではなく2歩手前でよかったねって思います。こんな事態で、やすやすとそれをクリアしていく人もいるだろうけど、この投稿してくれた方のように、何していいかわかんないよいう人もいるでしょうし、楽しいと思ったのがコロナによって全然楽しくないわけじゃないですか。

 だから再び登校できるようなったときに、また楽しいこともあるかもしれないから、そういう自分を批判しないで聞いてくれる場所を1カ所持つといいでしょう。それはカウンセリングでもいいと思います。

山崎:
 今、ニコ生のコメントでも、「ネットにつながってるんだったら、それは閉じこもっていることにならない」とか「ネットのほうが広い世界だよ」っていう意見もあります。

茂木:
 文章力あるし、高卒認定試験があったら通るでしょ。だから最悪、行きたくなかったら、学校に行かなくてもいいんじゃないの?

信田:
 でも話を聞いていると、リアルな高校生活を楽しみたいという感じも伝わってくるんですね。

茂木:
 大学なんていろんな行き方あるじゃん。そもそも学校に行かないと勉強ができないというのが全く意味がわからなくて、別に教科書や参考書を読めば勉強なんかできるじゃん。僕の中には基本的に学校というものに対する必然性はないから。

 でも今の投稿者の方のように、親の期待とか学校のほかの人と進路を合わせる必要はないじゃんと思うんだけど、きっと焦っちゃうだろうな。

信田:
 そうですね。楽しいからその高校に進学したって言うけど、親からしたら県立トップ校にうちの子入ったのよという自慢の息子さんなんだろうなと思うし、そういう視線もありますよね。

茂木:
 だけど命のほうが大事でしょ。

人が怒られるのを見るのがつらい

山崎:
 次の投稿は、今20代前半の方からです。

投稿者2:
 私が中学生のときの話ですが、クラスの担任の先生が厳しく、授業に集中していない子や、忘れ物をした子をよく叱っていました。
 私自身が怒られることはなかったのですが、人が怒られているのを見るのが苦手で、学校を休みがちになってしまいました。

 今でも会社で誰かが怒られているのを見ると、過剰にびくびくしてしまうことがありますが、会社では席をはずしたりできます。
 学校はそうもいかないので、私と似たタイプの子は本人にしかわからないつらさがあると思います。

山崎:
 これを読みながらDV【※】とも関係あるお話だなって思ったんですけども、この投稿はまさにDVを目撃しているのと、状況としては似ていますよね。

※DV(domestic violence)
配偶者からの暴力を指すが、ほとんどが夫から妻への暴力。また子どもから親への暴力のことを「家庭内暴力」と呼んで区別している

信田:
 そうですね。例えば面前DVという言葉があって、子どもの面前でDVが起こるとそれを見ている子どもが心理的虐待を受けるという言葉です。

 それはなぜかというと、やってる親は子どもを直接やってないからいいだろうと思っているんですよ。本人も子どもも大体平気な顔してますしね。

 この投稿者の方だって平気な顔して一応座ってると思うんだけど、やっぱり人を支配するとか傷つけるのって、されるのと別、もしくは同じくらいの傷つきがあるということを知ってもらいたいです。

茂木:
 人によって閾値(しきいち)が違って、感じ方も違うので、こっちが「これぐらい平気でしょう」と思っていても、相手としたら「いや、それがだめなんだよ」という場合もあります。

 ノイズもそうだし、対人関係もそうだし、その違いというのをやっぱお互いに認め合わないとね。

信田:
 その議論ってちょっと変なのでは?

茂木:
 学校の先生が叱ってんのを見るとつらいんでしょ。それは、そう見ていて平気な人もいるけど、要するにこの方の場合はつらくて、ただその感受性が違うってこと。

信田:
 でも、つらい人がいたら、つらい人に合わせるべきですよね。

茂木:
 もちろん激しく叱責するのはよくないんだけどそうじゃなくて、僕は想像性、想像力が大事だと言っています。

 僕のさっきの投稿は、激しく叱責するんじゃなくて、軽く注意するだけでもつらいと思う人はいるんじゃないかと理解したんだけど。だって明らかに激しく叱責するのはNGでしょ。

 そうじゃなくて「最近、あなた、宿題やってきてないね」というぐらいの注意でも、あるチューニングしてる子は、わあーって感じちゃうことはあると思うよ。

信田:
 それはそうでしょうね。

山崎:
 そういう、ちょっとした受け取り方の違いがきっかけで、ネットでは炎上が起きるケースはいっぱいありますよね。

茂木:
 そうだよね。チューニングが少しずれちゃってるというのが原因でね。

陰口はつらいけど学校には行きたい

山崎:
 もう一個いきましょうか。中学2年生女の子からです。

投稿者3:
 クラスの女子グループから陰口を言われたり、笑われたりしています。授業中とかで私以外の女子で手紙を回していることもあります。これぐらいでいじめられてるとは言えないと思うけどつらいです。

 陰口のことを親に言ったら、学校を休んでもいいと言われたけど、陰口とかが嫌なだけで学校には行きたいです。

信田:
 「学校には行きたいです」っていいじゃないんですか。親は「休んでもいいんじゃない?」と言ってくれたし。でもやっぱり陰口って嫌ですよね。

山崎:
 僕自身、中学生に対していじめに関連する自由記述のアンケート調査をやったことがあって、その中でよく見られたのは「いじめられてるわけじゃないんですけど」という前置きが書いてあって、そのあとに具体的な事例を見るといじめなんですよ。

 あと最後の一文、「陰口とかが嫌なだけで、学校には行きたいです」という言葉。私たちは子どもたちがいじめに遭っている、またはそのほかの理由で学校に行きたくないと思ってるよいうことに対して、ついつい「だったら学校なんて行かなくていいよ」と解決策を提示してしまいがちなんですけど、子ども一人一人が求めてる解決策の定義って、やっぱその子にしかないということを忘れてしまいがちなんですよ。

信田:
 まさにそうですね。カウンセリングもそういう解決策を提示するものだろうと誤解されがちなんですけど、その人は何がつらいのか、陰口されるとどんな気持ちになるのかということを他者にちゃんと伝えるだけで、その陰口を言ってる子どもに対峙できる強さが身についてくということもありますね。

 そんな陰口言う子を変えることはできないから、それにどうやって対峙して、それでも学校に行けるようになるのかなという感じかな。苦しんでる顔見て、楽しいという子が多いからね。

茂木:
 そうなの? そういうの全然意味わかんないや。

信田:
 本当ですよ。いろんな話を聞いてると、相手がつらいなとか、苦しんでるの見て、快楽を得てるに違いないと思うような例があまりに多いんですもん。

茂木:
 へえー、そうなの?

信田:
 それはもう本当人間観が揺すぶられますよ。本当そう考えないと理解できないという人多いですから。

茂木:
 だけど無理しないでほしいんだよな。とにかくもう行きたくない、つらいと思ったら、絶対無理しないというのが大原則だと思うよ。

 もう学校に行けないというときに、何が原因でそれを解決すれば行けるだろうというのは間違っていて、もう「行けない」という答えが出てるんだよね。脳の仕組みからして、行こうと思えば行けるだろうってわけじゃないだよ。

信田:
 なぜこんなに原因を考えるんでしょうね。

茂木:
 脳って複雑だからそんな原因と結果みたいな単純な構造じゃないのに、単純に考えがちなんじゃないですか。

フリースクールに通っているけど将来が心配

山崎:
 もう一個、紹介したいと思います。現在、フリースクールに通う中学生からの投稿です。

投稿者4:
 私は小学5年生のときに嫌なことがあって学校に行かなくなりました。今はフリースクールに通ったり、家で料理をしたりして過ごしています。

 小学校に入った妹が少しだけ学校に行ってから、「お姉ちゃんみたいに学校には行かない」と言って学校に行かなくなりました。今、一緒にフリースクールに通っています。巻き込んで悪かったなと思いますし、親をとても悩ませました。でも「いいよ」と言ってくれています。

 来年から中学生ですが、フリースクールに行くと思います。将来どうなるのか心配です。

茂木:
 僕はホームスクーリングがそもそも日本であんまり概念としてないのが大問題だと思うよ。

信田:
 外国ではホームスクーリングって多いですよね。

茂木:
 当たり前。僕の友達がボストンにいるんだけど、ハーバードの教授の子どもなんて学校に行かないでずっとオンライン戦略ゲームをやっているんだって。それで家で勉強してるんだよね。
 だからアメリカでも、イギリスでも学校になんか行く必要ないという層はいるんですよ。

 しかもデータによると、そういう人たちって成績がいいんだって。だから学校に行かないってことが、ちょっと引け目に感じることであるかのようなことがおかしいと思う。
 むしろ学校なんか行かないほうが勉強もできるじゃんみたいな感じの人がいるんですよね。

 だから僕は正直、「なんで学校なんか行くの?」みたいな感じは強いです。

山崎:
 公教育、学校教育というものを見ている立場としては、とりあえず日本ではそういう海外の教育のあり方が比較対象としてありつつも、日本では原則として親が子どもを小中学校に通わせなければなりません。

 これが子どもたちにとっては権利であり、大人にとっては義務である以上、本当は子どもたちが全部喜んで公立の学校に通えるかたちにしなきゃいけない
のに、なぜかこれが転じて通わない子どもが悪いみたいな空気も出ています。

 結果的に、公立の学校に行かない、または行けないのは自分が悪いと思ってしまう雰囲気ができているのは、それはそれで問題だと思っています。

 実際、この投稿者の方の親は「いいよ」と言ってくれてるんですもんね。それはすべてじゃないですか。

茂木:
 とてもいいじゃないですか。いい親御さんだと思います。

山崎:
 本当にそう思うんですけど、どこかから子どもサイドに「学校に行かなければならない」とか「行くのが普通だ」とか、そんな情報が入ってくるわけですよね。

 そういうところから親はいいって言ってくれているけど、「学校に行ってない自分は将来どうなるんだろう」「行かなきゃいけないんじゃないかな」と思ってしまうのは、これはすごく問題というか、結局いい選択をしているのにもったいない状態になってると思います。

信田:
 コロナって、学校に行かなくても勉強できるということを示せるチャンスでしたよね。

茂木:
 本当そうだよね。

信田:
 みんなにタブレットを与えれば学校なんか行かなくてもいいし、給食で同じものを食べなくてもいいということを国民に周知徹底できるいいチャンスだったのに日本は……。そのチャンスをチャンスと思わなかったということですかね。

茂木:
 たしかにホームスクーリングをやって成功している子は親の理解があって、ある程度素養も高いところが多いんですよ。

 だから公教育って家庭環境にもよって、ある程度の最低基準というか、それを提供するという意味においてはすごく大事だと思うんだよね。

信田:
 「子ども食堂」みたいに、まともなご飯は学校の給食だけはという子もいるわけですからね。

茂木:
 そういう子には給食もたっぷりあげたいね。

山崎:
 今は給食の配膳が新型コロナの感染リスクになるという理由で、献立を個包装のものだけにした結果、パンと牛乳だけみたいな簡素な食事にしてるところもあるようです。

茂木:
 それはちょっとつらいな。


カーストでいつ自分が被害者になるか不安で早く卒業したかった

山崎:
 次を読みます。これは過去の体験談ですね。

投稿者5:
 中学生の頃、女子のカーストがあり、常に誰かがターゲットになって無視されたりしていて、私もいつ被害者になるか不安で過ごしていました。

 その状況を見るのもつらく、またいじめられた子をかばうと私にも当たりが強くなるので早く卒業したかったです。

茂木:
 スクールカーストって本当あるんですか?

信田:
 あると思います。それってやっぱり学校のシステムとか、家族のシステムの反映だと私は思っています。

茂木:
 僕のときはスクールカーストってなかったけどな。それって女の子だけ?

信田:
 男子もありますよ。

山崎:
 男子もあると思います。それが明確にカーストになってるわけじゃないですけど、いじめっ子が固定化されてくるんです。

 いじめって被害者は入れ替わってくんだけど、加害者が固定されてるみたいなことが起きたりすることがあって、それはもう完全に、カーストと言わないけれどもカーストになってますよね。

茂木:
 社会学者とかが便利に「スクールカースト」とネーミングすることに対してはかなり違和感あるんだけど、それどうやって定義してんだよって。
 そういう言葉作ることで、逆にそういう現実を固定化しちゃうと困ると思うから好きじゃないんですよ。

山崎:
 どちらかというと、スクールカーストという言葉は、元々、学術用語として定義、深堀りされてきていて、現在では一般用語になっている印象があります。

茂木:
 自然発生で出てきたの?

山崎:
 そうですね。自分は社会学が一応専門ですけれども、論文でよく見るというよりはむしろTwitterなどのSNS上の議論を見ていてスクールカーストという言葉が多く出てきたり、被害経験者が「スクールカーストが~」という言い方をしたりというイメージのほうが強いですね。

信田:
 そういう言葉なんですね。

いろいろつらい。心に影響する

山崎:
 最後の投稿です。これは9歳の女子からです。

投稿者6:
 手の皮がむけて痛い。熱が度々出ます。ずっと休んでいます。久しぶりに行くときみんなと会うのが心に影響する。何か気まずくなるんです、めちゃくちゃ。熱中症と、コロナと、皮と、気まずいのが悩みです。

 家での勉強は学校でやるのよりはましかなと思います。通信教育始めました。コロナだけどみんな休んでないとか言われたらつらいです。

信田:
 つらいお便りでした。

山崎:
 いろいろと読んできて思うのは、投稿してくれた子は9歳ですが、現在進行形でいじめを受けていますという投稿は全体としてはかなり少ないんです。どちらかというと、「あのときいじめに遭ってました」という投稿のほうが多いです。

 番組が始まる前に信田さんと「やっぱりしゃべれるようになるには、そのぐらいかかるのかな」という話もしたんですけど、そういうところを意外と反映しているのかなというふうに思います。視聴者も現役の学生というよりは今は大人になっていて、「あのときは~」と振り返れるようになっているんだと思います。

信田:
 そうですね。トラウマ理論というかトラウマ治療が2000年代からずっともう今、20年ぐらい日本でも多いんですけど、トラウマというのは渦中にいるときはなかなか語れないけど、少し時間が経つと語れるというふうに言われてるんですね。

 だから事後的に、そういうふうに語ることでいじめについて言語化できると思います。だから周辺の人からすると、いじめの渦中にいる人ほど声を上げるべきだし、上げるだろうというのは誤解が多いと思います。なかなか上げられないんですよ。

 だから今、コロナの影響なんかも、来年になったらもっとはっきりしてくると思うんですよね。まだまだ渦中だから、いろんなことがわかっていないというふうに私は思っています。

山崎:
 それは子どもだけじゃなくて大人もですね。

信田:
 そうですね。自殺者や虐待なども。

茂木:
 皮膚はお医者さん行ってなるべく治療したほうがいいと思うんだけど、いろんな調子悪くなったとき、見た目とかいろいろ変わったりするじゃない?
 日本の社会では「ルッキズム」と本当によく言われているんですけど、イケメンとかそういう言葉本当嫌いで、下品な言葉だなとか思うんだよ。

 日本のメディアの中にある、そういうルッキズム的なことって、子どもたちにも絶対降りていってるから。僕、日本のお笑いに対してすごく批判的で、この前も、とある女性のお笑い芸人としゃべっていて、女芸人は見かけとかをネタにするって言うんだよね。

 そういうところが、やっぱり子どもたちにも降りていってる気がするんだよね。

信田:
 そういう子たちにはちょっと過酷ですよね。昔は「見栄えよりも心」というのがあったじゃないですか。今そんなこと言わないでしょ?

茂木:
 いや、言うんじゃない?

信田:
 言うんですか?(笑)

茂木:
 この9歳の女の子、つらいでしょう。

信田:
 大変ですよね。

茂木:
 そういうことで人をいろいろ言っちゃいけないよということを、みんなが言わなくちゃいけないんだけど、地上波テレビとかメディアがそういう価値観を振りまいているから日本の社会は本当にどうしようもないと思うわ。

「言わないけど、SOSに気づいてほしい」子どもの本音

山崎:
 いじめに遭ってる子がそれを言い出せるかという問題があって、今日の投稿を紹介したときに「あのときいじめに遭ってました」をいう話をしましたけど、中学生へのアンケートによると、自分がいじめに遭っているとは親とか先生には言わないそうなんですよ。

 ただ言わないけど、気づいてほしいとアンケートに書いてあって、それは大人からすると「また難しいこと言うね」と思うけれども、やっぱり言えないという気持ちもすごくよくわかります。

信田:
 そうですね。「言わないとわかんないのか」という発言がよくありますけど、親って子どもに関心ない場合が多いですよね。

 子どもの成績や、身長や、走る速さには関心があっても、今何を感じてるのかとか、今日一日楽しかったのかなということには関心のない親ってすごくいますよね。

山崎:
 そうですね。逆に気づける、気づけましたという事例を聞いていくと、よく気にしているなって思うんです。

 その「よく気にしているな」というのは、いじめに気づかなきゃと常に気を張っている、という意味での「気にしてる」ではなくて、普段から何気ないコミュニケーションを取ってるんですよね。それで些細な変化から気づいていくという、普段からの差が出るんだなと思います。

信田:
 私が一番それを感じたのは、「リストカットしたことを親が気づいてくれるかなと思って、朝ご飯を食べるときアピールしてたのに、1カ月間全然気づいてくれなくて絶望した」という体験談を聞いたときで、子どもにご飯を作るけど、子どものことを見てない親もいるんだなと思いましたね。

山崎:
 だから何も言わなくても気づく親もいる一方で、子どもがわかりやすくサインを出しても気づかない親も言わなくているということですね。

信田:
 親子なのにね。

茂木:
 だから本当に子どもが子どもであるだけで、全面的に肯定してあげなくちゃいけないのに成績とかそういう条件つきで愛情とかはおかしいし、そもそも学校の成績なんて別に大したことじゃないし、健康で生きてればいいじゃないですかって思うけどね。それ以上のことある?

信田:
 そう言われたらないですね。

山崎:
 成績といえば、子どもたちの安全と安心というものが、成績と本当は密接に関わっているんです。

 これは学術的なエビデンス(証拠)を参照したわけじゃないですけど、大学生の頃、個人的に家庭教師をしていた子どもで、成績が良くない子ばかり見てたんですよ。

 でも特に勉強を教えなくても、学校の不安とかを取り除いてあげるだけで、成績が基本的に全部上がってるんですね。

信田:
 面白いですね。

山崎:
 それは別にいきなりクラス1位になりましたということではないんですけど、でも平均点に限りなく近づいていくというのはかなりの変化でした。

 同じことをおっしゃる元校長先生もいます。なので、勉強スタートでいいのかなというところは経験上思うところで、いつかそれもデータで示せたらいいと思っています。

茂木:
 そもそも成績を上げることがそんなにいいのかというのも(笑)。僕も別に極論を言ってるつもりなくて、つい20年前30年前はもっと多様な価値観があった気がするし。

信田:
 そうかな。

茂木:
 そうでしょ。だって大学なんか別に行かなくても。

信田:
 私、団塊ですけど、1割しか大学に行けなかったですね。

茂木:
 そういうことも含めて人間の能力なんて多様なんだから、僕から見ると学校の成績ってすごく取るに足らないことのような気がするんだけど。

信田:
 受験ってごく一部の能力だけですよね。

茂木:
 ユーミンみたいな曲をあの年代から書ける能力とかに比べたら、学校の成績がいいって別にごく平凡な能力でしかないじゃない?

信田:
 そりゃそういうふうに思ってもらいたいですよ。

 子どもの問題で相談にいらっしゃる親御さんの中でも特に母親は、子どもが普通でないということに心底、「自分の何が悪かったんだろうか」と自分を責めるので、今の茂木さんのそういう「成績なんてごく一部ですよ」とか「生きてりゃいいんですよ」とか、録音しておいて聞かせてあげようかな。

山崎:
 「学校で習うことなんて取るに足らなくて」という言い方が、学校で本当に勉強をやりがいにしてたりとか、勉強でいい成績を取ることに全身全霊を懸けてる子を追い詰めるような言葉にはしないようにしなきゃいけないなってのは思うんですけど。

茂木:
 もちろん。僕、Rubyを作ったMatzことまつもとゆきひろさんと対談したときに驚くべきこと聞いて「Rubyを作ったから、Rubyって言語を作ったわけですよ」と言うんです。

 さらに彼は高校3年生のときの数学IIIの成績が10段階評価で1だったって言ってたの。

信田:
 本当ですか?

茂木:
 あと、中国の大手IT企業「アリババ」創業者のジャック・マーはプログラムを一行も書いたことないって自分で言ってる。

 だから大らかな気持ちで自分のお子さんを見ていただきたいなと思うんですよ。

山崎:
 それは本当にそう思います。さっきの家庭教師の事例でも、最初の説明で親が「自分の子どもは全然勉強しない子」と言っちゃうんですよ。
 まず成績を上げるというか勉強できるようにしてほしいと言われるんですけど、何てことはなくて「君はすごい!」と言っているだけで、何も教えなくても自分で勉強するようになっちゃいますから。

茂木:
 それ本当にそうで、その子の存在を肯定してあげることなんだよね。これが一番の基本ですよね。

相談窓口紹介

茂木:
 ということで、今日いろいろお話聞けました。

山崎:
 このあともまだ悩みが絶えない場合には、相談窓口もあるのでそちらを最後に紹介しようかな思います。

 「#学校ムリでもここあるよ」。

 「チャイルドライン」。通話無料で午後4時~9時まで相談で電話できます。

 「弁護士による子どものためのLINE相談」。LINEの相談窓口を東京弁護士会、第二東京弁護士会が開いてますので、そちらもよろしければご活用ください。

・#学校ムリでもここあるよ – 公式キャンペーンサイト
https://cocoaru.org/

・チャイルドライン 18さいまでの子どもがかけるでんわ
https://childline.or.jp/

 「弁護士会の子どもの人権に関する相談窓口一覧」。先ほど紹介したのはLINEの相談窓口だったんですけれども、それ以外にも全国に弁護士会というのがあって、そこがそれぞれ子どもの人権に関する相談窓口というのを設置しています。自分の住んでる地域とかの弁護士会に相談をすることもできます。

 「子供のSOS相談窓口」。文部科学省が設置している24時間子どもSOSダイヤルというのがあって、24時間つながる電話番号になってます。

 「子どもの人権110番」。

 「児童相談所の虐待対応ダイヤル(189)」。厚生労働省が設置している電話番号つながります。

・日本弁護士連合会:弁護士会の子どもの人権に関する相談窓口一覧
https://www.nichibenren.or.jp/legal_advice/search/other/child.html

・電話相談|自殺対策|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/soudan_tel.html

「明日、学校へ行きたくない」書籍化決定

 今回、『明日、学校へ行きたくない』は、KADOKAWAから書籍が出版されることになりました。番組の中で紹介しきれなかった話題も含めて、このあとアフタートークというかたちで別のお話も収録して、2020年内の発売を目指して進めていこうと思っています。

 もちろん今、悩んでいる方っていうのにも有益な情報を届けられればなというふうにも思います。詳細はKADOKAWAの児童書ポータルサイトの「ヨメルバ」というところと、あと児童図書編集部の公式Twitterで随時情報は発信をしていきますので、引き続きご注目いただければと思います。

・ヨメルバ | KADOKAWA児童書ポータルサイト
https://yomeruba.com/

・KADOKAWA 児童図書編集部 Twitter
https://twitter.com/kadokawajidosho

茂木:
 ということで、とても有意義な回だったと思うんですけど、最後に一言どうですか。

信田:
 何度も言いますけど、学校に行けないことがもたらす、この世のどこにも居場所がないというか、こぼれ落ちてしまったということを感じないで、学校ではない場所でも生きていける社会になってほしいなと思います。

 これから日本社会がどんどん変わって、いろんな外国の方も入ってくるようになったときに、本当に学校だけが小中学校の年齢の子たちが行く場所ではないと、もっと広がってもいいかなと思いました。

茂木:
 ありがとうございます。山崎さん、いかがでしょうか。

山崎:
 これからの時代は「学校に行かないほうが~」とか「学校に行かないと乗り遅れる」という話ではなくて、選択肢を増やしましょうという話だと思うんですよ。

 「学校に行かない」という選択肢もありますし、もし何としてでも学校に戻りたいと意志があれば、周りの大人は学校に戻してあげるために何をできるかを考えないといけません。

 自分の幸せな人生に向かって、どっちのほうがいいのかはは人それぞれなので、その選択肢を増やしていって、その選択肢をいろいろ提示できて、またどれもがいい選択肢だよねと言えるようにしていくことが、この番組が終わってからも、まだまだやっていかないといけないことかなと思います。

茂木:
 例えば、昔、不登校でゲームをやってるというのは、だめな子の代名詞みたいになっています。
 しかし、コロナの影響で、ビジネスのやり方自体がオンラインのマルチプレーヤー戦略ゲームみたいになっていて、そうするとゲームをやっているのも選択肢の一つだよねとなってきてるじゃない。

 そういう意味で言うといい時代になってきてる感じがするんだけど、そこの狭間で悩んでいる子もいるだろうから、背中を押してあげたいですね。

 だから、学校に行きたい子は行きたい子でいいし、家にいてオンラインの戦略ゲームを一日中やっている子も、それはそれでありかもしれないみたいな。

信田:
 まず親の世代の意識、変えてほしいですよね。

茂木:
 (笑)

山崎:
 ゲームで本当に稼げるようになるっていうのは、いばらの道だぞと併せて伝えないといけないと思いますけど、それはどんな道に進んでも、楽な職業はどのぐらいあるのだろうという話です。

 今の第一線のeスポーツの選手は分野を切り開いた人たちですから、ゲームのうまさとか世界一というレベルになっている人たちなんですよね。

 世界一にならないと稼げないって思ったらそれは決して楽な道じゃないですし、それに耐える力、それに向かって突き詰めていく力というのは、学校でも学べるかもしれないし、学校じゃないところで学ばなきゃいけないことですよね。

茂木:
 でも好きなものって頑張れるからね。

山崎:
 そうですね。

茂木:
 何が好きかということを自分でいろいろ対応しながら見つけていくのがいいのかなと思います。
 だから学校がそういう好きなものを見つける場所として少しでも役に立てたら学校もいいとこなんだろうなと思います。


 本番組のアーカイブ(録画)は、パソコンでは会員登録なし(ログイン不要)で、スマートフォンではアプリ(無料)をダウンロードすれば視聴できます。

・「明日、学校へ行きたくない」思いを朗読する生放送
https://live2.nicovideo.jp/watch/lv327277753

・「明日、学校へ行きたくない」投稿をもとに みんなで考える生放送
https://live2.nicovideo.jp/watch/lv327277927

 

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