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ゲーム『ウマ娘』で制作済みの音楽をほぼ全曲作り直すことになった理由とは? まるで”ウマ娘2″を作るように──「うまぴょい伝説」から始まった楽曲制作5年間の歩み

ニコニコニュース / 2021年3月12日 12時0分

 「制作済みだったBGM30曲以上をほぼすべてリメイクすることになった」

 「『ウマ娘2』を作っているくらいの意識に近かった」

 『ウマ娘 プリティーダービー』(以下『ウマ娘』)開発初期より、約5年に渡って二人三脚で楽曲を手掛けてきた本田晃弘氏内田哲也氏はそう語る。

 本田晃弘氏は『メタルギア』シリーズなど数多くのゲームミュージックを担当。『プリンセスコネクト!Re:Dive』(以下『プリコネR』)でもサウンドプロデューサーを務めている。「うまぴょい伝説」を生み出した張本人でもある。

 内田哲也氏は「お願い!シンデレラ」をはじめ数多くのアイドルソングを手掛ける作曲家。『アイドルマスター シンデレラガールズ』では音楽プロデュースを手掛けている。

本田晃弘氏(左)、内田哲也氏(右)。

 楽曲制作陣の豪華さもすごいが、それ以上に、すでに出来上がっていた30曲以上のBGMを作り直していた事実に驚きを隠せない。

 確かに『ウマ娘』は、プロジェクト発表から約5年、事前登録から約3年というロングランを経てのリリースとなったスマホゲームだ。長期開発ゆえに苦労したこと、大変だったことはもちろんあるだろうが、ほぼ全曲リメイクすることに至ったのはなぜなのか

 また、移動中や食事中などに触れる機会の多いスマホゲームにおいて、音を消してプレイするユーザーも少なくないだろう。それにも関わらず、なぜそこまで音楽に力を注ぎこんでいるのか

 そんなおふたりの楽曲制作にかける想いに迫るべく、ニコニコニュースオリジナル編集部では本田氏、内田氏の対談企画を実現。

 いかに楽曲制作に取り組んできたのか、『ウマ娘』の原点とも言える「うまぴょい伝説」の制作エピソード、音楽という視点から見た『ウマ娘』の魅力など、これまでの開発の歩みを根掘り葉掘り聞かせていただいた。

取材・文/竹中プレジデント
撮影/トロピカルボーイ

『ウマ娘2』を作るくらいの意識でゲーム内BGMはほとんどゼロから作り直した

──リリース直前の忙しい時期にお時間をいただきありがとうございます! 「『ウマ娘』は音楽にもこだわっている」と、お聞きして本日は参りました。

 『ウマ娘』の楽曲は本田晃弘さんと内田哲也さんが開発初期から二人三脚で手掛けられてきたとお聞きしました。まずはそれぞれの開発における立ち位置について教えていただけますか。

本田晃弘(以下、本田)
 よろしくお願いします。ゲーム内におけるBGM担当のミュージック・プロデューサー本田です。

内田哲也(以下、内田):
 歌唱曲などを担当しているミュージック・プロデューサーの内田です。よろしくお願いします。

──本日は『ウマ娘』開発初期からこれまでのお話を根掘り葉掘りお聞きできればと思っております。それにしても、グラフィックの進化が本当にすごくて……。リリース前に発表されたPVでもキャラクターがなめらかに動いていて衝撃を受けました。

本田:
 ありがとうございます。僕自身もまさかここまでキャラクターが3Dで動くゲームになるとは思っていませんでした。ですので、それに付随してすでに制作済みだったBGM30曲くらいをほぼすべてリメイクすることになりましたね。

──えっ!? リメイクとはどういうことですか?

本田:
 僕が『ウマ娘』のゲーム内BGM担当として本格的に参加する前に作られていたものは、ここまで3Dで動くゲームになるとは想定していない音楽の作りかたでした。

 以前の『ウマ娘』ならそれであっていたかもしれませんが、開発が進んでいった『ウマ娘』と合わせたときに音楽があっていなかった。

内田:
 開発期間が長くなってしまったことで、その間に技術の進歩やスマホ自体の性能向上もあり、当時は実現したくても難しかったことができるようになり表現の幅が広がりました。プロジェクト全体としても『ウマ娘2』を作っているくらいの意識で取り組み、改良を重ねてまいりました。

本田:
 そう。ここまでゲームとしてのクオリティーが上がっているのに、音楽だけ追いついていないな、と感じて。「新規でBGMを作り直させてください!」と打ち合わせで発言したのが、ミュージック・プロデューサーとしての初仕事だったと思います。

内田:
 2018年4月から放送されたTVアニメ第1期の影響も少なからずありましたよね。

本田:
 うれしいことに、アニメを楽しんでくださった声も多くいただきました。そんなアニメファンの方々にも喜んでもらいたいと、アニメ劇伴(作中で流れる音楽)を使ったり、アニメでも使ってもらえるような音楽を作ったり、いい意味で意識はしていました。

ストーリー、演出、音楽あわせて最大限に楽しんでいただけるように

──ゲーム内BGMをほとんどリメイクしたとのことですが、具体的にどのように作り直したのでしょうか。

本田:
 イメージとしては、それこそアニメの劇伴に近い役割でしょうか。メインストーリーとウマ娘ごとの個別のストーリーに関してはフルボイス対応なのですが、すべてのセリフに対してモーションもついていて、キャラクターたちがまるでアニメのようになめらかに動きます。

 とにかく絵と演出の力が強いので、音楽は一体感を生むためのバックミュージックとして脇役に徹するようにしています。

──なるほど。キャラクターが動くようになり絵の力が増したことで、BGMとしての役割が変化したと。

本田:
 はい。お話やゲームに集中したいのに音楽へ意識がいってしまうのは、音楽としての役割が果たせていないと思っています。一体感を生むという音楽を意識していることで、世間に出回っているゲームと比べると全然ゲーム音楽っぽくないかもしれませんね。

 ただ、ストーリー、演出、音楽あわせて最大限に楽しんでいただけるように作らせていただいたので、メインストーリーだけでもオートモードで見ていただけるとうれしいです。

内田:
 音楽演出まわりについては、ひとつひとつ、かなりの時間と労力をかけて丁寧に練り上げてましたよね。

──ストーリーをオートで見てほしいという想いとは?

本田:
 じつは『ウマ娘』では、ストーリーをオートモードで見たときに、BGMが物語の展開とリンクして演出として機能するように、音量の変化や曲の切り替わりなどを全部制御しているんです

 メインストーリーでは、アニメの音響制作現場で言うところのダビングのように、細かく音声、音楽、効果音をリアルタイムに音量を変化させています。

 普通は音声や効果音が再生されたら音楽の音量を一律に下げる、という自動処理を入れるのですが、『ウマ娘』では演出によって場面ごとに個別に音量を変化させているんです。

──ええ……それはすごい。自分は文章を読み終えたらボイスがあっても、タップして進めてしまうので、このお話を聞けなかったら一生オートで見ることはなかったかもしれません。

本田:
 おっしゃる通り、ゲームのストーリー進行はオートモードにしない限り、ユーザーさん自身のタップのタイミングで進行度が異なるため、シーンにあわせてBGMの細かい演出が難しいんです。

──確かに確かに。

本田:
 もちろんコンテンツによりますが、ストーリーや音楽は、ゲーム開発のなかで削られやすい部分であります。ストーリーが短くても、同じBGMを流しっぱなしでも、ゲームとして破綻するわけではないですから。

 だからこそ、演出として音楽にもこだわることが、「最高のコンテンツ」のうえで外せない条件になっていると思っています。

──とは言え、ストーリーをスキップする層も少なくないなか、そこに力を注ぎこむというのはいやはや……。ストーリーをオートで見てかつその演出に気づく人って割合としたらものすごい少数だと思います。

本田:
 そうかもしれませんが、私が担当している弊社のタイトルの『プリコネR』においても音楽とお話の演出がリンクしていることに気づいてくださる方はいらっしゃって、そのような方々に喜んでいただけることを何より大事にしたいという想いがあります。

 もちろんタップで読み進めた場合にもBGMとして成り立つようにしつつ、オートで見ていただけたときにはアニメのように楽しめる。そう作らせていただきました。

ワインを2本開けて作った「うまぴょい伝説」誕生秘話

──ここからは、2016年に行われたAnimeJapan 2016でのプロジェクト発表と同時に公開された、ある意味『ウマ娘』の原点である「うまぴょい伝説」についてお話をお聞きしていければと思います。本楽曲の作詞・作曲・編曲を担当された方こそ何を隠そう本田さんと。

本田:
 そうですね。恐らく「うまぴょい伝説」を作ったのがこのプロジェクト最初の仕事でした。

──「うまぴょい伝説」の楽曲、さらにはPVともに非常にコミカルなテイストでしたよね。ただ現在は作品全体の雰囲気がガラリと変わっている印象です。アニメの影響が強いのかもしれませんが。

本田:
 全然違いますね。当時は、ゲームなのかアニメなのか、プロジェクトの今後がどう展開していくのか確定してなかったかと思います。

 楽曲のオーダーも「電波ソング」でPVのインパクトを重視。「何かCygamesがおもしろいことを始めた!!」と思っていただくのが目的でした。

──以前、リアルサウンド掲載のインタビュー【※】では、「うまぴょい伝説」を作る際にどうしても電波具合が出せなくて「ワインを2本開けて(パンツ1枚になって)作った」とも語っていられましたが、これは本当なのでしょうか?

本田:
 本当です。それまでに「うまぴょい伝説」のような電波ソングを作ったことがなくて、作っては違う……作っては違う……というのをくり返していたんです。

 そんなとき、気づいたんです。「変に自分に格好つけてるから作れないんだ」と。そこで、「お酒を飲んだら自分を捨てきれるかも」「これは飲むしかない」とワインを2本ほど開けたんです。そんな状況でボイスメモに向かって歌ったメロディが「うまぴょい伝説」でした。

内田:
 だからこそあの曲が生まれたのですね。本当に天才だ、と思いました(笑)。

本田:
 嘘つけっ!(笑)

内田:
 いやいや本当に(笑)。そんな無茶な曲の作りかた、僕にはまったく考えられないですよ。

──ちなみに酔いが覚めてから、この曲を聴いた瞬間どうでしたか?

本田:
 いやあ……めちゃくちゃ恥ずかしかったです(笑)。酔った男が歌うアカペラ「うまぴょい伝説」を想像してみてください……。

──(笑)。

本田:
 ただ、女性が歌えばかわいいものになるかもという感触はありました。ですので、社内の女性に歌っていただいたんです。すると……。

──……すると?

本田:
 劇的にかわいかったんです! 周囲のメンバーからの反応もよくて。最終的に、Aメロの部分だけは調整を入れたんですが、それ以外はワインを開けて歌ったボイスメモのままいくことになりました。

──歌詞についてはどうだったんですか?

本田:
 あくまでメロディだけで歌詞は「うーーーーてけてって」や「うーーーうまぴーうまぴー」って言っているものでしたね。

 ですので、歌詞については後日、お酒の入っていない状態で考えたものです。ただ、1番の歌詞に関しては仮のまま世に出ることになっちゃって……。

──え?

本田:
 歌詞については、まず仮のものを仮歌といっしょに出して、もし採用されたらしっかりと書き直そうと思っていたんです。でも、いつの間にか「これでいこう」となってしまったという。

「うまぴょい伝説」1番歌詞。

内田:
 出だしのインパクトで掴まれたまま言葉の勢い感でまんまと乗せられてしまいますが、とくに1番の歌詞は冷静に読むとよくわからないのですよね(笑)。

 収録の際、よくキャストさんからは「ワッフォー」「ベイゴー」ってなんなんですか、と聞かれました。これ、ワッフルとベーグルのことですよね?

本田:
 ノリで英語っぽく言っているだけなんです。あと、歌詞を見ていただくとわかるんですが、ひらがなや伸ばし棒が多いじゃないですか。なぜだかわかりますか?

──うーーーん、「ひらがなのほうがかわいいから」くらいしか思いつきません……。

本田:
 じつは、ひらがななのはキャストさんが歌う際に歌詞を読みやすいように、伸ばし棒が多いのは歌ううえで伸ばすところをわかりやすいように、あくまでもレコーディング用の歌詞カードとしてそうしていただけなんです。

内田:
 収録の際に使う歌詞と、ブックレットに掲載するための歌詞は表記を整えたりして、ちょっと違ったりすることが多いのですが、公表されている「うまぴょい伝説」の正式な歌詞表記は収録時に使用している歌詞表記そのままですね。

本田:
 そう。「うーーーー」と伸びている部分は「うー」ですとか、「おひさま」も「お日様」と、本当は清書するはずだったんです。でも「このほうがおもしろいからこのままで」いこうと

──まさかの(笑)。

内田:
 僕はそんな緩いところが、曲に合っていていいなあと思いますよ。

本田:
 曲のタイトルも確か100個くらい案を出したんですよ。

──100個も!?

本田:
 はい。最初にこれでどうですか?と出したタイトルが「うまぴょい伝説」だったんですが、違う案も考えてみようという話になって、思いつく限り案を出してその中から選ばれたのが「うまぴょい伝説」でした。

──「うまぴょい伝説」というタイトルが、まさか100倍の倍率を勝ち抜いていたとは……。

「うまぴょい伝説」は歌も踊りもとっても大変

内田:
 『ウマ娘』の歌収録に関しては、僕がほとんどのディレクションを担当しているのですが、「うまぴょい伝説」は本線メロだけでも曲者なのに、追っかけガヤにセリフ、ハモと収録箇所が多く、他の曲と比べても2倍はあります。キャストさんは皆、大変な思いをされたと思います。

本田:
 それはすごく感じました。加えて、当時の振り付けって今と比べるとかなり難しかったので。

内田:
 そうですね。収録でさえ苦労するのですから、ライブとなると振りも加わるのでより一層難易度が上がります。今は若干ではありますが、振りを見直している部分もあり、当初よりかは軽減されてはいますけども、それでもキャスト陣からは「うまぴょい伝説」は歌も振りも大変だと言われます

 歌詞についても序盤から「おひさまぱっぱか」ですからね。これは歌いづらいですよ(笑)。 

本田:
 「たったか」と言ってしまったり、思わず噛んでしまったり(笑)。

内田:
 はい。そのあとも「めんたまギラギラ」が地味に言いにくい。もはや早口言葉ですよね。

本田:
 そうそう。レコーディングで苦戦されている方が多かった。でも、ライブの際にはしっかり練習して完成させている姿を見て、ライブ中はお父さんのような気分で胸が熱くなってしまいました。よくやったよくやった……うんうん……って(笑)。

内田:
 キャスト全員が収録する、いわゆる“全体曲”はさまざまなキャラクターが歌うことを想定し、音域を1オクターブ+2音くらいに設定して作ることが一般的です。

 そうすることで声の高いキャラ、低いキャラ、ウイスパー系のキャラも大声のキャラも、それぞれの個性を発揮しやすくなり、活き活きと歌ってもらうことができるんです。「うまぴょい伝説」はそんなことなど関係なく作られていたので、初めて聴いたときは驚きました(笑)

 ただ例えば、いつもの音域より高い音を歌おうとした際やちょっと歌いにくい歌詞を歌おうとした際の、そのがんばりや必死感みたいなものが自然にテイクに乗ってくるのですよね。

 それらが積み重ねられて楽曲の勢いや力強さに繋がる。とくに『ウマ娘』にはそれがコンテンツの方向性とも合致しているという。大変勉強させていただきました。

──まさか「うまぴょい伝説」がそこまでキャストさん泣かせな曲だったとは。

内田:
 じつは以前、一部の『ウマ娘』キャストオーディション課題曲が「うまぴょい伝説」だった時期もありました。

本田:
 この曲がオーディションだとは……誰だ、こんな曲を選んだのは(笑)。

内田:
 コンテンツを代表する曲でありますし、とくに元気系のウマ娘には合っていると思って選んでいたのですが、歌唱面をチェックする楽曲としては適していませんでしたね……。ですので最近は課題曲からは外しています。

本田:
 それがいいと思います。

内田:
 でもいろいろなキャストさんから「うまぴょい伝説を歌いたい」と言われますよ。

本田:
 本当に? 初期の非難ごうごうだったときの反応を思い出すと、まったく信じられない(笑)。うそでしょーー??

内田:
 本当です本当です。ライブイベントでのトレーナーとの一体感を経験するとクセになるとか、ならないとか(笑)。

ゲームのメインテーマ「GIRLS’ LEGEND U」は「うまぴょい伝説」の正統進化版

──いろいろお話を聞いてきて、やっぱり「うまぴょい伝説」ってファンからもキャストさんからも愛されている曲なんだなあと。

内田:
 ウイニングライブでの「うまぴょい伝説」に関しては、全ウマ娘の歌が収録されているので、担当や推しのウマ娘に「うまぴょい伝説」をぜひとも歌わせてあげてください。

──まさかの全キャラ分収録ですか。でも、『ウマ娘』の代名詞とも呼べる曲ですからそれはうれしいですね。

本田:
 でも、今あの曲を『ウマ娘』用に書いたら完全にボツだと思います。

内田:
 いやいや、そんなことは。

本田:
 でもメインテーマにはならないでしょ?

──と言いますと?

本田:
 当時はインパクト重視だけで作ればよかったんですが、今は違いますウマ娘たちのさまざまな葛藤やがんばり、試練を乗り越えていくという物語がある。あくまで何も決まっていなかったプロジェクト一発目だから作れた曲で、今この曲を作ったら本当にヤバい人になってしまいます。

内田:
 それで言うと、ゲームのメインテーマ(主題歌)は本田にお任せしたんです。僕が作ろうとしてみたこともあったのですが、音楽プロデューサーである立場の自分と楽曲制作者である自分の間に葛藤があり、なかなか納得のいくものが作れなくて……「本田さん助けてーっ」と。

──なるほど(笑)。「うまぴょい伝説」と同様、本田さんが作詞作曲されたんでしょうか?

本田:
 今回、僕は作曲とプロデュース、ディレクションを担当しました。「GIRLS’ LEGEND U」という曲なんですが、じつはこの曲は「うまぴょい伝説」の正統進化を意識して作ったものなんです。

──正統進化ですか。そう言われてタイトルを見てみると、「U」が「ウマ」、「GIRLS’ 」が「娘」、「LEGEND」が「伝説」で“ウマ娘の伝説”で「うまぴょい伝説」との系譜を感じる部分はあります。タイトル以外ですとどのあたりが正統進化たるゆえんの部分があるのでしょうか。

本田:
 長らく待ってくださったユーザーのみなさんに、普通の曲を届けても納得してもらえないだろうな、そしてすぐに飽きられちゃうだろうな、と。

 そう思ったとき、「ん? 待てよ、普通に作ったら納得してもらえなかった時があったな……うまぴょいのときか!」と思い出しまして。「うまぴょい伝説」のようなインパクト重視でありながらも、電波でない正統な方向での「うまぴょい伝説」を作ればよいのではないか! と。

──ふむふむ。ズバリ、この曲で表現したかったテーマとは?

本田:
 ウマ娘たちのひたむきさですね。ゲームを作るにあたって、競馬の知識も増え、競走馬を育てるたくさんの人たちの姿も見させていただいたりして、競馬というのは本当にいろいろな人の想いが詰まっているんだと実感しました。

 ウマ娘もひとりだけでがんばるわけじゃない。ライバルがいる。トレーナーがいる。応援してくれるファンがいる。そんなさまざまな人たちの想いを表現したい。そういう想いを込めました。

「Cygamesのサウンドチームに変な人がいる」と紹介されての出会い

──ここからは『ウマ娘』サウンドチームの体制についてお聞きしていければと思うのですが、そもそもおふたりが『ウマ娘』の楽曲を担当することになったのっていつくらいからなんでしょう?

本田:
 2016年3月に行われたAnimeJapan 2016で発表した「うまぴょい伝説」を作ったのが作曲家としての最初の仕事だったと思います。その後、ゲームのBGMに関わるまでは随分と間があいてしまいましたが。

内田:
 僕はそのAnimeJapan 2016のときはまだ別の会社に在籍していまして、『ウマ娘』や「うまぴょい伝説」のことは噂では聞いていました。

 Cygamesが新しいコンテンツを発表して、そのテーマ曲がものすごいインパクトの電波曲だと。まさか自分がそのコンテンツにがっつりと関わらせていただくことになるなんて、思ってもみなかったですが(笑)。

──内田さんはどんな経緯でCygamesへ?

内田:
 当時、自分の成長のために新しいことに挑戦してみたいと考えていて、新天地を求めていました。その際に、会社も若くて刺激もありそうだと、Cygamesに転職したのが2016年の12月です。

──ではおふたりが出会ったのは、『ウマ娘』のサウンドチームに内田さんが入ったあたりで?

内田:
 いえ。出会いということでいうと、僕がCygamesに入社する半年くらい前ですかね。

 それぞれ別の収録で同じ場所にあるスタジオを使っていたときにたまたま会ったのが最初です。確かCygamesのサウンドチームに変な人がいるって聞いて紹介されたような(笑)。

本田:
 失礼(笑)。かなり昔なので記憶が曖昧ですが多分そうです。

内田:
 その後、Cygamesに合流してその当日から『ウマ娘』の歌収録ディレクションに入るようになったので、わりとすぐいろいろと話すようにはなりましたね。

──では本当にプロジェクト初期のころからごいっしょに楽曲まわりを担当されてきた感じなんですね。実際に開発のなかで直接やりとりする機会って多いんでしょうか。

本田:
 基本的に、BGMチームと歌のチームはそれぞれ独立して動いているので、直接的なやりとり自体は多くないです。僕の場合は歌を作ったときに歌チームに合流したりもしますが、基本は別働隊です。

──体制としては付き合いが長いと先ほどお聞きしましたが、お互いについてどういう印象を持っているかお聞きしてもいいですか。

本田:
 僕とはスキルもキャリアもまったく別のものを持っている方というのはずっと思っていました。歌に関わることを全部お任せできる。自分が口を出す必要はないなと。

内田:
 それは僕も同じで、BGMに関しては本田に任せればしっかり良いものが上がってくると、仕事仲間として信頼しています。

 ただ、お互いそれぞれの担当業務が多いこともあり、またこのコロナ禍の影響で直接話す機会が少ないからか、「じつはあまり仲良くないのでは?」とチームの若い子らが噂しているようで(笑)

──あらっ。

内田:
 もちろん、そんなことなどまったくないです(笑)。ただ、お互いの領域を任せ合っているので、交わることがそこまで多くないだけという。

本田:
 ベテランの芸人さんコンビが近いのかもしれません。楽屋が別で、プライベートもいっしょに過ごすわけではない、でも番組に出たら自分の役割をしっかり果たして良いコンテンツを作っていく。

内田:
 上手いこと例えますね(笑)。サウンド部のメンバーの多くは、僕らよりひとまわりくらい若いから、気を遣わせてしまっているのかも。

本田:
 息子娘世代くらい離れている人もいるからね。


ウマ娘はアイドルではなく女子プロレス?

──内田さんと言えば、『アイドルマスター』や『アイドルマスター シンデレラガールズ』など、アイドルの歌唱曲を数多く手掛けられてきた印象が強いです。『ウマ娘』に関してもアイドルソングに強いということでの抜擢だったのでしょうか。

内田:
 いえ、アイドルソングというよりも、どちらかというとキャラクターソングやアニメの音楽プロデュース、それに付随する歌収録ディレクション、イベントの音楽監修等を多く手掛けてきた実績からかと自分では思っています。

本田:
 ゲーム会社にずっといると歌を作るタイミングって少ないんですよね。とくに声優さんの歌収録をしっかりできる方ってじつはあまりいないです。

──声優さんの歌収録って、いわゆるキャラソンがメインになってくると思うのですが、やはり違うものなんでしょうか。

内田:
 もちろん基本的、基礎的なところは共通の部分が多いです。それに加えてキャラクターソングの歌収録では、地声との音域の違いだけではなく、このキャラクターならこの曲はこう歌うとか、この歌詞だったらこういう表情を付けるよねなど、セリフを収録するような演技感や表現を伴った歌唱スキルが必要になってきます。

本田:
 言葉に表情をつけて歌ってくれるんです。あらためて声の職人なんだなと尊敬してしまう。

内田:
 ですので、僕らのやるべきことは、どうすれば活き活きとした血の通った歌になるのかを、キャストさん方々といっしょに考え共通認識を深めてディレクションを進めていき、ベストのテイクを収録する、そのお手伝いをすることだと、そう思っています。

本田:
 内田はディレクションの仕方がわかりやすかったり、伝える際の表現が圧倒的にうまいんですよね。

内田:
 確かに伝えかたというのは意識しているポイントではあります。同じ曲でも違うキャラクター、違うキャストさんでディレクションの仕方は当然異なってきますので、良いレコーディングになるよう、そのあたりは柔軟に対応しています。

──歌収録ディレクション、イベントの音楽監修等のキャリアからと。失礼しました。てっきりアイドルソングのノウハウを持つからだと。

本田:
 ウマ娘たちはアイドル的な人気はあるけどアイドルとは違うとは思うんです。プロジェクトスタート当初、チーム内で企画の話を聞いたことがあるんですが、そのときは昭和の女子プロレスに近いと感じました。

──えっ!? 女子プロレスですか?

本田:
 はい。ビューティ・ペアやクラッシュギャルズって知っています? 昔の女子プロレスは試合の合間にリングでライブステージをやることがあったんです。ウイニングライブの立ち位置としてはそれが近いのかなと。

内田:
 確かに“女子プロレスみたい”と説明を受けたことがあり、「なるほど」とは思いました。

「最高のコンテンツ」を目指して音楽にも妥協しない

──以前、リアルサウンド掲載のインタビュー【※】で、「ゲーム内BGMに関してはアウトソーシングしていたが『プリコネR』ではより良いものを作りたい」と、途中から社内のサウンドチームが関わるようになったとおっしゃっていました。

 今回の『ウマ娘』でもお話を聞いている感じ、がっつり社内サウンドチームが関わっている体制だとは思うのですが、実際のところどうなのでしょう。

本田:
 おっしゃる通り、『ウマ娘』も『プリコネR』と同様の体制です。『プリコネR』と異なる点としては、『プリコネR』リリース時の社内音楽担当は僕ひとりだけでしたが、今は多くの社内スタッフが関わっており、業務の細分化ができたことにより効率的に開発に関われるようになりました。

──ふむふむ。サウンドチームが関わることで、具体的にどのような利点が生まれるんですか?

本田:
 大きな強みとしては、企画全体を把握したうえで細かいすり合わせをしつつ制作できることです。

 外部の方にも、あり得ないぐらいのご尽力をいただいていますが、どうしても企画の全容をお伝えすることは難しいですし、打ち合わせやリテイクについても無制限にお願いするわけにはいきません。

 それに対して内部で作る場合、ゲームの始めから最後まで、全体の流れや構成、演出を見られるわけじゃないですか。そこからトライアンドエラーを多く繰り返せるというのは大きいメリットです。

内田:
 距離感が近い状態で制作に取り掛かれますよね。

本田:
 そうですね。自分でゲーム全体を見たり体験しているので、ゲームを作るうえでのコミュニケーションの齟齬が発生しにくくなるのも大きいです。

──そういえば「『ウマ娘』は音楽にもこだわっている」とお聞きしていたんですが、タイトルとして音楽に力を入れるようになった経緯って何かあるんでしょうか。

本田:
 『ウマ娘』に限らず、Cygamesには「最高のコンテンツを作る」というビジョンがあり、“音楽”に関しても妥協しないというのがあります。

内田:
 サウンド部の人数も増えましたよね。僕が入ったころはまだ全然人数も少なくて、ほとんどはサウンドデザインや組み込みのスタッフで、楽曲を作れるのは本田と僕くらいしかいなかったのかな? そこからより良質な音楽を作っていこうと人を集めていって。

本田:
 BGM関係だけで18人まで増えましたね。『ウマ娘』担当に限ってもリリース直前では音楽チームスタッフの8割は関わっていたので、そういう意味では音楽に対する意気込みは強いと言えるかもしれません。

──“『ウマ娘』だから音楽にこだわる”ではなく、“最高のコンテンツを作るために音楽にも妥協しない体制に”ということですね。ふむふむ……ちなみにおふたりにとっての「最高のコンテンツ」ってどのようなものなのかお聞きしてもいいですか?

本田:
 僕の場合、天邪鬼な、ないものねだりが根本なんです。どれだけすばらしいゲームをプレイしたり、コンテンツに触れたりしても、「ここはもう少しこうできたんじゃないか。もっともっとよくすることはできたんじゃないか」って思ってしまう性格なんです自分の作ったものに関してもそうです。

 もちろんパーフェクトというのは無理な話ですし、技術革新が起きるたびに可能性が広がっていくわけです。その中で自分の求めるものを追い続ける。それが自分の中での「最高のコンテンツ」ですね。そういうのってすごい楽しいなと。

──なるほど。追い求める先なんですね。内田さんはどうですか?

内田:
 僕の場合は、当たり前のことではあるのですが、最高のコンテンツはみんなで作り上げていくものだと思っています。

 自分の担当する領域の中できっちりとひとりひとりがベストを尽くす。もっと改善できないか、まだ工夫できるところはないか、と常に考えながら業務にあたる。

 現状に満足せず細かなところまで気を配り、そのひとつひとつ積み重ね、「もっとより良いものを」という想いの集合体が「最高のコンテンツ」になってゆくのではないかと。

本田:
 大事なことですよね。この世には僕のように隙があればサボることを考えている人だっていないわけじゃないですから(笑)。

内田:
 当然近道などなく、本当に日々の努力の積み重ねしかないと思っている。その先に最高があるのかな、と。

本田:
 みんながそれぞれの最高が違うので、ひとりひとり自分がユーザーだったらこれが最高だと思うものをやろうと。「最高のものをやりたい」という意思がしっかりあれば、ダメとは言わないのは全体の雰囲気としてありますよね。

内田:
 良い循環ができていますよね。まわりのがんばりに影響されて自分もがんばろう、足を引っ張ったら恥ずかしいぞ、と。

本田:
 本当にそう。今回の「キャラクターが3Dで生き生きと動くようになって、絵がすごくよくなった。だからBGMも変えよう」もまさにそうで。

 きっと僕が知らない範囲でもそういう動きがたくさんあると思うんです。そういうお互い研鑽と言えばいいのかわからないですが、相乗効果で良いものに向かって作っていくんだと。みんながそれぞれ「最高」を目指している。そう信じて制作に取り掛かっています。

リモート環境になって楽曲制作に影響は?

──去年の今くらいの時期から新型コロナウイルス感染症により、ゲーム開発環境的にも変化が大きい1年だったと思います。実際に音楽制作において影響はどうでしたか?

本田:
 BGM制作チームに関してはとくにないですね。

内田:
 マジですか。

本田:
 BGMの制作は自宅でもできるので。好きな飲み物は冷蔵庫にあって、タバコを吸う人はその場で吸えて、休憩する際にはベッドで横になれるし、なんせ通勤の往復がないのが大きい(笑)。むしろ自宅のほうが音楽の制作環境としては快適かもしれません

内田:
 それは確かに。ただ、楽器収録は影響があったんじゃないですか?

本田:
 影響としては、やはり集まって録音というのができなかったので、それぞれが自宅で録音した音をまとめてガッチャンコするかたちに移行したときはあります。ただそれ自体も協力していただいた皆様のおかげで音楽が破綻することはなかったので、影響としては少なかったですね。

──歌収録に関してはどうだったのでしょう?

内田:
 歌収録に関してはかなり影響を受けましたね。それまで毎日のように組まれていた収録でしたが、2020年3~6月は全てストップさせざるを得なかったです。

 現在では、スタジオに入る人数を最低限に制限して、オンラインでチェックができる環境を整えたり、もちろん毎日の検温や換気と消毒等の基本的な対策もしっかりしたうえで、収録に取り組めているのですが、一時期はリモート環境に移行するための試行錯誤もあって、苦労する部分はありました。

──では現在では影響なく音楽制作が可能と。そういえば、ライブイベントも精力的に展開されてきましたが、このご時世だとなかなか難しい部分もありそうですね。

内田:
 そうですね。キャスト陣や来ていただけるトレーナーの方々、関係するスタッフの健康を第一に考えるとやはり難しい状況ではあります。ただライブイベントを開催したい気持ちはもちろんありますので、配信も視野に入れつつ、進めていければと考えています。

本田:
 ライブか……僕はお客さんとして見たいですね。

内田:
 いつもお客さんと同じスペースで見ていますもんね。

本田:
 そうそう。スタッフパスをつけてるからスタッフだと勘違いされやすくて、席の場所を聞かれたり、トイレの場所を聞かれたりするんですよ。

──すごい(笑)。なぜそこまでしてお客さんのスペースに行かれるんです? スタッフ用の席がありそうなものですが。

本田:
 普通は会場のあらゆるところに移動してステージを見たり聞いたりすることってできないですよね? それをすることによって、いろいろな感じかたや気づきがあったりして、後の制作に活かせることって多いんです。

 関係者席だと目の前で盛り上がっているお客さんを見ることは難しいですし、何よりも熱の近さが違うので。

『ウマ娘』の音楽はジャンル関係なく何でもあり

──『ウマ娘』全体における音楽のテーマってなにかあるのでしょうか。

本田:
 いえ、『ウマ娘』に関してはジャンルを絞っていないんです。

 『ウマ娘』は学園とレースが舞台になるので、魔王とのボス戦もないですし、剣で斬りかかったり魔法も使いません。そのような作品でコンセプトをガッチリ決めてしまうと、音楽の幅を狭めてしまう。

 ですので、ゲームにあえば何でもあり。もちろんユーザーさんが楽しんでもらえるのが大前提で。

──なるほど。

本田:
 ゲーム音楽の制作は、ある程度のコンセプトをかためて、それを軸に作っていくのが基本なんですが、スマホゲームの場合はじっくり何時間もプレイする機会ってあまりないじゃないですか。短時間でこまめにプレイする人もいたり。

 だから、ゲームにさえあっている音楽だったらどんなジャンルでもいいんじゃないかと思っているんです。

内田:
 でも端から聞いていると、何でもありと言いつつ、個人的に「本田テイスト」みたいなのは感じてはいるんですよね。

──本田テイストというのは?

内田:
 ざっくりな表現になるんですが、上質感がありつつも綺麗にまとまり過ぎず、そして音像が大きいんです。楽器数を多くとって、全体の音をしっかり理に適ったものに仕上げてくる

 恐らくディレクションの段階で徹底しているんだと思うんです。全体的にしっかり方向性が統制されているので、曲調が大きく違ったとしても、作品全体として一本しっかりとした筋が通っている。

本田:
 それは、ジャンルを決めていないことで、絵合わせや演出、ゲームの展開に合わせて作っているからかもしれません。だからこそ、場面によってはあえてふざける方向全開な曲を作ることだってあります。

内田:
 でもそれって大事なことですよね。場面に応じてそれに沿ったBGMを作るという基本だけども何気に簡単ではないことを押さえつつ、しっかりと行き届いたBGMが入っていると。そういう印象です。

本田:
 レースまわりのBGMもかなりこだわっていますね。レースごとに距離が違って、前半、後半で2曲にわかれているのですが、ゴールと同時にジャーンと終るように工夫してゲームに実装していたり。

内田:
 レースパートの実装メンバーに話を聞くとおもしろいことがたくさんありますよ。実況をはじめ、いろいろとこだわってるんです

本田:
 そうそう。担当しているフランス出身スタッフのこだわりが際立ってるんです。ぜひ機会があったらお話を聞いてほしい。

ウイニングライブは最高に胸が熱くなる瞬間

──演出として“脇役”の音楽に徹しているBGMに対して、歌楽曲についてはウイニングライブという“歌を楽しむ”コンテンツがありますし、ある意味“主役”の音楽になりますよね。

内田:
 そうですね。ただ確かにウイニングライブでは音楽が主役ではあるとは思いますが、やはり、ライブ演出あってこそです。この歌にはこんな映像があって、こういう表情がつくというのをキャストさんに伝えつつ、映像演出と歌が合致したものを届けられるように意識して作っています。

 基本的に、それぞれのレースに紐付いている楽曲は、そのレースに縁のあるウマ娘たちの歌が実装されています。着順によって立ち位置と歌い分けも変わるので、そのあたりもぜひ楽しんでいただければ。

──『ウマ娘』の場合、リリース前から発表されている曲もありますが、ゲームで初めてお披露目される新曲も期待していんでしょうか。

内田:
 はい。新曲のGⅠレース楽曲は、それぞれのレースを意識して制作しています。例えばクラシック三冠曲の「winning the soul」では『速さ』、『運』、『強さ』を歌詞に入れ込んでもらいつつ、一生に一度だけの挑戦だったり、だからこそ感じるとてつもないプレッシャーを曲に反映してもらいました。

 また既存曲に関しても、メイクデビュー戦のようにフレッシュなレースではアニメ第1期のOP主題歌「Make debut!」を使用するなど、そのテーマにマッチする選曲をしております。

──新曲あり、既存曲あり、歌い分けありとなると、歌の収録数もすさまじい数になっていそうです。

内田:
 本当にキャストさん方々には多くのご協力をしていただきました。また実装の都合上、ひとりひとりのソロミックスTD(音量や音質調整)を行う必要がありますので、担当のミキシングエンジニアは相当苦労があったかと思います。

 「うまぴょい伝説」「Make debut!」のようないわゆる“全体曲”に関しては全ウマ娘分、GⅠ曲に関してはさすがに全ウマ娘とはいかないのが心苦しくはあるのですが、平均5、6キャラほど収録しておりますので、そのあたりもぜひ実際にご確認いただければと思います。

本田:
 企画を聞いた最初の段階では「レースで走ってライブで歌うってどういうこと?」と、頭にクエスチョンマークが浮かんでいたんです。意味がわからなくて。でも、今では逆にレースの後にウイニングライブがないと物足りないと感じてしまう自分がいるんですよね。

──もうウイニングライブがないと満足できない身体に……。

本田:
 ただ、『ウマ娘』の場合、自分が育てたウマ娘がレースで勝つことにより、センターで歌えるようになるわけなんですが、レースの前には育成パートがあります。

 また、難易度の高いレースに出走することで見られるウイニングライブもある。最初から簡単にたどり着けるかというとそうではないんです。

内田:
 チェックも兼ねて僕自身もプレイはしていますが、なかなか手応えありますよね。

本田:
 途中まではスムーズにいけるんですが、だんだんと難しくなってきて……。とくに「うまぴょい伝説」をウイニングライブで見るのって、かなりやりこまないと難しいと思います。

──「うまぴょい伝説」がURAファイナル優勝時のウイニングライブというのも原点にして頂点って感じがして好きです。このウイニングライブってゲーム的にはご褒美のようなものであるという認識であっていますか?

内田:
 そうですね。ご褒美的なものだと考えていただいて間違ってません。

 というのもあって、育成しているうちに不思議と自分の担当しているウマ娘をセンターで歌わせてあげたいと思うようになってくるんです。

本田:
 いっしょにがんばって、レースで勝って、ウイニングライブで歌っている姿を見ると、トレーニングに励んだことや、いっしょに過ごした日々が脳裏に浮かんで胸が熱くなってくるんですよ。

──思い出がギュッと詰まった時間でもあるんですね。

内田:
 そう考えると、ゲーム内の「ライブシアター」ではいつでも好きなときに獲得した楽曲のライブを任意のウマ娘と衣装で視聴することができるので、うれしい機能かもですね。

──あ、それはうれしいと思います。既存曲も多く、ゲームでの新曲、ウマ娘ごとの歌い分けを実装と、音ゲー顔負けの楽曲数になっていると思うんですが、逆にここまでやって「なんで音ゲーじゃないのか?」と不思議に思う部分が……。

本田:
 それは言わないでください(笑)。

内田:
 逆に音ゲーではないからこそ、僕自身が楽曲制作まわりの監修だけでなく、ウイニングライブのサウンド実装に深く関わってこだわることができた、という面もあるかと思います。

 音ゲーですとどうしても定期かつ継続的に新曲を投入していく必要があり、そのために必然と楽曲制作プロデュースに集中することになって、ゲーム実装部分に関してはお任せになってしまうと思うのです。

 その点、『ウマ娘』では映像演出チームやサウンドデザインチームとしっかり連携を取りつつ、着順による歌い分け実装部分の追い込みやバランス調整、ライブ音響まわりにしっかりと時間を割くことができました。

ゲームと音楽、一体となってユーザーの感情を揺さぶれるように

──気づけば2時間30分近くお話させていただいて……お忙しい時期なのに。

本田:
 いえいえ。内田はCD発売も含めていろいろ動いているからこれからが本番って感じですよね。

内田:
 そうですね。CDリリースが控えているので、そのマスタリングやらハイレゾ【※】配信まわりの音源チェック、ブックレットの確認やら、リリースイベントの準備とかですかね。ゲームがリリースされても、ある意味そこがスタート地点ではあるので、ありがたいことではありますが、まだまだ僕は忙しさが続きそうです(笑)。

※ハイレゾ……CDと比べて高解像度な音源。

──もう長々とすいません! でも音楽を軸にしつつ、脱線しつつ、いろいろなお話がお聞きできて楽しかったです。僕自身もそうですが、これから音楽に注目してプレイされるユーザーも増えるのではないかと思います。

本田:
 本日これだけ音楽のことをお話させていただいたうえであれなんですが、BGMのことは意識せず、何も考えずにゲームを楽しんでいただけるとうれしいです

 BGMを作っている立場ではありますが、僕個人としてはゲームを純粋に楽しんでいただきたい。そのうえで、「あれ?全然気にしてなかったけど、もしかしてBGMも良い?」と思っていただけたらありがたいのですが、あえてBGMに注目してほしくない想いがあります。

内田:
 すごい真面目。

本田:
 音楽担当が言うことじゃないですよね。コンテンツディレクターが言うことを言ってしまいました(笑)。

──ゲーム内のBGMを担当されている本田さんだからこその想いなのかなと。

本田:
 そうかもしれません。ただ、歌は歌として独立したコンテンツの楽しみになっているので、歌に関しては違うと思います。

内田:
 でも歌も同じですよ。ウマ娘たちといっしょに喜んだり、感動したり、その一端を担えればうれしいなと。

 歌唱曲を担当している身としては、歌にはストーリーや世界観にさらなる広がりと深みを与えてくれる力があると常々思っていますし、そのような楽曲をお届けできるよう日々尽力しております。

 そして音楽だけ、ゲームだけではなく、それら一体となってユーザーさんの感情を揺さぶれるように。そんな歌を意識して今後も楽曲を制作してまいりますので、『ウマ娘』の楽しみのひとつとして感じていただけたらうれしいです。

──本日はありがとうございました!(了)


 『ウマ娘』楽曲制作において、もともと制作済みだったBGM約30曲をゼロから作り直すことになった理由──それは、開発が進んだことでゲームとしてのクオリティーが上がったから。そのクオリティーに音楽が追い付けていないと感じたからであった。

 技術の進化によりキャラクターが3Dでより生き生きと動くようになった。だからBGMもそれに合うように作り直そう、と。

 言葉にするのは簡単だが実際に行うのは想像以上に大変なことだったはずだ。

 内田氏は語る。

 自分の担当する領域の中できっちりとひとりひとりがベストを尽くす。もっと改善できないか、まだ工夫できるところはないか、と常に考えながら業務にあたる。現状に満足せず細かなところまで気を配り、そのひとつひとつの積み重ね、「もっとより良いものを」という想いの集合体が「最高のコンテンツ」になってゆくのではないかと。

 本田氏は語る。

 きっと僕が知らない範囲でもそういう動きがたくさんあると思うんです。そういうお互い研鑽と言えばいいのかわからないですが、相乗効果で良いものに向かって作っていくんだと。みんながそれぞれ「最高」を目指している。そう信じて制作に取り掛かっています。

 音楽に限らず、シナリオ、グラフィック、ゲームパートetc……それらすべてが丁寧に作りこまれているからこそ、『ウマ娘』はこれほどまで人気を集めているのだろう。

 そんな『ウマ娘』であるが、2月24日にリリースされ、運営型ゲームとしてはまだスタートラインにたったばかりな状況だ。これからゲーム内外含めてさまざま施策が展開され、ユーザーたちに「最高のコンテンツ」を届けてくれるに違いない。『ウマ娘』のこれからが楽しみだ。

 ただ、テンポよく遊べる育成シナリオ、ウマ娘たちの掘り下げがたまらないストーリーパート、ついつい眺めてしまうレースシーン、豪華すぎるウイニングライブ、『ウマ娘』をプレイしていると時間があっという間に溶けてしまうのが困りどころである……。

『ウマ娘』にハマりすぎて配信してから5日で41時間プレイしてしまった。

© Cygames, Inc.

■『ウマ娘 プリティーダービー』WINNING LIVE 01は3月17日発売

詳細はこちら

収録楽曲
01.GIRLS’ LEGEND U
02.NEXT FRONTIER
03.本能スピード
04.はじまりのSignal
05.うまぴょい伝説
06.ドラマ「夢への一歩」
[Bonus Tracks]
07.GIRLS’ LEGEND U (Game Size)
08.NEXT FRONTIER (Game Size)
09.winning the soul (Game Size)
10.本能スピード (Game Size)
11.はじまりのSignal (Game Size)
12.うまぴょい伝説 (Game Size)

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