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将棋名人戦開催の舞台裏──「コロナの影響は?」「開催地はどうやって決めてるの?」朝日新聞社の”中の人”にタイトル戦運営の裏側を聞いてみた

ニコニコニュース / 2021年3月31日 11時30分

 名人戦の挑戦者がA級初参戦の『西の王子』斎藤慎太郎八段に決まりました。
 詰将棋を愛する若きイケメン棋士の挑戦に、将棋界は沸き返っています(ちなみに斎藤慎太郎ファンは自らのことを『鹿』と呼びます。斎藤八段が奈良出身なので)。
 七番勝負が開幕して、斎藤八段の姿がニュースなどで流れれば、また大きな将棋ブームが起こることは間違いないでしょう。

(画像は「斎藤慎太郎|棋士データベース|日本将棋連盟」より)

 ところで皆さんは、昨年の名人戦を憶えていますか?
 コロナ禍で史上初の『延期』となり、本来なら第3局の会場となるはずだった三重県鳥羽市の『戸田家』で、6月10日から開催されました(約2ヶ月遅れの開幕)。
 名人が決まったのは、何と8月15日!
 対局場の都合も付かず、6局のうち半数が東京と大阪の将棋会館で行われるなど、外部から見ているだけでも運営側の苦労は察するに余りありました……。

 その後、緊急事態宣言は解除されて感染者数は減少しましたが、他のタイトル戦でも前夜祭や大盤解説会の自粛が相次ぎ……さらに感染の第2波、第3波で再び緊急事態宣言が……。
「今後、将棋イベントはどうなってしまうんだろう?」
 私たちファンはずっとそんな不安を抱えながら過ごさねばならないのでしょうか?

 そこで今回は、名人戦や朝日杯といった棋戦を運営する『中の人』にインタビューしてみることにしました!

 ご登場いただくのは、朝日新聞社の桑高克直さん@shallvino)。

 新聞社で将棋に関係するとなると、真っ先に浮かぶのは記事を書いたり写真を撮ったりする『記者』の方々ですが……桑高さんは、記事を書くことはありません。
 では、どんなお仕事をしているんでしょうか?

取材・文/白鳥士郎

史上初!? タイトル戦『中の人』インタビュー

──本日はよろしくお願いします! 新聞社の方にインタビューされたことはあるんですが、インタビューさせていただくのは初めてなので、とても緊張しています(笑)。

桑高:
 私もインタビューされるのは初めてですよ(笑)。

──桑高さんに初めてお目にかかったのは、岐阜市で行われた第75期名人戦の第4局でした。佐藤天彦名人に稲葉陽挑戦者というカードで、20代同士の名人戦は21年ぶりと非常に話題になったシリーズです。

桑高:
 そうでしたね。

※朝日新聞デジタル「将棋名人戦第4局、岐阜で16日から」2017年5月15日掲載。

──私は取材の申請をさせていただき、前夜祭から3日間、取材本部に詰めていたんですが……朝日新聞将棋取材班の記者の方々が猛烈な勢いで記事を書いている後ろのほうで、ドッシリと控えているのが桑高さんでした。そのとき、名刺交換させていただいたんですが、肩書きが『記者』じゃなくて。それで気になっていたんです。

取材本部の様子。

桑高:
 私の肩書きは『企画事業本部 企画推進部 囲碁・将棋担当次長』です。以前は囲碁・将棋チームリーダーという肩書きでしたが、まあ部長の下の……副部長みたいな感じでしょうか。

──この『企画事業本部』というのは、どういうことをなさる部署なんでしょうか?

桑高:
 新聞社は、新聞を出すこと以外で新聞発行に最も近い仕事だと、デジタルのニュースサイトを運営しています。でも企画事業本部は、いろんなことをやっていて……大きな仕事だと、展覧会ですとか。

──展覧会! 確かに『主催○○新聞社』とか書いてあるイメージです。

桑高:
 いくつかある主催の一つに朝日新聞が入っていたりする感じですね。あと、変わったところだとショップサイトを運営していたり……。

──あっ! マスク売ってましたよね!?

桑高:
 はい。そうです。あれで有名になりましたよね。

(画像は「朝日新聞SHOP / 洗える立体ガーゼマスク2枚セット」より)

──新聞を売ったりする以外でも収益を得ているのは意外でしたが……よく考えてみれば囲碁将棋のイベントもそうですしね。

桑高:
 他にもスポーツジムをやったり、住宅展示場をやったり……そういった業務の中の一つに、囲碁将棋のイベント運営があるわけです。

──囲碁将棋のイベントのお仕事というのは、具体的にどんなものになるのでしょう?

桑高:
 朝日新聞が主催しているものですと、将棋のプロ棋戦なら名人戦。これは毎日新聞社さんと一緒にやらせていただいてます。あとは朝日杯将棋オープン戦ですね。囲碁のプロは名人戦。それからアマチュアだと──

──あっ、そうか。アマの大会もあるんだ。

桑高:
 朝日アマ名人戦ですね。それこそ、白鳥先生がよくご存知な加藤さんが……。

──2006年と7年に朝日アマ名人を連覇した、加藤幸男くんですね。同級生がお世話になりました(笑)。

桑高:
 いえいえ。ふふふ。

──そういった将棋のイベントで、桑高さんがどんなことをなさっておられるか、もう少し詳しくうかがってもよろしいですか?

桑高:
 ロジ【※】というか……どこで対局するかを決めたり、宿泊場所を決めたり。イベントの運営をしています。

※ロジ……ロジスティック。物流や輸送などの意味。

──会場となる旅館などの人と直接やりとりをなさる?

桑高:
 そうですね。下見に行って、『この部屋はこういう設備があるから、じゃあここでこういうことをしよう』……みたいな。

──大盤解説や立会人として来場するプロ棋士の選定などもなさるんですか?

桑高:
 提案としては挙げたりもします。ただそれは編集の……弊社では『文化くらし報道部』と呼ぶんですが、そこの人間と決めたりですとか。

──あ、そこは相談なさるんですね。

桑高:
 相談したり、あとはもう実行委員会で決めたりですね。

──実行委員会! よく耳にする言葉ですが、具体的にどういうものかは実はよくわかっていません(笑)。

桑高:
 将棋の名人戦なら朝日・毎日の事業担当と、あと将棋連盟さんですね。

──そこに桑高さんも名を連ねておられると。

桑高:
 そうです。

──あのぉ……下世話な興味でホント申し訳ないんですが、賞金額とかってどうやって決めてるのかなぁ……と。

桑高:
 あー……賞金額っていうのは、契約の中の話なんです。新聞社は将棋連盟さんと契約を結ぶときに『これだけの金額で棋戦をやってください』とお願いして、それで対局料とか賞金が決まってくるので──

──なるほど!

桑高:
 ほかの対局料は抑えて優勝賞金だけが飛び抜けて高い……というわけにはいきませんよね。

──将棋連盟の職員さんの給料だって必要ですしね。

桑高:
 そういう事務手数料のようなものも含まれていますし、細かいところだと東西にわかれている棋士の旅費や宿泊費も含まれています。

──ほぇぇ~……私たちファンは賞金しかわからないんですが、契約金全体だとすごい金額になるんでしょうね!?

桑高:
 契約金は基本、公表していませんね。

──推測するしかありませんが、ちょっと考えただけでも莫大な金額になることはわかります(笑)。その契約金の中には、対局場となる旅館さんへの費用も入ってるんですよね? 前夜祭の代金とか。

桑高:
 それは様々な形があるんですが、基本的には含まれないです。

──ええ!? そこは違うんですか? 私が桑高さんに初めてお目にかかったのは、岐阜市で行われた名人戦でしたが……。

桑高:
 『十八楼』さんですね。

(画像は「【公式】長良川温泉十八楼」より)

──あのとき、前夜祭に参加するために会費を払ったんですが、じゃあそういったお金で賄われているわけですか?

桑高:
 そこもいろいろとあります。今は開催地の公募というのをやっているんですが、あのときは岐阜市さんが手を挙げてくださっていて。

──はい。当時は織田信長が『岐阜』と命名して450年目ということで、様々な記念事業が行われていたんですが、その一つに名人戦の誘致がありました。

桑高:
 ですから岐阜市さんを含めた地元の実行委員会が前夜祭をやってくださったんです。会費を徴収しても、ほぼ場所代や食事代で消えちゃうと思うんですけど……。

──なるほどぉ~。でも市としては名人戦を使って岐阜をPRできますし、あの日は岐阜県庁でも関ケ原の人間将棋の発表をやりましたし、費用対効果としては高い気がします。

桑高:
 地元をどうやって盛り上げるのかというお話を、それぞれの開催地と膝を詰めて話し合わせていただいています。

──対局日は取材本部兼検討室みたいなのを作るじゃないですか。あそこの継ぎ盤って、名人戦だと朝日・毎日の名前の入ったシールが貼ってあったと思うんですけど、ああいう道具類の調達もお仕事に含まれるんですか?

桑高:
 あれは朝日・毎日が共催すると決まったときに作って、将棋連盟さんにお預けしているものになります。

継ぎ盤……対局中の将棋を並べて検討、研究する際に使用される盤。

──対局中の取材本部って、記者の方々が凄い勢いで記事を書いていて、その後ろから桑高さんが全体を見渡して……みたいな感じだったと思うんですが。

桑高:
 編集と運営は全く別ですから。別に私が『書けー!』とハッパをかけているわけではなくて(笑)。

──ははは!

桑高:
 我々は我々で、食事の数が足りるかなと心配したり……ほら、突然いらっしゃったりする方もおられるので。

──『勉強しに来ました!』と棋士がやって来たりしますね。記者の方やファンにとっては飛び入り大歓迎ですけど、自分が運営する立場だったらハラハラしちゃう面もありますね(笑)。

桑高:
 ツアーコンダクターみたいな感じなんです。

──あのときって、棋士と一緒に鵜飼い船に乗ろうっていう企画があったじゃないですか。

桑高:
 ありましたね。

──あれはどの程度、関わっておられるんですか?

桑高:
 私たちが『鵜飼いに行きましょう!』と率先してやったわけではありませんが、仕立てのメンバーの一人ではあります。

──対局1日目が終わったタイミングで、室田先生と野月先生がファンや記者の方と一緒に鵜飼い船に乗るという、すごい企画でした。

桑高:
 ちょうど5月で、鵜飼いのシーズンに入ると。だから岐阜市さんがぜひ鵜飼いをPRしたいということで。

──十八楼は宿の内部から鵜飼い船の出る長良川の岸まで直結の通路があるんですよ。岐阜の人間ならぜひ鵜飼い船に乗ってほしいと思うのは仕方ないです。

桑高:
 我々も単に行って将棋をするだけじゃなくて、地元の魅力をPRすることも大切な仕事なんです。何をしたら地元の方々に喜んでいただけるのかを考える必要がありますし、それが楽しいですからね。

謎の絵師『くわっち』登場!?

──先ほど、編集……つまり村瀬信也さんとか佐藤圭司さんといった記者の方々との関わりのお話が出ました。朝日新聞将棋取材班は、新聞社の将棋取材チームとしてはおそらく最大規模で、動画配信などもなさっておられますよね。

桑高:
 はい。そうですね。

──その記者の方々と桑高さんは、具体的にどういった役割分担なんですか?

桑高:
 編集と、現場とのコネクションというか。私を通すこともありますし、最近では将棋連盟さんとは直接やりとりをしてもらうこともありますが。

──つまり桑高さんは、記事は書かないわけですよね?

桑高:
 そうです。

──その桑高さんが……名人戦の記事などにイラストを掲載するようになったのは、どういう経緯なんですか?

絵・桑高克直氏。(画像は「【詳報】渡辺三冠のロマン、変調か「やったー、とは…」より)
絵・桑高克直氏。(画像は「角換わり、トレンドワードに 藤井聡太七段の得意戦法」より)

桑高:
 もともとツイッターで『くわっち』(@shallvino)というアカウントを作っていて、そこに棋戦の写真をアップしたり、裏話的なものを載せたりはしていたんです。

──すみません。私、フォローしていただいたときは気づけなくて……『くわっち? 誰だ?』と(汗)。

桑高:
 ははは。まあ、そんな感じで個人的にやっていたんですが……でも去年は、コロナ禍でイベントがほぼできなくなってしまったんです。

──はい。

桑高:
 そうすると……我々の仕事というのは、本来であればタイトル戦の大盤解説会などのイベントで司会をやったり、大盤解説会にどの棋士にどの順番で出てもらうかを決めたりとか、そういうことを現場ではやっていたんですが……。

──タイトル戦は行う、でも前夜祭や大盤解説会は中止……となってしまうと、仕事がなくなってしまいますね……。

桑高:
 しかも、来たがっていたお客さんが来られない。であれば少しでも現場の雰囲気をお伝えすることができないかと。写真を載せるのもいいんですが……もうちょっと変わったこともできないかなと思って、描き始めたんです。

──それが朝日新聞デジタルにも載ったというのは、やはり記者の方々も『こりゃいいじゃないの!』となって?

桑高:
 いや、あれは確か……アベマの担当者さんとやりとりしてたら、そっちの放送で使っていいかと。

──藤崎さん(※藤崎智・配信技術責任者)ですか?

桑高:
 そうです。で、『どうぞ使ってください』と言ったら、うちの記者も『アベマに載せるんだったらうちでも使わせろよ!』となって……。

──引っ張りだこじゃないですか! でも、記者の方々が使いたくなるのもわかります。写真とイラストでは、受ける印象が大きく変わりますもん。

桑高:
 朝日新聞デジタルで速報を載せてるんですが、そちらの写真はどうしても対局室のものがメインになってしまうんですね。

──対局中の棋士は、対局開始直後や休憩明けといった限られた時間しか撮影できないですもんね。構図も似たり寄ったりになってしまいます。

桑高:
 いつもだったら、大盤解説をする棋士だったりお客さんの姿だったりも写真を撮って載せられるんですよ。でもコロナ禍でそれも無理となると……。

──そうか、そういう写真も全部なくなっちゃうとなると本当に対局室の写真だけになっちゃいますもんね……。

桑高:
 少しでもテイストが異なるものを入れたい……ということで、載せていただいたということですね。

──しかし……前代未聞なんじゃないですか? 記者ではない社員の、しかもイラストを載せるというのは?

桑高:
 聞いたことないです(笑)。

──私、それで『くわっち』というアカウントが桑高さんだって初めてわかったんです。『え? これって……桑高さん!?』と。将棋や囲碁の棋士にもそういった方々は多かったんじゃないですか?

桑高:
 囲碁の名人戦は8月から行われるんですけど、その頃には認知されていました(笑)。

──囲碁将棋って、そもそも固いイメージがあるじゃないですか。観戦記も独特の型のようなものがありますし。

桑高:
 はい。

──プロのイラストレーターさんに棋士のイラストを描いてもらう……という試みはあると思うんですけど、それだとどうしても、写真に似通ってしまうというか……そのイラストレーターさんのファンならいいんでしょうが、将棋ファンからすると違和感があるものに仕上がってしまう場合があると思うんです。

桑高:
 ええ。

──けど桑高さんは、現場をご存知で、棋士それぞれのこともよくご存知だから、内面的なイメージも絵にできるじゃないですか。

桑高:
 そうですね。やはり接する機会も多いですし……そういった雰囲気を、たとえばセリフとして入れたりとか。そういう部分も伝わればなと。

絵・桑高克直氏。

──あと、場面の切り取り方っていうのも大事だと思うんですよ。たとえば終局後の風景でも、両対局者だけじゃなくて、その真ん中にドンと座ってインタビューする村瀬さんの姿も書いていらっしゃる。そういう部分がファンは嬉しいですよね。

桑高:
 将棋ファンの方って目が肥えてらっしゃって。対局者だけではなくて、他の棋士や記者のことも知っていらっしゃる。だから様々な情報を散りばめることで……。

──楽しませていただいてます(笑)。

絵・桑高克直氏。

 さてここで、桑高さんにイラスト化された朝日新聞将棋取材班の記者・村瀬信也さん(@murase_yodan)にご登場いただきましょう!

──桑高さんのイラストを最初に見たときは、どう思われましたか?

村瀬:
 やっぱり写真とは違いますよね。印象として。

──もともと桑高さんがイラストを描いていらっしゃるのはご存知で、それで名人戦でイラストを採用しようということになったんですか?

村瀬:
 描いてくださいと頼んだわけではなかったんです。ただ、控室では同じ机で作業することが多いので、そういうときに『あ、描いてるな……』と思って見てはいました。

 去年は名人戦で大盤解説会がなかったので、運営側は時間がたくさんあったんです。そういう事情もあって描いていたんだと思います。

──桑高さんからうかがった掲載の経緯は、先にアベマさんで採用されて、その後に朝日新聞にもと……。

村瀬:
 そうですね! そういう流れでした。

──名人戦だけではなく、棋聖戦の記事でも桑高さんのイラストが採用されていたじゃないですか。渡辺明先生と藤井聡太先生の。あれはどうしてなんですか?

村瀬:
 私自身が採用するかどうか決める立場ではなかったので、一般論として申し上げますが……やはり、写真だけでは伝わらないこともありますし。

 それに去年の棋聖戦は、私たち記者も、終わってから記者会見にリモートで参加するだけだったんです。ずっと別フロアにいて。

──そういえば村瀬さんが画面に大きく映っていたリモート記者会見、ありましたね!

村瀬:
 対局室に入れなかったんですよ。対局開始もそうですし、終わってからも。だから将棋連盟提供の写真を使うか……。

──桑高さんのイラストを使うか、しかなかったんですね! しかも連盟提供の写真となると、他の社とも被る可能性が高い。

村瀬:
 あと、イラストだと……たとえばマスクを外してお茶を飲む瞬間とか、そういう写真って狙ってもなかなか撮れないんです。けど、イラストだとそのあたりも自由が利きますよね?

──あっ、なるほど……対局室にも入れないし、コロナでマスクしてるから表情も捉えづらい。それでイラストという方法がクローズアップされたわけですか。コロナの影響だったんですね……。

村瀬:
 とはいえ、もともと対局中の写真というのは、あまり撮ることができませんしね。イラストだと好きなところを拡大したり、対局者同士を自由な構図で並べられたりしますから。あくまで一般論としてですが、そういう利点があったんだと思います。

──ところで村瀬さんもイラスト化されていましたが、ご覧になっていかがでしたか?

村瀬:
 ふふふ……何と言うんでしょうね? その、私たち自身もだんだんとコンテンツ化してきているので。

──棋士それぞれにファンがいるのは当然として、最近では対局室の映像が見えるので、記者の方が入室するとコメントが盛り上がったりしていますね。『村瀬さんキター!』みたいな。

村瀬:
 もちろん、いい記事を書いてくことが本来の業務ですし、そこが一番大切だということは変わらないんです。

 ただ、どんな人が書いているのかを知っていただくことで、興味や関心が広がっていくこともあると思います。私たち自身が普段、どういうことを感じているのかを知っていただいたり……そういう意味で、イラストもその助けになってくれているんじゃないかな、と。

──ありがとうございます! 今期の名人戦でも、桑高さんのイラストが登場することはあるんでしょうか?

村瀬:
 ある……と、思います!

開催地選定の決め手は『地元の熱意』です!

──そうそう、目が肥えているといえば、料理のことなんですけど。

桑高:
 はい?

──前夜祭とかで、将棋にちなんだ料理が出たりするじゃないですか。たとえば十八楼の時は、駒の形をしたクッキーがあったり。

桑高:
 ああ、はい。

──宿の料理人の方って、普段は将棋に関わっておられないことがほとんどだと思うんですよ。そういう場合って、相談を受けたりするんですか?

桑高:
 たまに……本当にたまになんですけど、盤面をかたどったケーキを作ったりするときに、『駒の配置はどんな感じがいいですか?』という相談を受けることはあります。

──なるほど。将棋ファンはそういうところ、厳しいですからね。漫画でもそのへんは苦労が……(苦笑)。

桑高:
 ただ、こちらとしてはご当地のものをPRしていただきたいという気持ちがあるんです。だから無理して将棋や囲碁に寄せなくてもかまわないですよ、というアドバイスをさせていただくこともあります。

──中継ブログなどで写真を載せるときも、ご当地のもののほうがいい場合もありますもんね。将棋ファンは将棋に関するものは見飽きてるので。

桑高:
 そうなんですよ。そこでしか食べられないものってあるじゃないですか。そういうものをご用意いただくことで、将棋ファンも喜びますし、現地の方々の『これを食べてほしかった!』という気持ちにも応えられますし。

──あの、これは答えづらいことかもしれないんですが……開催地を公募するとなると、対局者によって『うちがやりたい!』というのも大きく変わってくるものなんですか?

桑高:
 公募するタイミングって、対局者がまだ決まっていない時なんですよ。名人は決まっていても、挑戦者はだいたい決まってない。

──ああ、そうか……。

桑高:
 だから『再来年の名人戦の開催地になりたい!』と打診してくださるところもあります。

──その場合は名人すら誰かわからない(笑)。やはり対局者が誰かというよりも、『名人戦をやりたい』という気持ちから応募するものなんですね。それでは開催地の順番はどうやって決めておられるんでしょうか?

桑高:
 名人戦なら七番勝負なので、4局目までは必ず行きますよね。だからどこも4局目までに入りたいというのはおっしゃいます。

──それはそうですよね。

桑高:
 だから5局目以降を引き受けてくださるところを、我々はいつも探しているという状況です。ただまあ、5局目は比較的行くことが多いので、やってくださるところは多いんですが……6局目や7局目となると……。

──なかなか手を挙げづらいですよねぇ。

桑高:
 もし前の対局で決着してしまったとしても、こちらはキャンセル料などはお支払いできない。やりたいのはやまやまなんですが、こちらも予算がありますから。それでも引き受けてくださるとなると……。

──天童ホテルさんとか常磐ホテルさんとか、よく行く場所になるわけですね。

桑高:
 よくお世話になる場所は、安心感もあります。急にたくさん報道陣が来ても対応できるとか。

──番勝負がもつれればもつれるほど注目度も上がっていくわけですしね! ところで、準備期間はどの程度なんでしょうか?

桑高:
 ここ1年はコロナ禍で下見にもなかなか行けないような状況ではあるんですが……通常なら10月くらいには下見に行っています。

──では、名人戦が始まる半年前にはもう実際に現地へ行って準備を始めておられるわけですね。開催地選定の決め手というのは、どんなところでしょうか?

桑高:
 予算的なこともありますし、協賛社さんもいらっしゃるのでそちらのご意向も汲んで……となりますが、一番大きいのは地元の熱意ですね。

──熱意。

桑高:
 はい。市政○○周年の記念事業としてとか、○○祭りに併せてやりたいとか。その年を外すとやることができない……となると、やはりそこを優先しようかと

──ファンとしても、名人戦以外にも何か盛り上がっているものがあれば、そこへ行く楽しみも増えますしね!

コロナ禍で名人戦延期! その舞台裏

──ではいよいよ、コロナ禍のところにお話を移したいのですが……。

桑高:
 はい。

──昨年の名人戦は、とにかく衝撃的でした。我々ファンにとってもですし、対局者も……たとえば渡辺明名人はブログでその当時のお気持ちを綴っておられますが、かなり動揺しておられたことが伝わってきます。

桑高:
 そうですね。いきなり延期となりましたから。

──延期、というご判断を下されたのは、どういう理由からでしょうか?

桑高:
 一番大きかったのは緊急事態宣言です。4月に入ってすぐに『宣言が出そうだ』ということになって……我々も直ちに会議を行ったんです。

──はい。

桑高:
 『人が集まって会議をしてもいいのか?』ということもあったんですが……あのときは、何が怖いのかがわからないわけです。今でこそ、食事をすることが危険だとか、窓を開けましょうとか、そういった指針があるわけですが……当時はもう『電車に乗ることすらダメなんじゃないの?』と。

──移動することも憚られる雰囲気はありましたね。とにかく家にいろ、と。

桑高:
 空気感染するかもしれないとか、様々な情報が錯綜していて、大変でした。あの時点では、椿山荘で行われる第1局が目前に迫っていて。

──延期の決定は4月6日(月曜日)に下され、第1局は8日(水曜日)開幕予定。まさにその週に行われる、という状況です。

桑高:
 その対局をやるかどうか、という判断です。だからまず、緊急事態宣言が出ている東京でやるのは、やめましょうと。

──名人戦実行委員会がそう決めたわけですね。

桑高:
 実行委員会で話し合う前に、それぞれの社内で検討は行われていて、その結論を述べ合ったということですね。

──『延期』という判断と、『中止』という判断の2つがあるのかな……とファンは思っていたのですが。そのあたりはいかがでしたでしょう?

桑高:
 当時は、(長距離の移動を伴う)将棋会館で行う対局すらストップするような状況でした。ですから中止も考える余地はあるのかなと……。

──東西をまたいで行う対局はストップしていましたから、順位戦ができない。三段リーグもできない。そんな状況でしたね。

桑高:
 ただ、1年間全ての対局を止めてしまうというのは、現実的ではないと思いました。なので『どこまで延期できるのか?』という判断が求められました。次の期の順位戦が始まるのが6月下旬なので、そこまでに名人を決めたいと。

 それでも無理なら、名人戦の敗者の順位戦を別のスケジュールにして、他の対局は通常通り進めようと。

──なるほど。対局スケジュールも大変な状況ですが……開催地が全てキャンセルになりかねないような状況でしたよね?

桑高:
 そこは現地の判断もあるわけです。東京は感染者が多くて無理でも、地方は『うちはできるから』という場合もある。その逆もありうるので。

──ああ、確かにそうですね……。

桑高:
 4月の段階では状況がよくわからなかったんですが……5月くらいになってくると、開催予定の旅館がそもそも営業していないという状況になっていたりということも起こっていて。

──えっ!

桑高:
 あるホテルに5月くらいに最後の下見に行ったんですが、従業員さんがいらっしゃらないんですよ。休みを出しているわけです。

──ああ、そうか。休業補償が……。

桑高:
 だから名人戦をやる週から開けますと言っていただいて。

──対局のためだけに!?

桑高:
 その週から緊急事態宣言が明けて、他県の人も迎え入れる準備がようやく整ったという感じでした。

──綱渡りだったんですね……。しかし前夜祭や大盤解説会を開けない状態で名人戦をやっても、会場となる旅館やホテルにとっては、経営的にかえって苦しくなってしまうような面もあったのでは?

桑高:
 そういうところもあると思います。前夜祭とかって食べ物も出ますから、ホテル・旅館さんにとっては収入に繋がるわけです。それが一気に……関係者の食事だけになってしまうと、思っていた金額が出なくなってしまう。大盤解説に付随する宿泊客も見込めないわけですし。

──ファンにとっても、対局者と同じ旅館に泊まることができるのは、それだけで楽しいことですからね。初めて名人戦を開催するようなところだと、旅行に行く楽しみもあります。それができないのは非常に残念ですね……。

桑高:
 我々も普段、大盤解説の会場にいるんです。そうすると、いつも顔を合わせる方がいらっしゃる。毎年名人戦を楽しみにしていらっしゃる方々のお顔が頭に浮かんで……悲しい気持ちになりましたね……

──一方、今年の1月16・17日に行われた朝日杯の名古屋対局は観客を入れて行われました。2月に有楽町の朝日ホールで行われた準決勝と決勝は無観客でしたが……名古屋とはいえ観客を入れるという判断は、怖くはなかったですか?

桑高:
 ありましたね。チケットを販売するのを決めたのが11月だったんですが、12月の時点でも、名古屋は感染者数が少なくて。でも年が明けてから一気に……。

──感染者が爆発的に増加しましたね。

桑高:
 愛知県が緊急事態宣言を出せば、中止にして払い戻しということも(選択肢としては)ありえたと思います。ただ、今回の名古屋対局のチケットは、そもそも感染状況が悪化しても開催できるよう、会場のキャパシティーの半数しか販売していなかったんです。

──そうでしたね。しかも名古屋国際会議場って、あそこメチャメチャ広いところですよね。

桑高:
 そうです。メチャメチャ広くて。

──以前にやっていた東桜会館とは規模が全く違います。

桑高:
 東桜会館も大盤解説会場はものすごく広くてよかったんですけどね。そこを満員にして、大々的にやろうという目論見が……コロナ禍の前から準備していたんですけどねぇ……。

──そうだったんですね……。あの、実は私、以前は東桜会館の近くに住んでいまして。

桑高:
 ああ、そうだったんですね。

──初めて朝日杯の名古屋対局が発表されたときの衝撃といったら! 近所ってのもあったんですけど……S席の値段ですよ!『え!? 将棋の観戦チケットが6900円!?』ってビックリして! しかもそのチケットが瞬殺で!!

桑高:
 そうでしたね。特に藤井さんが出場する日は、毎年すごい争奪戦になっていたんです。だから『もう客席を増やすしかない!』と。

──それでも完売だったんですか?

桑高:
 やっぱり完売でした。でもキャパの半分しか席を用意しなかったわけですからね。

──藤井先生が出てこられてから、イベント集客という面では大きく状況が変わりましたか?

桑高:
 実際問題として、藤井さんが来られる前は……有料とはいっても、そんなに高額ではなかったんです。そこは需要と供給のバランスで……。

──そもそも将棋のイベントにそんなにお金を払うという文化が定着していなかったじゃないですか。以前は。そこでいきなり高額なチケットを用意するというのは……値決めという点では悩まれたのでは?

桑高:
 そうではあるんですが、徐々に業界全体が……たとえば囲碁将棋チャンネルさんが名古屋でやられた将棋プレミアムの。

──ヒルトンでやった『将棋プレミアムフェスin名古屋』ですね。S席は何と3万5000円!!(その翌年はSS席10万円も用意して完売!)

桑高:
 あれがやっぱり、相当な……挑戦的なお値段で。そういう例もありますし、我々は我々で、これくらいの値段で……と。それでもその日のうちに完売という状況ですから、今後も考えていかないとと思っています。

──贅沢な悩みですね(笑)。

桑高:
 値段の付け方は会場費や運営費、感染症対策費などとの兼ね合いもあるので、そこをどうするかは、毎年悩ましいです。

──この1年、コロナ禍によって多くのご経験をなさったと思います。そんな桑高さんが考えられる感染症対策で最も重要なこととは、何でしょう?

桑高:
 感染症対策というのは、たとえば受付にアクリル板を用意するといったような、その場の対策というのももちろん重要です。

──はい。

桑高:
 しかし一番重要なのは『誰がイベントに来ていたのか』『どこに座っていたのか』を把握して、追跡可能にしておくということです。

──なるほど……。

桑高:
 朝日杯は早指しとはいえ、相手は感染症ですから。換気に気をつけて、密にならないよう席を離しても、感染してしまう可能性は否定できません。だからトレーサビリティーというのは重要ですね。

──となると、当日券を販売するという方法ではなく、事前に予約してもらって、名前も住所も電話番号も把握して……ということが重要になるんですね。

桑高:
 はい。さらに可能であるなら、どの席に座っていたかも把握した方が望ましいと思っています。

──それは……たとえば今後の名人戦の大盤解説会などでも適用されるわけですか?

桑高:
 意識はしていきたいですが……現実問題として、大盤解説会が指定席となってしまうと、その事務処理だけでも大変です。しかも実際に指定席でやってみた経験から言うと、やはり当日来られない人も出てくる。そうすると歯抜け状態になってしまって……。

──前が空いてるならそこに座りたい、と言い出すお客さんもいるでしょうしね。会場の写真を見て、キャンセルが出たなら行きたかった……と言う人もいるかもしれません。難しいですね。

桑高:
 日々、反省することだらけですね。

──全席指定の前夜祭、なんてのもありえるんでしょうか?

桑高:
 考えてはいます。けど、たとえば全席指定で丸テーブルを囲んで……見ず知らずの将棋ファン同士が相席になったとして、盛り上がるんだろうか? 会話は成り立つんだろうか? しかも対局者が出てきたらみんな写真を撮りたいけど、移動は……。

──できないとなると、不公平感が出ますよねぇ。

桑高:
 移動できるとなると密になりますし……。

──私、今までいろんな前夜祭に行ってきたんですが……地元の方々の結束力が強ければ強いほど、他の地方から来た将棋ファンがぽつんとなってしまう現象を目の当たりにしてきまして……指定席は本当に、結婚式みたいに人間関係も把握して配置しないと、相当難しいんじゃないかと……。

桑高:
 そうですよね。しかしそれをたとえば名人戦で7局分やれるかというと、そこだけに注力するわけにはいかなくて。他にも考えなきゃいけないことは山ほどありますから……。

──それこそ朝日新聞さんが、椿山荘を運営する藤田観光さんの苦境をスクープしておられましたが……本当に、いつどんなトラブルが発生するかわからないような状況ですもんね……。

桑高:
 そうですね。特に、去年と今年は……宿泊業界では東京五輪の開催を見越して、キャパを増やそうと投資しておられたところもあるんです。

──そこも経営を圧迫する要因になっていたりするんですね……。

桑高:
 我々も何とかお手伝いできればいいんですが……弊社も苦しい状況です。だから身の丈に合ったイベント運営をしていかなければいけないな、と思っています。

──様々な意味で、持続可能な棋戦運営を探っていく必要があるんですね。


なぜ技術系社員が囲碁将棋に関わろうと思ったのか?

──それではここで、どうして桑高さんが囲碁将棋に関わることになったのかをおうかがいしたいと思います。最初から企画部にいらっしゃったわけではないんですよね?

桑高:
 そうですね。入社したのは、技術職としてなんです。

──技術職?

桑高:
 技術者の枠には、いろいろあるんです。たとえば印刷機を扱ったり、編集システムを作ったり。それ以外にもいろんなシステムがあるんですが、私の場合はその中でも社内の経理システムとか人事とか。いわゆる『管理』に関するものですね。

──へぇぇ~!

桑高:
 今でこそ様々なパッケージが……たとえばサイボウズさんとかありますが、そういうのを自社で作っていた時代でした。IBMのサーバー室に入って作業する……みたいなことをやったりしていたんですよ。

──我々がイメージする新聞社のお仕事とは、かなりかけ離れています! そういえば、桑高さんのツイッターでは囲碁AIの話題なんかも出てきますよね? それはやっぱり技術畑出身だから?

桑高:
 と、いうのもありますし……私はもともと大学のときに情報工学をやっていたものですから。ニューラルネットワークを扱っていて。

──え!? まさにそれ、前回のインタビューで囲碁棋士の大橋拓文六段からお話をうかがったとこですよ!

桑高:
 当時は並列計算といっても、CPUがそんなにたくさんあるわけではないので。どうやって並列化するかというところからでした。そこでGPUを使うと、画像処理にはいいので、それを使えないのかな? みたいな話が出てきていた頃でしたね。

──へぇ~! へぇ~! へぇ~!!

桑高:
 私個人としては、CPUを500個くらい積んだ特殊な『ニューラルネットワークの学習専用コンピューター』みたいなのがあって、それを任されて、シミュレーションを走らせて……みたいなことをやっていましたね。

──そうだったんですね! ではそういった技術を活かせる職場を選ばれた中で、朝日新聞社さんに?

桑高:
 昔から、活字も好きだったんです。だから活字媒体と関わることができて、さらに技術も活かせて……というところです。

──そこで経理のシステムなどを作っておられたのに、どうしてまた囲碁将棋の企画をする部署に移られたのですか?

桑高:
 たまたま……なんですけど、社内で公募があったんです。将棋の名人戦を毎日さんと共催することになったから、そういうのに興味がある人いませんか? という

──将棋界における平成最大の事件『朝日・毎日名人戦問題』が、桑高さんの人生にも影響を与えていたとは……!

桑高:
 その頃、私も技術者として10年くらいやっていて……。

──ひと区切りついた感じですか?

桑高:
 囲碁にハマッていたんです。『ヒカルの碁』で囲碁を覚えて

──ヒカルの碁で!?

(画像は「ヒカルの碁 1」より)

桑高:
 いろんな人と対局するのが楽しくて。『こういう世界も面白いな』と。しかも技術者って、棋士と似たところがあるとも思ったんです。一つのことにのめり込むところとか、探求していく姿とか。

 そういう人々と関わり合いが持てるのであれば……それはとても貴重な経験になるのかなと。そういう部分で、社内公募に応じたということです。

──ヒカルの碁で人生が変わったわけですね! それで……いかがでした? 飛び込んでみた囲碁将棋の世界は?

桑高:
 ぜんぜん別の会社に転職したって感じでしたね。

──以前の部署では、記者の方々ともそんなに関わっておられなかった?

桑高:
 実は……村上記者ってご存知ですか?

──はい。村上耕司さんですよね。朝日新聞さんの将棋の署名記事でよくお名前を拝見します。

桑高:
 村上は私の先輩なんですが、同じ技術職だったんです。もともと将棋部なので、技術職から取材記者になっていて。だから『村上さんもいるし、大丈夫だろ』と(笑)。

──とはいえ、棋士の先生方はどなたも個性的というか、キャラが立ったというか……。

桑高:
 当時はまったく知らなかったんですが、どなたも本当に魅力的な方が多いですよね。

──将棋界全体としても、独特の仕来りというか、なかなかそういうものに慣れるのは大変だったのでは……?

桑高:
 とはいえそれは技術者も同じようなものですからね。

──なるほど! 確かにおっしゃるとおり(笑)。

桑高:
 大学の頃から接していた技術者の世界に、とてもよく似ていたんです。だから違和感はあんまりなかったですよね(笑)。

 そもそも囲碁将棋の世界に興味を持っていたので。知識は後からいくらでも付けることができますから。

──ではそうやって桑高さんが囲碁将棋に関わるようになられてから、ファンの変化というのはお感じでしょうか?

桑高:
 それはもう! 私は2007年からこの業界に入りましたが、その頃はやっぱり、大盤解説をしていても、いらっしゃる方々は高齢者の方が多かったです。ご夫婦でいらっしゃっても、奥様は『外で待ってますよ』『あなた勝手にやっててね。私は食事でもしてくるわ』みたいな感じで。

──なるほど。

桑高:
 それが、いつの頃からか……女性のファンが増えてきて。今やそれこそ、名古屋の朝日杯なんかは半分くらい女性なんじゃないかと。そういう意味ではすごく変わってきていますね。

──ファンの年齢はいかがですか?

桑高:
 いろんな世代がいますね。若い世代や中年、高齢の方々もいらっしゃいます。幅広くなったという感じですね。

──昔は高齢者の、しかも男性だけだった。しかし今は老若男女が訪れるイベントに変わったわけですね。ではその変化したファン層に合わせて、イベント内容も変えたりなさっているのでしょうか?

桑高:
 ファン層が変わったからといって、大盤解説会でやれることといえば『次の一手クイズ』とか、そういうことになりますし……そもそもお客様が求めてくることは変化していないと思います。ただ、次の一手クイズでも、問題を少し易しくするとか。

──昔は高段者が多かったから、難しい問題にしないと文句が出たんですよね(笑)。

桑高:
 そうそう(笑)。簡単すぎると『そんなのわかってるよ!』と言われちゃいましたが、今は初心者の方々でも楽しめるように考えています。それこそルールもわからないような方もいらっしゃっているので、じゃんけん大会にするとかもアリなのかなと。

──囲碁と将棋で、ファン層の違いはあるんでしょうか?

桑高:
 確実にあると思いますね。

──確実に……!

桑高:
 将棋のファンって、プレーヤーじゃなくてもいいんです。『観る将』の皆さんがそうだと思うんですけど。

──確かに。私もそうですもん。

桑高:
 囲碁のファンって、プレーヤーが多いんですよ。明らかに。なので、なかなか増えない。

──プレーヤーじゃないと、盤面を見てもわかりづらい……ということなんでしょうか?

桑高:
 だと思います。パッと見たときに、将棋だと『王様を詰ます』ゲームなので、王様が攻撃を喰らってるかどうかでだいたいわかるじゃないですか。詰みがあるかどうかはわからなくとも、なんとなく形勢はわかる。

──はい。

桑高:
 それに対して、囲碁は陣取りゲームなので、パッと見てもよくわからない。しかもコウがあったり……盤面が行ったり来たりするし。『あれ? こっちで戦ってたんじゃないの!?』ってなったり、後から『ここが勝負の分かれ目だった』とか言われてもよくわかんないし!(だんだんテンションが上がってくる)

──はぁ~……(この人、ほんと囲碁好きなんだな……)。

桑高:
 あと、もう一つゲーム性の違いがあるんです。将棋は終盤に行くに従って、手の価値が大きくなるんです。

──終盤に行けば行くほど、一手でも間違えれば詰みが生まれる。なので将棋は時間の経過と共に緊迫感が増していきます。

桑高:
 そうそう。でも囲碁は、最初に打つ手の価値が一番大きい。最初にだいたい(価値の大きい手は)終わっちゃってるんです。そして最後に行けば行くほど収束していく。

──はい。

桑高:
 その収束が、接戦なら面白いんですよ。でもその面白さを理解するためには、知識が必要なんです。

──だから囲碁のファンはプレーヤーが多いと。

桑高:
 そこの違いかなとは、昔からよく言われてることですね。

──イベント事として見た場合、盛り上がるのは最後までハラハラできるほうですよねぇ。

桑高:
 ですね。だから囲碁でも最後まで接戦なら盛り上がりますし、あとは大石を殺し合う場合。それは将棋とも似たような感じになりますね。でも……目数計算だけしてるような場合は……。

──大盤解説でも、会話が止まっちゃうような感じに……。

桑高:
 そこでじゃあ、どうやって盛り上げたらいいのか? というのは……難しいところはありますね。

──十五年くらいやってても、そこをどうにかするのは難しかったと。

桑高:
 それに大盤解説会というのは、棋士の方々にやっていただいている世界ですから。我々から口を出すのは……。

──はばかられますか。

桑高:
 『こんな感じでお願いできますか?』と方向性を示すことはできるんですが……『そうは言ってもねぇ』となることもあります……。

──私は囲碁のイベントにお邪魔したことはないんですが、大盤解説はたまにネットで拝見しています。けっこう将棋とは雰囲気が違うんだな、と感じました。

桑高:
 でもトークは両方とも面白いですよね!

──そこは異論がありません(笑)。

ネット時代を先取りしていた朝日杯

──これまで企画してこられた中で、これはいい企画だったというものはありますか?

桑高:
 成功例というと、やはり朝日杯ですね。私が入ったのはちょうど『朝日オープン将棋選手権』の最後の年で。

──当時は準タイトル戦という扱いで、決勝は五番勝負でした。藤井二冠の師匠である杉本昌隆八段が決勝まで進んだこともありましたね。

桑高:
 当時の棋戦は、長時間しっかり戦うものがメインでした。しかし朝日杯をリニューアルした頃って、ちょうど棋譜中継の黎明期でもあったんです。

──『日本将棋連盟モバイル』が2010年からですが、それより前に朝日杯は2次予選から全局ネット中継という革新的な試みをしていらっしゃいました。

桑高:
 これからは確実にネット中継が盛り上がるだろうと。だから『ネットで見ていて楽しい棋戦』というのが、朝日杯のコンセプトになりました。

──当時すでにネットでの盛り上がりを想定していたんですか!? そういえば昔の朝日杯の観戦記って、無料で全文読めましたよね。

桑高:
 そうです。紙面に掲載する観戦記は、順位戦と名人戦のものがありました。となると朝日杯はネットで掲載しようと。ネットで中継が楽しめるものとなると、やはり持ち時間は短い方がいい。

 ただ当時、早指しというとNHK杯のように秒読みが30秒のものが多かった。30秒だと間違える確率が大きくなりすぎるので、そこは1分にしようと。そうして生まれたのが、今のバランスです。

──そこまで考え抜かれていたんですね……。

桑高:
 しかも、公開にしたいというのもありました。そうすると……人間の集中力は映画1本分くらいしか続かないだろうと考えると、1局だいたい2時間前後。それでちょうど終わるような感じで設計しました。

──指すほうではなく、観るほうのことを徹底的に意識して作られた棋戦が朝日杯だったんですね! 今のお話をうかがうと、藤井二冠が朝日杯で注目された理由が、よくわかります。必然だったんですね……。朝日杯というと、アマチュアと若手プロが一斉に対局するところも見所です。

桑高:
 あれもコロナ禍で公開できなくなってしまって悲しいんですが……ああいうプロとアマの対局が身近に観られるというのは、見た人にとっても印象に残ります。そして何より対局者にとっても『あれは緊張しました!』『あれは憶えてます!』と後になってからもプロから言われますし。

──それこそ、今期の名人挑戦を決められた斎藤慎太郎先生も、朝日杯でアマチュアに敗れたことがトラウマになり……翌年はそれを克服するために、ヨーグルトしか食べずに体調を整えてリベンジを果たすと。そこまで追い込まれる棋戦というのは、なかなかありませんよね?

桑高:
 そうなんですよ! プロ入り直後にある対局で、しかも公開で、相手もアマチュアで……負けられないというプレッシャーのなかでプロは戦う。逆にアマチュアは、勝てば『やったー!』って感じですし、会場はみんな味方だし(笑)。

──最強アマ軍団VS若手プロ集団の団体戦みたいな雰囲気になりますよね! それこそ朝日新聞将棋取材班の記者の方々は学生将棋で活躍した方もいらっしゃいますし、『今年はアマが○勝!』みたいな感じで記事も盛り上がってます(笑)。

桑高:
 その年のアマチュアとプロの力の差を確認するバロメーターのような役割を果たしているので、それを楽しみにしている方々もいらっしゃいますね。

こんな時代だからこそ

──ここからは、新聞社の変化ということについてうかがいたいのですが。

桑高:
 はい。

──将棋の対局という、価値を決めづらいものに『契約金』という形で金額を示してこられたのが新聞社さんだと思います。さらに現在では、新聞紙面に掲載されない部分……ネット記事だったり、動画配信といった新しい試みにも踏み込んでおられます。

桑高:
 ええ。

──どうしてそこまで囲碁将棋のために尽くすんでしょう? 言い方は悪いんですが……そこまでの利益を新聞社にもたらしているとは思えないんです。むしろ、負担になっているんじゃないかと……イベントの規模も、コロナ禍ではかつての半分以下になってしまっていますし。

桑高:
 新聞社が今後もずっと囲碁将棋を支えていけるかはわからない部分があります。ただ少なくとも、我々が目指しているのは……今、藤井二冠の活躍などによってここまで大きく注目していただけるせっかくの機会なわけですから、これを少しでも広げていくことができるような活動をしていきたいと考えています。

 その一環として、朝日新聞デジタルに囲碁将棋のためのページを作っていますし。あとはYouTubeで『囲碁将棋TV』というチャンネルを作って、裏側も見せられるような動画を配信して……それこそ記者が手弁当でやっているようなものなので、映像のプロから見たら足りない部分はあるとは思うんですけど……。

 できる範囲の中で、我々の手が届く範囲で、いったい何ができるのか。それを日々、探しながらやっているという感じですかね。

──桑高さんは今回、在宅勤務中にリモートで取材を受けてくださいました。コロナ禍で在宅勤務なども増えていくかと思うのですが、そういった新聞社の社員の働き方そのものが変わっていく世の中で、囲碁将棋との関わり方というのも変わっていく部分が発生するのでしょうか?

桑高:
 うーん……我々新聞社の者は昔から『出かけるときはカメラを必ず持て』と言われてきたんですよ。

──カメラを?

桑高:
 デジタルカメラになる前から言われてきたんです。写真というのは、その場にいないと撮れない。そして、事件の現場に出くわすのは、いつ誰がそうなるかはわからない。もしそれを撮影したら、近くの支局に飛び込んで、それを渡せと。それが大きなニュースに繋がるかもしれないからと。

──ははぁ……。

桑高:
 記者じゃなくてもそう言われてきたんです。今やそれが世の中みなさんスマホに搭載されたカメラを持っていらっしゃる。だからそういう意味では……ようやく世界が追いついてきたのかな、と(笑)。

──はははは! でも確かにそう考えると、新聞社の方々が最も輝ける時代が来たと捉えることもできますね。

桑高:
 あんまり言うと不遜な感じがしますけど(苦笑)。

──桑高さんはSNSでイベントの裏側の写真や、棋士のイラストをアップしておられます。しかし囲碁将棋以外にもたとえば大河ドラマの『麒麟がくる』や『青天を衝け』のイラストをアップしたりリツイートしたりと、別の世界とも繋がろうとしておられますよね。

桑高:
 ああ、はい。そうですね。

──そういった囲碁将棋以外の世界と繋がり、そこで何が求められているかを感じ取られて、これまでとは意識が変わってきた部分はあったりしますか?

桑高:
 う~ん……フォロワーが増えてくると、ヘタなことは言えないなという緊張感はありますけど(笑)。

──はははは!

桑高:
 もともとそんなに変なことを言ってないと思うので、大丈夫ですけどね。

──何を申し上げたいかと言うと……これまで新聞社さんが開いておられた将棋のイベントだと、運営側の顔がファンからは見えないというところがあったと思うんです。

桑高:
 ああ、そうですね。

──けど、SNSを始められたことで、囲碁将棋の関係者だけではなく、ファンと直接繋がることができるようになった。そういう変化があったのではないかなと思ったんですが……。

桑高:
 もともと私は、基本的に現場主義というか……大盤解説にいらっしゃったファンの方とはできるだけ喋るようにしているんです。たとえば下見に行っているときに、よく大盤解説に来られる方が通りかかって『おっ! 何してんの?』と声をかけていただいて……そのまま現場まで乗せていってもらったり(笑)。

──ははは!

桑高:
 そういう方々との関わり合いというのは、常に大切にしてきたので。それがSNS上になっても、基本的には変わらないです。ただ、SNSにはとてもいろいろな方がいらっしゃるので、みなさん全員の声に応えることができるかはわかりませんが……。

 そもそも私自身が観る将や観る碁の一人なので。そういった自分を発信していくことで『みなさんと同じ目線で運営していますよ』ということが伝わったらと思っていますね。皆さんと一緒にやっていけたら、と

──ありがとうございます! あの……こういうインタビューって、けっこう珍しいと思うんですよ。

桑高:
 そうですね。聞いたことがないので……私も、こんな中の人が出ていいんだろうかと広報にお伺いも立てたんですが……『いいよ!』って言われて。

──こんな時代だからこそ、距離を縮める方法があるんじゃないかなと思ったんです。それで企画させていただいたので。だからぜひ、桑高さんから将棋ファンにメッセージがあれば、おうかがいしたいなと。

桑高:
 そうですね……私たちからファンの方々に求めることって、実はそんなになくて。様々なチャンネルがあるので、ぜひいろいろなところで楽しんでいただきたいと。そういう強い思いがあります。

──なるほど……。

桑高:
 囲碁将棋の楽しみ方っていろいろあると思うので。最近すごく増えているのは、私のようにイラストを描く人。こういうムーブメントは、すごく楽しいなと。

──これまで、こういうイラストを見せ合う場というのは将棋雑誌など限られたスペースしかありませんでしたが、SNSの発達で気軽に発表できて、さらにファン同士で繋がることができるようになった。それは大きいですよね。

桑高:
 どこかでまとめて発表できる場が作れたらなぁ……と思うんですけどね。クリアしなければならない問題はありますが、どこかの棋戦の1コーナーで『ここに飾るからみんな投稿して!』とかやれたら楽しいかもしれません。

──桑高さんのイラストのように朝日新聞デジタルに掲載されるとしたら、ファンも気合いが入るでしょうね!

桑高:
 個人的には、久保ミツロウ先生を名人戦にお招きしたいんですけどねぇ。豊島竜王ファンであることを最近隠していませんし(笑)。

──メディアにはよく出ておられますが、ガチな将棋ファンなので『ひっそり応援したい!』と思っておられそうですよね(笑)。桑高さんは今後も棋士のイラストを描いていかれるんですよね?

桑高:
 イラストは、まだまだ自分はヘタだと思っています。描くたびに新しいことに気づく世界なので、今後も描き続けていきたいと……描いていると、それまで知らなかったその人の仕草や、雰囲気にも気づくことができますから。そういうところをもっと表現していきたいと思います。

──あの、私……たとえば棋士の先生の記事を書いた後、ちょっとその先生には会いづらいなと思うことがあるんですよ。

桑高:
 はい?

──でも桑高さんは、佐藤会長が丸太を振り回すイラストを描いた直後に、打ち合わせとかで佐藤会長と会ったりするわけじゃないですか。そこが凄いなと思うんですが……。

桑高:
 見せますもん!『これ描いたんですけど大丈夫ですか?』って(笑)。

──はははは! マジですか!?

桑高:
 イラストを描こうと思ったときに、YouTubeとかで描き方を勉強したんです。そしたら『発表することを念頭に置きましょう』っていうのが上達の秘訣だと。じゃあ本人に見せたほうがいいな、と。

──確かにそうですけど!

桑高:
 皆さんにちゃんと見せてますよ。事後だったりしますが。

──反応はいかがですか?

桑高:
 撮られることはあっても、描かれることは少ないみたいで。皆さん喜んでくださいます。だから私もいい気になって……(笑)。

──今後も『くわっち』のイラストが楽しめそうですね! そうやって新たな楽しみが生まれていくのは、ファンにとって純粋に嬉しいですよ。

桑高:
 そうですね。記者だけではなく、私のような『中の人』が個性を発揮して、盛り上げていく時代になったのかなと思います。読売新聞さんの若杉さん(※若杉和希カメラマン)みたいに写真集を出される方もいらっしゃいますから。

──竜王戦のあの写真は素晴らしいですよね!

桑高:
 ああやってキャラクターを立てることで、それを目当てに新たなファンが来てくれる。その一助になれたらなと。

──『くわっち』に会いに名人戦に行こう!

桑高:
 イベントで気軽に声をかけていただければと思いますし、SNSでも絡んでいただければと……答えづらい質問には、スルーさせていただくこともありますけど(笑)。

──そのスキルがある人には、本当に安心して声をかけられます(笑)。次はぜひ、リモートではなく名人戦で直接お目にかかれたら嬉しいです!


 今年も予定通りならば4月7・8日に、『ホテル椿山荘東京』で名人戦が開幕します。
 表面上は、これまでと同じ状況に戻ったように見えます。

 ですがコロナ禍を経て、世界は大きく変化しました。
 感染症という見えないリスクはまだ確かに存在します。
 そのリスクを減らすことができるのは、運営側の対応はもちろんですが……最も大切なのは、私たち将棋ファン一人一人の意識と行動。
 大げさに聞こえるかもしれませんが、そういう意味では、これまで『お客さん』であった私たちも、運営する側に立っていると言うことができます。

 今回のインタビューは、桑高さんも私も、自宅からリモートで行いました。
 もしコロナ禍がなければ、私が築地の朝日新聞本社まで行っていたでしょう。インタビューをするハードルはもっともっと高かったと思います。

 コロナ禍を経て、世界は、囲碁将棋界は、大きく変わりました
 失ってしまったものはあまりにも大きくて、それは決して取り戻すことができないものかもしれません。
 しかし取り戻すことができないからこそ……私たちは前を向き、別のものを探し求める必要があるのだと思います。

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