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連載「超歌舞伎 その軌跡(キセキ)と、これから」第六回

ニコニコニュース / 2021年4月23日 12時25分

 2016年の初演より「超歌舞伎」の脚本を担当している松岡亮氏が制作の裏側や秘話をお届けする連載の第六回です。
 「ニコニコネット超会議2021」で待望の上演となる超歌舞伎『御伽草紙戀姿絵(おとぎぞうしこいのすがたえ)』。今回は、「初音ミクさんに悪役を演じてもらう」という発想を端緒に本作がどのように形作られていったのか、その過程が明かされます。(第五回はこちら


 「超歌舞伎」をご覧に頂いたことがある方も、聞いたことはあるけれどまだ観たことはない! という方も、本連載を通じて、伝統と最新技術が融合した作品「超歌舞伎」に興味を持っていただければと思います。

 4月24日(土)・25日(日) 各日18:00より、「ニコニコネット超会議2021」にて超歌舞伎『御伽草紙戀姿絵』上演

・超歌舞伎 公式サイト
https://chokabuki.jp/

・チケット購入ページ
https://dwango-ticket.jp/

初音ミクさんが悪役に挑む超歌舞伎『御伽草紙戀姿絵』

文/松岡亮

 1年の時を経て、待望の上演となる『御伽草紙戀姿絵』は、初音ミクさんが初めて悪役に挑むというのが、ひとつの話題となっています。これまでの超歌舞伎の一連の作品で、ヒロインを勤めていたミクさんに、悪役を演じてもらうことを思いついたのは、2019年の『今昔饗宴千本桜』を製作している途中だったと記憶しています。

『今昔饗宴千本桜』(2019年)  再演となる本作の製作中、ミクさんに悪役を演じてもらうというアイデアが浮かんだ

近松門左衛門の作品に着想を得て

 超歌舞伎の作品の広がりを考える上で、ミクさんに可憐なヒロインだけでなく、さまざまなお役に取り組んで頂きたいと、かねてから思っていたからです。とはいえ、女方の悪役が活躍する歌舞伎の作品は、実はありそうでありません。
 そこでふと思いついたのは、近松門左衛門(1653~1724)の絶筆となった作品である、『関八州繋馬(かんはっしゅうつなぎうま)』でした。平将門の息女の亡魂が蜘蛛の精と合体して出現するという趣向は、まさに超歌舞伎にぴったりで、美しいミクさんが物の怪へと変化する姿を想像しただけで、胸が高鳴りました。
 そして2019年の秋に、2020年の超歌舞伎に関する最初のミーティングが開かれた折に、この腹案を皆さんにお伝えし、賛同を得ることができました。

『積思花顔競』(2018年)  これまでの超歌舞伎では主に可憐な役を演じてきた初音ミクさん

 また、超歌舞伎で大きな役割を果たす劇中曲については、演出の藤間勘十郎師から「ロミオとシンデレラ」が良いのでは?というご提案があり、例年以上にすんなりと劇中曲が決定しました。実は勘十郎師も超歌舞伎のプロジェクトに携わるなかで、ミクさんを始めとしたバーチャルシンガーの楽曲をいろいろと聴いて下さり、歌舞伎と上手く融合する楽曲をリサーチしていて下さったのでした。 

作品のイメージと重なった「ロミオとシンデレラ」

 さて、当の私が人気楽曲の「ロミオとシンデレラ」に初めて接したのは、2017年のこと。ドワンゴの担当者さんから、超歌舞伎製作の一助として、バーチャルシンガーの人気楽曲リストをいただいており、そのリストをもとにしたCDのなかに、『御伽草紙戀姿絵』の劇中曲「ロミオとシンデレラ」が入っていたのでした。
 若干、余談になるのですが、例年、幕張の超歌舞伎公演が千穐楽を迎え、撤収作業を終えたあと、私や以前このコラムで登場したプロデューサーを、それぞれの自宅近所まで送ってくれる、奇特な上司がいます。2017年の『花街詞合鏡(くるわことばあわせかがみ)』の公演を無事に終え、その上司の車のなかで、京葉道路から首都高を走りながら、前述したCDを爆音で聴き、3人であれこれと話し合ったことが、懐かしく思い出されます。

「ロミオとシンデレラ」(作詞・作曲 doriko)

 ミクさんの数ある楽曲のなかでも、古典作品といっても過言ではない「ロミオとシンデレラ」を、2020年の超歌舞伎作品執筆のために、改めてじっくりと聴き直しましたが、これから書き進めようとしている作品のために作られた楽曲ではないか、と錯覚するほど、ぴったりの劇中曲でした。

『御伽草紙戀姿絵』に込められた意味

 ミクさんのファンならご存じのとおり、「ロミオとシンデレラ」には、〝シンデレラ〟や〝金の斧と銀の斧〟〝赤ずきん〟といった、ヨーロッパの童話や寓話に着想を得た歌詞が散りばめられています。今回の超歌舞伎の外題(げだい)にある「御伽草紙」は、その個所の歌詞をふまえたものです。
 つづく「戀」は、作品のテーマでもあり、ある男女の物語が、まるで絵物語のように展開するということから「姿絵」という言葉を導き、『御伽草紙戀姿絵』という外題が誕生したのでした。

待望の上演となる『御伽草紙戀姿絵』キービジュアル。初音ミクさんの衣裳は蜘蛛の巣柄になっている。

 2020年の社会状況のために、完成間近に迫りながら、ひとたび眠りにつくことになってしまった『御伽草紙戀姿絵』ですが、先ごろ始まった稽古場でのお稽古風景をみるにつけ、この1年という時間は決して無駄ではなかったと、思い至っています。
 この作品がはたしてお客様にどのように受け入れられるのか、例年以上に楽しみでもあり、怖くもある、緊張感のある毎日を過ごしている、今日この頃です。

(第七回へ続く)

執筆者プロフィール

松岡 亮(まつおか りょう)

松竹株式会社歌舞伎製作部芸文室所属。2016年から始まった超歌舞伎の全作品の脚本を担当。また、『壽三升景清』で、優れた新作歌舞伎にあたえられる第43回大谷竹次郎賞を受賞。NHKワールドTVで放映中の海外向け歌舞伎紹介番組「KABUKI KOOL」の監修も担う。


■超歌舞伎連載の記事一覧
https://originalnews.nico/tag/超歌舞伎連載


 

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