武豊&羽生善治、2人のレジェンドが32年ぶり対談 目標は「凱旋門賞制覇」「藤井二冠とタイトル戦」など貴重なトークを展開【対談全文】
ニコニコニュース / 2021年5月28日 11時50分
競馬界のレジェンド・武豊氏、将棋界のレジェンド・羽生善治九段の2人による32年ぶりの対談が、日本中央競馬会(JRA)協賛のもとニコニコネット超会議2021で実現。
「超レジェンド対談」と題した番組は、ニコニコ生放送で中継され約14万人が視聴、Twitterでは「#超レジェンド対談」がトレンド入りをするなど、2人天才の対談は大きな注目を集めました。
本稿では、「長い現役生活で経験した天才ならではの苦悩」「今後の目標」「これまで一番驚いたハプニング」などのトークをはじめ、2人の対談の内容を余すところなく紹介します。
▼番組はこちら▼
※アカウント登録不要でどなたでもタイムシフトを視聴可能。(視聴期限は2022年4月27日23時59分まで。スマートフォンから視聴する場合、ニコニコ生放送アプリのインストールが必要)
※本記事はニコニコ生放送での出演者の発言を書き起こしたものであり、公開にあたり最低限の編集をしています。
30年以上、最前線で活躍し続ける2人
小籔千豊:
お互いがご活躍されているところは見聞きしていたとは思います。
32年ぶりの対談ということで、改めて武豊さんは羽生さんのご活躍をどのように見られていましたでしょうか?
武豊:
歳も近くてプロデビューもほぼ同じタイミングだったと思うんですけど、本当に天才だなという思いでずっと拝見させてもらっています。
羽生さんの活躍の報道とかも見させてもらうと、すごく励みというか勇気をもらっています。
小籔千豊:
なるほど。羽生さんは武豊さんのご活躍をどのように見られていましたでしょうか?
羽生善治:
もちろん最初にお会いした32年前からもうすでに大きな実績を残されていたんですけど、それから30年間ずっと変わらず活躍し続けていて、武さんだけ時間が止まっているんじゃないかという感じをさせるぐらいすごい活躍で。
どうしたらこんなにずっと一線でいられるのかというのは、不思議というかただただすごいなというふうに思っています。
武豊:
いや、それはそのまま羽生さんに言いたい言葉ですよ(笑)。
小籔千豊:
僕ら関係ない一般人から見たら「アンタらどっちもやから!」って全員多分ツッコんでると思います(笑)。
三十数年はずっと小さい困難の連続
小籔千豊:
そんなお二人にお伺いしたいテーマがありまして、まずは「困難を乗り越える力」についてにお伺いしたいなと思います。
僕らから見ると、何の困難もなく、華々しい記録、結果を残し続けているお二人かなと思うんですけど、きっとご本人からすると天才なりの困難や壁なんてものがあったのかなと思います。
長い現役生活が全て順調だったわけでもないのかなというふうにも思いますがいかがでしょうか?
武豊:
困難でもいろいろ大きさがあると思うんですけど、小さい困難はもう毎週のようにあります。
三十数年ずっとその連続だと思うんですけど、今思えばあの頃がちょっと大きい困難だったのかな~とかっていうのはありますね。
小籔千豊:
それはいつ頃でしょうか?
武豊:
2010~12年とかは確かにちょっとしんどかったですね。
小籔千豊:
結果が自分の思った通りに出ない時期があったということでしょうか?
武豊:
そうですね。勝ったり負けたりの連続なんで多少は「こういうこともあるかな」とかはあるんですけど、あまりにも良い結果が出ないことが続いたりすると、流石にへこむというか「ん~キツイな~」とかそういうのはありますね。
小籔千豊:
それが数年間続いたと。武豊さんの場合は本当に名馬に出会ったりということもあったと思います。
やっぱりその困難があったとしても、「あの馬に乗れた」「あの馬がいるから頑張る」みたいな部分もあるんでしょうけど、そういう時期には心の支えとなってくれる相方みたいなのにもちょっと恵まれなかった部分はあるんでしょうか。
武豊:
いや、ん~。騎手一人ではなかなかこう何ていうんですかね、状況がいっぺんに変わるということは難しいのかなと思うことはあったと思います。
しっかり現状をこう見て少しでも状況が良くなればいいなという感じで、毎日やることをやっていました。
小籔千豊:
なるほど、じゃあ「今までとは違うぞ今年は」みたいなことを続けてらっしゃるときにも、ある程度は「辛いな」と思いながらも、「目の前のことを頑張ろう」「いつかは好転するだろう」と思っていたということですか?
武豊:
そうですね。はい。
小籔千豊:
なるほど。
1年に7回も8回もカド番を経験していると慣れてくる
小籔千豊:
では、羽生さんはいかがでしょうか。長い棋士人生だったと思うんですけども、「困難に直面したな」と思った時期、出来事などありますか。
羽生善治:
そうですね、最初に思い浮かぶのは19歳で初めてタイトル取ったときのことです。
その翌年には初防衛戦があって、今まではもう若さの勢いというか、それに乗ってただがむしゃらに前に進むという感じだったんですけど、初めて守る立場というか防衛する側に回って負けたら何か失うという恐怖心というかプレッシャーみたいなものを感じたシリーズでした。
第三期竜王戦だったんですけど、それが非常に印象に残ってます。
今から振り返れば当たり前なんですけど、当時はまだ二十歳で何もわかっていなかったので、カド番【※】って言うんですかね、そういうすごく追い詰められる感じって言うのは、やっぱりよく覚えています。
※カド番
タイトル戦のような対局数が定められている「番勝負」において、あと1敗すると番勝負敗北になる状況
小籔千豊:
なるほど。守るものが大きくなって、それを守らないといけない立場になったことないけども、初めてなったとき、やっぱり焦る気持ち、初めての感覚みたいなものがあったということですね。
羽生善治:
そうですね。前に向かって行くときと、守る側のときの気持ちって全然違っていて、それは経験してみて初めて分かりましたね。
小籔千豊:
なるほど。
羽生善治:
でもだんだん人間って結構慣れっていうものがあるんでカド番も、1年に7回も8回もやっているとだんだん慣れてきます。
それは良い意味なのか悪い意味なのか、ちょっと緊張感を持った方がいいのかもしれないですけど、そういう感じになってくるってことは、この30年間ではあったかなと思います。
小籔千豊:
そうですね。その後、羽生さんは守る方の経験の方が長くなってるわけですもんね。
羽生善治:
そうですね。ただ将棋の世界の場合ってちょっと変わってるところがあって、例えば片方はもう一勝でタイトルを獲れるけど、もう一方ではあと一回負けたらタイトルを失うみたいなことが、結構同じ一週間の中にあったりします。
そうすると心境の中がわけがわからなくなってくるという変な状況になることはあります(笑)。
小籔千豊:
そうかそうか。なるほど、大変ですよね! そんなタイトル戦を経験している人っていないですもんね。
競馬も将棋もシミュレーション通りには進まない
羽生善治:
私も数多く対局をやっているつもりなんですけど、武さんは騎乗が2万回くらいでしたっけ?
武豊:
そうですね。2万回以上ですね。
羽生善治:
それで約4200勝ですよね。自分の感覚からすると、ちょっと信じられないような試合数をこなしているように思います。
武豊:
いや、でも負けの方が圧倒的に多いです。だから負けに結構慣れていますね。
羽生善治:
でも、レース前に「今日は行けるぞ!」とか、そういう手応えみたいなものって長いことやってくると、だんだんわかってくるとかそういうことないんですか?
武豊:
そうですね。「今日は行けるんじゃないかな」って思うときはあるんですけど、その通りの結果にはあまり繋がらないことも多いですね。
羽生善治:
例えば、事前にいろんなシミュレーションみたいなものとかもすると思うんですけど、やっぱりシミュレーション通りにはレースはいかないんですか?
武豊:
あ~、いかないですね! ほとんどその通りになることは少ないですね。
まず自分自身が相手というか乗る馬もいますし、他の馬と騎手がいるのでこれはなかなか難しいというか読めないですね。
羽生善治:
ずっと調教で乗っていて馬と意思疎通というか「こんなこと思っているのかな」「こんな気分なのかな」とか、そういうのはわかったりするんですか?
武豊:
一応、調教とかレース前とかスタートまでの20分間とかその馬に乗っているんですけど、なかなか馬は話してくれないので……。
羽生善治:
そうですか(笑)。
武豊:
わからないですね! 打ち合わせできればレースもすごく乗りやすいと思うんですけど(笑)。
羽生善治:
なるほど、面白いですね(笑)。
じゃあ馬の方も結構変わったりするんですか、気分が変わったりというか……。
武豊:
本当にそうです。馬が考えていることとかは、わかっているのかどうかがわからないですね、自分自身が。
羽生善治:
あ~そうなんですか。へぇ~、なるほど。
武豊:
いや難しいです、本当に。
羽生善治:
棋士の場合もいろいろ事前に考えたりするんですけど、ほとんど当たらないですね。
武豊:
え、そうなんですか?
羽生善治:
気休めみたいなもんですよね。事前にこういう感じでいこうとか思っていてもそうなることはほとんどないです。だからと言って何もしないわけにもいかないですし。
武豊:
いやいやすごく興味あります。棋士も最初の方は考えていますよね。
羽生善治:
ええ。最初の方は一応、定跡というかセオリーみたいなものがあるので、その通りというかその前例に倣った形でいくことが多いんです。
でも、大体途中からその前例から離れちゃうと後はもう出たとこ勝負というところはあります。
将棋棋士は勝っても負けても自分が全て
羽生善治:
ちょうど武さんが怪我からちょうど復帰されるということで、実は私、10代の頃に一回骨折したことがあったんです。
ただその間ももちろん休むことなくずっと普通に将棋を指していたので、棋士で良かったなと思うということがあって、やっぱり肉体を使う競技は大変だなと思いました。
武豊:
どこを怪我されたんですか?
羽生善治:
右手を骨折していて治るまで一カ月くらいの間はずっと左手で指していたんです。
だから相手からするとすごくぎこちないというか、初心者みたいな駒の動かし方をするのでやりにくかったと思います。
ただ棋士の場合は、そういう怪我で休まなきゃいけないとか不戦敗になるとかそういうことはないので。
武豊:
そうですよね。もう全て自分だから。それが大変じゃないかと思うんですけど。
羽生善治:
はい。だからあまり深く突き詰めないようにはしています。
もちろん負けて反省するとか、ここ修正しなきゃいけないかなとかそういうことは考えたりはします。
でもそれ全部突き詰めていくと自己否定になるじゃないですか。審判がいるということでもないですし、ちょっと風向きが悪かったということもないので、そうすると結局もう逃げ道なく自分が悪いってことになっちゃうので。
だから考え過ぎるとかえって息苦しいというか辛くなってしまうので、ある意味でいい加減というか適当に切り替えるということは大事かなと思っています。
武さんはすごく大きなレースでもたくさん騎乗されていますし、一日で何回も騎乗されていますが、どうやって気持ち切り替えていたりするんですか?
武豊:
レースごとに乗る馬も違うし、全然違う勝負なので、ゴールしてしまえばそれ程引きずらないというか、勝っても負けても、「よし次! はいはい、次!」という感じは自然とあると思いますね。
羽生善治:
一つのレースが終わって次のレースに向かうときには前のレースのこと忘れるというわけじゃないけど、すぐに切り替えられるんですか?
武豊:
そうですね。自分自身の次のレースももちろんパッと考えられますし、レースが終わったら次に挑むこともすぐ考えられるというか。
割と「はい、次、次」という感じで自然とやっているんじゃないかなと思います。
羽生善治:
例えば前のレースで「こうやっていたら勝てたんじゃないかな」とか「もうちょっと上手くいっていたんじゃないかな」とか、そういうことがよぎったりとかはしないんですか? 将棋だとよくあるんですけど。
武豊:
いや、もうそういうことの連続ですよ。
羽生善治:
連続ですか。でもすごく短い時間でパッと切り替えないといけないですよね、次のレースに向かって。
武豊:
そうですね、次のレースの馬に乗ったら前のことを引きずっていることはまずないと思います。
羽生善治:
それって、10代とか若いときからずっとできていましたか?
武豊:
どうなんでしょうね。あまり意識的にやっていないので……。
羽生善治:
アスリートの人ってそこが一番難しいところなんじゃないかと思うんです。
他のいろんな競技を見ていて、特に経験が浅いときだと一回ミスしちゃったとか一回上手くいかなかったってことをずっと引きずっちゃって、本来のパフォーマンスがなかなか発揮できないパターンは結構あるように感じます。
武さんは持って産まれたそういうメンタルの強さみたいなものがあるんですかね。
武豊:
いや、どうかわからないですけど、逆に勝ってもそんなにそのレースのことに浸るっていう感じもないかもしれないですね。「はい次」という感じで、割とゴールしたら終わりって感じですかね。
羽生善治:
そうなんですね。へ~。
武豊:
癖かもわかんないです。
羽生善治:
家に帰ってからビデオで振り返るとかそういうことあまりしないんですか?
武豊:
勝ったときは一回は見ますね。
羽生善治:
なるほど。
武豊:
負けて悔しいときはあまり見ないですね。見ても一日経ってからですかね。
でもそんなに悔しくて眠れないとかはあんまりないかな。
羽生善治:
そうなんですか、へぇー。
一般人はレースを第三者の視点でしか見られませんが、騎手なら自分が騎乗したレースを第三者的にパッと振り返って見られるじゃないですか。
それってどんなふうに見えているのかすごい興味あったりするんですけど、これってもちろん他の視聴者も横で走っている姿しか見られないじゃないですか。
武豊:
あ~そうですね。「後ろはこうなっていたんだ」とか「もし自分があのポジションにいたら~」とか後で見ながら想像はします。
羽生善治:
ほぉー。
武豊:
「もしあそこで、ああ行ったら勝っていたかもな」とかそういう感じで見ますけど、それくらいですね。
羽生善治:
終わっちゃたらしょうがないって感じもあるんですか?
武豊:
そうですね。人から「あそこでああしておけば良かったんじゃない?」と言われても「いや、もう終わっちゃったもん」という感じですね。次にそうならないようにしようという感じです。
羽生善治:
なるほど。あと、鼻差とか首差とかすごい際どくて写真判定になるときってよくあるじゃないですか。
騎手本人はちょっと早かったとか、ダメだったとかって体感でわかるんですか?
武豊:
はい、ある程度は。
鼻差でも相手のジョッキーに「どっちだと思う?」と確認すると大体は判定と同じですね。
羽生善治:
やっぱりそうなんですね。
武豊:
あと、最後の直線、残り200メートル100メートルになってくると、「これ勝てるな」「届くな」とか「あ、届かないな」となんとなく自分の中でわかります。それによって諦めたりとかはないですけど。
それと「これ首差で勝つな」とかわかるときもあります。
羽生さんは前半から「これは勝つな」とか、「あれ? まずいな」と思っても突然「勝つな。勝てるな」ってときはやっぱりあるんですか?
羽生善治:
将棋って結構逆転が多いゲームなので、ずっと不利でももちろん逆転するということもありますし、逆に終始優勢だったんだけど最後の3分とか5分で間違えちゃって、それで負けるっていうことも結構あるんですよね。
だけど、なんとなく試合の流れというか、いい感じでいけてるとかダメなほうでいけてるとかわかります。
将棋の世界に“指運”って言葉があって、手が最後にいいところに行くかどうかっていう表現があります。
その僅差の勝負になったときには、そういう事もあるかなっていう。
ただ確かに体感的に「これちょっと届かないかな」とか「届くかな」というのはなんとなくだけどあります。
でも毎回あるわけではなくて、間違っているっていうこともよくあります。
昔、陸上選手だった為末さんと話したときに、100分の1秒とかの違いを横から見られるわけじゃないんだけど、なんとなくちょっと自分の方が早かったとか足りてなかったとか、体感でわかるというのがあるらしいというのを、今の武さんの話聞いていて思い出しました。
だからやっぱりトップクラスのアスリートの人はそういうすごく微妙というか微細な感覚とかが尋常じゃなく研ぎ澄まされているんだろうなと思いながらいつも見ています。
武豊:
いや、もう羽生さんからそんなお言葉をいただけるとはもう家宝になります(笑)。
羽生善治:
いえいえ、とんでもないです(笑)。
いい意味で「鈍感」? 一般人とは違ったメンタル
小籔千豊:
ちょっとお話の中に出てきたことでお伺いしたいことがあるんですが、羽生さんは守る側になったときに困難に直面したとお答えになられました。
きっと守る側って大変だと思うんですが、武豊さんはいかがですか?
リーディングジョッキーという守る側みたいな立場になってプレッシャーを感じたことってありますか?
武豊:
僕はなかったですね。そんなに意識していなかったんですけど、当たり前のように若いときから日本で一位になっていたので、そうじゃなくなったときにすごく不思議な感じがして。
それだけ成績が落ちていたときなんですけど、今までなぜその位置にいれたんだろうなという感じで考えるようになりましたね。
小籔千豊:
寂しいとか悔しいとかいうそういう感情っていうのはやっぱりありましたか?
武豊:
当然ありますね。初めて味わう感覚だったりもしたので。
もちろん結果を出せない自分が一番こう歯痒いというか、悔しいんですけど、そうなって気付く事がいろいろあるんですよ。
なんとなく人が離れていったりとか、そのカメラが自分に向いていないとか、それが普通というか普通であればそうなんでしょうけど、あまり経験したことがなかったときは、不思議な感じでしたね。挫折っていう感じではなかったかもわかんないですけど。
小籔千豊:
でも「いつかまた」という気持ちは?
武豊:
はい、もちろん。もちろん難しいのはもちろん分かっていますけど、今でもまたリーディングジョッキーになりたいっていう気持ちはあります。
小籔千豊:
やっぱりお二人は本当にいい意味でいいタイミングで鈍感になっている部分もあるというか、メンタルが強い部分があるのかなと思います。普通の人間だったらそこまで天才って言われ続けてたらメンタルもいかれて、手元もおかしなると思います。
羽生さんも守る側は慣れてきますし仕方ないという感じで切り替えられたりとか、武豊さんもあれだけずっとリードしてきたのにひとまず目の前の事をみたいな。僕らみたいな一般人がちょっと挫けたくらいでメンタルいかれてる場合ではないだなとすごく思いました。
目標は「凱旋門賞制覇」「藤井二冠とタイトル戦」
小籔千豊:
本当にいろいろな事を成し遂げられたお二人ですが、今後の夢や目標についてお伺いできたらなというふうに思っております。
羽生さんからお願いしてもいいですか?
羽生善治:
具体的なもので言ったら、最近は藤井聡太さんが非常に大活躍されているので、大舞台というかタイトル戦で顔合わせることができたらいいなということは思っています。
将棋の世界のいい所って、ものすごく世代の離れている人とかでも同じ盤上で対局ができるということがあります。
私も一番古いと明治産まれの先生とも対局しているので、現代の棋士の人まで対局できれば、多分100年くらいの世代の人と対局できるので、是非実現できたらいいなと思っています。
小籔千豊:
なるほど。長くご活躍、ご健康でいれば藤井さんが偉くなったときに、指導対局していたような子がまた棋士なったりしたら本当にすごい繋がりですよね。
羽生善治:
将棋の世界は結構その間隔が短くて、10歳くらいの小学生と指導対局をしたとしても、10年も経たないうちにプロ棋士になって目の前で対戦するってこと結構あるんです。
小籔千豊:
タイトル戦できたりとか。
羽生善治:
洒落にならないことがよく起こるので、その間隔がすごい短いのが面白い所ですね。
小籔千豊:
本当それはすごいなと、そういう逸話も将棋の世界ではたくさんありますね。
武豊さんはいかがでしょうか? 今後の夢や目標なんていうのはいかがでしょう。
武豊:
そうですね。僕も、まだまだ騎手として頑張っていきたいですし、勝ちたいレースも一杯あります。
特にフランスである凱旋門賞という大きなレースなんですけども、そこは具体的な大きな目標です。
その為には今よりもっとレベルアップしていかなきゃいけないと思っています。
小籔千豊:
まだレベルアップですか。腕前だけで言えば武豊さんはもう成長する余白なんてないのかななんて思ったりしてましたけども。
武豊:
いえいえ、若手もどんどん良いジョッキーも出てきて皆すごく勝ちますから、同じように自分も上げていかないとなかなか大変ですよ。
小籔千豊:
またいい馬と出会ってタイミングが合って、凱旋門賞で勝ったらそりゃもう競馬ファンは皆泣きますね。
羽生善治:
皆泣くと思います。
武豊:
先日、ゴルフのマスターズで松山英樹選手が優勝されて私も感動しましたね。あの姿を見たときに改めて絶対自分も凱旋門賞勝ちたいと思いました。
小籔千豊:
なるほど。これからご健康だけは気を付けていただけたら、もう偉業を成し遂げられまくるお二人でごさいます。本当に期待してお二人を見守っていきたいなと思います。
武豊:
小藪さんの夢は何ですか?
小籔千豊:
いいです、いいです、僕の目標なんて! 嫁はんと仲良く85歳くらいまで生きれたらそれでいいです!
武さんは『ウマ娘』をどう思っていますか?
小籔千豊:
では後半戦は視聴者の皆様からいただいた質問にお答えいただけたらと思います。
質問がたくさん書かれた紙がお二人に渡されるので、ご自身が選んでいただきお答えください。
羽生善治:
はい。「将棋では『りゅうおうのおしごと!』、競馬では『ウマ娘』等、お二人の専門分野をテーマにしたサブカルコンテンツが近年出ています。お二人はそういったコンテンツに対して驚いたこと、感心したことはありますか?」という質問です。
これはぜひ武さんに『ウマ娘』についてどう思っているか聞いてみたいです(笑)。
武豊:
実は『ウマ娘』は立ち上げときから少し関わらせていただいています。
非常に斬新というか、女の子が馬になって尻尾も付いて、人間が走るように競馬場を走るという驚きというか。
最初に見たときはちょっとシュールかなと思ったんですけど、それが今は大人気と伺って非常に嬉しいです。
『ウマ娘』から実際の競馬に興味を持っていただく方も絶対いると思いますし、やっぱりファンが広がって競馬ということを知ってもらえるというのは嬉しいですね。
羽生善治:
多分、それによって全く今まで競馬とは接点のなかった人たちも興味持って競馬場行ってみようとか、馬券を買ってみようという人もすごく増えたんじゃないですかね。
武豊:
もしそうであれば本当に嬉しいことですね。
小籔千豊:
羽生さんも将棋界の広がりを熱望されている感じですか? もっと将棋ファンが増えて欲しいとか。
羽生善治:
そうですね。例えば、ニコニコ生放送でもずっと将棋の中継をやっていただいています。
私がプロになりたての頃って対局室って密室の世界だったんですね。対局者二人と記録係の人と、観戦記者のライターさんの4人しかいない世界でした。
それが今では何万人とか何十万人っていう人に見てもらえる世界になって、今まではあまり将棋に興味持ってなかった人たちにも感心を持ってもらえるきっかけを作ってもらったというのはとてもすごくありがたいことだなと思っています。
小籔千豊:
そうですね。ネットとかアプリとかそういう広がりによって、将棋も競馬も広がり見せていますもんね。
競輪で負けたときは無茶苦茶悔しい!
小籔千豊:
それでは同じように武豊さん、質問の中から一つ選んでいただきましてお答えいただけますでしょうか?
武豊:
「羽生さん武さんは勝負の世界に身を置かれて敗北を喫したときの悔しさは想像以上だと思います。そこで将棋や競馬以外で本業以上に負けて悔しい思いをしたご経験はありますでしょうか?」という質問です。
小籔千豊:
なるほど。お二人、あんまり負けず嫌いじゃなさそうな感じがします。
競馬、将棋のことはそうでしょうけど、それ以外のことではのほほんとされているお二人ですから、それ以外で負けて悔しい思いなんかありますか?
羽生善治:
ちょっとどう言えばいいんでしょうかね。
他の勝負事をやって、勝っても負けてもちょっと複雑な気持ちになるところがあって、例えば、負けたら悔しんですけど、「ここででも運を使っちゃって将棋の方に悪影響が出ないかな」とか(笑)。
小籔千豊:
なるほど(笑)。
羽生善治:
負ければ悔しいじゃないですか。でも勝っても「これ良かったのかな」と。
どっちでもなんかスッキリしないからあまり勝負事はやらないってことはあります。
小籔千豊:
本業が勝負師やから他所で勝負している場合じゃないという。
武豊さんいかがでしょう?
武豊:
今、羽生さんがおっしゃった後に言うの恥ずかしいんですけど、僕は競輪が好きで実際に車券を買うのも大好きなんですよ。
いつもと言うわけではないんですけど、実際に競輪場に行って車券を買って応援するっていうのが好きなんですけど、やっぱり負けたというかハズレたときがもう無茶苦茶悔しくて、帰りの車とかでもしばらく愚痴というかボヤいてるときがよくあります(笑)。
一緒に行った身近な人から「競馬の帰りにそんだけ悔しがっている姿を見たことない」って言われるんです。だからファンの気持ちが良くわかると思っています(笑)。
小籔千豊:
なるほど(笑)。でも乗っている側と買っている側なので、そりゃ競馬のときと競輪のときと違いますからね。
武豊:
でもファン心理は非常に勉強になりますね。
小籔千豊:
それがプレッシャーになったりとかしないですか? 有馬記念となったとき、みんな買っていると思ったら。
武豊:
だからもう本当に「しっかり乗らなきゃ」と思いますね。
羽生善治:
私もすごく聞いてみたかったことで、例えば単勝で1.2倍とかめちゃくちゃ人気の馬に乗るときってあるじゃないですか。
棋士の場合は負けたら自分の責任で全部完結するんですけど、競馬の場合ってものすごい人の期待を全身に背負うっていうか、そういう心境ってどういうものなのかなというのは一回聞いてみたいです。
武豊:
もちろんそのレース前に自分の馬が何倍なのか目に入ったりします。
自信があるとそれほどあんまり気にならないんですけど、全然自信がないときに例えば1.2倍とかっていうオッズを見ると「いや、参ったな」とかいうか「勿体ないな」というか複雑になりますね。
羽生善治:
実際のオッズと自分自身の感覚のオッズは結構違ったりするものなのですか?
武豊:
違うときもあります。
羽生善治:
あぁ、そうなんですか。
武豊:
でも競馬は誰かが外れれば誰か当たっているので、「本命馬が負けてもそれはそれで穴党の人が喜んでるんだろうな」とか「今日は穴党に貢献したんだな」とかすごく都合のいいように思うときもあります。
小籔千豊:
そう思っていないとやってられないですよね。
1.2倍とかで「ワ〜」って言われているけど、「俺、今日自信ないんだけど」と思っていたらね。そりゃあもう(笑)。
武豊:
でも自分が競輪で負けたらめちゃくちゃ腹立ちます(笑)。
一同:
(笑)
小籔千豊:
話を聞いていたら、天才が人間っぽいなっていうふうな感じがありますけども。
普段は緩めて勝負所で締める
小籔千豊:
続いて、羽生さんもう一つお答えいただけますか?
羽生善治:
えーと……。「何事にも先読みして行動しているのでしょうか?」という質問ですが、私自身は普段は全く先読みはしていないです。
小籔千豊:
そうですか。将棋以外は何も?
羽生善治:
はい、将棋以外は。いい加減というか、あまり全部日常まで将棋の読みでやっていたら、周りにも迷惑かけますし、いろいろやりにくいと思っています。
小籔千豊:
脳もパンクしますもんね。
羽生善治:
そうですね、まあいい加減です。
小籔千豊:
武豊さんいかがでしょうか?
武豊:
はい。僕もそうです。あまり先読みしてないと思いますね。
先日実際あって自分でも驚いたんですけど、車に乗って出掛けたのに何で出掛けたのか忘れたときがあって。
小籔千豊:
そんなん、サザエさんですやん!
武豊:
思い出すまでちょっと走らせていましたね。
小籔千豊:
結局、思い出したんですか(笑)?
武豊:
思い出しました。散髪でした。
一同:
(笑)
小籔千豊:
それだけレースとかに集中されているから、普段は緩めてその勝負所でキュッといくという部分がまた天才なのかもわかりませんね。
お互いの第一印象
小籔千豊:
では武豊さん、質問を一つ選んでいただけますでしょうか?
武豊:
「お二人の第一印象を教えて下さい」という質問です。
これは32年前になります。僕はもちろん年齢も知っていまして、確か羽生さんより私の方が2つ上だったはずなんですけど、非常に年上に感じたというか大人だなって思いました。自分の周りにいる大人よりもすごく大人に感じてそれが衝撃的だったことを非常に覚えていますね。
小籔千豊:
なるほど。
羽生善治:
多分ただ単に緊張していただけだと思います(笑)。
私は武さん最初会ったときにすごくシュッとしているというかスマートに感じました。今もそのときと体型はあまり変わっていないんじゃないかってくらい。
武豊:
そんなことはないですよ。
羽生善治:
騎手の方って体型を維持されていてすごいなと思いますし、スマートで爽やかという感じは最初に会ったときも今もずっと変わってないと思います。
武豊:
ありがとうございます。
小籔千豊:
お二人が大体同じ歳というか、世代が一緒で、同じ時期に生きているということが本当に改めてすごいなというふうに思います。
大先輩の驚くべき行動!? 印象に残るハプニング
質問の方まだまだいきましょうか。もう一つ羽生さん中から選んでお答えいただけますでしょうか?
羽生善治:
はい、そうですね。「対局中、あるいは対局直前に集中を乱されるハプニングがあったと思いますが、一番驚いたハプニングは何でしょうか?」という質問です。
小籔千豊:
あ~ハプニング(笑)。
羽生善治:
長いことやっているといろいろあるんですけど、例えば停電になったっていうこともあって、それは15分から20分くらい急遽中断したっていうことがありました。
あともう一つは大先輩の加藤一二三先生ですね。A級順位戦という大きな対局の夜9時くらいだったと思うんですけど、突然チョコレートを爆食いされたことがあって、余りの速さに驚きました(笑)。
一同:
(笑)
羽生善治:
速すぎるんですよね。信じられないスピードで食べるので思わず見入ってしまいました。
小籔千豊:
たくさんあるハプニングの中でそれを二番目に思い出されるくらい印象的だったんですね。
武さんはいかがでしょうか? レース中でもレース前後でも構いません。
武豊:
そうですね、レースなんかハプニングの連続です。
一度、フランスに滞在して乗っていたときがあるんですけど、競馬場に行くときに自分で運転していて競馬場を間違えていたことがありました。
一同:
!?
小籔千豊:
間に合ったんですか?
武豊:
ギリギリ間に合いました。たまたま行かなきゃいけない競馬場とそんなに離れていなかったんです。
小籔千豊:
助かりましたね〜!
武豊:
競馬場に着いたら「あれ、今日は静かだな」「お客さんいないけど、どうしたんだろう」「関係者もいないし」と思って新聞を見直したら競馬場が違いましたね。
小籔千豊:
あ~もう、冷や汗どころか。
武豊:
冷や汗と、あとすごく誰かに言いたいのとで。自分一人でウケてましたね。
小籔千豊:
余裕ありますね(笑)。
またどこかで対談するときが……?
小籔千豊:
ということで残念ながらそろそろお時間となりました。
お二人に感想を聞いていきたいと思いますが、武豊さん、本日対談いかがでしたでしょうか?
武豊:
あっという間でした。羽生さんのお話は引き込まれるというか、大学の教授のお話を聞いているような感覚になりますね。
小籔千豊:
また何年後かにお二人に対談していだきたいと視聴者の方も思っているんじゃないでしょうか。
羽生さんは今日の対談はいかがでしたでしょうか?
羽生善治:
久しぶりに武さんとお話できてとても楽しかったですし、ためにもなりましたし。本当にすぐに終わってしまったなというのが実感です。
小籔千豊:
ありがとうございます。お二人はいつかまたどこかで対談するときが絶対来ると思いますし、していただきたいですね。
最後にお二人から「これから何かを始めようとしている」視聴者の皆様に何かメッセージをいただけたらと思います。羽生さん、視聴者の皆さんに何かメッセージの方、お願いします。
羽生善治:
今、コロナの影響もあってなかなか行動していくのが難しいときではあるとは思います。
これは自分自身にも言い聞かせていることでもあるんですけども、まず一歩前に進んでみるっていうことが大事なんじゃないかなっていうふうに思っています。
小籔千豊:
ありがとうございます。武豊さんいかがでしょうか?
武豊:
おそらく若い世代の方がたくさん見て下さっていると思います。
当たり前かもしれないですけど、自分の好きな事や夢や目標とかそこに向かって一生懸命やってもらえたらいいなという気持ちはあります。もちろん我々もまだまだ頑張っていかなきゃいけないと思っています。
小籔千豊:
でも武豊さんから好きなものを突き詰めたらいいよなんていうのはホントにあの重みがあると思いますし、きっと元気付けられた若い人達も多いんじゃないかなというふうに思います。
最後になりましたが、32年前の対談のときにお馬さんを挟んで2ショット写真がありました。今回は同じような構図で写真を撮らせていただければと思います。
撮影タイム終了です。
今回は素晴らしいお時間でした。次は32年ごと言わず、早々と対談をしていただけたらと思います。
武豊騎手、羽生善治九段、ありがとうございました! 超JRA企画「超レジェンド対談~武豊×羽生善治32年ぶりの邂逅~@ニコニコネット超会議2021」これにて終了させていただきます。皆さんどうもありがとうございました。
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