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『FF6』のバグを令和になっても探し続ける男──「縛りプレイ記録更新のために本職のゲームデバッガーに」狂気に満ちたやりこみゲーマーの生き様に迫る

ニコニコニュース / 2021年7月21日 11時0分

 『ファイナルファンタジーVI』(『FF6』)のバグ探しに人生を捧げている男がいる。

 その熱意はすさまじく、7年以上に渡りゲームをやりこみ続けるだけでなく、新たなバグを発見する技術を磨くため、ソフトウェアテストの専門会社に入社し、本職のゲームのデバッガーにまでなってしまった

 男の名はエディ@em0141029)。「いかに少ない歩数でゲームをクリアできるか」を追求する“低歩数クリア”という縛りプレイに挑み続けている動画投稿者だ。

 2014年よりスタートしたエディ氏の挑戦であるが、2021年の現在においても完走に至ってない。

 なぜか?

 本職のデバッガーとなった結果、エディ氏自身のバグを見つけ出す技術が向上し、つぎつぎと新たなバグを見つけ続けているからに他ならない。

 バグを発見し記録更新。いちからプレイし直す(再走)。再びバグを発見する。再走……をくり返しているわけだ。

エディ氏が挑戦する2014年以前の最少記録は8484歩であった。そこからバグを見つけ続け現在では1538歩(予定)まで記録を縮めている。
(画像は「【1986歩】FF6 極限低歩数攻略 season2 part16【ゆっくり実況】」より)
いまや記録更新のお知らせは動画リシーズの定番に。
(画像は「【1986歩】FF6 極限低歩数攻略 season2 part16【ゆっくり実況】」より)

 “低歩数クリア”では、最短ルートを進むためのチャート作りが肝と言っていい。度重なるバグの発見により、歩数調査やチャート作りは複雑化。ときに2ヵ月や8ヵ月など、数ヵ月単位での時間がかかることもあるという。

 そんな膨大な時間と労力を費やす作業をくり返す……。普通に考えれば苦行以外のなにものでもない。

 自らが発見したバグの影響により再走が決まった瞬間の心境を聞くと、エディ氏はこのように語ってくれた。

「再走が決まった瞬間は頭を抱えてしまいます」
「チャート作りはめちゃくちゃ大変ですし、実際に再走するのも辛い。辛いことだらけではあります。なんでやってるんだろう……」

動画投稿者のエディ氏。

 なぜそんな想いをしてまで『FF6』をやりこみ続けるのか。バグを探し続けるのか。そのモチベーションはどこにあるのか。果たして何を目指しているのか。

 幼少期からのゲーム遍歴や『FF6』との出会い、低歩数クリアのどこが楽しくてどこが辛いのか。さまざまな角度からエディ氏の頭の中にアプローチを試みた。

取材・文/竹中プレジデント

『FF6』低歩数クリア記録更新のためにゲームのデバッガ―に

──エディさんと言えば、7年前から低歩数クリアの記録更新を目指す「FF6 極限低歩数攻略」を走り続けていて、多くのバグを発見して記録を更新し続けています。そして、仕事でもゲームのバグを探しているとお聞きしました。

エディ:
 そうですね。いわゆるデバッガ―、正確には
テスターという仕事をやっています。そもそもその仕事を始めたのも『FF6』が影響なんですよ

──えっ?

エディ:
 この仕事を始めたのが2016年前後なんですが、その当時、『FF6』に関する新たなバグが発見され始めていて、低歩数クリアにおいてもどんどん記録が更新可能になっていくだろうなと感じていたんです。

 そのうえで、記録を更新していくには自分でバグを見つける技術を磨くしかない。そのためにテスターの仕事をやってみようと

──バグを見つけるために。

エディ:
 そういう勘を養いたくて。実際に、仕事を始めてから“シドタイマー”や“テント回避”【※】などのバグを見つけられたので、効果は出ていると思います。

※シドタイマーの詳細はこちら(ニコニコ大百科「シドタイマー」)。テント回避の詳細はこちら(ニコニコ大百科「テント回避」

──それは仕事を通して、ゲームの仕組みやバグに対する知識が身についたことが影響しているんですか?

エディ:
 正直なところ勘なんです。

──勘?

エディ:
 はい。特別な知識があって、「ここにバグがあるだろう」と予測できるわけではなく、経験から「なんとなくここかな?」っていろいろ探してみると見つかるようになった感じです。

──へえ……。業務的にはどんなことを?

エディ:
 基本的には、ゲームの要素に対してさまざまなチェック項目があって、例えば“ショップで売っているアイテムがちゃんと手に入るか”をひたすらチェックしていくんです。確認していくなかで、もしバグがあればその内容を報告するというのが仕事内容ですね。

 それとは別に、チェック項目はとくに設けられず、好きにプレイするフリーテスト形式のものもあって。最近はどちらかというと、フリーテストを任されることが増えています。

──そのあたりってエディさんの技術が評価されてだったり?

エディ:
 どうなんでしょうね……技術を認められてフリーテストを任せてもらえるようになったと思いたいです。

──ちなみに、「FF6 極限低歩数攻略」のエディさんだっていうのは社内で認知されているんですか?

エディ:
 今ではそうですね。徐々にバレていきました。

──会社を受ける際の履歴書に「FF6 極限低歩数攻略」やってます、とは書かなかったんですか? アピールポイントになりそうですが。

エディ:
 さすがにそれはできませんでした(笑)。

“飛空艇バグ”と“幻獣防衛戦離脱”の発見で一気に複雑化した低歩数クリアのチャート

──今のエディさんの生活って、仕事でバグ探し、プライベートでもバグ探しと、常にバグというものに向き合っているじゃないですか。例えば、カレーが好きでも365日3食カレーを食べたら飽きちゃうと思うんですよ。飽きないんですか?

エディ:
 飽きないです。低歩数クリアって、何か新しい発見があると、それだけで思いっきりチャートが変わるんですよ。それがおもしろくて。

 そうだ、大したものではないのですが、これまでの歩数の記録を簡単にまとめてきたんです。

──おお、ありがとうございます!

歩数の記録、更新された日時、更新の要因などがまとまっている歩数の変遷。

──理解が追い付かない言葉が並んでいますね……(笑)。

エディ:
 ですよね(笑)。

──低歩数クリアの歴史の中で、とくに「これは歴史が動いた」という転機はどのあたりなんでしょう。

エディ:
 ひとつはやはり“飛空艇バグ”の発見だと思います。

──“飛空艇バグ”……とは?

エディ:
 『FF6』では、戦闘で全滅してゲームオーバーになると、最後にセーブしたデータから再開されるのですが、“「魔大陸」というダンジョンから飛空艇に戻る → 飛空艇を操縦する → 再び魔大陸に戻る → 全滅する”という手順でゲームオーバーとなった場合、最後のセーブ時点での飛空艇の有無に関係なく、飛空艇に乗った状態でゲームが再開されます。

 この現象を“飛空艇バグ“”と呼んでいます。これによって、ゲーム序盤から好きな場所へ行くことが可能となり、多くのイベントを飛ばせるようになりました

──なるほど(わからん)。とにかくすごい革命が起きたって認識で大丈夫でしょうか。

エディ:
 大丈夫です。低歩数クリアは余計な1歩を歩いてしまったらそれで終わり。逆を言えば、最短距離でしか移動できないので、チャートはすぐ固まる……はずなんですが、この“飛空艇バグ”が発見されたことで、いろいろな場所へ行けるようになり、チャートが複雑化しました

 そして、“飛空艇バグ”を取り入れたチャートを組んだ結果、それまでの最少歩数記録であった8484歩から、最終的に5193歩でクリアができるように。これが「FF6 極限低歩数攻略」のseason1の記録になります。

──それが今では1538歩とさらに少なくなっていて、しかも記録が更新されるペースも心なしか上がっているような……。

エディ:
 上がっていると思います。要因として、恐らく“幻獣防衛戦離脱”がターニングポイントになっています。

──“幻獣防衛戦離脱”……ですか。

エディ:
 この“幻獣防衛戦離脱”により、パーティを分割して複数の場所で動かせるようになり、ほぼ歩数を増やさずに移動が可能になりました。

 裏を返せば、どのチャートにおいても歩数はそこまで変わらない。それにより、パッと考えただけではどのチャートを進めば歩数が少なくなるのかわからなくなってしまったんです。

──なるほど(わからん)。チャート作りの複雑化に加えて、その調査じたいの難易度も上がってしまったと。

エディ:
 はい。歩数調査にひたすら時間がかかっています。

 “飛空艇バグ”を組みこんでの歩数調査は約2ヵ月でしたが、“幻獣防衛戦離脱”を組みこんでの歩数調査は8ヵ月かかってしまいました。加えて、そこから何度もチャートの改修をくり返してます。

──調べるだけで8ヵ月も……。ご用意いただいたメモのなかに歩数「0」という記録があるのですがこれはいったい?

エディ:
 これは“52回全滅バグ”が発見された結果、いきなりエンディングを見られるというトンデモナイもので、私も念のために試してみたところ最終的に0歩でクリアできてしまったんです。

 0歩……そう、0歩でクリアしてしまって……。どうあがいても歩数更新できない記録が出てしまって、このときはなんとも言えない虚しさと悲しさがこみあげてきました。

──いま動画で挑戦中のものとはなにが違うんでしょう。

エディ:
 私もあまり言葉を正確に理解できているわけではないのですが、“52回全滅バグ”はいわゆるメモリ破壊バグにあたるものなんです。全然関係ない領域を浸食して、関係ない値で埋め尽くしてさまざまな不具合を起こす。

 今やっているシリーズは、そういうメモリ破壊系のものは除外するルールでやっているつもりです。最近になって、PS版でも0歩でクリア可能な手法が見つかって、禁止にしておいて本当によかったなと……。

──なるほど(わからん)。レギュレーションが違う感じなんですね。

 これまでの変遷を見ていると、何度も歩数更新がされていて、恐らくその度にチャートを作り直したり、プレイし直したりされてきたと思うんですが、歩数更新が確定した瞬間のお気持ちってどんな感じなんでしょうか。

エディ:
 再走が決まった瞬間は頭を抱えてしまいます。「これは困ったことになったぞ……」と。でも見つけられたことは誇らしい。少し不思議な感覚です。

 辛くもあり、歩数を減らせたのはうれしい……でもやっぱり辛いですね。

 チャート作りはめちゃくちゃ大変ですし、実際に再走するのも辛い。辛いことだらけではあります。なんでやってるんだろう……。

──逆に低歩数攻略をしているなかで楽しい瞬間っていつなんですか?

エディ:
 ひたすら調査にのめりこんで新しいバグを見つけることじたい楽しいですし、それによって一気に変貌するチャートもすごくおもしろくて好きなんです。

──新たなバグを探すこと、発見することが楽しさの根幹にある。

エディ:
 そうだと思います。だから再走することでの辛さよりも、調査優先になっているのかなと。『FF6』で病んだ心を『FF6』で癒すみたいな感覚なのかもしれません

“リセット禁止区間”という可能なら二度とやりたくない苦行

──7年間近くに渡り「FF6 極限低歩数攻略」に挑み続けているエディさんですが、これまでのやりこみプレイの中で一番苦労したパートだと何が思い浮かぶのでしょうか。

エディ:
 “リセット禁止区間”と言って、要はメモリを維持するために電源を落としてはいけない区間があるんですが、本当に大変で……。

 歩数的には大した距離ではないのですが、手間のかかるワープが絡んでいるせいで、時間がものすごくかかるんです。

(画像は「【1988歩】FF6 極限低歩数攻略 season2 part14【ゆっくり実況】」より)
(画像は「【1988歩】FF6 極限低歩数攻略 season2 part14【ゆっくり実況】」より)

──どのくらい時間がかかるんでしょう?

エディ:
 1日8時間程度やったとしても2、3日くらいはかかります

──ええっ! そんなに!?

エディ:
 少しでもミスれば区間の手前からやり直しですし、ゲームをプレイしていないときも、ちょっとしたはずみで電源が落ちないか気が気じゃありません。

──ちなみに実際にプレイした際には何回くらいでこの区間を抜けられたんでしょう。

エディ:
 失敗……じつは3回あります。

──3回も……。

エディ:
 失敗したタイミングによって傷が浅いか深いかは違うんですが、1日目で失敗したのが2回、3日目で失敗したのが1回ですね。

 2、3日かかるということは土日じゃ足りないので、祝日を利用するんですが、失敗してしまったらその連休中にやった作業は無に帰ってしまうので虚無感がすごいです。辛い。

 ミスった瞬間に「なんのためにがんばってきたんだろう……」と考えてしまう。できればもうやりたくありません。

──そういうのって動画になっていない部分ですよね。いまお話した失敗含めて、動画の裏側にあたる作業ってトータルでどのくらい時間がかかっているんですか?

エディ:
 具体的に何時間とお答えするのは難しいです。

 というのも、実際のプレイ時間よりもどうチャートを組むか考えている時間のほうが遥かに長いんです。通勤時間をはじめ普段からどうすれば歩数を少なくできるかずっと考えているので……。

──チャートってどうやって作っているんでしょう。

エディ:
 どう説明すればいいのか難しいですね……。

 まず、バグなりテクニックなりが発見されたら、その性質を一通り調べて、ゲーム内のどこで使えるか、歩数を更新できるような場所を洗い出していくんです。

──ふむふむ。歩数というのは実際に歩いて計測しているんでしょうか。

エディ:
 どこでミスっているかわからないので実際にゲーム上でカウントしています

 洗い出し終えたら、新テクニックを組みこんだチャートを改めて組み、それによる影響を調べながら、仮チャートを完成させます。その後はチャート通りに進められるか通しでプレイして確認します。

 じつは通しで確認作業をするようになったのには理由がありまして……。

──ほほう。その理由とは?

エディ:
 あれは動画投稿を始めたてのころ、500歩くらい歩数をカットできるテクニックを見つけて。それを組みこんだチャートを作ったんですが、そのときはまだ通しで確認作業をしていなかったんです。

 もちろんある程度は調べていたのですが、「ここまで行けた! じゃあもう大丈夫だろう」と高をくくってしまっていて。結果、ゲーム終盤のほうで“こそドロいっぴきオオカミ”というどうしても突破できないポイントがでてきてしまいました

──それは辛い……。

エディ:
 トラウマでした。ほかの再走とは違い、完全に自分のミスでしたので悔いが大きかったです。それ以来、絶対に通し確認はするようにしています。

(画像は「【5219歩】FF6 極限低歩数攻略 告知事項【ゆっくり実況】」より)

エディさんと『FF6』の出会い

──それだけ人生を捧げている『FF6』を初めてプレイしたのっていつくらいなのでしょう。

エディ:
 初めてプレイしたのは2011年、大学生のときでした。

──1994年に発売された『FF6』をなぜそのタイミングでプレイされたんですか?

エディ:
 大学受験中に『FF13』が発売されて、それが私の初『FF』だったんです。

 当時、大学受験のために塾に通っていたのですが、その道中のビックカメラで『FF13』のすごく綺麗な発売告知の絵が気になって、受験期間ではあったんですが購入してプレイしてみたんです。

 プレイしてみたら、めちゃくちゃおもしろくて。それで『FF』シリーズをイチから遊んでみようと。PS3のゲームアーカイブスでナンバリング1から順々にクリアしていきました。

 『FF3』だけはアーカイブスになかったので、1、2、4、5、6とプレイしていって……6で引っかかったんです

──引っかかったとは?

エディ:
 私はPS版をプレイしたのですが、おまけ要素として“やりこみじいさん”という機能があったんです

 クリア時間やレベルなど、ゲームクリア時にさまざまな項目に対してやりこみ度を判定してくれる。その中に歩数もありました。そんな機能があったらやりこみたくなっちゃうじゃないですか。

 やりこみじいさんが少し特殊だったのは、最高記録だけではなく最低記録も記録してくれるんです。どれだけ低レベルでクリアしたか、いかにお金を稼がずにクリアしたか、少ない歩数でクリアしたかなど、自分にとっては新鮮な要素に感じました。

──そこで低歩数という概念と出会ったと。

エディ:
 はい。ただ、もともとはいかに強く育てられるかを考えてプレイするタイプで、最強キャラ育成に力を注いでいました。

 ちょっと記憶が曖昧なんですが、低歩数クリアに初めて手を出したのは、恐らく2011年か2012年くらい、最強育成がひと通り終わってから、やりこみじいさんの他のいろいろな記録に挑戦しようとしたタイミングだったと思います。

──2011年に初めてプレイしてから『FF6』への熱って高いままなんですか?

エディ:
 出会ってから今までずっとマックスだと思います。こう惹きつけられたというか、まるで何かに取り憑かれてしまったくらいに夢中に。

 その結果、『FF』シリーズをひと通りプレイする予定だったのが『FF7』で止まってしまって。一応、『FF15』は買って遊んだんですが、8~14に関してはまだ触れてもいないんですよ。


『FF6』は圧倒的にドハマりしたゲーム

──ちょっと時計を巻き戻して、エディさんが初めてゲームに触れたころのお話を聞かせてください。

エディ:
 私が記憶している限りだと小学生になる前から、5歳くらいにはゲームに触れていました。

 と言っても、当時は自分で遊ぶより親父がプレイしているのを見る側のほうが多かったです。

──最初はお父さんのゲームプレイを見ていた。

エディ:
 はい。それが楽しかった。自分は下手でクリアできなかったので、親父が『スーパードンキーコング2』をプレイしているところを見るのがおもしろかったんです。

(画像はAmazon「スーパードンキーコング2 ディクシー&ディディー」より)

──エディさんのお父さんってゲーマーだったんですか?

エディ:
 うーん、どうなんでしょうね。当時の私から見たらプレイもうまくてゲームもたくさん遊んでいたのですが、いまではゲームを全然プレイしていないのでゲーマーではないのかな?

──なるほど。エディさん自身が初めて「ハマったなあ」と感じたゲームって覚えてらっしゃいますか?

エディ:
 難しいですね……自分のなかで「ハマったゲーム」の基準がわからなくなっているんです。

 『FF6』くらいなのか、それとも「おもしろくてある程度時間をかけてプレイした」の範疇かなのか。うーん……。

──『FF6』はやはり別格。

エディ:
 はい。もう圧倒的ドハマりゲームですね『FF6』は

──では少し質問を変えて、小さいころにプレイして印象に残っているゲームだといかがでしょう。

エディ:
 けっこう昔の話なので記憶が曖昧なんですが、小学生になったタイミングかそのちょっと前に遊んだ『スーパーマリオ ヨッシーアイランド』は印象に残っています。

 ステージをクリアすると100点満点で採点されるシステムで、100点を取るためにがんばっていました。すごく楽しかった記憶があります。ああ、思い返すと、それが初めてゲームにハマった経験なのかもしれません。

──ふむふむ。明確な数値として評価が可視化されるというのがエディさんのハマりポイントなのかもしれませんね。

(画像はAmazon「スーパーマリオ ヨッシーアイランド 」より)

“飛空艇バグ”との出会い

──いろいろな記録があるなかで低歩数にのめりこんでいったのって何か理由があったんですか?

エディ:
 うーん……多分、珍しかったからだと思います。クリアタイムというのは多くのゲームでありますが、歩数というのは珍しく感じて。そこに惹かれたのかなあと。

 じつは、やりこみじいさんのクリアタイムの項目も少し手を出していたんですよ。でも低歩数ほどのめりこめなかったんです。

──初めて低歩数に挑戦したときってどんな感じだったんでしょう。

エディ:
 2011年くらいでしょうか、ほかの方が作ったチャートをなぞっただけなんですけど、当時の最少記録の8484歩でクリアすることはできました。

 低歩数に関しては、そこでひと区切りがついていたんです。“飛空艇バグ”の存在を発見するまでは……

──噂の“飛空艇バグ”……そもそもどのような経緯で知ったんです?

エディ:
 私が存在を知ったのは、2013年の11月か12月くらいだったと思います。発見者について私は詳しくは知らないのですが、海外のどなたかが2011年くらいに見つけたらしくて。

 『FF6』のやりこみに関する新しいネタがないか調べていたときに、なにやら“飛空艇バグ”が発見されていて、なんだこれはと調べていったら大幅に記録更新できるじゃないか! と

──ふむふむ。ちなみに初めてバグという存在を知った、出会ったのっていつくらいだったんでしょう。

エディ:
 初めて触れたのは恐らく『ポケモン』のセレクトバグだと思います。

 当時はいまのようにSNSが整備されている時代じゃないですから、聞き伝(ききづて)でどうやら道具の7番目でセレクトを押すとレベル100になるみたいだぞ……みたいな感じで誰かから教えてもらって。

──『ポケモン』でレベル100に……っていうのは自分の周りでもありました。「裏技だ!」って学校で噂が流れてきて。

エディ:
 そうそう。いま振り返って、そういえばあれってバグだったよなってなるだけで、当時はバグなんてまったく意識していなかったので、出会いというとちょっと違う気もするんですよね。

 初めて意図的にバグを使ったとなると、初めて低歩数クリアをしたときの“すり抜けバグ”でしょうか。“モグタン将軍”【※】の名前でも有名ですね。

※モグタン将軍の詳細はこちら(ニコニコ大百科「モグタン将軍」

──意識してバグを発生させる瞬間ってどんな感覚なんですか?

エディ:
 なんでしょう……悪いことをしているわけなんですが、普通の人がやらないことをやっているなんとも言えない感覚でした。

──“飛空艇バグ”の存在を知り、それを組みこんで新たなチャートを作っていったわけですが、当時はどんな想いで調査していたんでしょう。

エディ:
 飛空艇バグに関しては、駆者が存在しなかったのでチャートがどうなるのかまったくわからない。完全に未知の領域でした。そんなチャートを開拓してく楽しみがありましたね。

おやつさん、『FF6』に戻って来いよ

──「極限低歩数攻略」が動画投稿デビューだったエディさんですが、低歩数クリアの模様を動画化しようと思い至ったのにはどのようなきっかけがあったのでしょう。

エディ:
 “飛空艇バグ”の存在を知り、それを使って低歩数記録を更新しようと調査するなかで、最初は“Field of Dreams”というやりこみ情報を書きこむ古いネット掲示板に情報を書きこんでいたんです。「“飛空艇バグ”というのがあるみたいです」「これを使えば低歩数記録を更新できるよ」と。

 でも、掲示板に人が少なかったこともあり、そこに書きこんでも知ってもらえてないなという感覚があって。もっといろいろな人に“飛空艇バグ”や低歩数記録を更新できるってしってもらいたい。そう思って動画投稿をやってみようと思いました

──投稿してみての反響ってどうでした?

エディ:
 当時どうだったかな……(しばらく考える)。ある程度驚かれていたとは思います。

 いきなり変なやつが出てきて、よくわからないバグを使ってこれまでの記録を大幅に更新するよっていう動画でしたので、「何を言っているんだ、こいつは」みたいな見えかただったんじゃないでしょうか。

──「何を言っているんだ、こいつは」ですか(笑)。

エディ:
 私としては、そのチャートを進めるうえで必要な情報をしっかりと出したうえで、できるだけわかりやすく説明したいと考えているんですが……。

──視聴者もすごいのはわかるけど理解はできない、みたいな感覚で楽しんでる雰囲気を感じます。動画を作る際に影響を受けた方がいたら教えていただきたいです。

エディ:
 おやつさんですね。彼の編集スタイルは非常にわかりやすくて、参考にさせていただきました。

──おお、おやつさん。以前おやつさんにインタビュー(記事はこちら)させていただいた際に、「動画作りのうえで影響を受けた方」のひとりにエディさんを挙げていらっしゃったんですよ。

エディ:
 動画を投稿し始めたころから、こんなすごい人がいるんだと憧れていた方なのでめちゃくちゃうれしいです! 

 私が「極限低歩数攻略」を始めた同時期に『FF6』のやりこみプレイ動画を投稿していたので、じつはちょっとした目標でもありました。

──おやつさんとエディさんって直接的なやりとりじたいはあるんですか?

エディ:
 ダダルマー戦回避の発覚を皮切りに、この戦闘回避できるよ~みたいなちょっかいをちょくちょく出したり、TAS制作の相談をしたりしていました。

 おやつさんが『FF6』で0勝クリアを達成する際に、「サブフレームリセットからのアイテム溢れを応用してボスのユミール回避ができるよ」みたいなことを提示させていただいたことも。この0勝クリア達成以降、やりとりは途絶えている感じです。

(画像は「【記録更新】ひTASら楽してFF6【0勝クリア】」より)
(画像は「【記録更新】ひTASら楽してFF6【0勝クリア】」より)

──まさに狂人の戯れ……。そうだ。せっかくですので、おやつさんになにかメッセージがあれば記事を通してお届けさせていただければと。

エディ:
 メッセージですか。おやつさん、『FF6』で0勝を達成してから離れてしまっているので、戻ってこいよと。『FF6』に戻って来いよと伝えたいですね(笑)。

──ここ記事ではめちゃくちゃ強調しておきます(笑)。

※取材後日、おやつさんのTwitterで「ひたすら楽してFF6のゆっくり実況版」が始まると告知があった。戻ってきた! おやつさんが『FF6』に戻ってきた!

──……とすいません。話を本筋に戻させていただいて。エディさんの動画投稿って、動画を通じて「チャートの発表、お披露目」という意味合いが大きいのでしょうか。お話を聞いていると、「誰かいっしょに低歩数攻略しようよ」よりは、学会での発表に近い印象を受けたのですが。

エディ:
 正直なところ、「いっしょにやってほしい」想いはあります。

 低歩数クリアに関して調査したり発信したりしているのってほぼ私ひとりなので、寂しい気持ちはありますし、たまに検索して実際にやっている方を見つけるとものすごくうれしい気持ちになるんです。

 ただ、けっこう辛い旅になるので、無理強いはできない……。見ていただけるだけでも本当にありがたいと思っています。

──低歩数攻略コミュニティみたいなのがあるわけではないんですね。

エディ:
 昔(モグタン将軍時代)はありました。さきほども触れた“Field of Dreams”というネット掲示板があって、やりこみについてさまざまな議論がされていました。

 その掲示板は人がいなくなってしまったんですが、いまでも『FF6』のやりこみコミュニティみたいなものはあって、おもしろい現象が見つかったらいっしょに調べてくれる方は何人かいます。ただ、低歩数をメインでやっているのは私くらいなので、基本的に自分で調べて自分で走る感じです。

──そんな孤独な旅をエディさんは10年近く続けている。そのモチベーション維持の原動力っていったいどこにあるんですか?

エディ:
 なんだろう……未発見だったバグやテクニックを見つけて最少歩数記録を減らせるようになったと確信できた瞬間って、なんとも言えない達成感があるんですよ。

──エディさん的には、歩数を減らせた達成感は、完走時の達成感に勝るんでしょうか。

エディ:
 いちばんはバグを発見できたときです。ただ、これについては完走できたことがほとんどないので、私が完走の喜びを知らないだけなのかもしれません。

──おお……。でも動画で一度完走されているじゃないですか。そのときの感覚ってどうでした?

エディ:
 そのときは「終わっちゃったな……」と、うれしいよりもさみしい感じでした。

1歩でも歩数を減らしたい……ずっと変わらない目標

──ちょっとした疑問なのですが、エディさんって『FF6』以外のゲームを遊ぶことってあるんですか? これだけやりこんでいたらほかのゲーム触る時間がないのではと思ってしまいます。

エディ:
 動画やTwitterではほとんど『FF6』の情報しか発信していないこともあり、「『FF6』以外やってないんじゃないか」ってよく言われるのですが、そんなことはないです。

 普通にほかのゲームも遊んでいます。最近だと4月下旬に発売された『ニーア レプリカント ver.1.22474487139…』をプレイしました。

 ただ『FF6』をやっていると、ほかのゲームを遊ぶ時間が削られていくというのは事実ですね。「極限低歩数攻略」以外にもやりこみを抱えているので。

──「 飛空艇バグ有りタイムアタック」「飛空艇バグ有り高ステータスデータ作成」「低やりこみ度攻略」、動画内ですべて再走が決定したと発表されていました。やはりこれらはすべてやりきるつもりで……?

エディ:
 もちろんやるつもりです! ただ想定した以上に「極限低歩数攻略」が長引いているので、いつ終わるんだろうなと考えることはあります。

──ふと気になったんですが、エディさんが動画化している4つのやりこみシリーズの中でもっとも難易度が高いものはどのやりこみになるんでしょうか。

エディ:
 チャートを全然組めていない現状での所感ですが、恐らく「飛空艇バグ有り高ステータスデータ作成」、いわゆる最強育成でしょうか。

 「極限低歩数攻略」よりもチャートが複雑化しそうな気がしているんです。

──「極限低歩数攻略」よりもですか!? ひえ……それは想像を絶するものになりそうですね。お話をいろいろ聞いてきて、『FF6』がエディさんの人生に与えた影響の大きさがひしひしと伝わってきます。

エディ:
 本当に大きいです。

 もし『FF6』と出会ってなければまず間違いなく、デバッガーではなく別のことを仕事にしていたでしょうね。『FF6』をやらない分、もっと他のゲームやゲーム以外の趣味にも時間を割くことができたでしょう。

 もしかしたら、『FF6』と出会わないほうがいい人生だったのかもしれません。だとしてもFF6にハマったことを後悔することは決してないです

──まさに人生を変えた一作で……。最後に、低歩数クリアに挑戦し出してかれこれ10年近くになると思うのですが、そんなエディさんのいまの目標を教えていただけますか。

エディ:
 ずっと同じ目標を持っていて、1歩でも歩数を減らしたい……それだけです。ずっと変わらない

 記録更新が確定して、再走やチャート改修が発生すると辛いのですが、やはり発見できた、歩数を減らせた楽しさがあるんです。

(了)


 『FF6』に出会い、魅了され、低歩数クリアの記録更新のため自身が本職のゲームデバッガーにまでなった。まさにバグ探しに人生を捧げていると言って過言ではないエディ氏。

 しかしそれは茨の道でもある。バグを見つけたら見つけたで、数ヵ月に及ぶチャート作りが待っている。自分で(チャートを)作って、それを自分で(バグを発見して)壊す。そのくり返しだ。

 こんなの苦行としか言い表せないだろう。本人も「辛い」「なんでやっているんだろう……」と、自身の行動を不思議に思うくらいである。

 しかしエディ氏の歩みは止まらない。「大変」「辛い」以上に、バグを発見できたときの、歩数を減らせたときの楽しさが彼の足を前に進め続けている。

 「1歩でも歩数を減らしたい」。その想いを胸に、エディ氏は今日も新たなバグを探し続ける。


【おまけ】エディさんが縛りプレイ時に使用している資料データ

 じつは本取材において、エディ氏が普段使っているいくつかの資料をご用意いただいていた。

 しかし、丁寧に説明をしていただいたにも関わらず筆者の理解が追いつかず、恐らく多くの読者にとっても頭が「???」で埋まってしまうだろうと予測できたため、本文中での記載は見送る判断をとらせていただいたのだ。

 しかし、最後まで読み進めてくれた読者であるなら、きっと楽しんでくれるハズ。おまけとしてまとめておくので、興味のある方はぜひ楽しんでいただきたい。

■「EventScriptTxt」

 海外の方が作成した解析データ。『FF6』におけるすべてのイベント処理が記載されている。ゲーム中のイベントでどのような処理が行われているかを調べるのに使う。

■「ff6_snes_event_bits」

 海外の方が作成した解析データ。『FF6』で使われているイベントフラグの一覧。「EventScriptTxt」と併せて、ゲーム中のイベントでどのようなフラグが立っているのかを調べるのに使う。

■「nazo」

 さまざまな調査データがごちゃ混ぜになっているファイル。いろいろ謎なデータがいっぱいなので「nazo」になった。

 低歩数クリアの際におもに使用するのは、クリア予定歩数の算出に使用する「歩数とか…」、低歩数のチャートが書き下されている「メモ」、テントの使用回数の算出に使用する「テント数」。

■「NPCバグイベント」

 『FF6』には本来は触れることのできないNPCが数多く存在するが、それらもなぜか触れた際のイベント情報が設定されており、大抵バグっている。

 このようなNPCが持つバグったイベントデータをリストアップしたファイル。リストアップしたはいいけど、ほとんどがフリーズしたり、バグ利用でも触れられないNPCばかりなので、使い道がない。

■「windowcolor」

 52回全滅バグを利用するToolAssistedSpeedrun作成の際に使用した、ウィンドウカラー変更の最適化データ。

 ウィンドウカラーに書きこむコードの候補毎に、カラー変更に何フレームかかるのかを調べるのに使った。

■「ジャボテンダー砂漠マップ」

 GBA版の追加モンスター「ジャボテンダー」撃破後に表示される専用マップの調査データ。どこに何があるのかをマッピングしたものが「砂漠マップ」のシート。

 マップ内で採取できるバグアイテムのデータが「バグアイテムデータ」のシートに記載されている。

■「メインメンバーOBJ生成・消去処理一覧」

 『FF6』のプレイアブルキャラクターのオブジェクトが、ゲーム中のどのタイミングで生成されたり、消去されたりするのかを「EventScriptTxt」から抜き出してリストアップしたもの。「このキャラのオブジェクトどのタイミングで生成されるんだっけ?」ってなったときに使う。

■「メインメンバー配属・除外処理一覧」

 『FF6』のプレイアブルキャラクターが、ゲーム中のどのタイミングでパーティに入ったり抜けたりするのかを「EventScriptTxt」から抜き出してリストアップしたもの。「このキャラどこでパーティに入るんだっけ?」ってなったときに使う。

■「ようくわからん」

 検証した何かのデータをとりあえず保存しておくために作ったファイル。保存したはいいけど、見返してもよくわからなくなったのでこんな名前になった。

 「よくわからん」と打とうとして衍字(間違って入った不要の字)が発生したが、めんどうなので修正していない。平たく言えばメモ書き。

■「乱数」

 『FF6』で使われている乱数テーブルを表にしたものが入っている。「C0FD00」のシートにあるものがその乱数テーブル。「C0FD00(10進数)」が上の内容を10進数に変換したもの。

 ほかは何かの調査に使用した名残だと思うが、何をしていたのかは覚えていない。乱数が関係する様々な要素を調べる際に使う。

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