連載「超歌舞伎 その軌跡(キセキ)と、これから」第十二回
ニコニコニュース / 2021年7月23日 17時0分
2016年の初演より「超歌舞伎」の脚本を担当している松岡亮氏が制作の裏側や秘話をお届けする連載の第十二回です。(第十一回はこちら)
「超歌舞伎」をご覧頂いたことがある方も、聞いたことはあるけれどまだ観たことはない! という方も、本連載を通じて、伝統と最新技術が融合した作品「超歌舞伎」に興味を持っていただければと思います。
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京都・南座にて9月3日(金)〜9月26日(日)に「九月南座超歌舞伎」の上演が決定! チケットは電話・Webにて受付中!
・九月南座超歌舞伎公式サイト
https://chokabuki.jp/minamiza/
獅童さんとミクさんが宙を飛んだ「八月南座超歌舞伎」
文/松岡亮
2019年の八月南座超歌舞伎公演が正式に決定したのちに、大きな課題となったのは、初音ミクさんをどのような方法で、南座の舞台に立っていただくかという問題でした。
ご存じのとおり、幕張での超歌舞伎の場合は、〝透過(とうか)スクリーン〟と呼ばれる透明なスクリーンを用いて、ミクさんに舞台に立っていただいています。これと同じ方法で、南座の舞台にも立っていただけるのかどうか、2019年3月に南座で検証実験を行いました。
そこで判明したのは、幕張メッセイベントホールと南座では、舞台と客席の距離やバックステージの問題もあり、透過スクリーンを用いると、あまりにも眩(まぶ)しすぎて、舞台を正視できないということでした。
特に南座2階最前列の特別席は、本来であれば舞台全体、花道を見わたすことのできる、一番見やすい席なのですが、この特別席が最も眩しく、私自身も座ってみたのですが、とても舞台を直視できない光量に、目がクラクラし、この方法が現実的ではないことを、身をもって体験しました。
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こうした結果をふまえて、透過スクリーンではなく、リアスクリーンを用いて、ミクさんに南座の舞台に立っていただくこととなりました。とはいえ、リアスクリーンの場合、客席で眩しく感じることは無くなるものの、白いスクリーンの生地の色目が、ミクさんのリアル感を消失させてしまうのでは?という新たな課題が生じました。
時間的な問題もあり、リアスクリーンを南座の舞台に設置して、再び検証実験するという機会もなく、ミクさんの南座初お目見得が残念な形になってしまったらどうしようという不安感が、公演が近づくにつれて高まっていきました。
南座の舞台に立った初音ミクさん
そんななか、南座超歌舞伎公演のための仕込み作業が始まり、私も南座でのお稽古が開始される前日に劇場に入りました。すでに舞台では、ミクさんがおひとりでのお稽古を始めていらっしゃいましたが、リアスクリーンを用いる上での不安点は見事に解消されていました。
この問題を乗り越えることができたのは、ひとえに映像演出のスタッフの皆さんと、2年目から超歌舞伎の照明プランを担当して下さっている高山晴彦さんの連携によるものが大きかったと思います。
歌舞伎ならではの照明は、実はミクさんを消してしまう諸刃の剣であり、超歌舞伎はまさに照明家泣かせの舞台であるわけですが、歌舞伎らしい照明プランを立てつつも、ミクさんをどう際立たせるか、リアスクリーンの生地の色目をどう消していくか、ということを念頭に置いた、高山さんの照明術のお蔭で、ミクさんは幕張の舞台と全くそん色ない形で、南座の舞台に立つことができたと言っても過言ではありません。
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「宙乗り」への挑戦
さて、南座超歌舞伎公演の話題のひとつは、中村獅童さんとミクさんとの宙乗りでした。幕張メッセでは実現できない演出をという思いから、南座では宙乗り演出を取り入れることとなりましたが、ではどのような形でおふたりに宙乗りをしてもらうかを議題にした演出ミーティングでは、いつものように各セクションのスタッフから、さまざまな意見が出されました。
最終的にもっとも現実的なプランとして上げられた、大凧にLEDパネルを据え付け、獅童さん、ミクさんに宙乗りをしていただくという演出が採用されました。ミーティングの席上では、この手法が妙手(みょうしゅ)なのか奇手(きしゅ)なのか、判断がつきませんでしたが、南座でのテスト飛行を見て、全く違和感なく見ることができ、こちらもホッとひと安心したことが思い出されます。
そしてその数日後には、獅童さんも衣裳をつけて、ミクさんとのテスト飛行を行いましたが、実は獅童さんは、どちらかというと高所が得意ではなく、テスト飛行でも「これ、怖いね」と仰っていました。しかし、いざ本番の舞台となると、古今無双の英雄である忠信役になりきり、大凧から身を乗り出すようにして、桜色のペンライトを振ってお客様をあおりにあおり、むしろ我々スタッフの方がハラハラさせられました。
この宙乗り演出の反省点は、「なぜ忠信と美玖姫が宙を飛んでいるのか」という説明が全くなかった点ですが、超歌舞伎ならではの大団円の盛り上がりのなかであれば、説明がなくとも問題なく成立するであろうという確信があったからでもあります。
やや言い訳めきますが、私自身としては、再び花をつけた御神木である千本桜の霊力と、〝数多の人の言の葉〟と〝桜の色の灯火〟の力によって、忠信と美玖姫に宙を飛ぶ力を与えたのだと解釈しています。
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南座超歌舞伎公演終了後に、地元紙である京都新聞の日曜コラム「天眼」で、宗教学者の山折哲雄さんが超歌舞伎を取り上げてくださり、宙乗り演出にも言及してくださいました。
フィナーレ近くの宙乗りのシーンは、まさに場内を駆け巡るライオンのごとき口上、なるほど、「超」とはかくのごときか、と思わせた。……中略……まるで、1万、2万の観衆を集める野外のロックコンサートのありさま、その縮刷版のような光景があらわれたのである。
南座や 炎暑の夏の 昼の夢
出典 京都新聞2019年9月8日
超歌舞伎の噂を聞きつけて、わざわざ南座に足を運んでくださった山折さんの好奇心に驚かされると共に、超歌舞伎の本質をつかれた文章と結びの一句に感服しました。
執筆者プロフィール
松岡 亮(まつおか りょう)
松竹株式会社歌舞伎製作部芸文室所属。2016年から始まった超歌舞伎の全作品の脚本を担当。また、『壽三升景清』で、優れた新作歌舞伎にあたえられる第43回大谷竹次郎賞を受賞。NHKワールドTVで放映中の海外向け歌舞伎紹介番組「KABUKI KOOL」の監修も担う。
■超歌舞伎連載の記事一覧
https://originalnews.nico/tag/超歌舞伎連載
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