[誰のための原発か]検証 テロ対策編<1>―不祥事<上>軽視された脅威、攻撃・盗難から核物質を守る文化「存在したのか」 東京電力柏崎刈羽原発の新潟から問う
新潟日報 / 2024年6月24日 11時55分
https://www.niigata-nippo.co.jp/category/special2024
2001年9月11日の米国同時多発テロ後、世界各国が原子力施設を標的としたテロ対策の強化に動いた。一方、新潟県に立地する柏崎刈羽原発では核物質防護体制の不備が発覚し、テロへの備えを重視していなかった東京電力の体質に県民は大きな衝撃を受けた。テロにとどまらず、ロシアによるウクライナ侵攻ではロシアが原発を占拠。新たな脅威への対応も迫られる。長期企画「誰のための原発か 新潟から問う」の今シリーズでは、国際的な課題となる原発のテロ対策について考える。(6回続きの1)=敬称略=
* [シリーズの一覧を見る](https://www.niigata-nippo.co.jp/category/special2024)
「原子力部門は組織として核物質防護を重要視していなかった」。世間が仕事納めとなった2023年12月28日、東京電力が公表した報告書の文言である。柏崎刈羽原発で発覚した不祥事の深層要因を再検証したものだ。
不祥事とは運転員が20年9月、他人のIDカードを使って身分を偽り、原発の中枢である中央制御室に不正入室したことが一つ。加えて設備機能の一部喪失により、外部からの不正な侵入を長期間検知できていなかった可能性も露見した。いわゆる「テロ対策不備2事案」だ。
中央制御室のシミュレータを使った柏崎刈羽原発運転員の訓練=2月、刈羽村のBWR運転訓練センター
原発で扱う核物質が悪用されれば、社会に甚大な被害を及ぼす。原発事業者に課せられる核物質防護の責任は重い。
東電は21年9月の改善措置報告書で、テロ対策上、多くの秘密を扱う核防護担当部門と、経営層や他職場との風通しの悪さを課題に挙げた。その後に再検証を行い、たどり着いた結論は核物質防護を軽んじた組織の体質そのものだった。
早朝から柏崎刈羽原発の正門前であいさつを繰り返す稲垣武之所長=柏崎刈羽原発
再検証報告書の公表からまもなく5カ月となる5月22日の早朝。柏崎刈羽原発の正門付近には、大きな声が飛び交っていた。「いってらっしゃーい」「ご安全に」。22年4月に東電が始めたあいさつ運動だ。
テロの標的になり得る原発。正門は、構内で働く人々の身元を確認する最初の場所だ。入構者は車の窓を開けて警備員らと対面し、1人ずつ専用の機器で身分証の確認を受ける。あいさつは対話を促進するだけでなく、入構者が不審者ではないことを自ら証明する側面もある。
この日は午前6時から9時までに約1100台の車が通過した。多くの警備員らの中に、所長の稲垣武之(60)の姿もあった。
構内への入り口であいさつ運動に立つ東京電力柏崎刈羽原発の稲垣武之所長(左)
気さくにあいさつを交わしていた稲垣が表情を引き締め、確認待ちで停車していた東電社員の通勤用バスに乗り込んだ。「イヤホンを装着し、スマホをいじりながら確認を受けるのは良くない」。いつも通り社員に警備業務への協力を呼びかけた。
東電は核物質防護体制の改革に向け、取り組みの評価や経営層への提言を行う第三者機関「核セキュリティ専門家評価委員会」を設けている。その委員長を務める公共政策調査会研究センター長の板橋功(64)は、東電の現状を「社員の意識が変わってきている」と肯定的に捉える。
東電社長らに向かってあいさつする改善措置評価委員会の伊丹俊彦委員長(写真奥中央)=5月、柏崎刈羽原発
一方で柏崎刈羽原発の現場を調査で度々訪れ、一連の事案を検証する中で、テロ対策の不備が「核セキュリティ文化の劣化」と表現されていたことに疑問を抱いたという。
劣化とは元々あったものが失われていくことだとして語る。「そもそも東電に核セキュリティ文化は存在したのだろうか」
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