小泉今日子「さようならもゆっくり味わいたい」映画「とりつくしま」9・6公開
日刊スポーツ / 2024年7月9日 18時0分
作家・東直子氏(60)の同名小説を、娘の東かほり監督(35)が映画化した「とりつくしま」が、9月6日から東京・新宿武蔵野館ほか全国で順次、公開されることが9日、発表された。同作には、小泉今日子(58)が出演。三姉妹である自身のリアルも重ね「たくさんの時間を費やして人は人と関わる。だからさようならもゆっくりと味わいたい。『とりつくしま』は、そういうことをとても丁寧にすてきに描かれている映画です」と評した。
「とりつくしま」は、2007年(平19)に刊行された。人生が終わってしまった人々の前に現れる“とりつくしま係”は「この世に未練はありませんか。あるなら、なにかモノになって戻ることができますよ」と告げる。夫のお気に入りのマグカップになることにした妻、だいすきな青いジャングルジムになった男の子、孫にあげたカメラになった祖母、ピッチャーの息子を見守るため、野球の試合で使うロジンになった母。人生のほんとうの最後に、モノとなって大切な人の側で過ごす時間…既に失われた人生のかけがえのない記憶がよみがえり、切なさと温かさと哀しみ、そして少しのおかしみが滲み出る11篇の短篇の中から「トリケラトプス」「あおいの」「レンズ」「ロージン」の4篇を、オリジナルストーリーを加えて映画化した。
小泉は劇中で、人生が終わってしまった人々の前に現れ、とりつく“モノ”をいっしょに決めていく“とりつくしま係”を演じる。出演にあたり、コメントを発表した。
「父親の葬儀が終わり、娘である私たち三姉妹が火葬場へ向かう黒塗りの車に乗り込むと、なぜか私の目の前に西陽を浴びて金色に光る小さなクモが糸を伝って降りてきた。幻覚? と思い,姉たちの方を見ると二人にも確かにそのクモが見えているようだ。『お父さんだね』と、長姉が小さな声でつぶやき、妹たちは妙に納得したのだった。それから私がピンチに陥ると必ずクモが現れる。現れるだけで何をしてくれるわけでもないのだが、30年も前に死んだ父親といまだに関わっている気分になる。たくさんの時間を費やして人は人と関わる。だからさようならもゆっくりと味わいたい。『とりつくしま』は、そういうことをとても丁寧にすてきに描かれている映画です」
東親子と家人の俵万智氏も、コメントを発表した。
東かほり監督 いのちは本当に突然、うそみたいに消えてしまうことがあります。洗濯物をたたんだり、顔を洗ったり、ドラッグストアで買い物したりしている時にふと、あぁ、もうあの人は日常に存在しないんだと実感したり。思い出す瞬間って、何げなくて残酷です。原作の「とりつくしま」を読んだとき、もしかしたらモノになってそばにいるのかもしれないという救いがありました。10代の私は、母に何度もひどい言葉をぶつけていました。その頃に母が書いていた物語に、今は救われているので、母親は偉大です。とりつく“モノ”が主役のお話しを映画化するにあたり、モノ目線を考えながら横になって動かずじっとしていたら、隣の部屋で父がラジ
オ体操をしていて、ドアの隙間から飛び跳ねる瞬間だけ手が見えたり、頭がみえたり、絶妙に表情が見えなくてもどかしかったんです。でもなんだか見えないからこそ想像してほほ笑ましくもありました。きっとこういうことなんだろうなと思いながら、脚本や撮り方に生かしました。私なりのモノのまなざしや、日常のおかしみも込めています。本公開ができること、心からうれしいです。大切な人や、見守ってくれているかもしれないモノたちを想いながら観ていただけたらしあわせです。たくさんの方に届きますように。
東直子氏 「とりつくしま」は、魂がとりついた「モノ」が主人公だけに、映像化は難しいだろうなと思っていました。でも、役者さんの繊細な表情や声に寄り添うやさしい映像に、自分でも驚くくらい自然に入り込んでいました。亡くなった人の心を想像しながら書いていた時のことをずいぶん思い出しました。ついでに、かほりが生まれてから今日までのことも、ずいぶん思い出しました。映像を通して生と死を疑似体験することで、生きることにも、死ぬことにも、少しだけ心を楽にしてくれる、そんな映画になったのではないかと思います。私はいつかこの映画を「とりつくしま」にして、未来の観客の魂に寄り添ってみたいです。
俵万智氏 本歌取りだ、と思った。元の歌の一部を受け継ぎながら、さらに展開を加える和歌の技法である。「とりつくしま」という原作の卓抜なアイデアを活用しつつ、映像には新しいリアルと味わいが息づいていた。死を扱いながらも、温かくユーモアのある世界。とりつく側の視点をこんなふうに描くのかという驚きとともに、残された側にも踏みこんでいるところが魅力だった。見送ったばかりの父を思うとき、笑顔になれたことにも感謝している。たぶん私ではなく、母の何かにとりついていることだろう。
「とりつくしま」は、社会現象にもなった上田慎一郎監督の18年「カメラを止めるな!」や今泉力哉監督の16年「退屈な日々にさようならを」、1館から全国80館以上に拡大公開された、外山文治監督の23年「茶飲友達」などを手がけた、ENBUゼミナール「シネマプロジェクト」の第11弾作品。ワークショップからキャスティングされた魅力的な俳優たちと共に、商業映画とは一線を画す刺激的な映画を世に届けてきたが「とりつくしま」のワークショップには応募総数399人の中から選ばれた71人のキャストが参加。橋本紡、櫛島想史、小川未祐、磯西真喜、安宅陽子、志村魁ら23人が出演する。
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