“大悪党”浦井健治「役者冥利に尽きる」天保十二年のシェイクスピア主演
日刊スポーツ / 2024年11月21日 7時41分
<情報最前線:エンタメ 舞台>
40代になり、演劇界でますます成熟した存在感を放つ浦井健治(43)。来月、井上ひさしの名作戯曲「天保十二年のシェイクスピア」(12月9日から、東京・日生劇場)に主演し、日本演劇界きっての大悪党を演じる。端正なパブリックイメージとは正反対の役どころだが、「正直、全部共感できる」と明かす。【梅田恵子】
★「あこがれの大役」
作品は、シェークスピア全37作品と、江戸の講談「天保水滸伝」を組み合わせた任侠(にんきょう)活劇。浦井は、生まれながらの劣等感を背景に、王座を手に入れるため政敵を次々と葬っていくリチャード三世を投影した「佐渡の三世次」を演じる。旅籠(はたご)の跡継ぎをめぐる3姉妹の争いに乗じ、言葉巧みに人を陥れながら村を手に入れていく極悪非道なパワーを描いていく。
74年に初演され、これまで上川隆也、唐沢寿明、高橋一生らトップ俳優が演じてきた“悪の華”として知られる。浦井は「役者冥利(みょうり)に尽きます。お話をいただいた時は衝撃で、聞き直してしまいました」。キャリアの中で、リチャード三世と対峙(たいじ)する役どころは多く経験してきた。「リチャード三世は、いつかはと思っていたあこがれの大役。今回、井上ひさしさんの戯曲で三世次を通して向き合うことができ、貴重な体験だと思って臨んでいます」と話す。
★「ここにつながる」
高橋一生主演で上演された20年版では、復讐(ふくしゅう)を誓って村に帰郷する「きじるしの王次」役を演じた。作品は大きな話題を集めたが、コロナウイルス感染拡大により、東京公演の一部と大阪公演が中止という悔しい結果となった。今回の浦井の主演登板は、「4年前の現場の空気を理解している役者で」という制作の思いを背負ってのものでもある。
「当時の光景や悔しさは鮮明に覚えています。逆に、ライブの魅力や人とのきずな、演劇は不要不急ではないという志などを同士たちと共有できた時間でもあった。当時無観客で撮ったDVDをあらためて見返したんですけど、なんか泣けてきて。あの時見た光景がここにつながったという感慨と、つなげてやるという熱い思いをけいこ場でも見いだしています」。
悪役ぶりが大きな話題となった高橋一生の三世次を、すぐ横で見てきた。その経験は生かしたいという。「台本を読んでいると、今でも一生さんの声が聞こえてきます。せりふの抑揚や緩急、感情の置き方や動きなど、景色としてちゃんと見えていて、初めてのお役なのに不思議な感覚だなって。同時に自分の三世次の解釈も出てきて、演出の藤田俊太郎さんからは『新たな三世次になっていく過程が面白い』と言われています」。
★「全部共感できる」
00年「仮面ライダークウガ」(主演オダギリジョー)で俳優デビューし、04年、ミュージカル「エリザベート」の皇太子ルドルフ役で一躍演劇界の若手スターとなった。さっそうとした正統派キャラからトリッキーな存在まで幅広いキャリアを積んできたが、三世次のような究極の悪人像は大きな挑戦となる。
難しさについて聞くと「正直、全部共感できる気がする」と語る。「誰もが日々、小さな火種に直面し、チョイスを迫られるのが人生ですよね。それを誇張した役だと思うんです。理性があるから実際には三世次みたいな所業は不可能ですが、『やっちゃえるならやっちゃうよ』っていう自分は元々いますので」とちゃめっ気たっぷりに笑った。
★「好奇心体感して」
三世次の怒りと正義をどうとらえ、何を感じるかは「人それぞれでいいと思う」ときっぱり。「人がその環境、教育、立場に置かれた時に『皆さんはどうですか』『人間らしさって何でしょう』という井上ひさしさんの問いかけなんですよね」と語る。「最終的に悪党の色気みたいなものが浮上して、応援したくなるような感覚は演劇ならでは。見ちゃいけないものを見る時の好奇心みたいなものを、ぜひ体感しに来ていただきたいです」。
■「天保水滸伝」縦糸
「天保十二年のシェイクスピア」は、「天保水滸伝」の任侠劇を縦糸に、シェークスピア全37作品を盛り込んだ井上ひさしの傑作戯曲として知られる。「リチャード三世」「ロミオとジュリエット」など、よく知られた人物設定や名ぜりふなどが次々と登場するのも楽しい見どころだ。
隠居する権力者が、3人の娘のうち最も孝行な娘に跡目を継がせるという物語の発端は「リア王」、劣等感からゆがんだ心を持ち、政敵を次々と殺害していく佐渡の三世次は「リチャード三世」、父の死の真相を知り復讐を誓うきじるしの王次は「ハムレット」などなど。「オセロ」的な策略や、「ロミジュリ」的なラブ展開など、全37作品が生き生きと立ち上がる。
浦井は「しっかりモチーフになっている作品もあれば、せりふ1行だけで終わっちゃう作品もあったり(笑い)。『あのせりふだ』『あのキャラクターだ』という面白みが随所にある」。400年以上愛されるシェークスピア作品の魅力について、「業とかエゴとか、人間の中に絶対あるものが描かれていて、いつの時代、どこの国でも当てはまる。『こういうこと、あるよね』って、すべてに共感できるんです」。
シェークスピアに詳しくなくても問題ない。「『天保水滸伝』という時代劇がベースにあるので、ストーリーが面白いんですよ。光と闇、陰惨さときらびやかさが共存する祝祭音楽劇というおもしろい作り。井上ひさしさんの、演劇へのエールを感じる作品です」。
◆舞台「天保十二年のシェイクスピア」 江戸末期の天保年間。下総国清滝村の旅籠の跡継ぎをめぐって姉妹が骨肉の争いを繰り広げていた。渡世人、佐渡の三世次が村を手に入れようと悪行を尽くす中、父親の訃報を受けたきじるしの王次が無念を晴らすため帰郷する。井上ひさしの傑作戯曲を、20年版に続き藤田俊太郎が演出。出演は浦井のほか、大貫勇輔、唯月ふうか、土井ケイト、瀬奈じゅん、中村梅雀、木場勝己ら。12月9日から同29日まで東京・日生劇場で。25年1月まで4都市で公演。
◆浦井健治(うらい・けんじ) 1981年(昭56)8月6日生まれ、東京都出身。00年、「仮面ライダークウガ」で俳優デビュー。04年、ミュージカル「エリザベート」のルドルフ皇太子役に抜てきされ一躍人気者となり、以降、幅広いジャンルの作品に出演。第22回読売演劇大賞最優秀男優賞、第67回芸術選奨文部科学大臣演劇部門新人賞など受賞多数。歌手としても活動し、昨年はアルバム「VARIOUS」でソロコンサートを開催。181センチ。
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